第九十四話 注目カード
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時雨と戦った蔵馬は、もうほとんど妖力が残っておらず、陣達にささえられながら、選手控え室まで歩いていった。
「蔵馬、大丈夫か?」
「ああ……」
瑠璃覇が蔵馬に合わせてしゃがみこみ、短く問うと、蔵馬は小さくうなずく。
本当は、全然大丈夫でないのは瑠璃覇もわかっていたが、蔵馬がそう言うのだからと、それ以上は何も言わなかった。
そんな二人を見ると、陣、凍矢、鈴木、酎、鈴駒は顔を見合わせ、ニヤッと意味深に笑う。
「んじゃ、オレ達はちょっと出てくるわ」
「「え?」」
突然、酎がわけのわからないことを言いだしたので、瑠璃覇と蔵馬は、二人そろってすっとんきょうな声を出した。
「瑠璃覇、お前治癒能力あるんだろ?」
「蔵馬を治してやってくれよ」
続いて、鈴駒、陣がそう言うと、瑠璃覇と蔵馬は、どういうことなのかを理解した。
つまり彼らは、恋人同士の自分達に気をつかって、二人っきりにしてやろうという考えで、どこかへ行こうとしているのだ。
「そんじゃなー」
六人は瑠璃覇と蔵馬がうなずく前に、鈴駒の言葉でどこかへ行ってしまった。(死々若丸は渋々といった感じ)
「まったく…。あいつら見た目ガサツなのに、変に気をきかせるな」
「瑠璃覇…」
相変わらずの毒舌に、蔵馬は苦笑いをしながら瑠璃覇の名前を呼んだ。
「…でもまあ……悪い奴らじゃない…」
けど、次に瑠璃覇の口から出た言葉に、蔵馬は驚いて目を丸くした。
「…そうだな」
驚きはしたが、それはすぐになくなり、瑠璃覇に同意して、かるく微笑んだ。
第九十四話 注目カード
「じゃあ蔵馬、ジッとしててくれ」
「ああ」
瑠璃覇は蔵馬の傷を治すため、手を蔵馬の前に持ってきた。
特に何をするとは言われてないが、その短い言葉だけで、瑠璃覇が何をするのかわかっている蔵馬は、瑠璃覇に言われた通り、その場を動かずにジッとした。
瑠璃覇は蔵馬が静止したのを見ると、手に妖気を集中させて、やわらかな風で蔵馬を包みこんだ。
その風は蔵馬の傷を治していくが、完治はしなかった。
「すまない…。このあと、大事な試合があるというのに…」
「いいんだ。ただ、今お前が言った通り、このあと大事な試合があるから、完治させることはできないし、妖力をわけてやることもできないがな…」
「いや、これで充分だ。ありがとう、助かる」
蔵馬にお礼を言われると、瑠璃覇はにこっとやわらかな笑みを蔵馬に向けた。
「さて……。私も…もう行かなければな…」
蔵馬の治療も終わったので、瑠璃覇は、今度は自分が闘技場へ向かおうとした。
「ああ…。気をつけろよ、瑠璃覇」
「わかっている」
心配する蔵馬の言葉に、瑠璃覇は小さく微笑むと、首の後ろに手をまわし、金鈴珠のネックレスの留め金をはずすと、自分の首からとった金鈴珠のネックレスを、蔵馬の前に持ってきた。
「これは……金鈴珠の……。瑠璃覇?」
「あずかっていてくれ。とても激しい戦いになりそうだから」
「わかった…」
蔵馬がうなずくと、瑠璃覇は金鈴珠のネックレスを持ったまま、蔵馬の首の後ろに自分の手をもってきて、ネックレスを蔵馬の首につけた。
「瑠璃覇……
!?」
蔵馬が心配そうに瑠璃覇の名前を呼ぶと、瑠璃覇は突然、蔵馬の唇にキスをしてきた。
いくら恋人同士といっても、周りに他の妖怪達がいる中、人目もはばからずにキスをしてきたので、蔵馬は驚きのあまり、目を見開いた。
そのキスは、唇と唇をあわせるだけの軽いもので、瑠璃覇はすぐに唇を離した。
「大丈夫だ。私は必ず戻ってくる。明日も…明後日も…その次の日も…蔵馬とともに生きるために。必ず…!!」
何故蔵馬が、心配そうに自分の名前を呼んだのかわかっている瑠璃覇は、唇を離すと、蔵馬を落ちつけるように、その言葉をつむぐ。
「私は……必ず華炎を倒し、蔵馬のもとに戻ってくる。だから、今度こそ二人で、人間界で…ずっと一緒に…静かに暮らそう。約束だ」
それは、黄泉や雷禅や軀から誘いがある前に、蔵馬に言われたことだった。
そしてそれは、まだ蔵馬が、南野秀一に憑依する前の、妖狐として魔界にいた頃からずっと言われていたこと。
その約束を果たすためにも、瑠璃覇は戦いを挑もうとしていた。
「じゃあ……行ってくる…」
にっこりと満面の笑顔を向けると、瑠璃覇はその場を立ちあがり、闘技場へ向かっていった。
蔵馬はその後ろ姿を、床にすわったまま見ていた。
「なーーんだ。瑠璃覇の奴、もう行っちゃったのか」
そこへ、どこかへ行ったはずの鈴駒の声が、横から聞こえてきた。
「みんな……」
「せっかく、二人っきりにしてやったってのにさ。それに、ケガも全部治ってないじゃんか」
声がした横の方に目を向けると、鈴駒だけでなく、陣、凍矢、酎、鈴木、死々若丸がやってきた。
その中で鈴駒だけが、瑠璃覇の姿がどこにもない上、蔵馬のケガが全部治っていないので、どこか不満そうだった。
「瑠璃覇はこれから大事な試合があるんだ。それも、対戦相手はとても手強い。妖力をムダにはできないから、完治はさせなかったんだ」
「ふーん。そっか」
けど、次に蔵馬が言ったことで、鈴駒は納得をした。
鈴駒が納得をすると、蔵馬はその場を立ちあがる。
「どこに行くんだ?蔵馬」
まだケガが完治していない上、妖力もまったく回復していないふらふらな状態なのに、どこかへ移動しようとしていたので、鈴木は蔵馬に問う。
「観客席だ」
「おいおい、ムチャすんな。オメェ、まだケガが完全に治ってねーし、妖力だって回復してねーんだからよ」
「そうだ。それより医務室に行った方がいい」
「さあ…行くべ」
ケガはまだ完全に治っておらず、妖力を使いはたしたので、うまく動くことができない。その上、今いる場所から観客席までは距離があるのに、それでも移動しようとした蔵馬を、酎と凍矢が止め、陣が医務室に連れて行こうとする。
「いや……いい。それよりも、観客席へ……」
「でもよ……」
自分の体を顧みず、無理にでも観客席に行こうとする蔵馬に、酎は渋い顔をした。
「瑠璃覇の試合を………この目で…ちゃんと見ておきたいんだ…!」
是が非でも観客席に行こうとする蔵馬に、六人は顔を見合わせると、陣と凍矢で蔵馬をささえた。
本当は医務室に連れていきたいのだが、蔵馬の要望通り、観客席に行くことにした。
同じ頃、別の選手控え室では、華炎が自分の試合が来るのを待っていた。
《96ブロック代表、瑠璃覇選手。72ブロック代表、華炎選手。ただちに、第11闘技場に向かってください。繰り返します。96ブロック代表、瑠璃覇選手。72ブロック代表、華炎選手。ただちに、第11闘技場に向かってください》
その時、部屋に設置されているスピーカーから女性の声が響き、自分の試合が始まることを告げていた。
アナウンスがあると、華炎は壁にあずけていた自分の体を起こし、指定された第11闘技場へと歩を進める。
瑠璃覇と華炎の試合のアナウンスがあってから数分後、蔵馬達は観客席にたどり着いた。
観客席に入ると、何段か下の、中央の席が何席かあいていたのでそこにすわり、六人は蔵馬の後ろにすわった。
「よォ、蔵馬」
椅子にすわると同時に、後ろから幽助の声が聞こえてきたので、蔵馬は後ろへふり向いた。
「幽助」
「隣いいか?」
「ああ」
蔵馬の隣があいていたので、幽助は蔵馬の了承を得ると、蔵馬の隣にすわった。
「お前も瑠璃覇の試合を見に来たのか?」
「まあな」
「よお、幽助、蔵馬」
幽助と蔵馬が話していると、今度はそこへ、コエンマ、ぼたん、ジョルジュがやって来て、幽助の隣に、コエンマ、ぼたん、ジョルジュの順ですわった。
「コエンマ」
「何故…ここに?」
「わしらも瑠璃覇の試合を見ておきたくてな」
コエンマが蔵馬の問いに答えた時、蔵馬がすわっている八段後ろには、黄泉と修羅がやって来て椅子にすわり、更にその列の後ろの出入口の横には、飛影と軀が立っていた。
「それよりも蔵馬、オメェ、ケガは大丈夫なのかよ?」
「ああ。瑠璃覇に、少しだけだが治してもらったからな」
「少し?」
「次の試合の相手は、瑠璃覇がずっと倒したいと願っていた人物なんだ。しかも、かなり強力な妖力をもっている…。生半可な力では勝てない相手だ。だから、少しだけなんだ」
「ふーん。だから、いつも瑠璃覇がつけてる、金鈴珠のネックレスをしてんのか?」
「ああ…。あずかってほしいと言われた」
蔵馬は話しながら、自分の胸に輝く金鈴珠のネックレスに、そっとふれた。
「てことは、今度の相手は相当強いってことだよな?」
「ああ」
いつも、どんな時でも、このネックレスを肌身離さずつけている瑠璃覇が、今回にかぎって蔵馬にあずけていったということは、それほどの相手なのだと思った幽助は、キラキラとした目で蔵馬に問い、その問いに蔵馬は小さくうなずいた。
「つーことはだ。瑠璃覇のすっげェ戦いが見られるってことだな。楽しみだよな」
「オラもすっげー楽しみだべ。ただ強い奴の戦いも楽しみだけど、瑠璃覇はオラと同じ風使いだかんな。しかも、伝説と言われてる奴だからな。早く見てみてーな」
「お!!やっぱおめーもそうか、陣」
「あったりめーだべ。あんなにすごく強い奴もだが、あんなに強く激しいのに、あんなに細やかな風の使い方ができる奴はそうそういねェ。だから、瑠璃覇の本気の戦いがこの目で見れると思うと、ワクワクするべ。
瑠璃覇はオレが尊敬する人物であると同時に、オレの大目標だかんな。オレもいつか、瑠璃覇と戦ってみてーべ」
「やっぱりおめーもか。オレもいつか、瑠璃覇と戦ってみてーぜ」
「お、幽助もか」
瑠璃覇の戦いを、とても楽しみにしている幽助と陣。そして、瑠璃覇をすごいリスペクトしている陣を、蔵馬はジッと見た。
「ありがとう、二人とも。瑠璃覇も喜ぶ」
「「へ?」」
会話に花を咲かせていると、隣から蔵馬が話しかけてきたので、幽助と陣は蔵馬の方へふり向く。
「瑠璃覇は……本当に…一人だったから…」
けど、蔵馬が言っている意味がわからず、幽助と陣は顔を見合わせた。
「さあ、それでは、次の決勝トーナメント二回戦Cブロックは、瑠璃覇選手対華炎選手の戦いです!!」
蔵馬達が話をしていると、実況席から小兎の声が、会場内に響き渡った。
「瑠璃覇選手は元癌陀羅国の第二軍事総長。対して華炎選手は、無名ではありますが、老齢の身でありながら、今までの戦いで素晴らしい動きを見せております」
一方アナウンスが流れている中、瑠璃覇は、今回自分が戦う、第11闘技場の前までやって来ていた。
そして、上の方にある闘技場を鋭い目で見上げると、上まで跳躍していき、闘技場の中央に位置するリングにあがり、待機をした。
「瑠璃覇選手がやって来ました。こちらは準備OKの模様です。あとは、華炎選手の到着を待つのみです」
「(瑠璃覇…)」
観客席では、この試合で戦う瑠璃覇ではなく、蔵馬の方が緊張した面持ちで、画面越しに瑠璃覇を見守っていた。
「えーー…。華炎選手が到着するまでの間、少しだけ瑠璃覇選手について紹介していきましょう…。
実は瑠璃覇選手は、あの極悪盗賊として恐れられた、パープル・アイの異名をもつ選手です。
パープル・アイといえば、今は亡き雷禅や、軀選手や黄泉選手にもひけをとらないほど、魔界では有名な妖怪であることは、この会場にいるみなさん、ご存じと思います。
魔界屈指の実力者。生きる伝説。国崩しの妖狐としても名が知られている、まさに強者といってもいい人物!!
この戦いが、二回戦最大の注目カードであることは、まず間違いないでしょう!!」
小兎が瑠璃覇の紹介をしていると、そこへ華炎がやって来て、リングに上がった。
「おっと…。華炎選手がやって来ました!」
華炎がやって来ると、瑠璃覇は更に鋭い瞳になる。
華炎もまた、瑠璃覇を目にすると、とても鋭い瞳となり、二人はお互いに睨みあった。
「さあーー。それでは両者、準備OKの模様です!!」
その様子を、蔵馬は真剣な顔で、固唾を呑んで見守っていた。
「それでは、Cブロックの二回戦第一試合。瑠璃覇選手対華炎選手の、試合開始です!!」
蔵馬だけでなく、周りにいる幽助やコエンマ、ぼたんやジョルジュ、陣、酎、鈴木、鈴駒、凍矢、死々若丸、黄泉、飛影、軀も、どこか緊張した面持ちで、固唾を呑んで画面を見ていた。
「始め!!」
小兎の口から、試合開始の合図が出されると、観客席は沸き立ち、大歓声が会場内に響き渡った。
いよいよ……瑠璃覇と華炎の戦いが、ここに始まろうとしていた。
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