第九十二話 憎しみの影
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
魔界統一トーナメントは、超巨大植物、億年樹の上で行われる。
まず予選では、各ブロックごとに一ブロック49人の選手が、最後の一人になるまで、この上で戦い続けるのだ。
第九十二話 憎しみの影
闘技場となる億年樹は数にかぎりがあるため、全ブロックが一気にやるのではなく、指定されたブロックから、予選を行うこととなった。
指定されたブロックといっても、1ブロックから順番にやっていくわけではないので、後ろから数えた方が早い数字の、96ブロックになった瑠璃覇は、早々に出番となったのである。
「これより、96ブロックの予選を開始します。気絶、死亡、あるいは、降参した時点で失格です」
闘技場である億年樹には、瑠璃覇をふくむ、96ブロックに割りふられた49人の選手がおり、準備運動をしたりして、試合開始を待っていた。
「それでは、試合開始です!!」
審判は手をあげると同時に、試合開始の合図を出し、乗り物で空高く飛び立つと、ブザーがなり、試合が始められた。
「へっへっへ。まずは全員で、あの女から片づけるぞ」
「一番弱そうなあいつか…」
女としか言っていないが、このブロックで女性は瑠璃覇一人なので、誰と言わずとも、自分のことだとわかった瑠璃覇は、相手を嘲る笑みを浮かべた。
「一番弱そう?それは私のことか?」
罵りを受けたが、瑠璃覇は怒りの感情をみせておらず、見下す目を相手に向けていた。
「お前以外、誰がいるっていうんだ?」
「お前なんか、一瞬で片づけられるぜ」
「……愚か者どもが…」
鋭い目で睨みながら、瑠璃覇は妖力をもとに戻し、もとの妖狐の姿に戻っていった。
「うっ……!!」
「なっ…なんだ!?こ、この……すさまじい妖気は!!」
あまりにも強大すぎる妖気を感じ、周りの妖怪達は、みるみるうちに顔が青ざめていく。
「私を………一瞬で片づける…か…。おもしろい……」
人間に化けていた時の茶色い髪の毛は銀色に変わり、人間に化けていた時にあった人間の耳はなくなり、狐の銀色の耳が頭に、狐の銀色のしっぽがおしりにはえ、人間に化けていた時の茶色い瞳は、紫色に変わっていった。
「ならば……やってみせてもらおうか?」
この闘技場に来た時とはまったく違う、思いあたるその風貌に、妖怪達は更に顔色を悪くしていった。
対して瑠璃覇は、自信たっぷりの、余裕のある顔をしていた。
「うわあああああああっ」
「パ…パープル・アイだぁああああ!!!!!」
「ま…まさか……こいつが……あの…!?」
相手が、魔界屈指の実力者と名高い妖怪だと知ると、妖怪達は狂ったように叫びだす。
「どうした。私を、一瞬で片づけられるのではなかったのか?」
妖怪達が、おびえ、その場で固まって動けなくなってしまい、自分に向かってこれないのを承知の上で、わざとらしくニヤニヤと笑いながら問う。
「身のほど知らずどもが…。その愚かな言動…本来なら八つ裂きにしてやるところだが……」
当然誰も向かってこないので、氷のように冷たい目で見据え、残酷に言い放てば、彼らは更にびくっとなり、ますますおびえだした。
「今すぐここから去るのなら、許してやろう」
彼らは、もう自分の命はないものだと思った。
しかし、この極悪妖怪の口から出たのは意外なもので、全員目を丸くした。
「パープル・アイと戦えるかァァ!!」
「オレは降りるぜ。殺されるなんてまっぴらごめんだ!!」
「オレもだぜ」
意外なものだったが、これ幸いとばかりに、全員蜘蛛の子を散らすようにして、闘技場から去っていった。
《瑠璃覇選手以外、全員棄権とみなし、96ブロックの代表は瑠璃覇選手に決定です!!》
瑠璃覇以外の選手が全員いなくなると、小兎の口から、瑠璃覇の勝利が告げられた。
「(まずは……第一段階クリア…)」
瑠璃覇も自分の勝利が宣告されると、闘技場を去っていった。
一方、会場内では…。
「いや~~、すごいですね瑠璃覇選手。戦わずして、勝利を手にしてしまいました!!」
小兎が、瑠璃覇を称賛していた。
「それにしても、何故瑠璃覇選手は、人間の姿となり、妖力をおさえているのでしょうか?」
「そうですな。私も詳しくはわかりませんが……おそらくは、瑠璃覇選手が人間界に住んでいる…というのが大きいでしょうな」
妖駄は小兎に聞かれると、自分なりの解釈を説明しはじめる。
「と…言いますと?」
「瑠璃覇選手は、S級クラスの妖怪です。S級クラスの妖怪が人間界にいると、霊界の判断基準では、排除の対象になります。だからでしょうな。だからそうならないために妖力をおさえ、なおかつ人間にバレないように、人間の格好をしているのでしょう。
魔界でも妖力をおさえ、人間の姿をしているのは、力の温存でしょうな。瑠璃覇選手ほどの実力の持ち主なら、決勝までいくことも可能。しかし、黄泉選手をはじめとし、他にもかくれた猛者がいる可能性は充分にあります。その時のために、力を蓄えているのでしょう。妖力を抑え、人間の姿でいることで、先程のようになめた輩を撃退できますからな」
「なるほど。ありがとうございます。さあ、それでは次の戦いにいってみましょう!!」
瑠璃覇についての話が終わると、小兎は次々に予選を進めていく。
その頃瑠璃覇は、先程自分がいた闘技場の近くにある、選手の控え室にあるテレビで、蔵馬の戦いを見ていた。
「よォーー、瑠璃覇」
すると、そこへ幽助がやって来て、瑠璃覇に声をかける。
声をかけられると、瑠璃覇は声がした方へふり向いた。
「幽助…」
「おまえもここにいたのか」
「まあな」
「おっ、蔵馬も順調みてーだな」
「そうだな」
画面の中では、蔵馬がバラのムチで、次々と敵を倒していた。
淡泊な話し方だが、それでも蔵馬の調子がいいのがうれしいようで、瑠璃覇は口もとに笑みを浮かべていた。
《63ブロックの勝者は、蔵馬選手!!本選の出場決定です!!》
瑠璃覇と幽助が話していると、蔵馬は敵を全員倒し、本選への出場が決まった。
「やったな。蔵馬も本選に出場だぜ」
「そうだな」
「ところで、もしも蔵馬と本選であたったらどうすんだ?やっぱ戦うのか?」
「当然だろ。蔵馬が好きなのと、それで戦えるかどうかというのは別物だ。仮に、幽助とあたっても本気で戦うからな」
「そいつはありがてーな。オレ、前々から瑠璃覇と戦ってみたかったんだ」
まだ予選が始まっていないというのに、もう本選に出場する気でいる幽助は、うれしそうに笑っていた。
そんな幽助に、瑠璃覇はにこっと笑って、幽助の言うことに答えた。
《5ブロックの勝者、飛影選手!!本選出場決定です!!》
そして、また二人が話している間に、今度は飛影が予選を勝ち抜いた。
「おっ、飛影も勝ったみたいだな」
「ああ」
飛影が本選に出場できることを知り、二人はそのことを喜んだ。
「陣や鈴木達も勝っていたし、みんな順調みてーだな。
でも、やっぱり瑠璃覇はすげーよな。みんな戦って勝ったってのに、戦わずに、本選へのきっぷを手にしちまうんだからな」
「あたり前だろ」
「なんか、力を温存しているって感じだったよな。ひょっとして優勝とかねらってんのか?」
「…まあな」
「おっ?やっぱそーなのか。瑠璃覇ならいけんじゃねーのか?」
「そうか?」
そう言った時だった。
「!!!!!!!!」
瑠璃覇は突如、ひとつの気配を感じた。
そして、目を大きく見開き、気配を感じた方へ勢いよくふり向いた。
「ん?どうしたんだ、瑠璃覇」
突然瑠璃覇が、自分に向けていた顔を、別の方向に向けたことを疑問に思った幽助は、瑠璃覇に問いかけるが、瑠璃覇は何も答えなかった。
「あっ、おい!!」
そして、突然気配を感じた方向へ走り出した。
幽助が声をかけるが、瑠璃覇は幽助の声が聞こえていないかのように走っていった。
「(今の気配は…あいつの…。まさか…あいつも…ここに!?)」
走っている瑠璃覇は、周りが見えてなかった。
ただまっすぐに、気配がした方へ向かっていった。
「!!」
しかし、気配を感じた先には誰もいなかった。
「(いない?誰も…)」
気配を感じたのに、誰もいなかったので、瑠璃覇はふしぎに思った。
「(いや……だがあの気配は、確かにあいつのものだった。2000年以上もずっと追いかけてきたんだ。間違えるはずがない…!!)」
けど、確かに自分の探している人物がいたという確信を、瑠璃覇はもった。
根拠も何もないものであるが、瑠璃覇の長年の勘がそう言っていたのだ。
確信をもつと、瑠璃覇の目は今までにないくらいに鋭く、冷たさや殺気がまじった目となる。
とりあえずは誰もいなかったので、瑠璃覇は幽助のところへ歩いて戻っていく。
「(あいつがここに来ている…。ということは、もしかしたら……ここで、長年の決着をつけることができるかもしれない。
それがかなわなくとも、ここにいることは確かだろうから、大会が開かれている間に必ずみつけだして、今度こそ、積年の恨みをはらしてやる。
首を洗って…待っていろ…!!)」
その人物のことを考えるごとに、瑠璃覇の心には、恨みや憎悪などといった、負の感情がふつふつとわいてきていた。
「(華炎……!!!!)」
そして、すべてを凍てつかせるような目で、どこにいるかわからない相手を睨みつけた。
「お、瑠璃覇」
幽助のところに戻ると、瑠璃覇の存在に気づいた幽助が、瑠璃覇に声をかける。
「どうしたんだ?急に走りだして。知り合いでもいた………
!!!!!!???」
瑠璃覇に話している時、幽助は顔が青ざめ、話すのをやめた。
何故なら瑠璃覇の目が、先程自分と会話していた時のおだやかなものとはずいぶんと違い、まったく逆の、見るだけで恐怖し、威圧されそうな、まがまがしいものに豹変していたからだ。
「瑠璃覇……?」
幽助は、おそるおそる名前を呼んでみるが、瑠璃覇は無反応で、幽助の姿が見えていないかのように、テレビの方に顔を向け、幽助には目もくれなかった。
「おい…瑠璃覇…」
再度、幽助は瑠璃覇の名前を呼ぶ。
だが、それでも瑠璃覇は、なんの反応も示さなかった。
瑠璃覇は、今はそれどころではないからだ。
先程感じた気配の人物が、もしかしたら、トーナメントに出ており、これから別のブロックで予選を行うかもしれない。
そう思い、先程感じた気配の人物が、本当にここにいるのかを、確かめようとしたのだ。
すごい集中力で画面を見ていたので、これ以上話しかけても答えてくれないだろうと思ったのもあるが、何よりも、瑠璃覇があまりにも恐ろしい目をしており、ただならぬ殺気をその体から放っていたので、幽助はそれ以上は何も言うことはできなかった。
そして、20分ほど経った頃だった。
《72ブロック、決着がつきました。代表は、華炎選手!!本選出場決定です!!》
小兎の声が機械を通して画面から響くと、瑠璃覇はさっき以上に、これ以上は無理だろうというくらいに、大きく目を見開いた。
小兎が72ブロックの代表選手を発表した時…。72ブロックの代表となった、華炎という、フードをかぶっているせいで顔全体が見えない、背の低い妖怪が映った時……。瑠璃覇から放たれる殺気はすさまじくなり、目は絶対零度のごとく冷たいものとなり、恨みや憎悪といった感情が、更に強くなっていた。
そのせいで幽助は顔色を悪くし、周りの妖怪達も、瑠璃覇のすさまじい殺気にあてられて顔色が悪くなり、その場から動けなくなっていた。
瑠璃覇のその殺気は、72ブロックの闘技場から別の闘技場にカメラが切り替わっても続いていた。
「瑠璃覇?」
けど、後ろから蔵馬の瑠璃覇を呼ぶ声がしたので、後ろへふり向いて蔵馬の顔を見ると、殺気はおさまり、少しだけ表情が緩んだ。
そのことで、幽助や周りの妖怪達は、ようやく動くことが可能となった。
「ここにいたのか」
「………蔵馬……」
「どうかしたのか?」
ここに入る前から、瑠璃覇のすさまじい妖気や殺気を感じていた蔵馬は、何があったのかを瑠璃覇に問いかける。
「……別に………なんでもない……」
瑠璃覇は誤魔化したが、蔵馬はうすうす感づいていた。
こんなにも、すさまじい妖気や殺気を放ち、憎悪、嫌悪、恨みといった感情を出し、なおかつ切れ味が鋭い刃のような…絶対零度のように冷たい目をして、眉間に深いしわをよせているので、長年の付き合いで、きっとあのことだろうと思った。
そもそも、なんでもないのに、あんなにすさまじい妖気や殺気を放つわけがないし、何より、こんなにけわしい顔をしているわけがないからだ。
けど蔵馬は、瑠璃覇がおそろしいというのもあるが、あまり刺激して、瑠璃覇を苦しめたくないと、気をつかっているのもあり、それ以上は何も言うことなく、どこか辛そうな目で、瑠璃覇をみつめていた。
その後、瑠璃覇も蔵馬も幽助も、三人とも、一言も言葉を発することはなかった。
蔵馬も幽助も、とても重苦しい空気を感じていたが、それでも何も話さない……というより、この空気のせいで、口を開くことができずにいた。
しばらくして、幽助は自分の出番が近づくと、これ幸いとばかりに、闘技場へと向かっていった。
幽助がいなくなってからも、瑠璃覇と蔵馬は何も話さずに、ただならんで立っていた。
《これより、106ブロック予選を開始します。気絶、死亡、あるいは、降参した時点で失格です》
何分か経つと、幽助のブロックの試合が始まろうとしており、幽助や他の選手達が画面に映った。
「あ………幽助の試合が始まるみたいだな」
「…ああ……」
生返事で、機嫌が悪い声色だったが、それでも返事が返ってきたことに、蔵馬はほっとした。
《それでは、試合開始です!!》
審判の合図で試合が始まった。
妖怪達は、まずは幽助を全員で倒そうとしていた。
しかし幽助は、素早いパンチを次々とくり出して、全員場外に殴りとばしてしまう。
《おーーい。全部、場外のかなたにすっとんでっちまったけど、この場合どーなるんだ?》
《あ……はい。場外も失格です。はい。106ブロック、勝者浦飯選手。本選に進出です!!!》
大会のルールにより、幽助以外は場外で失格となり、106ブロックの代表は幽助となった。
「よかった…。幽助、勝ったんだな」
幽助のいきいきとした戦い方と、本選に進出できたことで、瑠璃覇は笑顔となる。
蔵馬は、幽助が本選への進出が決定したのと、瑠璃覇が笑顔になったのとで、ほっとした顔で画面を見た後、再び瑠璃覇を見た。
そして、着々と他のブロックも代表が決まっていき、まだ残っていた最後のブロック。黄泉と修羅がいる34ブロックの決着がつき、34ブロックの代表が黄泉に決まると、予選はすべて終了したので、大会参加者は、全員最初の場所に集まった。
「えーー。みなさま、ご静粛にー」
壇上の上には小兎が立っており、大会を進行するため、ざわつく会場内に声をかけた。
「それでは、本選を開始する前に、主催者を代表して、浦飯選手より、開戦のあいさつをいただきまーす」
小兎がそう言うと、壇上のすぐ前で待機していた幽助は、どこか緊張した動きで壇上に上がっていき、小兎からマイクを借りる。
「え…あ…あーーあーーー」
あいさつをしようとする幽助だが、その声と立ち姿は、誰が見ても緊張しているのがわかるものだった。
「オホン…。あーー、本選に出場する、選手諸君。ま、おめーらはここまで残ったぐれーの奴らだから、もしかすっと、死んでもいいぐれーの覚悟で戦うつもりの奴もいるかもしんねーけど。正直言って、死人はなるべく出したくねーんだ。やっぱ、後味もよくねェしな。
何よりもみんな、何度でも挑戦してきたそーなツラしてるし、オレも何度でも戦いてーー。
実のところオレ、今回優勝する自信なんか、はっきり言ってねーんだ」
戦うのが好きな幽助だが、どこか自信なさそうにすると、どこかから笑う声や、「戦う前から負けおしみか」と、野次がとんでくる。
「だけど、二年後だったら、かなりいけると思う。
もちろん、優勝した奴が決めることだから、そいつがこれっきりって言えば、それまでだけどよ。
できれば、何年か毎にこうやってバカ集めて、大統領選挙みてーに、大将決められたらいいと思ってる。
予感なんて、感じるガラじゃねーけど、誰が勝ってもスッキリできるような気がするんだ。
んじゃまいっちょ、おっ始めよーぜ!!」
幽助が手を高くあげて、開会を宣言すれば、周りから歓声がわき、おおいに盛り上がった。
こうして、予選を勝ち抜いた128名による本選が、今始まろうとしていた。
.