第八十四話 戦いの終わり
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《あんな奴に手こずってもらっては困るな》
鼓動が鳴り響いたと思うと、突然頭の中に、知らない男の声が聞こえてきた。
「な、何?」
動きが止まったと思ったら、突然ひとり言を言い出したので、仙水は更にふしぎそうに幽助を見る。
《あんな奴に手こずってもらっては困るな。力の使い方を教えてやるよ》
もう一度男の声が響くと、幽助の体から、今までにないくらいの妖気が放出された。
すると、幽助は髪が一気に伸び、幽助の周りには竜巻が起こった。
突然のことに、五人は驚いた。
爆発するような妖気が放出されたかと思うと、砂塵の中から幽助が現れる。
その姿を見て、五人は更に驚き、驚きのあまり目を見開いた。
髪は足の関節よりも長く伸びており、全身に模様が浮かび上がり、目つきも変わっており、全体の雰囲気が、今までの幽助のそれとは異なっている。
そんな幽助を見て、瑠璃覇達だけでなく、仙水も驚いた。
「待たせたな」
仙水の前に来た幽助は、自信に満ちあふれた、不敵な笑みを浮かべていた。
第八十四話 戦いの終わり
「どうなってんだ!?ありゃあ。まさか、あれが浦飯…!?」
いきなり変貌をとげた幽助を、桑原は信じられないものを見るような目で見ていた。
「すばらしい」
仙水はしばらく固まっていたが、幽助の覚醒した姿を見て、うれしそうに笑った。
「おいおい、仙水のヤロウ、浦飯を見て笑いやがったぞ。そんなに自信があるってのか」
「いや、そうではないだろう。変わったのは、幽助だけではない。今の仙水を見ていると、全てを超越したような雰囲気を感じる。悟りきっているような…」
「悟りきるだぁ?」
「洞窟で戦っていた時は、憎悪とか優越感といった、様々な感情が入り交じっていたが、今の仙水にはそれがない」
「確かに…。今の仙水からは、とげとげしい闘争心が消えている」
「どういうこった?」
「戦いを、心から楽しんでいるとか、そんな感じじゃないのか?」
そう言われても、桑原はよくわかっていなかった。
「フッ…。お前は魔族だったのか。ははははははははははははは」
「何を笑っている?」
「いや、オレは、つくづく幸せな男だと思ってな」
「なんだと!?」
「君みたいな妖怪と戦えて、本望だと思えるのさ」
「フンッ。その思いとやらを、後悔に変えてやるぜ!!思い知るがいい!!」
幽助の目が光り、妖気が上昇していった。
それを見た仙水は、ますます笑顔になる。
「うらあっ」
幽助は、仙水が戦闘体勢に入る前に跳躍して、一瞬にして仙水の前まで来た。
「てやあああ」
「うわっ」
そして、仙水の前まで来ると、仙水の顔を、砂地にたたきつけるように殴る。
あまりの威力に、仙水は砂地をえぐるようにしてふっとんでいくが、幽助は仙水を追いかけていき、仙水の前まで来ると、まだ仙水が止まっていないというのに、今度は蹴りとばした。
「うらあっ」
蹴りとばすと、また追いかけていき、跳躍して一気に距離をつめた。
「うおおっ。
てやっ」
そして、着地すると同時に仙水を踏みつけた。
更には、連続でジャンプして腹を踏みつける。
仙水はまったく反撃できず、ただ口から血を吐きながらやられているだけだった。
幽助は何回か踏みつけると、次に闘衣のえりをつかみあげ、連続で胸を殴り続ける。
その激しい攻撃にえりがやぶれ、仙水はふっとんでいく。
そんなことで幽助は攻撃をやめず、ふっとんでいった仙水を、跳躍して追いかけた。
「てやっ」
「うわあっ」
当然のように追いかけていった幽助は、今度は空中で蹴りをくらわせる。
仙水はガードしたが、そんなものはまったくの無意味で、蹴りとばされてふっとんでいき、後ろにある岩の柵にぶつかるが、その岩の柵をも破壊して、そのままふっとんでいった。
一瞬で追いついた幽助は、ふっとんでいく仙水の腕をつかんだ。
「うらあっ うらああっ」
仙水の腕をつかむと、空中だというのに、ぶんぶんとふり回して投げとばす。
投げとばした仙水を、空中移動して追いかけていくと、仙水の頭をつかみ、何度も何度も頭つきをかました。
頭つきをしたまま、下の岩の柵の上に落下していった。
「うおおっ」
岩の柵の上に落ちると、マウントをとり、拳をふりあげて、また腹を連続で殴り続けた。
岩の柵を直接殴ったわけではないのに、その威力に、岩の柵にひびが入っていく。
「うらあっ」
そして、また拳をふりあげて、渾身の一撃をくらわせると、岩の柵は破壊され、二人はそのまま下に落下していった。
「す…すげェ。ケタ違いだ。まだ自分の眼が信じられねェ。あれは本当に浦飯なのか」
「何がきっかけなのかはわからんが、完全に覚醒したようだな。先程までの、よちよち歩きのような戦いがうそのようだ…」
「まさかこれほどのパワーを秘めているとは」
「どうやら、あいつの先祖は闘神のようだ。もはや人間である仙水に勝ち目はない」
「ああ…」
先程までの闘いとはまったく違い、幽助の攻撃ばかりで、仙水はまったく反撃すらできない状態なので、空で見ていた五人は驚いていた。
下の地上では、段々と砂煙がはれていき、その中では幽助が片手で仙水の首をつかみ、高く持ち上げていた。
「フハハハハハハ。お前ごときに負けるオレではないのだ。……わかったか!?」
「ぐおおおおお」
幽助が仙水の首をつかんでいる右手に力を入れると、仙水はうめき声をあげる。
「とどめだ」
そう言うと、幽助は仙水を高く放り投げた。
「うわぁぁぁ」
幽助はニヤリと笑うと、霊丸の構えをとり、指先に霊気を集中しだした。
次第に霊気が集まっていき、獲物を追いつめた時のような、優越感を抱いてるような目で仙水を見ていると、突然髪が長くなる前の、いつもの幽助の目に戻っていった。
そして次の瞬間……
幽助は、特大の霊丸を、仙水に向けて撃った。
「あっ」
霊丸を撃った直後、幽助の顔からは、先程の殺伐とした雰囲気はなくなっていた。
「仙水、よけろォオオーーーー!!!」
自分で霊丸を撃ったのによけろと言ったので、意味がわからない言葉に、五人は驚く。
だが仙水は微動だにせず、よけるどころか気鋼闘衣をとくと、幽助の方を見てニッと笑った。
次の瞬間には、特大霊丸は仙水に直撃した。
「仙水ーー!!!」
直撃すると、仙水ははるか彼方まっでふっとんでいった。
「ちくしょオーーーーーーーー!!!」
それを見た幽助は、仙水がとばされていった方へ跳んでいった。
「おい!?どういうこった。あいつ何悔しがってんだよ。ジャストミートしたじゃねーか、極大霊丸がよ!!?」
「プーー、あっちへ行ってくれ」
コエンマに言われると、プーは幽助の後を追って、森の方へ向かった。
森へ行ってみると、木々だけでなく地面すらえぐれ、道のようになっており、幽助がどこへ行ったのか、一目でわかるほどだった。
「なんてえ威力だ。地平の果てまで跡が続いてんぞ。これじゃ、あの仙水といえども生きちゃいねェだろうな」
「あそこだ」
えぐれた地面をたどって行くと、二人の姿を発見したコエンマが声をあげる。
コエンマが目を向けた先には、えぐれた地面と森の境目のようなところがあり、そこから先は地面がえぐれていないことと、木が生えていることから、霊丸の威力がそこで途切れているのがわかった。
まるで、そこがゴールだと言わんばかりのその場所に、幽助と仙水の姿があった。
「仙水起きろ。目ェ覚ませコラァ!!今のなしだ。もっぺんやり直すぞ。オイ!!起きろ。仙水!!起きろーー!!」
五人(+一羽)が飛んできて地上に降りると、幽助は仙水の胸ぐらをつかみあげて叫んでいた。
「何すっとんきょうなこと言ってんだ、オメーは。見事な圧勝じゃねーか」
「あれを撃ったのは……オレじゃねェ!!」
「なんだと?」
「オレだけどオレじゃねーんだ。オレが気がついたときにゃ、もうぶっぱなしてたんだ!!」
「いってぇ…どういうこったよ!?」
桑原が問いかけると、仙水が口から血を吐きだした。
「仙水!!
蔵馬、なんか薬草はねーのか!?体力が回復するよーなやつは」
「闘いながらほとんど使ってしまったからな。気休め程度に、痛みをやわらげることしかできん」
「痛みをやわらげるだけか」
「ああ……」
「じゃあ瑠璃覇、お前の治癒能力で、なんとかなんねーのか!?」
「できるが……。お前、正気か!?敵を治療など…」
「あれは……オレじゃねェ…。あんなんじゃ……絶対納得できねェんだ…」
「…………」
「たのむ、瑠璃覇。やってくれ」
「………仕方ないな…」
呆れはて、ため息をつきながらも、瑠璃覇は仙水の治療をしようと、手を伸ばした。
「その必要はない」
その時、瑠璃覇の行動を制止する声が聞こえてきた。
声がした前の方を見てみると、空間が縦に切れて、影ノ手が、切れた部分を横に押し広げるようにしてできた入口からは、樹が現れた。
樹は、裏男が桑原に切られたところと、同じ右目を負傷しており、目は閉じられていた。
「樹!?」
「そのまま死なせてやれ」
すごいことを言いながら、樹は亜空間の中から出てきた。
「ふざけんな。てめェはすっこんでやがれ。なんとしてもリターンマッチだ。このままじゃ、納得いかねェんだよ!!」
幽助が自分の気持ちをぶつけると、樹はどこか深刻そうな顔で口を開いた。
「どうせ、あと半月足らずの命なんだ」
「何…」
思いもよらない言葉に、全員驚きを隠せないでいた。
「仙水が、あと半月の命!?」
「忍の体内は、悪性の病でボロボロなんだ。ドクター神谷のお墨付きだよ。普通の人間なら、とっくに墓の中だそうだ」
「マジなのかよ」
「ほ…本当さ…」
未だ信じられずに樹に問いかければ、下で横たわっている仙水が、弱々しく答えた。
「負けた言い訳にはしないよ。最後の力、あれは数段君が上だった」
「違う、あれはオレの力じゃねェ。オレはあのとき、意識がなかったんだ」
「使いこなせなかった力を、無意識の中で、マスターして戦ったってことだろう。明らかに、君が放った力だ」
「ダメだ!!オレは、そんでも納得できねーーー!!半月あれば十分だ!!痛み止め打ってでも、オレと戦え!!」
「鬼だ、こいつ」
「やれやれ、まだ戦うつもりか…」
飛影は黒龍波を撃った副作用で、段々目を閉じていき、呆れたようにつぶやくと眠ってしまった。
プーは飛影が倒れる前に、服をくちばしでつまみ、自分の背中に乗せる。
「コエンマ、何とかなんねーのかよ。オメーの力で、スカッと回復させられねーのか」
「魔封環に貯めた霊力が今あれば、この場での治療も可能だったが…。忍に全てふっ飛ばされてしまったからな。それに、洞窟の途中でも、かなり魔封環の力を消費したしな」
「何?どういうこった」
「遊魂回帰の術を使ったんだ」
「遊魂回帰の術?なんだ、それは?」
「死者の魂を、体に戻すことができる…。早い話、生き返らせることができる技だ。かなりの霊力を消費するがな…」
幽助の問いに、コエンマは簡単に説明をする。
「何故……その技を?」
「洞窟の奥へ向かう途中で、海藤達から、天沼という少年が、自分の能力で命を落としたと聞いてな」
「じゃあ、天沼を助けるために…」
「ああ」
二人が話していると、突然仙水が笑いだした。
「何がおかしい?」
「天沼を助けてくれたのか。計算通りだよ。あんたの魔封環が、最後の難関だったからな。魔封環を使われる前に、霊力を無駄使いさせる必要があったのさ。トンネルを開いて、魔界に来るためにな」
「忍、なぜ…そうまでして、魔界の穴にこだわるんだ。こんな苦労をしてまで、来なければならなかった理由はなんだ?」
「魔界へ来てみたかったんだ。本当に、それだけだったんだよ。魔界は……魔界は、オレがわけもわからずに殺してきた、妖怪達の故郷(ふるさと)だ。
小さいときずっと不思議だった。「どうして自分にだけ見える生き物がいるんだろう」、「どうして、そいつらは、自分を嫌っているんだろう」、「どうして、自分を殺そうとするんだろう」。答えがわからないまま、戦い方だけ上手くなった。
「きっと自分は選ばれた正義の戦士で」、「あいつらは人間に害を及ぼす悪者なんだな」。そんな安易な二元論に、疑問も持たなかった。
世の中に、善と悪があると信じていたんだ。戦争もいい国と悪い国が戦ってると思ってた。可愛いだろ?
だが、違ってた。オレが守ろうとした人間は、最低の生き物だった。そんな生き物の血が流れているのが、無性に憎くなったよ。自分のやってきたことに疑問が生じた時、それじゃ、今まで殺してきた妖怪達はどうなるんだと思って……無力感に襲われた…。
いっそのこと魔界に生まれたかった。そう思ったら、是が非にでもここに来たくなってね。もうオレに時間がないと知ったとき、気持ちが一気にはじけた。
彼らの故郷(ふるさと)に来れてよかった。界境トンネルは、魔界の先住民への、手土産程度のものだったんだ。本当の目的は、魔界で死ぬこと。それも、妖怪に殺されて死ぬことさ。もちろんそれで、倒してきた妖怪達が浮かばれるわけじゃあないが……」
「忍…」
仙水の気持ちを聞いたコエンマは、なんとも言えない顔になる。
仙水は、コエンマを見て、軽く笑みを浮かべると、幽助の方に目を向けた。
「浦飯…」
「!」
「戦っているときの君は…すごく楽しそうだ。オレもほんの一瞬だが、初めて楽しく戦えた。ありがとう。次こそ、魔族に生まれますように…」
その言葉を最後に、仙水の目は段々と閉じられていき、口も閉じ、体が動かなくなった。
顔が横に傾いたのが、仙水が死んだということを物語った…。
その姿を見て、みんな…なんとも言えないような表情になる。
「忍……」
仙水が亡くなると、コエンマは仙水の側に行こうとする。
「近寄るな」
だがそれを、樹が強く拒絶した。
暗い影を落とした表情で……。
「もう十分だろう。いい加減、忍を休ませてやれ」
その顔は、どこか悔しいような…悲しいような…許せないような…納得がいかないような…やるせないような…そんな顔だった。
本当に、誰よりも仙水の死を悲しんでるのは、樹だったのだ。
「忍の望みは、魔界の妖怪の中でも最も強いやつに殺されること。その相手が、魔族として甦った浦飯だった。忍にしてみれば本望だったろう。フッ……。自己矛盾に耐えるために作り出した、七人の別人格をのり越えて、最後には、一番純粋な、少年のままの忍に戻っている。忍の魂も、少しは救われたんだろう」
それは、まるで自分に言い聞かせているようにも思えた。
自分には、仙水を生かす力も殺す力もない。救う術などない。せいぜい、仙水の望みを叶えるために、魔界へ続く穴をあけることぐらい。でも、本当は死んでほしくはない。
樹は、とても…とても悔しそうだった。
そしてそう言った後、樹が妖力を放つと、後ろに亜空間に続く穴が開いた。
穴が開くと、樹は仙水を抱き上げる。
「何をする気だ!?」
「「オレが死んでも霊界には行きたくない」。これが忍の遺言だ。お前達の物差しで、忍を裁かせはしない。
忍の魂は渡さない。
これからは、二人で静かに時を過ごす。オレ達はもう飽きたんだ。お前達は、また別の敵を見つけ、戦い続けるがいい」
そう言うと、今度は瑠璃覇に目を向けた。
「瑠璃覇……お前とは…もっと早くに……違う形で出会いたかった…。
お前は……少しだけオレと似ているからな。お前になら、きっと……今の…オレの気持ちがわかるだろう…。
そんな奴に……オレは会いたかった……」
「…ああ……そうだな…」
瑠璃覇がうなずくと、樹は幾分かやわらかい笑みを浮かべ、仙水を抱えて、亜空間の奥へと消えていった。
そして二人が消えると、亜空間へ続く入り口も消えてなくなった。
「……くそ。何だか勝ち逃げされたみてーな気分だぜ」
「結果そうだな。最終的に奴は、目的を遂げたんだ」
「おい、それより浦飯」
「なんだ?」
「オメー、体は何ともねーのか?」
仙水と樹がいなくなると、桑原はずっと抱えていた疑問を、幽助にぶつけた。
「あ?別に。そういやさっきから、背中がうっとうしいがな…。んっ。あ!!あぁああ!!なんだこの頭は!?このモヨウは」
「気づいてなかったのかよ」
今更になって、髪が伸びて、体中に変な模様があることに気がついた幽助に、桑原は呆れていた。
「くわ~~~。何だかしんねーが、本格的に魔族の仲間入りしちまったみてーだな」
「お前の先祖はS級妖怪のようだ。先祖といっても、まだ魔界のどこかで生きているだろうがな」
「………そうか!!きっとそいつが、戦いの最中、オレの意識を奪いやがったんだ」
蔵馬に説明されると、幽助は何故こんな風になってしまったのか理解した。
「何のことだ?」
「いや、実はよ、妙な声が聞こえたんだ」
「妙な声?」
蔵馬に聞かれると、幽助は戦いの最中、頭の中で聞こえた声のこと…。覚醒し、仙水をめったうちにし、特大霊丸でとどめをさした原因を話した。
「頭ん中でそいつがしゃべったかと思ったら、気ィ失って、気付いたときにゃ、霊丸ぶっ放してたんだよ。撃った瞬間にわかったぜ。とてつもねぇ、ケタはずれのパワーだった。とても今のオレにゃ出せねぇ。他の奴の力だってな」
「お、おいおい、ちょっと待てよ。浦飯、お前が後から魔界に来たとき、既に仙水と同じくらいの強さ、つまり、S級並みの力があったんだぜ!!今だってそうだ」
「ああ、それはオレも感じてた。だが、あの瞬間はこんなもんじゃなかったぜ」
「そ…その今のオメーより、はるかに上だってのか!?」
「ああ」
「じゃあ、オメーを操ったっていうオメーの先祖は…一体何級なんだよ!?」
「所詮、それは、霊界が定めた力の階級だからな。霊界の力では、手に負えない妖怪を全てS級としているんだ。魔界からみれば、失礼な話だ。S級の中でも、またさらに、ピンからキリまでいるんだからな。
魔界の地下に行けば行くほど、そんな奴らがゴロゴロいる。ただ、限りなく広大で深い魔界の中では、滅多にお互いが出会わないというだけのことだ」
「は…はは。オレ、頭痛くなってきた。早退すんぜ」
「……」
スケールが大きすぎる話に、桑原はもうついていけない状態だった。
「よし!!オレは、オレを操った奴を探しに行く!!」
「な」
あまりに無謀すぎる思いつきに、全員呆れ、言葉を失う。
「何を言ってんだオメーはよ。もうここらで、一件落着にしよーぜ」
「このままじゃオレの気がすまねーんだよ。真剣勝負に横ヤリ入れやがったんだぜ。タダじゃおけねーな」
「幽助」
「ん?」
自分を操った相手に怒り、その犯人を探そうと燃えているところに、コエンマが静かに名前を呼んだ。
「時間がそんなにあるわけじゃないが、よく考えて決めるんだ。人間界では、特防隊が全員で穴をふさぎにかかっているだろう。彼らとて無能ではない。多分、2日くらいで終わる。それがふさがれば、二度と人間界には戻れん。人間界に戻るか、魔界に残るか、2つに1つ。どっちを選んでも、きっと何かと戦い続ける生活になる。
お前に40時間やる。それで決めるんだ」
「………そんなに時間いらねーよ」
「何!?」
「んなこと、考えるまでもねーじゃねーか」
幽助の意外な言葉にコエンマが驚いていると、幽助はみんながいる方へふり向き、笑顔で口を開いた。
「帰ろうぜ、人間界に」
その答えに、みんなも笑顔になった。
それから、魔界側の穴を通り、みんな人間界へ帰った。
「ん?御手洗の姿がねーな」
「きっと、目を覚まして、先に外に戻ったのだろう。私達も行くぞ」
穴からもとの洞窟に戻ると、そこには、気絶していたはずの御手洗の姿がどこにもなかったので、幽助はふしぎに思ったが、瑠璃覇は、もうすでに目を覚まし、先に出たのだろうと判断した。
「あの……瑠璃覇…」
洞窟から入り口に戻ろうとした時、蔵馬がおそるおそる瑠璃覇に声をかけた。
「なんだ?」
「さっきのこと……怒ってない?」
「さっきのこと?」
「仙水を追って、魔界の穴に入ろうとした前のこと…」
「ああ…私を置きざりにした時のことか」
「ん…。まあね…」
瑠璃覇の口からはっきり言われると、蔵馬はどこかバツが悪そうにして、顔をそらした。
「…そうだな……。怒ってるよ。私を置きざりにした蔵馬のことも……。それをわかってるだろうに、引き返してこなかった、桑原と飛影のことも……。
そして蔵馬達が、玉砕覚悟で仙水と戦ったことも…。特に蔵馬は、私がいれば勝てるとわかっていたから、余計にな……」
自分達の名前が出たことで、蔵馬だけでなく、飛影と桑原もバツが悪そうにする。
「幽助だけでなく、蔵馬も…桑原も…飛影も死んでしまうかもしれないと思ったら…すごく怖かった。恐ろしかった。目の前がまっくらになった。
二度と失いたくはないのに……嫌なことばかり考えてしまった。
だからかなり怒ったよ。あんなに怒ったのは、久しぶりかもしれない……。
だから、また生きて会ったら、文句のひとつでも言ってやろうと思った」
蔵馬、桑原、飛影だけでなく、幽助やコエンマも、瑠璃覇の心の内を聞いて、どこか苦しそうな顔になった。
「でも………みんなが生きている姿を見たら……そんな気もなくなってしまった」
先程まで、この話をしてる時は、どこか暗い、沈んだ顔だったが、今の気持ちを言った時の瑠璃覇の表情は、満面の笑顔となっていた。
瑠璃覇の満面の笑顔を見ると、五人も笑顔を浮かべた。
これですべてが終わり、全員でもと来た道を戻っていく。
来た時のような、緊張感のあるものではなく、なごやかな雰囲気で……。
外では夜が明け始め、一日が始まろうとしていた。
だいぶ明るくなってきてはいるが、まだ少しだけ暗い。
そんな空の下、ぼたん達は心配そうに、洞窟の入り口を見ていた。
そこへ、幽助達六人がこちらに歩いてくる姿が見えてきた。
「あ!!戻ってきたーーーー!!」
幽助達の姿が見えると、ぼたんはいつもの明るい声で、喜びの声をあげた。
「えっ…あれダレ?」
「さ、さあ…」
けど、あまりに変わりすぎた幽助に、ぼたん達は戸惑い、目の前から歩いて来ている、長い黒髪の人物が、幽助だということがわからなかった。
「あれ……浦飯さんじゃないかな…」
「うむ」
「ほんと!幽助だ」
彼らの中で御手洗が気づくと、ようやくぼたん達もわかったみたいで、全員幽助達のもとへ走っていく。
「やだ。感じが全然違ってるよ。一体どうしたってのさ?」
「ほんと。どーしたんスか、その頭!!」
「なんの模様?何かのまじないか?」
「ま、色々とあってな。話せば長くなるぜ」
話している途中、幽助は洞窟の中から気配を感じ、今までのなごやかな雰囲気から、緊張感のある雰囲気に変わった。
「話してるヒマはなさそーだな」
「あっ…」
ぼたんが声をあげると、幽助達の後ろに特防隊がやって来た。
彼らの気配を感じとった幽助達は、無言で後ろへふり向く。
「特防隊の連中か」
「そのようだな」
彼らが来ると、蔵馬と瑠璃覇は冷たい目で特防隊を見た。
どんな用事でここに来たのか、わかりきっているからだ。
「コエンマ様、霊界は、あなた方を許しませんぞ」
「何ィ!?」
「エンマ大王様は、浦飯幽助を抹消しろと告げられた。その命令にそむき、浦飯を魔族として甦らせてしまった責任は、重いですぞ」
「ああ、わかっている。ワシはどんな罰をもうけよう」
霊界のナンバー2なので、霊界のルールはよくわかっているし、ことの重大さも理解しているので、特に抵抗しようとせず、甘んじて罰をうけようとしていた。
けど幽助は、それを気にいらなそうに、特防隊を睨む。
「オイおめーら」
「な…なんだ」
いきなり幽助が話しかけてきた…しかもちょっと怒鳴り気味なので、特防隊達はびびってたじろいだ。
「オレは、勝つとわかってる相手に、ケンカ売る気はねーんだ」
「何?」
「だが、売られりゃ全部買うし、成行きによっちゃ、全力でつぶすぞ。コエンマは最善をつくした。てめーらにとやかく言われる筋合いはねェ。これ以上、オレの周りでチョロチョロ気にくわねーマネしてみやがれ。ぶっ殺すぞ」
幽助に脅されると、大竹は冷や汗をかき、後ろへ後ずさった。
S級妖怪である幽助の、恐ろしい妖気が体中からあふれ出し、殺気に満ちていたからだ。
「我々の任務は魔界に通じる穴をふさぐこと。無益な戦いは必要ない。行くぞ」
「「「はっ」」」
びびった大竹は、それっぽいことを言うと穴の中へ戻っていき、他の部下達も後に続いた。
彼らが洞窟の中に入っていくと、幽助はコエンマの方へ顔を向ける。
「コエンマ、すまねェな」
「何を言うか。それはワシのセリフだ」
コエンマの言葉に、幽助は軽く口角をあげて笑う。
その時、空に太陽が昇ってきて、人間界は朝を迎えた。
すべてに決着がついた日の、すがすがしい朝である。
「終わったな」
「ああ」
「よっしゃ、我が家に帰るか!!」
「なんか、一年ぐれー戦ってたような気がするぜ」
「前にも聞いたぞ、その言葉」
すべてが終わり……みんな帰路についた。
今しがた昇ったばかりの、朝日のようにすがすがしい気持ちで……。
それから幽助は、蔵馬に髪を切ってもらい、途中でシャツを買い、家に帰った。
幽助だけでなく、他のみんなも、自分の家に帰っていく。
瑠璃覇はS級クラスで、本来は戦いを好む妖怪だが、仙水との戦いが終わり、普通の生活に戻ったことを喜んでいた。
死んだはずの幽助が生き返って……死んでいたかもしれない蔵馬が…桑原が…飛影が生きていた。
また、蔵馬と一緒に学校に行ったり、デートに行ったりできる。
たまにしか会えないが、また幽助や、桑原や、飛影と、何気ない生活を送ることができる。
そのことを、心から喜んだ。
しかし……
それは、つかの間の喜びにすぎないことを、瑠璃覇はすぐに知ることになる。
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