第八十二話 幽助復活、魔族の遺伝
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目の前には、胸をつかれ、そこから血を流し、目を閉じたまま動かない幽助。
その幽助を見て、呆然自失としたまま動かない瑠璃覇達。
「う……うそだろ…?」
その中で、桑原が沈黙を破るように、声を発した。
そう言っていても、もしかしたら現実かもしれないという思いが、桑原の体を震わせていた。
「へ…へへ。だまされねーぞ。ほんとは笑うのこらえてやがるんだ」
桑原は幽助のもとに歩いていくと、幽助の体をゆさぶった。
「起きろよ、オイ……オイ」
だが、体をゆさぶっても、幽助は動かないままだった。
それがダメなら…と、桑原は手で鼻と口をふさいだ。
「ほら、鼻と口おさえてんだぞ。苦しいだろーが。息できねーだろ」
鼻と口をおさえていても、肌のあたたかさを感じることがなければ、息づかいも手に感じることはない。
否定していた事実が現実味を増してきたので、桑原のひたいからは冷や汗が流れた。
「どんなにシバイしたってよ、心臓の音を聞けば、一発でバレバレっつんだ」
それでも、まだ認めたくはない桑原は、最後の望みといった感じで、幽助の胸に耳をくっつけた。
しかし……幽助の胸からは、心臓の音がいっさい聞こえてこなかった。
「浦飯…」
それが決定的なものとなり、幽助の死を、受けいれたくなくとも受けいれてしまった桑原は、顔が青ざめて、先程よりもたくさんの冷や汗をかいていた。
幽助から体を離して立ちあがると、とめどなく涙を流し、歯を噛みしめ、強く仙水を睨みつける。
今すぐにでも、とびかかっていきそうな…そんな感じの鋭い目だった。
「ビデオの映画は終わってしまっていたね。戦いに夢中で、エンディングを聞きそびれてしまった。とても美しい鎮魂歌(レクイエム)。今の浦飯にピッタリだったのに」
受けいれてしまった現実に、瑠璃覇、桑原、飛影、蔵馬の四人は、怒りのこもった鋭い目で、仙水を睨みつけた。
目が血走り、瞳孔が開き、鋭利な刃物のように鋭い目だった。
「彼が死んでも、さびしくなんかないよ。お前達もすぐだから。本当のフィナーレはこれからだ」
タイムリミットがきてしまい、仙水の背後にある界境トンネルが、とうとう開いてしまった。
第八十二話 幽助復活、魔族の遺伝
「第一の扉は開けられた」
界境トンネルが開き、穴からは無数の妖怪が出てきた。
「案内してもらおうか。この先へ」
押し寄せてくる妖怪の群れを前にして、四人は無反応だった。
幽助が死んだ今、そんなことは、もうどうでもいいことだったのだ。
「どこへだって行ってやるぜ!!」
桑原は、殺意と恨みと怒りに満ちた表情で、仙水を睨みつける。
飛影は右手の包帯をほどき、バンダナをはずして邪眼を開いた。
瑠璃覇は妖力をもとに戻した。
蔵馬は妖気の高まりで、妖狐の姿に変わった。
瑠璃覇と蔵馬と飛影の三人は、はすさまじい妖力を放ちながら、仙水の方へ走っていく。
「あっ!!」
「ほう…!(この妖力…A級なみ…。娘の方はS級なみとみたね)」
瑠璃覇達の高い妖力に、仙水はうれしそうに笑った。
「飛影!!蔵馬!!瑠璃覇!!」
桑原も三人の後を追いかけようとした時、ふと後ろをふり返ると、幽助の姿が目に入った。
「(浦飯…お前の思い、しっかり受け取ったぜ。すぐに後からいくかもしんねーけどよ。ハデにやられてみせるぜ) 胸はってあえるようにな………!!」
別れの言葉を言うと、再び前を向き、桑原も仙水の方へ走り出した。
「邪王炎殺黒龍波ーーーーー!!」
飛影は仙水に向けて黒龍波を撃った。
まっすぐに仙水に向かっていく黒龍は、その妖気だけで、低級妖怪が消滅していく。
黒龍が仙水をとらえるが、仙水は聖光気を放って防御したので、無事だった。
「このまま魔界まで運んでやるぜ」
そして飛影は、黒龍波を撃ったまま、穴へと向かっていく。
「うむ、心地よい」
黒龍にとらえられてるというのに、仙水は腕をくみ、テレビにすわっていた時の体勢のまま、余裕の顔をしていた。
黒龍が穴につっこむと、黒龍波を放った飛影が穴に入ろうと跳躍し、次に桑原、次に瑠璃覇と蔵馬が跳躍した。
四人は吸いこまれるように、穴の中に向かっていく。
「………瑠璃覇…」
「ん?」
「お前は…ここに残れ…」
「え!?」
けど、穴に向かっていると、衝撃的なことを蔵馬に告げられた。
「何故だ!?私も魔界に行って、仙水を…」
「瑠璃覇がいれば、仙水に勝つことができるかもしれない。けど…オレ達は……」
「蔵馬…」
すべてを言わなかったが、蔵馬が何を考えているのか、瑠璃覇はわかってしまった。
「瑠璃覇…。お前には生きていてほしい。だから、ここに残れ」
「嫌だ!!そういうことなら、なおさら私も一緒に……!!」
瑠璃覇は最後まで言うことができなかった。
何故なら、蔵馬がそれ以上は言わせないと言わんばかりに、瑠璃覇の肩を抱きよせ、瑠璃覇の唇を、自分の唇でふさいでいたからだった。
蔵馬は瑠璃覇の唇をふさいだまま、瑠璃覇の体に種をつけて発芽させた。
「!?」
発芽した種からは植物のつるが伸びてきて、一瞬にして瑠璃覇の体を拘束する。
いつもなら、そんなものは簡単に回避するが、突然の蔵馬の行動に呆然としてしまい、固まってしまったので、瑠璃覇はとらえられてしまった。
そして、完全に瑠璃覇が拘束されたのを確認すると、蔵馬は唇を離し、瑠璃覇の体を優しく押して、自分から離した。
瑠璃覇の体は落下していくが、地面に体をうちつける前に、風で自分の体を浮かせたので無事だった。
その間に、蔵馬達三人は穴の中に入っていき、今の出来事が信じられない瑠璃覇は、落下してる時も、風で自分の体を浮かせた時も、ただ呆然と目の前の光景を見ているだけだった。
また、穴の近くでは、御手洗とコエンマが同じように、蔵馬達が穴の中に入っていくのを見ていた。
「くっ…」
コエンマは、魔封環で莫大な霊気を放出したためか、今までなんとか立っていた体をささえきれなくなり、地面に倒れそうになった。
「だ…大丈夫ですか!!」
だがそこを、隣にいる御手洗にささえられる。
「一体どうなるんです?とうとう、魔界の穴は開いてしまった」
「さっきまで群がっていた妖怪は、飛影の一撃で消しとんでしまっただろう。しかし、すぐにまた無数の魔物達が押し寄せてくる。だが、本当に恐ろしいのは、そんな連中じゃない」
「え?」
「強大な力を持つ妖怪ほど、利口で慎重だ。そいつらが、「この穴は安心して通れる」と判断した時人間界は終わる」
「あ…!!でも、まだ結界が!!人間界と魔界の間に、結界がはってあるんでしょう。強力な妖気を持つ妖怪ほど、その結界がジャマをして通れないって、前に樹が言っていた。その結界さえあれば…」
「桑原が切るさ」
「? な、なぜ!?」
「仙水と戦うためにだ」
「勝ち目がなくても」
「そういう奴だ」
コエンマはくやしそうに顔をゆがめ、霊気の放出で疲れが出たためか、ひざに手を置き、自分で自分をささえた。
「ワシには、もう止められん。その力も資格もない」
そう言ったコエンマの先には、死んでしまった幽助がいた。
御手洗はコエンマをささえながら、ゆっくりと幽助のもとへ歩いていく。
「くそっ」
その時穴の下で、瑠璃覇の声と地面を殴る音が聞こえたので、二人はハッとなり、立ち止まってそちらに顔を向ける。
「くそっくそっくそっくそっくそっくそっ!!くそっ!!!」
瑠璃覇は、幽助が殺された悲しみと、幽助を殺した仙水に対する怒りと憎しみと恨みと、自分を置いていった、蔵馬と飛影と桑原に対する悔しさが入りまじった感情を出し、いつになくイライラした声と顔で、地面を殴り続けていた。
何回も殴り続けたせいで、皮膚がやぶれ、ところどころ血が出ていた。
「る…瑠璃覇…。それ以上やると、手がどうにかなってしま…「うるさいっ!!!!」
いつも以上の迫力に、コエンマはだまってしまい、御手洗はたじろいでしまう。
二人が固まると、何も言わずに背を向け、穴に向かって歩きだした。
「おい、瑠璃覇。どこへ行く!?」
「…決まりきったことを聞くな」
短く返すと、顔だけコエンマの方へ向ける。
「魔界だ」
「なに!?」
「今ならまだ間に合う。きっとまだ、トンネルの中だろうからな」
瑠璃覇は再び前を向くと、穴へ向かって歩きだした。
「お前……何故蔵馬が、お前をここに残したのか、そんなこともわからんのか」
だが、今のコエンマの言葉に、再び歩みを止める。
「蔵馬はお前に死んでほしくないのだ。お前のことを好きだからこそ、大切に想ってるからこそ、せめてお前だけはと…。その蔵馬の気持ちもわからんのか!?」
「うるさいっっ!!!!」
先程よりも強く怒鳴る瑠璃覇に、コエンマは口をつぐんだ。
「お前こそ、私の気持ちがわからんのか!?大体、今こんな思いをしているのは、もとはといえば誰のせいだ!?」
あきらかに八つ当たりであるが、コエンマは言い返すことはしなかった。
「もとはといえば………もとはといえば、貴様ら霊界が、蔵馬の命を奪うことをしなければ、今私はこんな目に………」
怒りにまかせて文句を言っていたが、途中でやめて口を閉ざす。
「すまん。こんな時に言うことじゃなかった」
しゃべってる途中で冷静になり、さっきまでの迫力はうそのように消えていた。
「コエンマ…」
「なんだ…」
「私は、霊界が蔵馬の命を奪った時から、霊界が大嫌いになった。霊界を恨み、憎んだ。今でも嫌いだ。もちろんお前も嫌いだった。……でも……今は違う…」
背を向けて話していたが、またコエンマの方へふり返った。
「今は……お前が好きだ」
ふり返った時の瑠璃覇の満面の笑顔。今までの瑠璃覇からは信じられないような言葉。コエンマはそれに驚いて、目を大きく見開き、硬直した。
まさか、瑠璃覇の口からそんな言葉を聞く日がくるとは、思いもしなかったからだ。
「もちろん、今でもエンマ大王や特防隊のことは大嫌いだけど……。でも、コエンマとぼたんのことだけは好きだ」
昔の瑠璃覇なら信じられないこと。
いや…今の瑠璃覇でも、霊界の住人に対して、他人に対して、蔵馬達以外の者に対して、ここまで好意的な態度を見せることはなかった。
しかし、これはまぎれもなく、今の瑠璃覇の本音だったのだ。
「…………瑠璃覇……お前………」
何故、今このタイミングで本人(自分)に本音を話したのかを察して声をかければ、瑠璃覇は軽く笑みを浮かべた。
それは……本当は、瑠璃覇なら仙水を倒すのは容易いことだが、それでも蔵馬がいなくなったら、生きてる意味などないからだ。
蔵馬達は、自分達が仙水には敵わないことを承知の上で、仙水に戦いを挑んだのをわかっているからだった。
それだけではない。
今や瑠璃覇は、蔵馬だけでなく、幽助、飛影、桑原のことも、とても大切に思っている。
彼らがいなくなったら、本当に生きている意味がなくなる。
瑠璃覇は仙水を倒したら、自分も、自ら四人の後を追おうとしている。
その、今生の別れのようなセリフで、コエンマは今の瑠璃覇の心を瞬時に悟った。
本当は、そんなことはしてほしくない。
けれど、止めることは不可能だった。
瑠璃覇は結構ガンコなところがあるし、そうでなくとも、今のこの状況では、絶対に自分の言葉を受け入れることなどしないということを、十分すぎるほどにわかっているからだ。
「コエンマ…。お前に、ひとつ頼みがある」
「頼み?」
コエンマが返事をすると、瑠璃覇は静かにうなずいた。
「私達が、霊界に来たら……どこでもかまわない。五人一緒のところに送ってくれ」
「え…」
「もうこれ以上は……仲を引きさかれたくはないから…」
「瑠璃覇……」
「これが……私の……最初で最後の頼みだ…」
本当は、嫌で嫌でたまらないので、反対しようとしたが、瑠璃覇の気持ちをくんでぐっとこらえた。
「……………ああ………心得た……」
その返事を聞くと微笑み、瑠璃覇は今度こそ穴へ向かおうとする。
コエンマは、瑠璃覇が穴の方へ歩いていく姿を見ると、幽助のもとへ向かった。
「ん?これは……」
だが、瑠璃覇が穴にとびこもうとした瞬間、コエンマが声をあげた。
「どうした」
普段ならあまり気にも止めないが、ふり返ってみると、幽助のそばにいたので、気になった瑠璃覇は足を止め、幽助のもとへ歩いていった。
「コエンマ、どうしたんだ?」
そばまで行って声をかけると、コエンマは幽助の胸に耳をあてて心音を確かめていた。
「おかしい……」
不可解な顔をし、心音の確認が終わると、耳を体から離す。
「どうしました?」
「何がおかしいんだ?」
「心臓はすでに停止しているのに、幽助の霊体があがってこない」
「なんだと!?」
「それは……どういうことなんです?」
瑠璃覇は驚いていたが、言葉の意味がさっぱりわからない御手洗は、疑問符を浮かべる。
「この世に生きるものは、妖怪でも人間でも、普通死ぬと、自然に霊体があがってくるものなんだ。心臓が停止してるということは、死んでるということだから、霊体は必ずあがる」
御手洗の疑問に、コエンマではなく瑠璃覇が答える。
「え…。じゃあ、死んでないってことですか」
「いや…死んでいるのは間違いない。だから、おかしいのだ」
「そうだな…。もうあれから、だいぶ時間が経ってるからな」
二人は、死んでるのに何故か霊体があがってこないことに、頭を悩ませていた。
「む!!」
「ん!?」
その時、ある気配を感じとった瑠璃覇とコエンマは、洞窟の入り口の方へ顔を向けた。
入り口の方からは、暗い道を照らすほどの、すさまじい光がこちらへ向かってきた。
その光は、三人の頭上を通りすぎると、穴の前でいくつかに分裂した。
「こ、今度は何なんですか?」
分裂した光が地面に落ちると同時に、人の足が次々に着地していく。
最後の一人が全員の真ん中に着地すると、そこからは、とても人間界のものとは思えないような衣装を身にまとった者達が現れた。
「あいつらっ…!!」
彼らを目にすると、瑠璃覇の目つきが、とても鋭いものに変わる。
「な、なんだ?あいつら…」
「霊界特別防衛隊。霊界の軍隊。その中でも彼らは選りすぐりの戦士達だ。人間界と魔界を行き来する穴が通じてしまったこの緊急事態に、霊界はとっておきのエリート戦士達を派遣してきおった。それほどに、今は非常事態だということだ」
瑠璃覇の目が鋭くなったのは、ここにやって来たのが、昔、蔵馬の命を奪った特防隊だったからだ。
「翁法!草雷。才頭!三人で、魔界の穴をふさげ。どの位かかる!?」
「三人がかりで10日ほどかかります」
「一週間でやれ」
「了解」
「おーし、すぐかかれ」
隊長の大竹は、ここに着くなり、すぐ様部下に指示をだした。
大竹の合図で、今呼ばれた三人は、飛んで穴の方へ向かっていくと、穴をふさぎ始める。
「俠妃!倫霾。舜潤!三人は亜空間で待機!!妖怪がきたら始末しろ」
「了解!!」
今呼ばれた三人は、指示されると穴の中に入っていった。
彼らに指示を出すと、大竹は残りの二人の部下を連れて、コエンマ達の方へ歩いてくる。
「コエンマ様、おケガは?」
「大丈夫だ」
大竹はコエンマの前まで来ると、コエンマの安否の確認をした。
「一度霊界へ戻り、お休み下さい」
「そうはいかん!ワシはこれから魔界へいく」
「あなた様は霊気を使い果たし、冷静な判断力も欠いておられます。エンマ大王様の御命令です!!お戻り下さい」
「オヤジの命令でも聞けんな。ここはワシの、全責任をかけて行動する」
戻るよう言われたのは、霊界のトップであり、父親でもある、エンマ大王の命令だからだったのだが、コエンマはそれを拒否した。
「………つらいものを見ることになりますぞ」
「何!?どういうことだ!?」
問われても、大竹は、ここに来る前にエンマ大王に命令されたことを思い出しただけで、答えることはなかった。
「小僧、はなれろ」
「なっ。うわあああっ!!」
大竹の隣にいるおかっぱ頭の男は、そう言うなり、御手洗が何か言う前に、霊気をとばして、御手洗を強制的にそこからどかした。
「何をする!!」
その行いにコエンマは怒り、瑠璃覇も何も言わないが、気にいらなそうにキッと睨んだ。
「浦飯幽助を抹消します」
「何!!」
「!?」
その言葉は、短いがインパクトがあり、二人を驚かせるには充分すぎるものだった。
後ろにとばされた御手洗も、顔だけあげると、大竹を睨みつけた。
「気は確かか、お前達!!」
「混乱されるのも無理はありません。我々も、エンマ大王様から調査の命を受けるまで、考えもしませんでした」
「浦飯幽助は、魔族の子孫です」
「え…?」
「なんだと!?」
次に大竹の口から出てきた言葉を聞くと、瑠璃覇とコエンマは更に驚く。
「魔族の……子孫…?幽助が?バカなことを言うな!!幽助の両親は人間だぞ!!」
「そうです。祖母も、祖父も人間です。その前も、その前も、人間ですが………」
「ま…まさか」
大竹の言葉で、コエンマはある答えにいきついた。
「『魔族大隔世』………!!」
コエンマは信じられない思いで、答えを口にした。
「その通りです。A級以上の妖怪だけができる人間との遺伝交配!!浦飯幽助には、「魔族大隔世」によって受け継がれた、魔族の血が流れているのです」
魔族大隔世というのは、祖父か祖母の遺伝情報が、一代隔てた孫に伝わる遺伝…隔世遺伝の極端な形で、魔族はこれを意図的におこすことができるものだった。
その、何代も前の先祖である魔族の遺伝が、幽助に受け継がれたのだという…。
「先祖の素性も、極めて巧妙に細工されていました。彼が一度死んだときには、まだ魔族として生まれ変わるに、耐えうる能力も器もなかった。それが発見の遅れの原因です。我々は彼を霊界探偵として甦らせたことで…魔族になる手助けをしてしまったのです。今回浦飯と界境トンネルが、微量の同調を示したことに大王様が気づかなければ、手遅れになったでしょう。皮肉なことだが、本来なら、魔界への穴は仙水ではなく、浦飯が開けようとしてもおかしくなかった」
「なんということだ」
話をすべて聞くと、コエンマは驚愕し、冷や汗が流れた。
「浦飯幽助の44代も前、まだ人間界と魔界に、結界がはられていなかった頃、魔族が人間に植えつけた、忌むべき力!!それが、彼に宿っている」
「何を言ってるんだ、あんたら」
大竹が話していると、後ろにとばされた御手洗が口をはさんできたので、コエンマ、瑠璃覇、大竹は、御手洗の方を見た。
「浦飯さんが今まで、誰のために戦ってきたと思ってるんだ」
御手洗はまだ痛む体をおさえながら、こちらへ歩いてきた。
「人間界のために、霊界のために、こんなになるまで戦い続けてきたのに…。手厚く葬るならまだしも……抹消だと!?魔族の血が入ってたからといって、それが何だっていうんだ」
あまりに自分勝手で非道な発言に怒った御手洗は、それを特防隊に訴える。
「う…!!」
だが、またしても先程の男に、背後から霊気を全身にあびせられてしまい、御手洗は気絶してしまった。
「バカやろう!!それが、一番重大なことなんだ。このままだと浦飯は、仙水以上に厄介で危険な存在になるんだ」
けど、彼らには彼らなりに、人間界を守ろうとしてのことだった。
男は御手洗を気絶させると、ひきずって幽助から離す。
「一度死んだ幽助を甦らせ、霊界探偵をやらせておいて、今度は抹殺するというのか。
いいか!!すべてをやらせてきたのは、我々霊界だぞ。
それに、幽助と一緒に働いてきた桑原達は、仙水とともに魔界へ行ったままだ。
置き去りにするというのか。絶対に許さん。大竹!!」
「御免!!」
「う!!」
コエンマは、幽助が例え魔族だとしても、抹消することを良しとしないので、大竹は心苦しくはあるが、霊気をコエンマの体に流しこんで、コエンマを動けなくした。
そのせいで、コエンマはひざをついてしまう。
「キ…キサマ」
動けなくさせると、大竹はコエンマを幽助から離し、岩によりかからせた。
「無礼をお許しください。我々の行動は、霊界の意志として決定したものなのです!!」
そう言って、大竹は幽助の方へ戻っていく。
「オイ、貴様……」
「ん?」
「幽助に近づくな」
しかし、もうあと少しで幽助のもとにつくという時、後ろから声をかけられる。
「貴様はっ…!!…ぐおぉっ!!」
そして、ふり向きざまに風でとばされ、横にふっとんでいった。
「でないと……殺す…!!」
「貴様……パープル・アイ!!」
声をかけたのも攻撃をしたのも瑠璃覇で、大竹は瑠璃覇を見ると顔をゆがめた。
「なんだ、気づいていなかったのか?さっきから、ずっと貴様の前にいたぞ」
「くっ…」
「それとも……気づいていたが、気づいていないふりをしていた…か?何しろ貴様らは、私には絶対にかな…「だまれ!!」
最後まで言う前に、大竹が大きな声を発して遮る。
「何故…貴様が知っている?」
「詳しいことは秘密だが……言ってみれば、戦略の第一歩は情報収集。それだけだ」
遠回しに言われたが、よりによって瑠璃覇にバレていたことに、大竹は歯を噛みしめた。
瑠璃覇と大竹が話している隙に、二人の部下が幽助のもとへ行こうとするが、あと少しで行けるというところで瑠璃覇にばれてしまう。
「ぐあっ」
「うわあああっ」
二人の姿を見ると、瑠璃覇は即座に風でふきとばす。
「幽助から離れろ」
瑠璃覇は跳躍すると幽助の前に降り立ち、ここから先へは行かせないと言うように、仁王立ちをした。
「パープル・アイ、どけ。今から浦飯幽助を抹殺する」
「…どくわけにはいかんな」
そして、彼らの前に立ちはだかると、いつでも技を発動できるように構えをとる。
「幽助が甦るというなら、なお更だ。幽助を………殺させるわけにはいかない…!!」
「何ィ!?貴様、霊界探偵のパートナーであろう。霊界に身をつくすことを誓ったのではないのか!?」
大竹の部下の、大柄な男が叫ぶように問えば、瑠璃覇は軽く口角をあげて、ふっと笑う。
「お前達……バカか?」
「なっ…」
笑うと、今度は相手をさげすむような冷たい目で見る。
「私が、霊界のために、身を粉にして働いてきたと?本気で思っているのか?」
「そうではないのか?」
「私は霊界が大っっ嫌いだ。特に特防隊、貴様らはな…!!ましてや、霊界に誓いをたてただと!?ふざけたことをぬかすな!!
私は単に、幽助が大好きだから手をかしていただけ。例え、それが結果的に霊界のためになろうが、決して霊界のためにやっていたわけじゃない。
勘違いするな!!」
瑠璃覇から放たれる殺気や怒気、威圧感に、特防隊は気圧された。
「それは今も同じだ。だから、霊界が幽助に手を出すというなら、それを全力で阻止するだけだ。勝手に死んだ幽助を甦らせ、勝手に霊界探偵に任命したと思ったら、今度は人間界に害があるから抹殺?何が霊界の意志だ、勝手な奴らめ。絶対に……そんなことはさせない…!!
霊界探偵とか…そんなの関係ない…!私は、幽助が霊界探偵だからとか、自分がその霊界探偵のパートナーだからとか、そういう意味で守るんじゃない。
私は……幽助が幽助だから………幽助が大好きだから……大切だから守る!!それだけだ」
まさか、極悪盗賊といわれてる瑠璃覇が、こんなことを言うとは思わず、特防隊だけでなく、コエンマまで驚き、呆然とした。
「幽助に指一本でもふれてみろ。殺すぞ!!」
冷たく、鋭い刃のような眼で睨みつければ、特防隊は、ヘビに睨まれたカエルのごとく動けなくなる。
「そ……そんなことは関係ないっ。とにかくっ…貴様がなんと言おうと、我々はエンマ大王様のご命令通り、浦飯幽助を抹消する!!それだけだ」
「………お前達は……」
なんとか動いた大竹が、再度自分の目的を口にすれば、瑠璃覇は忌々しそうに奥歯を噛みしめる。
「お前達は……一体どこまで私の幸せを奪えば気がすむんだ!!16年前、私から蔵馬を奪っただけではあきたらず、今度は幽助だと!?絶対に許さん!!」
憤慨した瑠璃覇は、今すぐにでも彼らに襲いかかりそうな雰囲気だった。
ひとしきり叫ぶと、いつ特防隊が攻撃してきてもいいように、両手に風を起こす。
「幽助は絶対に殺させない。何がなんでも、絶対に守りきってみせる…!!」
瑠璃覇がそう言った時だった。
「瑠璃覇の……言う…通りだ…」
体がうまく動かせず、岩にもたれかかったままのコエンマが、声をかけてきた。
そのことで、全員がコエンマの方へ注目する。
「例え、魔族の血をひいていても、幽助は……殺しちゃ…いかん」
「コエンマ様、まだそのようなことを…!」
「隊長!!」
「む!」
大竹がコエンマと話していると、大柄な男が大竹を呼んだ。
「浦飯が…」
彼の方に顔を向けてみると、その先では、幽助が妖気を放ちながら、宙に浮いていた。
「ま…まずい!!あれはもはや、人の霊気ではなく、妖気!!覚醒が始まった!!」
大竹があわてて叫ぶと、二人の部下は、攻撃の構えをとった。
それを目にした瑠璃覇も、両手に起こした風を強くする。
「うてェェイ」
大竹の合図で、二人の隊員は霊気の球を放つ。
しかし、それは瑠璃覇の風の結界によって阻まれた。
自分達の攻撃があっさりと阻まれた二人の隊員は呆然とし、攻撃を防いだ瑠璃覇はニヤリと笑った。
「くっ…。ひるむな!うてうてェエエイ!!」
再び大竹の合図により、二人が攻撃をしようとした時だった。
上から地鳴りが響き、動物の鳴き声が聞こえてきたので、全員上に注目した。
すると、仙水がコエンマの魔封環をはね返した時にできた大穴から、大きな鳥がやって来た。
「霊界獣!?」
「かまうな、うて!!」
それは、あのかわいらしいマスコットのようなプーとはあまりにも違うが、幽助の霊界獣であるプーだったのだ。
突然のプーの出現に、二人の部下は一瞬呆けていたが、大竹の合図で覚醒して、再び攻撃をした。
プーは幽助がいるところに降り立つと、幽助を守るように、瑠璃覇の結界ごと包みこんだ。
「え…?おい、霊界獣!?」
その大きな羽根は、幽助だけでなく、自然と瑠璃覇も包みこむ形となった。
「うてェェイうてェェエ」
プーの羽根の向こう側では、いつの間にか、穴をふさいでいた三人の隊員も一緒になって攻撃をしていた。
先程の何倍にも増えた霊気の球が、プーに襲いかかる。
「や…め…ろ。うつな!!」
いくら霊界獣とはいえ、あんなに攻撃をされては、ただではすみそうにないので、コエンマは必死になって叫ぶ。
「おい、霊界獣!!やめろ!!このままではお前がっ……」
変わりすぎたプーの姿を見て、瑠璃覇は呆けていたが、覚醒し、風の結界を、今度はプーの周りにはった。
その時、肩にあたたかいものがふれた。
向こう側では大竹が膝をつき、それを見た他の隊員達は攻撃をやめて、プーがいる方に注目する。
攻撃によって起こった煙がはれていくと、そこには、大きな鳥の姿のプーがいた。
「プーー、瑠璃覇……もういいよ。大丈夫だ」
あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、プーはまったくの無傷だった。
幽助の声でプーが羽根をひろげると、完全に煙がはれ、中から瑠璃覇と幽助の姿が見えた。
幽助を見た隊員達は、驚きのあまり口をあけたままだった。ついに幽助が覚醒してしまったので、隊員達は冷や汗をかき、彼らの間には緊張が走る。
「つ…ついに…魔族の子が……」
抹消することができず、魔族として覚醒してしまった幽助を見て、隊員だけでなく、隊長である大竹も、かなりの冷や汗をかいていた。
「プーープーー」
主人である幽助が無事だったので、プーは喜んでいた。
「なんだオメー、ちょっと見ねーうちにでかくなったな」
「プ」
「途中からだが、話は聞こえてたぜ。オレが、魔族の子孫だってな」
自分にすりよってくるプーを片手で寄せて話す幽助は、話しているうちに、何やら顔が悪どい雰囲気になっていた。
真実を知られてしまっていたので、隊員達は後ろに一歩さがる。
「どうりで気分がスッキリしてるわけだぜ。生まれ変わったってわけだ」
プーから手を離し、前に出ると、幽助は妖気を放出する。
「うわあああっ!!」
あまりにすさまじい妖気に、隊員達は気圧されてしまう。
「な…なんという妖気…!!」
「あ…幽助…」
幽助は放出していた妖気をおさめるが、それでも隊員達は、思いきりびびってしまっていた。
「た、隊長!!もはや我々の霊力では、こいつに太刀打ちできません!!」
「こいつ?誰のことだ、てめェ!!」
怒鳴るように叫ぶと、幽助は再び鬼のような顔になった。
「頭が高いぞ。我を何と心得る。魔王の血を引く者ぞ!!」
「「ヒィィイイ」」
隊員達は、攻撃をされていなければ、妖気も放出していないというのに、幽助が強くしゃべるだけでびびっていた。
「さて…目覚めのついでに、キサマらに、オレの真の姿を見せてやろう。はははははははははは。はっはっはっはっはっはっはっは」
というより、幽助は鬼というよりは、すでに悪魔のような顔で、高らかに笑いだした。
「ヒィィ」
「うわああ」
「わああ」
その笑いに、隊員達は恐ろしくなり、幽助から少しでも離れようと逃げ出していく。
「なーーんちって。ウソだよバーカ」
しかし、それは幽助の演技だったので、びびりまくっていた隊員達はずっこけ、そばにいた瑠璃覇は思わずふきだし、お腹をかかえて笑いだした。
「コエンマ、桑原達はもう魔界だな」
「あ、ああ」
少しだけ隊員達をおどかすと、すぐにコエンマの方に目を向け、気になってることを問うた。
「よーし、急がねェとな。今のあいつらじゃ、あの仙水の相手はちっときついだろ」
「ま、待て!!お前は一体…」
「あんだよ。っせーな、てめーー。食っちまうぞ」
「ひっ」
かるく脅すと、大竹は顔が青ざめ、あきらかにびびっていたが、それでもおそるおそる口を開いた。
「お…お前は、一体どういうつもりで魔界へ行くのだ……?」
「あ!?ねぼけてんじゃねーぞ、コラァ。
オレは、浦飯幽助だ。生き返ろうが、生まれ変わろうが、他の何でもねェ!!
オレの先祖が、魔族か貴族か知らねェがな。こちとら、仙水ぶっ倒す大目標に、何の変わりもねーんだよ」
「あっははははは」
「わっはっはっはっは」
魔族として覚醒する前と何ひとつ変わっていないので、近くにいた瑠璃覇とコエンマは、思わずふきだしてしまった。
「幽助!!ワシも行くぞ」
「もちろん私もだ」
瑠璃覇とコエンマの顔は、幽助が甦る前とは違い、とてもいきいきとしていた。
「コ、コエンマ様、なりません!!これ以上大王様の命令にそむくことなど」
大竹は、どこまでもエンマ大王の命令に逆らおうとするコエンマの肩と腕をつかんで、必死に止めようとした。
しかし、幽助はそれを阻止するように、大竹の顔面に蹴りをくらわせる。
「うるさいよ、てめー」
ほんのかるいものであったが、それでも魔族の血をひいているから威力が強いのか、この一撃だけで、大竹は後ろに倒れてしまった。
「た、隊長」
「隊長」
「隊長!」
それを見た他の隊員達は、心配そうに大竹のもとへ駆け寄る。
その間に、瑠璃覇と幽助とコエンマの三人は、プーのもとへ走っていき、プーの背中に跳びのった。
プーは、三人が乗りやすいように、頭をさげて身を低くしていたが、三人が乗ったのがわかると、体を起こした。
「コエンマ様!!」
気絶まではしていなかった大竹は、コエンマが魔界に行こうとしているので、隊員にささえられながらコエンマの名前を呼んだ。
「オヤジに言っとけ。クビでも勘当でも、好きにしてくれとな」
そう言った時のコエンマの顔は、先程よりもいきいきとしていた。
「御手洗、行ってくるぜ…」
幽助は、近くで気絶している御手洗をみつけると、小さくあいさつをする。
「プーー、出発だ」
幽助が合図を出すとプーは飛び立ち、穴の中へと入っていった。
「幽助、このまま、人間界へ戻れんかもしれんぞ」
「後だ。あとあと!!んなことはなァ、仙水ぶっ倒してから考えらァ!!」
「くっくっく。それでこそお前だ!!」
「へっ、気持ちワリーぜ。頭でも打ったんじゃねーのか」
「気持ち悪いのはいつものことだろ。もとからだ」
「ああ、確かにな!!」
「やかましい!!」
相変わらず悪態をついてくる瑠璃覇に、幽助は納得し、コエンマは大声をあげる。
しかし、いつも通りの瑠璃覇なので、コエンマはどこかほっとしてもいた。
「急げプー!!」
魔族へと覚醒し、魔界へ向かう幽助は、これから仙水と戦うことを考えて、すごくいきいきとしており、うれしそうに…そして楽しそうに笑っていた。
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