第八十一話 すべてがとまる瞬間(とき)
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「!? 黄金の霊…気。い…いや」
見たことがない気に、幽助はとまどった。
「あれは、霊気じゃない!!」
「妖気でもないぞ」
「霊気でも妖気でもないだと!?だったら、一体何なんだ?」
「わからん…。こんな気は、初めて感じる…」
この中で、一番長く生きている瑠璃覇ですら、この気の正体はわからなかった。
仙水の気を感じた幽助は、冷や汗をかきながら仙水を見ていた。
「うっ…。っ痛~~~~」
その時、幽助に殴りとばされたコエンマが気がつき、顔をおさえながら起きあがった。
「!!
………ま…まさか、あれは、あの気は」
起き上がると、仙水がまとっている気を見て驚愕し、目を見開いた。
「聖光気!!」
それは、誰もまったく耳にしたことのない気だった。
第八十一話 すべてがとまる瞬間(とき)
「幻海すら持ち得なかった究極の闘気!!お前は…それをこの10年たらずで…」
「生まれつき、どうしようもない才能の差はあるものだ。例えば浦飯くん、君の気が、仮にオレの数十倍の容量をもったとしても、君の気では、聖なる力を持てない。質も量もオレが上。少し心配だよ。弱い者いじめになってしまうかもしれない」
仙水は一瞬で間合いをつめると、あっさりと幽助を殴りとばした。
「ぐあ」
軽く殴っただけだが、ハンパない威力があり、幽助はふっとんでいくと、後ろにある壁に激突した。
「ぐあっ…」
激突し、壁に穴があいてくずれる。そのくらいの力があった。
幽助は壁に背中を強打し、そのまま地面に落ちる。
「お……あ」
それでも、なんとかすぐ立ちあがるが、今の一撃だけでふらふらな状態だった。
「うおおーー!!」
幽助は立ちあがると、仙水のもとに走っていって殴りだした。
しかし、何度も殴るものの、まったくダメージを与えられない。
先程の、「カズヤ」や「ミノル」の時は、多少なりともダメージを与えることができたが、今の「忍」にはまるで通用しない。
「くくく。はははは」
必死になって殴り続ける幽助の姿を、仙水は余裕の顔で見ていた。
普通に殴ろうが、霊気をこめて殴ろうが、微動だにしていなかった。
「ははははははははははは」
仙水は余裕のあまり、また高らかに笑いだす。
幽助は拳に霊気をこめると、再び仙水に殴りかかった。
しかしその腕を、仙水にあっさりとつかまれ、阻止されてしまう。
「!!」
「もう、休みたまえ」
仙水は、まるで幽助をあわれむような目で見ると、幽助の前腕の真ん中あたりを、軽く拳でついた。
「ぎゃあああああああーー!!」
それだけで骨が砕け、その際に、コエンマから奪った魔封環を手から離してしまう。
「浦飯ィーーー!!!」
今までで一番大きいかもしれない叫び声に、全員顔をしかめた。
仙水は幽助の手から離れた魔封環をとろうと、手を伸ばした。
だがその瞬間、正面からとんできた幽助のスニーカーが顔面にあたり、阻止されてしまう。
「へ…へへ…。そう…カンタンに、渡せねェ…な」
幽助はスニーカーをとばし、仙水が前が見えなくなった隙に、足の指で魔封環をはさんで奪ったのだった。
「まだ、死にたくないだろ?」
「降参よりましだ」
「忍!!」
「てめーはだまってろ」
コエンマが戦いを止めようと、仙水の名前を呼ぶと、幽助は怒鳴った。
「このまま…やらせろ。やらせてくれよ、たのむ…」
幽助はとても難しい顔をしていたが、急にどこかおだやかな顔になる。
「幽助…。お前一体…」
「もうちょっとなん…だよ。さっきから。あと…ちょっとで…オレも、何かつかめ…そうなんだ」
「何?」
「?」
「へへ…へ。忠告しとくぜ。怖けりゃ…今のうちに、迷わずオレを殺せ…よ。さあ…こいよ。きっと…すげェことが起きるぜ。そうなる前に………とどめを……さしにこいよ……」
「……」
「さあ…こいよ」
と言われても、仙水は幽助を睨んだまま動かなかった。
「浦飯の奴…なんか策があるみてーだ。また何か狙ってやがるぜ。仙水がとびこむ瞬間に」
「……あるとは思えんな」
「何?」
「一対一で、勝てる相手じゃない…」
「なんだとこの…う…」
飛影に言い返そうとするが、あることに気がつき、桑原は口をつぐんだ。
「(飛影が…汗をあんなに)」
汗をかいていたのだ…。
あの飛影が……。
しかも、全身に…。
それを見た桑原は、驚いて口を閉ざした。
「貴様は、奴と同じ人間だから感じないらしいな。奴の今の気は、妖怪でいえばS級クラスだ」
「なに…」
「仙水は今、できる限り最小限に力を抑えているよ。幽助の腕を折ったときも、アリをつまむぐらい優しく」
「蔵馬!!おめーまで」
汗をかいてるのは、飛影だけでなく、蔵馬もだった。
「甘かったな。ただの身の程知らずだと思っていたが、本気でオレ達を、皆殺しできるほどの力を持っていやがった。
笑えるぜ。魔界ですら、S級クラスの力の持ち主には滅多に会えん。人間界で…しかも、人間の中にこんな奴がいるとはな…」
「そ…そんな…」
飛影の話を聞き、瑠璃覇以外は絶望的な表情になる。
「そもそも無謀なんだよ」
すると、そこへ今度は瑠璃覇が口をはさんできたので、桑原も、蔵馬も、飛影も、御手洗も、瑠璃覇の方へ顔を向けた。
「あいつはS級。対して幽助は、せいぜいA級の力しかない。A級がS級に勝つなど、到底不可能だ」
「お前……最初から、浦飯は仙水には敵わないってこと、わかってたってのか!?」
「まあな……」
「瑠璃覇は、瞬時に相手の力の強さを見極めることができるからな」
蔵馬が説明すると、桑原は呆然とした。
その時、突然激しい揺れを感じた。
「なんだ?」
裏男の目から顔をそらしているので、外の状況がわからなかったが、外では洞窟の至るところが崩れだし、仙水が立っているところを中心に亀裂が入り、地面が陥没し、壁の破片が落ちてくる。
それは、仙水が莫大な霊力を放出しているからだった。
「おや…こんなに力を抑えているのに……。もう大地に影響を与えてしまった。オレの唯一の欠点だ…。ふふ。人間界(ここ)では五分の力すら出せない。ストレスだよ、これは…。ふふふふ」
「関係ねーんじゃねーのか?人間界ぶっつぶしたいんだろ。なら、ぶっこわせばいいじゃねェか。全力で暴れてみろよ」
幽助の発言に、仙水はキッと睨んだ。
今までで……一番強く…。
「馬鹿者めが。それが傲慢だというのだ!!!」
「わっ」
怒りでより強く放たれた聖光気に、幽助とコエンマは、後ろの壁までふきとばされた。
「うお」
そして、また後ろの壁に激突してしまう。
「失礼。オレは、花も、木も、虫も、動物も好きなんだよ。嫌いなのは人間だけだ」
「くっ」
幽助はツバを吐きすてると、仙水を強く睨みつけた。
「オレは、てめーが嫌いだ」
そう言われると仙水は、眉間にしわをよせていたが、急ににっこりと微笑んだ。
「立ちたまえ。とどめをさしてやろう」
にっこりと微笑みながら、恐ろしいことを口にする…。
「幽助!!魔封環をよこせ。まだ間にあう」
「おしゃぶりか?もうねーよ」
「何…」
「今のスキにとられちまった。あいつ、すげーわ」
仙水の方に目を向けると、魔封環は仙水の右手の上に浮いていた。
「好都合だ」
コエンマは構えをとり、手に霊力を集中させて高める。
「魔封環!!!」
そして、霊力が全身をつつみこむくらい大きくなると、仙水に向けて放った。
全員が、固唾をのんで見守る。
「ぐ!!」
まっすぐ仙水に向かっていった霊気は、仙水を包みこみ、動きを封じた。
「あれが魔封環か」
「ああ。霊界に存在する、防御系呪文の中で、最大最強に位置されるものだ。長い年月をかけて、自らの霊気を聖なる道具に送りこむ」
「聖なる道具?オレァてっきり、乳離れしてねーんだと思ってた」
「まあ、見た目はそうだろうな…。だが、見た目と違って、かなりの高等な道具だ」
「そいつを敵に放ち、強力な結界を作る。何百年もの間、霊気を凝縮しておいた魔封環。例えS級妖怪でも、この呪文にかかれば、身動きすらできなくなるはず」
蔵馬と瑠璃覇が、桑原に、魔封環のことについて説明をしている時、外ではコエンマががんばっていた。
「この技は、過去に二度しか使っていない。そして、人間に向けて使うのはこれが初めてだ」
コエンマは、霊力を更に強めた。
その威力に、落ちてきた破片が細かく砕け、穴に群がっていた妖怪達が消滅した。
「一緒にいこう、忍。魔界へ」
仙水は苦しそうに顔を歪めながらも、魔封環をにぎりしめた。
そしてニヤリと笑うと、魔封環をにぎっている手を少しずつ動かす。
「そんな…そんな、バカな」
「ふうう~~~~~…」
仙水は気を高めると
「は!!!!!」
コエンマの霊気を、上にはじきとばした。
はじきとばされた霊気は、天井部分を破壊し、地上までとんでいった。
そのせいで、天井部分がもろくなり、細かい破片が次々に落ちてくる。
「妖怪か並の人間になら効いただろう。だが、考えてみたまえ。人間にとって、究極の気である聖光気は、聖なる力。霊界の技に共鳴こそすれ、封じることなどできない」
優位に立っている者独特のいやな笑みを浮かべれば、コエンマは絶望に満ちた顔で、力なく地面にひざをついた。
「もう…ワシですらお前を、お前を止められんのだな」
「何百年かの苦労が水のアワだな」
「(これまでか…)」
もう、魔封環もない。あったとしても、魔封環を使えるほどの霊力がない。コエンマは観念した。
すると、そこへ幽助がコエンマの隣にやってきて、コエンマの肩に手を置いた。
「あきらめんのは、まだ早いぜ」
「幽助!!」
幽助は、仙水との勝負を再開すべく、コエンマの前に立った。
「ムリだ!!よすんだ」
「おっと…そうそう。とどめだったね」
幽助が目の前に来ると、仙水は無表情のまま淡々と言った。
「へっ、見ろよあいつの自信を!!浦飯はきっと考えがあるんだ!!ただでくたばる奴じゃねェ!!」
「!! ま……まさか」
蔵馬は幽助を見て、ある考えに至った。
「ん?なんだ蔵馬」
「桑原くん、君が戸愚呂の時にやったこと。それを、今度は幽助が…」
「オレが、戸愚呂にやったこと?」
「幽助…あの時と同じ気持ちで…」
「あの時……」
蔵馬に言われると、桑原の脳裏に、あの時の……暗黒武術会での出来事が浮かんだ。
幽助の本当の力を引き出そうとした戸愚呂に、自分が犠牲になろうと向かっていき、戸愚呂に胸をつらぬかれた時のこと…。
そして……
『あとはたのんだぜ、浦飯…』
つらぬかれた時に言ったあの言葉。
その光景と言葉が頭をよぎった。
「ま、まさか」
「幽助は、あの時の君と同じつもりだ」
「だろうな」
「おそらく…」
「そ、そんな…浦飯の奴…!!」
桑原は冷や汗をかき、顔からは血の気がひいていった。
「今の力では、幽助は仙水に勝てない」
「しかも、奴は聖光気を使う」
「死ぬ気で向かっていっても敵わないだろう。だから幽助は、自分が死んで、オレ達の怒りにかけようと…」
「そんなムチャな」
予測ではあるが、蔵馬からそのことを聞くと、桑原はあわてて裏男の目の方へ走りだした。
「バ…バカヤロオー!!おい、浦飯ィィ!!」
途中でころんでしまうがすぐに起き上がり、無駄だとはわかっているが、手を伸ばす。
「よせ、やめろォォォ!!浦飯ーーーーー!!!」
必死に止めるが、幽助は聞く耳もたなかった。
コエンマも止めようと、幽助の肩をつかむが、幽助にふりはらわれてしまい、その場に力なくくずれる。
コエンマや桑原が止めるのもむなしく、幽助は仙水の前へ出た。
「ゆ…幽助」
「言っただろ。オレはもう、魔界へのトンネルが開こうが、とんでもねー妖怪が来ようが、関係ねーんだよ!!オレと…奴との一騎討ちに、決着をつけてーだけだ!!」
コエンマは、もう一度幽助を止めるため、なんとか立ち上がろうとするが、足に力が入らず、またくずれ落ちてしまう。
「とどめをさせってわけか」
「どうした…?早くやれよ。お前の強さなら一瞬だ。オレが保証するぜ」
だが、仙水は幽助を見たまま微動だにしなかった。
「浦飯、聞いてんのか、コラァ!!オレは…オレは、てめーだからやったんだぞ、バカ野郎」
「桑原くん…」
止めようと必死に叫ぶ桑原を、みんな心痛な面持ちで見ていた。
「おめーがやるこたねェだろ。おい、浦飯ィ!!オレはてめーだから…てめェだから…浦飯ィィ!!」
仙水のもとへ歩いていく幽助を見て、桑原の脳裏には、幽助との思い出がよぎった。
それは……幽助がまだ、桑原を覚えていなかった時のこと。
何度目かわからない勝負を挑んで負けてしまうが、殴られた瞬間顔だけでも思い出してもらえたので、どこかうれしそうな顔をしていた。
「オレは許さねェぞ。絶対許さねェ。そんな奴に負けちまうのか、てめェ!!てめェはなァ、てめェは………オレ…が」
桑原の頬に涙が伝い、こぼれおちていく。
次に思い出すのは、ケンカで負けて、倒れながらも宣戦布告した時のこと…。
そして次に思い出したのは、おそらく、補習をふけてきたのだろう。学校の塀で待ちぶせしていた時、幽助が塀を越えて出てきて自分を見た時に、ようやく自分の名前を覚えてもらってうれしかった時のこと…。
何回も何回も幽助に立ち向かっていくが、そのたびにぼこぼこにされてしまい、のびているところに、友人の桐島、沢村、大久保に、「勝てっこない」、「あいつは鬼より強い」と言われたが、それを誰よりもわかっててなお、幽助に勝負を挑みにいく時のこと…。
桑原は楽しかったのだ。やられっぱなしではあるが、幽助とケンカしていると、心がわくわくしてくるので、目がとてもイキイキしていた。
そんな、心おどる時のことを桑原は思い出していた……。
「何で、昔のことが頭ン中浮かぶんだよ。縁起でもねェじゃねェかよォ。浦飯ィイ」
桑原はただ、その場で涙を流し続けた。
「さあ、早くやらねーか」
外では、幽助に挑発されるも、仙水は幽助をやるかどうか迷っていた。
今の幽助に、自分を倒す力がないことが、確実にわかっていながらだ。
けど、その理由が自分でもわからないまま、未だに仙水はその場を動かなかった。
それを見ていた樹は、何故仙水が、幽助にとどめをささないのかがわからなかった。
「おい、キサマ」
考えごとをしていると、飛影に呼ばれたので、飛影の方に顔を向ける。
「今すぐオレ達をここから出せ」
言いながら、飛影はマントをぬぐ。
「どうせ死ぬなら、戦って死ぬ。あいつとな」
「飛影」
飛影の右腕は、すでに臨戦態勢に入っており、蔵馬も髪からバラをとりだして、ムチに変化させる。
「オレに瑠璃覇、桑原くん、飛影、幽助を入れて、五対一で戦いたい。オレは五人のうち、誰が欠けてもいやだ」
「蔵馬」
「どうやら、状況はそんなとこまできてしまったからな」
「幽助は怒るかもしれないけどな…。だが……このまま、幽助がやられるとこを見てるだけなんて……そんなのは耐えられない…。だからたのむ…。幽助のそばにいかせてくれ」
「瑠璃覇」
今度は瑠璃覇が、風を手にまとわせて、いつでも攻撃できるようにしていた。
「だめだね」
四人は真剣な顔をしていたが、その気持ちを裏切るかのように、樹は冷たく言い放った。
「な…なんだと!?」
「君達五人が力を合わせても、忍は倒せまい」
「このやろう…」
バカにされたことに怒り、樹に襲いかかろうとした桑原を、蔵馬が手で制する。
「オレ達が加わっても倒せないなら……いいだろう」
「フッ。いいや、君達の力を合わせれば、逃げることはできるかもしれない。もう力の残っていない浦飯をかつぎ、忍の攻撃を防ぎつつ逃げる」
「て…てめェ」
「オレは君達の力を過少評価はしない。飛影、蔵馬、お前達はもともと、A級クラスの妖怪だろう?そして瑠璃覇、君は忍と同じで、S級クラスの妖怪だ。それぞれ、事情で今は違うみたいだが。
ここで逃がしたら、君達は必ず、今以上に強くなる。
出そうなクイもうつ。君達には、一人ずつ死んでもらう。
特に瑠璃覇、君がS級妖怪である以上、絶対に出すわけにはいかない。S級といっても強さはばらばらだ。もしかしたら、忍よりも強いかもしれんしな」
「(………読んでやがった)たいしたもんだよ、キサマもな…」
「幽助は……仙水には勝てない。力に差がありすぎるからな…。だが…私がフォローすれば、問題ないと思っていた。だが、こんな事態になるとは…。
樹……貴様、最初からそれがわかっていて、私達をここに閉じこめたな?」
瑠璃覇が睨むと、樹はその通りだと言うように笑みを向ける。
「だから君達は、ここで忍が浦飯にとどめをさすのを見物するしかないんだよ」
「クソバカヤローが」
桑原が吐きすてるように樹に言うと、御手洗が桑原の後ろまで歩いてきた。
「ボク、さっきから、ずっと思ってたんだけど…」
「なんだよ?言いたいことがあるんならさっさと言え」
「ほら、ボクが君の友達を水の領域に閉じこめた時、すごい能力でその領域を切り裂いたろ?あれは、異次元空間を切り裂く力だ。仙水達もその力で亜空間結界を破ろうと君を捕えた」
「だから…?」
「あの力さえ出せれば、どんな次元も切り裂けるはず」
「なんでそれを早く言わねェ。おりゃあああああ!!」
希望が出てきたというように、桑原は手に霊気を集中させ、あの時の剣を出そうとした。
気合いをいれて叫んだ桑原に、瑠璃覇と蔵馬と飛影はふり返る。
しかし、うまく出すことができず、桑原は後ろにふっとんで、しりもちをついた。
「ダメか」
「まだ自分でコントロールできないんだ」
「どうしてだ?おりゃああ!!」
けど、桑原はあきらめず、再び手に霊気を集中しはじめた。
「君が次元刀を自在に操れるのなら、とっくに魔界へのトンネルを、切り裂いてもらっていたよ」
「くっそォ~~。出てくれェ」
「忍…。とどめをさすんだ」
まだ次元刀を出すことができないが、いつどのタイミングで力を発揮されるのかわからないため、樹は仙水に、忠告をするように言った。
「浦飯、魔界への扉が開くオープニングセレモニー。終わらせる時がきたようだ」
「ああ…」
今まで微動だにしなかった仙水が、ようやく動きだす。
それは、最後の決着をつけることを意味していた。
幽助は構えをとり、同じく仙水も構えた。
しかし、仙水は動こうとはしなかった。
「どうした?なぜこねェ」
「フ…さあな。つまらんことだ」
「ヤロウ…。こねェならこっちからいくぜ。うああああっ!!」
幽助は霊気を放出すると、仙水に向かって走り出した。
走っていくと途中で跳びあがり、そのまま下降しながら仙水に蹴りを入れようとするが、仙水に足をつかまれ、放り投げられてしまう。
着地したわずかな隙を狙って、仙水は幽助に襲いかかってくるが、幽助は仙水の腹に思いきり蹴りを入れた。
蹴りとばされ、後ろへふっとんでいった仙水を追いかけて、幽助は何度も腹に殴りかかるが、仙水はまったくダメージを受けておらず、余裕の笑みを浮かべる。
仙水の笑みを見た幽助は強く睨みつけると、渾身の一撃をくらわせようとするが、仙水は後ろに跳んでよけてしまった。
幽助は殴った時の勢いでころんでしまい、うつぶせに倒れるが、すぐに立ちあがり、自分の手のひらを見ると、強くにぎりしめる。
「もうちょっとなんだよ」
「ん?」
「あとちょっとで、何かがつかめる」
ニヤッと笑う幽助を見ると、仙水は跳躍して蹴りとばし、幽助の体勢がくずれた隙に、更も腹に一撃くらわせた。
そして更に、脇腹にもう一撃くらわせる。
「幽助っ!!」
それを見ていた瑠璃覇が心配そうに叫び、飛影は拳を、蔵馬はムチを強くにぎりしめ、桑原は口をあけたまま、ふらふらとした足どりで前へ歩いていく。
「なんで…なんでだよォオ」
何歩か歩いていくと、力なくその場にひざをつき、もう一度挑戦するべく、右手首をつかんで顔をあげた。
「一番大事なこんな時に、なんで、次元刀が出ねェんだ!?てめェがやられそうになってんのに、オレ…オレ、なんにもしてやれねェ」
自分の不甲斐なさに、桑原はまたくずれおち、よつんばいになって涙を流す。
「ずっと一緒に戦ってきたのによォ。浦飯ィィィ!!」
思い出すのは、幽助の通夜の時のことだった。
「こんな大事な時に」
そして、幻海の弟子選考会で武蔵と戦った時、初めて霊剣をつくり出した時のこと。
「こんな大事な時に…」
幽助が乱童と戦った時、池に落とされて魔界魚のえさにされそうになったところを、霊体の桑原が喝をいれた時のこと。
迷宮城の任務の時、霊剣を棒なしで自在に出せるようになったのを、自慢気に話していた時のこと。
戦ってる幽助を応援してた時のこと。
幽助が迷宮城で朱雀と戦った後、心臓が止まりかけた時に霊気を送った時のこと。
雪菜を救出する任務の時、垂金の屋敷で、幽助と力を合わせて、戸愚呂と決着をつけようとしていた時のこと。
暗黒武術会で、幽助が幻海からの最後の試練をクリアした後、つかれて寝ているのをみつけた時のこと。
暗黒武術会の決勝戦で、戸愚呂兄と戦って勝利した後、幻海の死をだまっていた幽助を殴りとばした時のこと。
暗黒武術会の決勝戦で、幽助と戸愚呂弟が戦っている時、自分を犠牲にした時のこと。
それらのことが、まるで走馬灯のように頭の中に流れてきた。
「浦飯ィー!!」
一方的に、仙水に殴られたり蹴られたりするだけの幽助を見て、桑原の霊気がぐんぐん上がっていく。
「だあああ!!」
上昇していくすさまじい霊気を感じとり、瑠璃覇達は驚き、桑原に目を向けた。
もう、何度目かわからないくらい殴られ、地面にうつぶせに倒れた幽助。
だけど、それでも立ちあがる。
立ちあがった幽助を見ると、仙水は聖光気を放出した。
「浦飯、さらばだ!!」
ついに仙水が、とどめをさそうと幽助のもとに向かって走り出した。
「くっ……ぐぅぅ…………うあああああ!!」
霊気を集中させ、桑原はついに次元刀を作り出した。
それを見たみんなも驚いていた。
これでここから出られるのだ。この忌まわしい空間から。
「忍!!早く浦飯を殺せ!!」
とうとう桑原が次元刀を作り出してしまったので、樹は焦って仙水に叫んだ。
外では仙水が、聖光気を放ちながら、幽助にとどめをさそうと走っていた。
「どりゃああああああっ!!!」
亜空間の中にいる桑原は、そこから脱出するために、次元刀をふり下ろした。
裏男の右目がななめに切られると、裏男はうめき声をあげた。
壁に亀裂が入り、次元が切り裂かれると、五人はそこからとび降りる。
亜空間から五人が出る瞬間。
仙水が幽助のもとへ走っていく姿。
くずれ落ちる岩。
湖に着水する瑠璃覇達。
そのことではねる水。
何もかもがスローモーションにうつった。
「浦飯ィィーーー!!!!!」
桑原が幽助の名前を叫ぶと、幽助がこちらを向いた。
幽助は、口角をあげて笑っていた。
そして……次の瞬間……。
仙水が……
幽助の心臓をついた………。
それを見た瞬間……
桑原の……
瑠璃覇の……
蔵馬の……
飛影の……
御手洗の……
コエンマの顔が……
目の前で起こった出来事が信じられず……
その光景を見て
目を見開き
口をあけたまま
表情が凍りついたように固まり
驚愕した……。
仙水に心臓をつらぬかれた幽助は……
左胸から血がふきだし
目を閉じて
仰向けに、大の字になって倒れた……。
その…ピクリとも動かない幽助の姿を見た五人は、呆然自失とその場に立ちつくす。
「浦…飯…」
桑原は一歩前に出て名前を呼んでみるが、幽助からはなんの反応もなかった。
「彼は、今死んだ」
哀れむような顔で、仙水は事実を告げる。
認めたくないのに。そんなこと考えたくはないのに…。
仙水の口から出てきたのは、もっとも残酷で、もっとも迎えたくない結末だった。
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