第八十話 七人の仙水
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仙水が「何か」を撃つと、その衝撃で、幽助と仙水をつないでいたシャツがちぎれた。
そして腹を撃ちぬかれた幽助は、血を口から吐きだしながら宙を舞うと、地面にたたきつけられる。
突然のことに、幽助だけでなく、瑠璃覇達も驚きを隠せないでいた。
「浦飯ーーー!!」
「あれは…」
「銃を仕込んでいたとは…」
「しかも、ただの銃じゃない」
「霊気の塊を、弾丸にしたらしいな」
いつの間にか、右腕が銃に変わっていたので、瑠璃覇達は更に驚く。
外の仙水を見てみると、先程まで戦っていた仙水とは、見る影もないと言っていいくらい、顔つきが変わっていた。
「くそガキがァァァ。いつまでも調子に乗ってんじゃねェーーー!!この、コエダメがァーーーァ!!」
しかも、顔つきだけでなく口調もまるっきり変わってしまっている。
「口調が変わった!?顔つきも」
「思いきり人格が変わってる…」
「ヤロォ、とうとうぶっち切れやがった」
「違うな」
「え!?」
「入れ替わったんだよ。腕に仕込んだ気硬銃を使えるのは、「カズヤ」だな」
「「カズヤ」ーー!?何言ってやがる。奴の名前は、仙水忍っつんだろがよ」
桑原はわからなかったが、蔵馬は桑原と樹の言葉ではっとなった。
「多重人格……!!」
「その通り。仙水の中には本来の人格の「忍」も含めて、七人の別の人格がすんでいる」
「な…」
「七人も!?知らなかった…!」
「終わりない闘いの中で、仙水が自ら創り上げた、哀しい別人格さ。さっきまで闘っていたのは、理屈屋の「ミノル」。プライドが高く、おしゃべりだ。浦飯に思わぬ反撃をくらったのがショックで、「カズヤ」と交代したらしいな」
「プライドが高いから、誰よりも優位に立っていないと気がすまない。幽助のような「ハンパ者」に、優位に立たれるのがガマンならない。そんなところか」
「そんなところだ。「カズヤ」は七人のなかでも、殺し専門。赤子さえ喜んで殺す殺人狂さ」
第八十話 七人の仙水
樹が説明した通り、「カズヤ」と変わった仙水は、実に狂気的だった。
先程、気硬銃でつらぬかれ、重傷を負ったところを、わざと狙って蹴りあげたのである。
「うぎゃあああっ」
撃ちぬかれたところを蹴られるのは、痛みがすさまじく、攻撃をくらっていないところを蹴られた時の比ではなかった。
「驚いたか。これがホントの奥の手だ」
「がほォ ぁぁあ!!」
苦しんでいる幽助を見下ろし、仙水はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
「「ミノル」がしゃべってた続きだぜ。てめェがオレに勝てねェ理由、その4。これは決定的だぜ。へへへへ。このオレ、「カズヤ」が出てきたからだ」
そう言うと仙水は気硬銃を幽助に向け、何発も撃った。
「うあぁあああ」
腹だけでなく、腕や足に何発も撃たれたので、幽助はうめき声をあげる。
「くくくく。お前いい声で鳴くじゃねェか。あ~~ん?感じてきちまったぜ。ひひ」
仙水は幽助の髪をつかみ、幽助の頭が、ちょうど自分の顔と同じくらいの高さになるくらいまで持ち上げて、幽助の頭を後ろへそらすと、気硬銃を幽助ののどにあてる。
「だがお別れだ。あばよ」
そして、気硬銃に霊気をこめ、とどめをさそうとした。
「幽助!!」
「浦飯さん!!」
「く…」
「幽助ぇ!!」
「浦飯ィィィ!!」
そこから手も足も出せない瑠璃覇達は、この危機的状況に、もはや手をこまねいて見ているしかなかった。
だが、その時……。
「待てーーー!!」
外へとつながる通路の方から、仙水をとめる声が聞こえてきたので、仙水は手を止め、声がした方へ顔をむけた。
「忍…!!やめろ!!」
「コエンマ……か」
それは、幽助達より遅れて洞窟に入ったコエンマだった。
「忍…もうやめろ。これ以上、罪を重ねるな……!!」
コエンマがそう言ったその時、仙水はあることに気づき、幽助を蹴りとばした。
「ぐっ」
蹴りとばされた幽助は、地面に強く体を打ちつけてしまう。
「ち……まだそんな力が残ってたか。危ねェとこだったぜ」
「…ぐっ、とんだ…ジャマが入っ…たぜ。ヤツが…近づいたスキ…に…特大の一発、くらわしてやれ…たのに……」
仙水が幽助を蹴りとばしたのは、幽助が仙水の隙をついて、霊丸を撃とうとしたからだった。
「油断もスキもあったもんじゃねェな。さすが「忍」の後任者だけあるぜ」
ただ大人しくやられそうになってたわけではないので、仙水は、多少は幽助のことを認める。
「コエンマ、言っておくが忍は今眠ってるぜ。オレは「カズヤ」だ。てめェの指図なんざうけねェよ。――と言っても、誤解するなよ。今回の計画はオレ達全員で決めたことだ。「忍」も含めてな」
それは、「忍」もコエンマの言うことには従わないということを表していた。
「そうだったのか。奴が言ってたオレ達七人とは、奴が集めた能力者達のことだとばかり思っていたが、仙水の中に存在する、七つの多重人格のことだったのか」
「ヤツは、はじめから、たった一人でこの計画を」
「つまり、お前達はただのコマというわけか」
「そうだ。仙水の中には、忍も含めて、七人の人格がいる。主人格が忍で、他に戦いを担当する人格が三人。別のことを担当する人格が三人いる。
女性の人格も一人いて、「ナル」という名の泣き虫役だ。彼女は内気で純情で傷つきやすく、オレはよく悩みを打ち明けられて、彼女を慰めた。
彼女はオレの前にしか出てこなかった。オレは忍の次に、彼女が好きだった」
「やめろォオ。こっちまで頭がおかしくなるーーーーー」
うっとりしながらしゃべる樹に、理解できない桑原は、頭をかかえながら叫んだ。
「忍を出せ。奴と話がしたい」
「忍ぅ…どうする?」
コエンマに言われると、「カズヤ」は自分の中にいる「忍」に声をかけ、返答を待つ。
「話したくねェってよ。嫌われたなァ。へへへへ」
「………だが、ワシの言うことは聞こえているはずだな。今からでも遅くない。こんなバカなマネはやめるんだ」
「手遅れだぜ。よく見ろよ。既に穴は、安定期をこえた。もう開くのを待つだけなんだよ」
仙水の言葉を聞くと、コエンマはいつも口にくわえているおしゃぶりをはずした。
「むっ」
はずしたおしゃぶりからは、霊気が放たれる。
「穴が開いた上から、さらに強力な結界をはることはできる。
数百年後に訪れる暗黒期を抑えるために、ワシの霊気を凝縮している魔封環…。今ここで、使わざるをえまい。これで、お前の計画はくずれる。ワシを殺して、これを奪わぬかぎりな」
「てめェ…本気みてェだな」
「今すぐ相談するがいい。お前達七人で。続けるかやめるか、二つに一つだ」
「……いいだろ」
仙水は腕組みして目を閉じると、中にいる他の人格達と相談を始めた。
そんな仙水を見ているコエンマは、ある決意をしていた。
「続ける」と仙水が言えば、すぐに魔封環を解き放ち、自らが結界の一部となり、仙水もろとも魔界にとりこもうということだった。
コエンマは、仙水と共に地獄におちることまで決意していたのだ。
それが、仙水を霊界探偵にした自分の責任であり、償いだと思っているからだ。
しばらくすると、仙水は閉じていた目をゆっくりと開けて、コエンマを見た。
「………決が出たぜ。なんと、全員一致だ」
これから出る答えに、全員に緊張が走った。
「ゲーム続行だよ。お前を殺してな」
仙水はコエンマを殺すために、気硬銃をコエンマに向けた。
コエンマは仙水の答えを聞くと魔封環を構え、仙水も気硬銃に霊気をこめた。
「魔封環!!」
だが、コエンマが魔封環を発動させようとした時、いつの間にか起き上がった幽助が、コエンマの手から魔封環を奪った。
「浦飯!!」
「いつの間に…」
「何やってんだ、あいつは…!」
その行動には、コエンマも仙水も瑠璃覇達も、驚きを隠せなかった。
「何ゴチャゴチャオレのいねーとこで話進めてやがんだ。血ィ流してんのは誰だと思ってやがるんだ、全く。あっ、汚ね。ヨダレついてら」
「な」
「ま…おかげで、ちっとは休ませてもらったがよ」
「……そうか。霊光波動の、継承者でもあったな。未熟だが、たいした回復力と精神力だぜ」
「バ、バカ者。返せ!!すぐよこせ」
「やだ」
魔封環を返すように言うが、幽助は絶対に返さないとばかりに逃げだした。
「ふざけてる場合か!!わっ、股ぐらに入れるなっ!!おのれは自分のやっとることがわかっとんのかー!!」
魔封環を奪い返そうとするも、幽助はふざけてばかりで、なかなかつかまえることができなかった。
「いーからすっこんでやがれ、ジジィ!!」
「わぶ」
コエンマの言うことにキレた幽助は、ジャマをするなとばかりに、コエンマを殴りとばした。
「もーオレ、キれちゃいました。プッツンします。仙水…てめーの中の誰かが、「穴なんかもうどうでもいい」っつったな。オレも同じ気分だぜ。てめーと白黒つければそんでいい。後のことなんざもう知るか」
幽助は、本当にもう仙水との戦いのことしか頭にないようで、仙水を睨みつけた。
「………切れたというよりも」
「どんどん、浦飯らしさをとり戻していくよーな」
「もとの、ただの戦闘マニアの幽助になっていってるな」
蔵馬、桑原、瑠璃覇は、幽助が言ったことを、否定するかのようにつっこむ。
「おいてめー、「カズヤ」とか言ったな。他のやつと代われ」
「?」
「さっきまでオレと戦ってたヤツがいたろ。そんでいい。そいつもっぺん出せ」
「何言ってやがる、バカが!!さっさとかかってきやがれ」
「てめーじゃ役不足だっつってんだよ、バカ野郎」
「ふざける……」
弱者として扱われたことに仙水が怒り、気硬銃を構えようとした瞬間……
「なっ…
!?」
幽助は一瞬で仙水の前に移動し、腕をつかんで気硬銃を横にそらすと、腹に強烈なパンチを何度も入れた。
「はおっ…」
あまりの痛みに、仙水は、口から血を吐きだした。
「ぐあっち」
「ぐェほォオ」
幽助に殴られた仙水は、腹を抱えてうずくまるが、幽助もまた、先程気硬銃で撃ちぬかれた手で殴ったので、ダメージをくらった。
「ぐぎが~~。なんのォオ、イタくねェーーー!!」
けど、脂汗を流しながらも、仙水を殴った右腕をおさえ、歯をくいしばりながら痛みをこらえた。
「……これでわかったろ。てめーの中で一番強い奴出しやがれ。そいつとあらためて、キッチリケリつけたる」
「うお おぉお」
そうは言われても、仙水はうめき声しか出さなかった。
「ゲホッ おう おうう」
そうして、しばらく苦しんでいた仙水だが、急に静かになり、顔をあげると、ゆっくりと立ち上がる。
「てめー、誰だ?」
「"忍"ですよ。はじめまして」
仙水は、笑ってるのか無表情なのかよくわからない表情を浮かべ、幽助にあいさつをした。
意味がわからない言葉に、幽助は目を見張る。
「な…」
「はじめましてだと…」
「まさか…奴は」
「あいつが…本当の仙水忍」
静かで……異様なその雰囲気に、蔵馬、桑原、御手洗の顔には冷や汗が流れる。
後ろでは、「忍」の出現に、樹がうれしそうに笑っていた。
「そう、君達と話をするのは初めてだ。――というより、人前に出てくることすら何か月ぶりくらいだ」
桑原の疑問に答えるように話すと、仙水は幽助に歩み寄っていき、気硬銃を装着していない方の左手を差し出してきた。
「よろしく」
手を差し出したのは、幽助とあくしゅをしようとしたからだった。
「じゃ…オレらは、ずっとてめェのカゲを…。へ…へへへ。
ふざけんじゃねェーーー!!」
幽助は怒りのあまり、仙水に殴りかかった。
けど、何故か仙水の顔がさかさまに見えた。
「な…」
それは、仙水が幽助の腕をつかんで、地面にそっと倒しただけだった。
幽助を倒すと、仙水は足をあげて、幽助の腹を踏みつけた。
「がっ…!!!」
無表情のまま、何度も…何度も…。
そして、何度踏みつけたかわからないくらい踏みつけた時、ようやくその足を止め、幽助を見下ろした。
「あ…あ げはっ」
幽助はうめき声をあげ、先程「カズヤ」に気硬銃でつらぬかれたケガが開いたせいで、血だらけで倒れていた。
そんな幽助の手を、仙水は強制的にとる。
「よろしく」
手をとると、上下にふって、改めてあいさつをした。
ただあいさつをするためだけに、幽助を動けなくなるまで踏みつけにした仙水は、かなりの異常だった。
「てめェ!!」
頭にきた幽助は仙水に殴りかかったが、仙水はそれを軽々とかわすと、裏男の方に向かって歩いていった。
「ぐっ」
少し顔を動かしただけであっさりよけられてしまったので、幽助は悔しそうに仙水を睨んだ。
「樹、スペアの服と腕を」
仙水に頼まれると、樹の影ノ手が動き、仙水に服と腕を用意した。
「こ…こんな仙水さんを見たのは初めてだ」
「たしかに、今までの仙水とは、一味も二味も違う」
「「忍」になったときの仙水には、危なさも冷静さも、威圧感も全てそろう。その純粋さゆえに苦しみ、絶望していく忍を、オレは見守ってきた。オレは忍が一番好きなんだ…」
「ちっ…」
うっとりしながらしゃべる樹を、飛影は忌々しそうにして、眉間にしわをよせながら舌打ちをする。
「へっ。主人格なんて言っても、所詮奴の切れはしなんだ。何のことはねェ。結局奴は、最初からたった一人なのさ。
浦飯!!びびんな。どーせ主人格も、今までの奴等の寄せ集めに違いねーーっ!!」
忍でもカズヤでもミノルでも、全部仙水には変わりはないと桑原は言う。
「(初めて見た時から感じてた。手の内を全て見せた様でいて、なおさらに裏ワザを持っていそうな奴が、ようやく全てを見せようとしてやがる。
今までの仙水とはくらべものにならねェ)」
だが、幽助は違った。
仙水という男がもつ不気味さを、強さを、肌で感じていたのだ。
服を着て、腕を戻した仙水が、ゆっくりと幽助がいる方にやってくる。
「おもしれェ」
「はははははははははは」
仙水は幽助を冷やかな目で見ると、突然高らかに笑いだした。
「ははははは」
それは、どこか狂っているようにも見えた。
「ははははははははは」
そして、仙水が笑うだけで地面がわれ、その破片が浮きあがる。
それほどまでに強い霊気が放たれた。
しかもそれは、ただの霊気ではない…。
黄金の霊気だった……。
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