第七十八話 冷酷な心
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「よくぞ見やぶった。前以上に鼻がきく様になったんじゃないか?」
口ぶりからして、蔵馬は最初から、巻原の中に戸愚呂兄がいることを知っていたようだ。
だから、一切の躊躇も容赦もなく、巻原の頭を真っ二つにしたのだ。
「戸愚呂兄!!」
「じゃあ、巻原の意識は既に………」
「その通り。やつの領域、"美食家"ごとオレが取り込んだ」
「な、なんてことだ」
気づいていなかった幽助と御手洗は驚き、真実を知った御手洗の顔からは、血の気が引いていった。
第七十八話 冷酷な心
「話せば長くなるがな。弟に砕かれたオレは、海を漂いながら少しずつ再生した。その間考えていたのは、お前らへの復讐のことだけさ。そこで、オレは特別な波長の信号を送り続けた……。強さと悪さを兼ね備えた者だけがキャッチできる信号だ。何年でも待つつもりだったが、意外にもそいつはすぐに現れた…。
それが仙水さんだった」
「霊界探偵の後輩、浦飯幽助君の活躍を彼から聞いたときには、奇妙な因縁を感じたよ。そしてそれは、確信に変わった。今こそ計画を実行に移すときだとな。
皆殺し」
恐ろしいことを言いながらも、仙水は不気味な笑みをたやさなかった。
「そして仲間を集めた。能力に目覚める素質のある者を」
「その中に、運良くこいつがいた。こいつの能力も、けっこうエグいぜ。なんたってオレは、食われちまったんだからな。そこにいる御手洗も見てたよな?オレが食われる様を。
ただ、こいつにとって予想外だったのは、オレがゴキブリ以上にしぶといってことだな。自分が乗っ取られていくことに気づいてからの、こいつとの"共同生活"は楽しかったぜ。こいつの恐怖が…狂っていく様子が、手にとるようにわかるのさ。ヒヒ…ヒヒャハハハハハハハハ!快感だった~~ハハハハハハハハハハ」
「もういい」
下品な笑い声をあげて、さも楽しそうに話す戸愚呂兄の話を、蔵馬は、静かだが、どこか強い声で制する。
「ん?」
「ケリをつけてやるよ」
蔵馬は戸愚呂兄を睨んだまま、ゆっくりと歩いていき、幽助達から離れた。
「ゲスめ」
そして、戸愚呂兄と向かい合うと立ち止まり、まっすぐに強く睨みつけながら、吐きすてるように言い放った。
「ケリをつけるだと!?ひゃはははははは。おもしれェーーーー。蔵馬、かつてのオレと一緒にするなよ。オレは、何度でも再生し、どんな能力でも吸収できるようになった。オレは無敵だ!!」
向かうところ敵なしといった感じに話す戸愚呂兄は、下品な笑い声をあげる。
「そうだ。奴は何度でも再生する。どんなことがあっても死なねェ。どうやって奴を倒すつもりなんだ?」
「問題ない」
まさに無敵ともいえる戸愚呂兄を、倒す方法があるのかと思っていた幽助だが、隣にいる瑠璃覇は、まったく心配などしていなかった。
「どんな能力でも、必ず弱点はある。裏をかけばいいだけのこと…。さっきも言ったが、蔵馬は、常に三つ先のことを考えて行動する。ムダなことはしない」
「つってもだな…」
「だから問題ない」
それでも心配なことには変わりないが、瑠璃覇は同じことを、再度強く言った。
「準備はすでに整っている…」
「は?」
そして、何やら意味深なことを小さめの声で言うが、そう言われても、幽助はまったくわからなかった。
「てめェのチンケな能力もよ、いただいてやるぜ。コォオオオ!!」
その、瑠璃覇が言っている準備というのに気づいていない戸愚呂兄は、勝つ気満々で、蔵馬に向かって走りだす。
蔵馬は至って冷静で、手の平を下に向けて、胸のあたりまでもってくると、手の平から白い煙を出した。
「なにっ!?」
突然出てきた白い煙に、戸愚呂兄は驚いて足を止める。
みんな(瑠璃覇以外)が一体何事かと見ているうちに、煙はどんどん二人を包んでいく。
「何だ!?このケムリは」
「これは、カビの粉末を使った煙幕だ」
瑠璃覇が幽助に説明していると、煙は完全に二人を包みこんでしまった。
「見えねェ」
「二人ともつつまれてしまった」
完全に二人の姿が包まれてしまったので、状況を把握することは不可能となった。
「くそっ…何もわかんねーぞ」
幽助はまだ心配していたが、瑠璃覇は冷静に煙の方をみつめていた。
「ひひひひひ。聞こえる…。わかるぞ、お前の行動が!!フゥウウーーー。は!!!
ビっ…ビンゴォーーー!!」
しばらくすると、戸愚呂兄の声が、煙の中から聞こえてきた。
「強がるな、ボケがァーーー!!これで…どうだァーー!?このっ!!
なんだとォ!?死にやがれェーーーーー!!オラ!!このっ!!てめェ!!このォーーーーーー!!オラオラァ」
しかし、戸愚呂兄の声だけで、蔵馬の声は聞こえてこなかった。
「おい、一体何が起こってるんだ!?戸愚呂兄の声しか聞こえてこねぇぞ」
煙で見えなくなっているので、戸愚呂兄の声しか聞こえてこないことを、幽助はふしぎがっていた。
「おい瑠璃覇、一体中じゃ、何がどうなってんだよ!?」
「もうすでに、戸愚呂兄は倒されているってことだ」
「はっ!?」
瑠璃覇に聞いてみても、まったく要領を得ない答えが返ってきただけで、ますますわけがわからなくなった。
「チクショー、蔵馬には悪いが行くぜ!!」
「待て」
煙の中に入って、蔵馬を助けようとすると、そこを飛影と…無言ではあったが、瑠璃覇に手で制された。
「あれを見ろ」
「あ?」
飛影が指をさすと、その先の煙の中から、蔵馬が出てきた。
出てくると、蔵馬はゆっくりとこちらに歩いてくる。
「蔵馬」
「もう終わった」
そう言いながら、蔵馬は目を煙の方に向けた。
「終わった??じ、じゃあ戸愚呂は一体誰と戦ってるんだ!?」
蔵馬だけが出てきて、終わったと言われても、未だに戸愚呂兄の声が煙の中から聞こえてくるので、何がなんだかわけがわからなかった。
仙水が目を見張ると、徐々に煙がなくなっていき、中にいる戸愚呂兄の姿が見えてきた。
「ああ!!」
煙の中の光景を目にすると、そこにいた者は、瑠璃覇以外みな目を見開き、驚いた。
「なぜだぁ。なぜ死なねェェ~~~!!」
そこには、怨霊のような顔の不気味な植物に寄生された、やつれた顔の戸愚呂兄がいた。
「邪念樹」
「邪念樹?」
「「エサ」に幻覚を見せ、おびきよせて寄生する」
「幻覚?じゃあ奴は、あの邪念樹を蔵馬だと錯覚してるのか?しかしいつの間に」
「はじめに巻原の首をはねたとき、種を植え込んだ」
「あ…。あの時…」
それを聞いて、先程瑠璃覇が言っていた「準備はすでに整っている…」という言葉と、何故瑠璃覇が冷静でいたのか納得した。
「煙幕は目をくらますためじゃなく、邪念樹の幻覚物質が、外に漏れないためのシールドだったというわけか」
「そういうことだ」
簡単な説明をされただけで、何故煙幕まで使ったのかということを、飛影は理解した。
「邪念樹は、エサが死ぬまで離さない。だが、再生を続ける戸愚呂兄は、死ぬことさえできない。永遠にオレの幻影と戦い続けるがいい」
蔵馬は邪念樹の説明をしながら、戸愚呂兄の前まで歩いてきた。
「お前は、「死」にすら値しない」
蔵馬はとても鋭く冷たい目で、戸愚呂兄を睨みつけた。
「なぜだァーー。なぜ死なねェェェ」
邪念樹に寄生されてることに気づいてない戸愚呂兄は、どんなに斬ってもついても、まったく倒れない幻覚の蔵馬を相手に、ずっと叫び続けていた。
「決して死ぬことのねェあいつを倒す方法か」
「すごい」
「フッ…。なかなかやるな」
味方である幽助や御手洗だけでなく、敵の大将の仙水までも、蔵馬の技を称賛していた。
隣では樹が、後ろにいる桑原の方をちらっと見た。
「残りはあと二人」
「おう。巻原を倒したら、桑原を返すって言ったよな。いやだと言っても取り返すがな」
「フ、約束は守るさ。というより、もう守ったんだがね」
「なに!?」
意味不明なことを言う仙水の後ろにある、湖に浮いている舟には、そこにいたはずの桑原がおらず、舟が湖の上で揺れているだけだった。
「舟の上の桑原がいねェ…!?」
そのことをふしぎに思っていると、後ろからくぐもった声が聞こえたので、後ろへふり返る。
するとそこには、今まで舟の上にいたはずの桑原がいた。
桑原の姿を見ると、全員桑原がいるところへ集まり、桑原の口にまかれていた布をとる。
「い…いつの間に。桑原!一体何があった」
「あ!?いや、なんだか知らねーがよ。妙な手につかまれて、暗闇に放りこまれたかと思ったら、いきなりこんなところに出てきちまってよ………」
「妙な手?」
蔵馬がそう言った時、幽助達の真下に、突然不気味な影が現れた。
その影は目と鼻と口があって、人の形をしており、幽助達を目でとらえる。
「何ィ!?」
そして、一瞬で口を開け、幽助達を飲みこんでしまった。
けど、口をもごもごと動かすと、幽助だけは外に吐きだした。
「ぐあっち」
吐き出されると、幽助は頭からもろに落ちていき、頭を強くぶつけた。
「っ痛~~~~」
頭をおさえながら起き上がると、仙水が前に立っていた。
隣にいる樹は、地面と同じ色に変色すると、地面の中にしずんでいく。
「奴らはオレにまかせろ」
そう言うと、完全にしずみこみ、姿が見えなくなった。
「いったん返してまた奪うってか。てめェららしいやり方だぜ」
「それは誤解だ。彼らに直接危害を加える気はない。君と二人きりになりたかった」
一方で、妙な影に飲みこまれた瑠璃覇達は、ぼろぼろの船や飛行機といった利器や建物、骸骨までもが周りに浮いている、上も下もわからない、真っ暗闇な空間に浮いていた。
「こ、ここは一体どこなんだ」
「ここは亜空間だ」
「亜空間?」
「おいおい、どうでもいいけどよ、早くこれ、ほどいてくんねーかな?」
布ははずされたが、まだしばられたままの状態なので、拘束してるものをとくように頼む。
「どうやらオレ達は、裏男にくわれたらしい」
「裏男?」
「なんだそりゃ?」
「裏男…。次元の狭間で生きる平面妖怪」
「偶然とは思えない。誰かに飼いならされているな」
「その通り。裏男はオレのペットだ」
そこへ、瑠璃覇達の前に樹が現れた。
「樹」
「お前も妖怪か」
「オレは、"闇撫"の樹」
樹が名乗ると、樹の後ろに、無数の目がついた手が六本現れる。
「闇撫か……。次元を自由に移動する、「影ノ手」を持つ妖怪。異次元に生きる下等妖怪を僕にできる、数少ない種族だな…」
「その通り。さすがは瑠璃覇だな。よく知っている」
「なるほど」
「なんだか知らねェが、こいつはオレにやらせろ。そうじゃなきゃ、気がおさまらねーーー!!」
桑原は、今にも樹にくってかかりそうな形相で前に出た。
「はやるな。お前達と戦う気はない」
けど、樹は手を前に出して、戦意がないことを示す。
「なんだと!?じゃあ、なんだってこんなところに連れてきやがったんだ!?」
「仙水と浦飯の闘いを見守ってほしい」
と言われても、瑠璃覇達には理解不能だった。
「立場は違えど、お互い一人の男に魅かれ、行動を共にした。ちがうかね。彼らの闘いを見守ることは、我々の義務なのだ。
特に瑠璃覇……君になら、オレの気持ちがわかるはずさ」
自分が名指しされると、瑠璃覇は反応を示す。
「君は、浦飯幽助の……霊界探偵のパートナーだ。そして、このオレもまた、昔は忍の……霊界探偵のパートナーだった…。妖怪でありながら、人間の…しかも、妖怪を滅したりと、霊的な事件を解決する、霊界探偵の相棒…。オレ達の立場は同じだ。出会い方は違うがな…。
オレは、最初は忍の敵だった。君は、敵ではないが、浦飯のことを快く思っていなかったのだろう?蔵馬を探すために、仕方なく付き合っていた…。
だが、関わっていくうちに、そうではなくなった。
オレは段々と忍に魅かれていき、忍を愛するようになった。そして君もまた、段々浦飯に魅かれていき、浦飯を愛した…。そこにいる蔵馬とは、種類が違うがね…」
「…よく調べているな」
「瑠璃覇だけじゃない。蔵馬、飛影、桑原、君達も浦飯に魅かれたから、ともに戦っていたのではないのか?だから、二人の闘いを見守ってほしいのだよ」
「けっ、何言ってやがる。そんじゃ教えてもらいてェもんだな。あの仙水のどこが気に入ったんだかをよ」
「全てさ。彼の、強さも、弱さも、純粋さ、醜さ、哀しさ、全て。あいつの人間臭さ、全てに魅かれていった。仙水忍という男と最初に出会った時は、敵同士だった。「仙水を見て、生きて帰った魔物はいない」。闇の世界でそうささやかれる程、仙水は既に強かった。事実、彼は倒した妖怪は、全て殺してきた。だが、オレは殺されなかった」
樹は仙水と初めて出会った時のことを話す。
仙水は竹林の中、樹を追いかけながら、裂蹴紅球波を放った。
樹はそれにあたってしまい、重傷を負ってしまう。
今にもとどめをさそうとした時、仙水は樹にむかって、「死ぬ前に言い残すことはあるか?」と問うてきた。
その問いに、「できればもう一日生きたい」と言えば、仙水は右手に霊気の球を作りだす。
仙水に「なぜだ?」と理由を問われると、「明日、いつも楽しみに見ているテレビドラマが最終回なんだ」と、なんとも人間臭いことを口にした。
すると仙水は、霊気の球を消し、樹に背を向けて、「オレも毎週見ている」と静かに言ったのだ。
「笑い話さ。オレがほんの少し「人間臭さ」を口にしたことが、その時の仙水には、天地がひっくり返るほどのショックだったらしい。小一時間ほど雑談した後、そう言った仙水の顔は、年齢以上に幼く見えた。敵を殺す術にかけては超一流の暗殺者が、新雪みたいに無垢な素顔も持っていた。
時限爆弾と恋人を、いっぺんに手に入れたような気分だったよ」
「オイオイ、段々話が妖しくなってきやがったぞ」
「お前なら止めることができたはずだ。仙水がこうなってしまう前に」
「………わかってないな。オレは彼が傷つき、汚れ堕ちていく様を、ただ見ていたかった」
「何ィ~~~」
「「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じている可愛い女のコに、無修正のポルノをつきつける時を想像する様な、下卑た快感さ。その点、人間の醜い部分を見続けた仙水の反応は、実に理想的だったな。その純粋さゆえ、割り切ることも、見て見ぬふりをすることもできずに、ただ傷つき、絶望していった。そして、その度に強くなっていった」
「吐き気がしてきたぜ、このサイコ野郎。諸悪の根源はてめーじゃねーかよ」
「誤解は困る。オレが仙水をしむけたわけじゃない」
「なに言ってやがるんでェ!!」
「オレはただの影。変わっていく彼を見守り、彼の望むままに手を貸しただけだ。
そして、これからもそうするだろう」
「………できるなら、この場でお前を殺してやりたい」
「ああ……。とても辛い死に方でな…」
蔵馬と瑠璃覇に言われると、樹は片方の口角をあげて、余裕の顔で軽く笑う。
「賢明な君達なら、それができないこともわかっているだろう。オレを殺せば、永遠に裏男の腹から出られない」
「忌々しいかぎりだ…」
ここから出られない。けど、樹を倒すことはできない。ここでじっとして、二人の闘いを見ているしかない。この状況を打破できるものは何もない。そんな、まさに手も足もでない、どうしようもない状況に、飛影も吐き捨てるように言い、樹を睨んだ。
「我々は、彼らの闘いをただ見守るだけだ…」
樹がそう言うと、樹の後ろに、楕円の形の窓のようなものが開く。
そう……それは裏男の目だった。
そこからは、先程までいた洞窟で、幽助と仙水が対峙している姿が見えた。
現・霊界探偵である浦飯幽助と、元・霊界探偵である仙水忍の闘いが、今…始まる……!
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