第七十七話 蔵馬の決断
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ゲームが始まると、蔵馬は冷静だったが、天沼は動揺しているのが、見るからにわかるほどだった。
「何てこった。オレ達はあきらめない限り、何度でもコンテニューできるのに、天沼は一度負けたらそれで死んじまうってのか。仙水はそれがわかっててこのゲームを……」
後ろで見ている幽助は、ここを突破しなければ仙水のいるところまでたどり着けないが、突破するということは、天沼の命を奪うということなので、なんとも複雑そうな顔をしていた。
「天沼はそれを知らされていなかった。仙水が巧妙に隠していたんだろう。さらに仙水は、我々がそのことに気付くことも計算した。利用されただけの天沼を、あたし達が「殺す」ことなどできないと考えてな」
「まあ……いつもの蔵馬なら、そんなことはしないだろうな」
「だが、蔵馬は天沼を倒す。だからこそ天沼に真相を話した…。天沼の動揺を誘うためにな。そうしなければ、時間内に天沼を倒せない。最も残酷で卑怯な方法を、蔵馬は選んだ。選ばざるを得なかったのだ」
「(蔵馬)」
幻海から話を聞くと、幽助は心配そうに蔵馬を見た。
そして瑠璃覇もまた、蔵馬を心配そうに見ていた。極悪盗賊と言われている瑠璃覇だが、相手が蔵馬であり、蔵馬が自ら望んでこの方法を選んだわけではないので、内心複雑だったのだ。
第七十七話 蔵馬の決断
「(仙水さんが、オレを犠牲に…。そんな…そんな)」
蔵馬から真相を聞かされた天沼は、仙水と出会った時のことを思い出していた。
初めて会った場所は、ゲームセンター。
天沼がゲームをやっていた時、対戦しないかと声をかけてきたのが仙水だった。
天沼は自信満々でそれに応じたが、結果は自分の負け。
しかし、天沼は悔しがるのではなく、逆に仙水を称賛した。自分に自信があったからこそだ。
負けた天沼は仙水に興味をもち、興奮しながらしゃべっていた。
それから数日後。天沼は仙水から、もっと楽しいこともあると聞いた。
それは、ゲームよりもすごくワクワクすることだという…。
けど、詳しいことはその時は教えず、数日後に伝えられ、仲間に誘われた。
仙水は実に言葉たくみだった。自分に興味をもたせ、時間をかけてじわじわと攻めていく。相手が、今心に抱えている「弱い部分」を的確につき、決して強引には誘わなかった。自分が強く引き入れるのではなく、相手がのっかって、自ら仲間になるように仕向けたのだ。
「(たしかにこのゲームの最後は、ゲームだけが自分の味方だったゲー魔王の魂が、天に召される設定になっている…。でも、仙水さんがこのゲームでボクを犠牲にするなんて…そんな…)」
天沼は未だに信じられなかった。
自分が必要だと言ってくれたのに……。その仙水が、自分を利用するだけでなく、犠牲にしようとしているだなんて、とても信じられなかった。……信じたくなかった…。
けれど、思い返してみれば、蔵馬が言ったことは理にかなっていた。
天沼は決して頭は悪くはない。
だが、相手に何か裏があるのではないかと考えるほど、大人ではない。相手の心理や策略といったものはあまり考えることはなく、表層だけで判断してしまう。
大人の汚い部分など、何もわからない。何も知らない……。それほどまでに、彼はまだ幼かった。
「はっ…」
考えごとをしていた天沼は現実に戻るが、そのせいでミスをしてしまう。
「天沼がミスった」
「動揺しているな」
相手に挑発をされても、冷静になって戦えるほど、大人でもなかったのだ。
「(ボクは…ただ、TVゲームを、実物大で体験できるだけの能力だと思ってたのに…。そう言っていたのに…!!)」
今度は、この対決を始める前に、仙水に言われたことを思い出していた。
『浦飯達とは「ゲームバトラー」で戦え…。お前に、最もふさわしいゲームだ。そのゲームなら、奴らはお前に手も足も出せないさ…』
仙水は確かに、自分にそう言ったのだ。
その言葉が脳裏をよぎり、蔵馬が言ったことが真実味を増した。
天沼は冷や汗をかき、手は汗ばみ、動揺しているせいで手が震え、うまく操作ができなくなってきた。
「あぁっ…」
そのせいで、ブロックはどんどん積み上がっていってしまう。
「天沼のブロックが、どんどん積み上がっていくぞ」
「ああ…」
「完全に混乱している」
冷や汗をかき、顔色は悪く、体中が震え、レバーの操作がうまくできないので、ブロックを消せず、画面はブロックでうまっていく。
「ね、ねェ!何か方法ないかな。何か!!」
ブロックが積み上がっていくごとに恐怖が押し寄せてきて、耐えきれなくなった天沼は、敵である蔵馬に助けを求めた。
「ゲームの途中で領域を解く方法は……?」
「だめなんだ。オレ自身がゲームの登場人物になっちゃうと、どちらかが負けるしかないんだよ!!」
「オレは負ける気はない」
蔵馬は少しだけ下に向けていた顔をあげ、画面を見た。
けれど、そう言いながらも、どこか気が進まないといった雰囲気である。
そうしている間にも、天沼の画面はブロックが積み上がっていった。
天沼は涙目になり、顔をうつむかせる。
「君は…仙水の計画を知っていた。君に、責任がないわけじゃない」
蔵馬は、天沼の心をえぐるように攻めていく。
確かに、仙水の計画を知っていたし、多少は責任がとれる年齢だ。
けど、ただ利用され、犠牲にされただけの天沼には、とても残酷な言葉だった。
「こんなことになるなんて、思ってなかったんだよ。…あぁっ!!」
しかし、厳しい言葉ではあるが、間違いではない。天沼は顔色が悪くなり、目から涙が、次から次へとこぼれ落ちた。
その間にも、ブロックは少しずつ画面をうめていく。それは、まるで死へのカウントダウンのようで、なんとか操作しようとするが、体全体が震えてしまい、うまく操作できなかった。
「オレ…オレ、まだ死にたくないよ」
涙を流し、あらい息をしながら天沼は叫ぶ。
その悲痛な叫びに、全員がなんとも言えない表情をしていた。
それから数秒経つと、ゲーム終了のブザーが鳴り響いた。
《ゲームオーバー!!ゲー魔王の、負けです!!》
画面が真っ黒になり、「ゲームオーバー」の文字が出る。
天沼の負けが宣言されると領域が解け、元の洞窟に戻った。
蔵馬の隣には、天沼がうつぶせに倒れており、その目には涙が光っていた。
更に、天沼の横には、ゲームバトラーのカセットがさしこまれたゲーム機が置いてある。これが、ゲームバトラーの世界をつくりだしていたのだ。
「蔵馬…」
「蔵馬」
何も言わず、微動だにせずにその場に立っている蔵馬に、幽助と瑠璃覇が近づいていく。
蔵馬の隣に来た時、二人は蔵馬の表情を見て、言葉を失った。
何故なら、今まで見たことがないほど、怒りがこもった怖い顔をしていたからだ。
「急ごう。仙水のもとに」
蔵馬は低くつぶやくように言うと、一人先に、洞窟の奥へと歩きだした。
とりあえず、天沼の領域は突破したので、幻海達三人は、天沼を連れて元の場所へと戻っていき、幽助達は蔵馬の後を追っていった。
その頃外では、蟲寄市に溢れ返っていた魔界虫や下等妖怪達が、何かを恐れるように、一瞬にして姿を消していた。
しかし……それは、嵐の前の静けさにすぎなかった。
「あ、街を覆ってた凶来雲が晴れた!!幽助達が仙水を倒したんだ!!ばんざーい」
洞窟の前では、一人取り残されたぼたんが、蟲寄市の様子を見ていた。
今まで蟲寄市を覆っていた凶来雲がなくなったのを、幽助達が仙水に勝ったことを意味していると思い、喜んでいた。
「そうではない」
だがそこへ、後ろからぼたんが言ったことを否定する声が聞こえた。
「コエンマ様!!」
それは、一旦霊界に戻ったコエンマだった。
「空間の歪みが安定期に入ってしまったのだ。あと二時間もすれば最終段階に達してしまう」
「急に霊界へ戻って、一体なんの用だったんですか!?」
「オヤジの許可をとってきた」
「許可?何の…ですか?」
「万が一の場合、このおしゃぶりをとる」
「えェ!?」
コエンマが霊界に戻った理由を聞くと、ぼたんは驚いた。
「ワシは幽助達のもとに向かう。ぼたん、お前はもう少し、ここで待機しててくれ」
そう言うと、コエンマは洞窟に入ろうとした。
「二時間後に、もし地震が起きたら、それは穴が広がりきってしまった合図だ。その時は、すぐオヤジに知らせに行け」
「はい」
ぼたんに指示を出すと、コエンマは止めていた足を進め、洞窟に入っていった。
「コエンマ様が、とうとうおしゃぶりをとる……!!」
ぼたんはめずらしくシリアスな顔で、真剣に考えごとをする。
「一体どうなるんだろう……」
やはりぼたんはぼたんで、コエンマがおしゃぶりをとったらどうなるのかは、結局知らなかった。
そして、コエンマが洞窟に入ってから約一時間半後。
幽助達は、かなり奥の方まで進んでいた。
「次は右だ」
この洞窟に入った時と同じように、御手洗の案内で進んでいくが、あんなことがあった後なので、全員無言で、どこか気まずく、重い空気の中を歩いていた。
「おい、大丈夫かな。蔵馬のやつ、さっきはかなりきてたぜ」
蔵馬は未だに怖い顔をしているので、幽助は心配して、飛影と瑠璃覇に話しかける。
「フン。お前が蔵馬の心配とはな…」
「ぶちキレて、妙なマネしなきゃいいが」
「それは大丈夫だろう。蔵馬は幽助みたいに、熱くなって、人の話を聞かずにつっぱしってく奴じゃないからな」
「信用ねーな、クソ!!」
心配してるのに、瑠璃覇にバカにされたので、ぶすくれる幽助。
そんな会話をしていると、ふいに御手洗が足を止めた。
「約50m先で、大きく左に曲がる。そこが中心だ!」
長いこと歩き続け、ようやくたどり着くので、五人の間に緊張が走り、全員真剣な顔でその先を見つめた。
進んでいくと、洞窟の最奥だというのに明かりが見えた。
そこには、仙水と樹……
「ふひゃめひ」
「桑原ァ」
湖の中心に浮いている舟には、巻原とさらわれた桑原がおり、桑原は手足を拘束され、布をかまされていた。
そして、二人の後ろには、黒い不気味な穴がある。
「いい光景だろう。人類という名の、おぞましい種族の破滅はここから始まる。そんな記念すべき場所に来ることができた君達は、幸せ者だよ。貴重な歴史の証言者になれるんだからね。もし、生きのびることができればの話だがね」
仙水は、湖の前にソファーとテレビを置いており、テレビを見ながら幽助達に話しかける。
敵が、自分のアジトまでたどり着いたというのに、妙に落ちついていた。
「ようこそ、魔界の入り口へ」
目の前にある黒い穴……。
その向こう側には、無数の妖怪がむらがり、穴があくのを今か今かと待っていた。
穴にはひびが入り、今にも結界が解けそうな雰囲気だった。
「(あの向こうに、真の魔界がある…!!なんて気味の悪い空気が漏れてきやがる。熱いのか冷たいのかさえわからねェ)」
幽助は、穴の向こう側にある、魔界から漏れ出す空気を肌で感じ、顔を歪める。顔には冷や汗までかいていた。
「あの先を、迷宮城があった場所と一緒にしない方がいいぜ。純粋な魔界の瘴気は、普通の人間は、吸っただけであの世行きだ」
幽助と飛影が話していても、仙水は大して気にもとめない様子で、テレビを見ていた。
「映画がいいところなんだ。あと、30分ぐらいで終わるよ。内容は実に陳腐なものだよ。人間愛を建前にした、殺戮がテーマらしい」
仙水がそう言った時、ビデオデッキの数字は、開始してから、ちょうど1時間30分が経っていた。
「だが、エンディングがとてもきれいな曲なんだ」
そしてしゃべりながら、ようやく立ちあがって幽助達の方へ顔を向ける。
「それが流れる頃には、このトンネルは完成する」
「(あと30分!!)」
もうあと30分しか時間がないことを知ると、幽助は目を見開き、緊張が走った。
「どういうことだ。樹が立っている……!」
隣では、御手洗が仙水の隣に立っている樹を見て、不思議そうにしていた。
「それがどうした?」
「ずっと、あの舟の上ですわってたんだ。今、桑原さんが捕えられているところに」
瑠璃覇の問いかけに御手洗が答えると、樹がゆっくりとふり返った。
「穴は既に、オレの手をはなれた。時がくれば自ずと開く。もうオレには止められない」
そして、静かに御手洗の疑問に答える。
その時妖怪達が、手だけだが穴の結界を通り、桑原に手を伸ばしてきた。
「肉肉肉肉ウーーーーー!!」
「何百年ぶりかの人肉だァ~~~~!!」
「あががが」
しかし、体は通りぬけられないので、手だけを伸ばしてなんとか桑原をつかまえようとした。
けど、当然桑原も食われたくないので、なんとかよけるが、つかまるのは時間の問題という感じだったが、仙水が霊気の玉を投げたおかげで妖怪達は消え、桑原は助かった。
「あそこにむらがっているのはC級妖怪だな。食欲が先立って、品性が感じられない。C級の妖怪などクズだ。だがB級になれば、人間界でいうところの高い知性と理性を持つ妖怪に成長する。飛影、蔵馬、お前たちのようにな」
仙水がこちらを見ながら笑みを浮かべれば、指摘された二人の表情はけわしくなった。
「そしてA級妖怪になると、人間界で敬われている、宗教の「神」や、「神話の怪物」として語り継がれている者さえいる。彼らはきっと、魔界のどこかで、冷静にこの穴をながめ、機をうかがっているだろう」
「どんな妖怪だろうと、人間界には入らせねェぜ!!」
仙水はうれしそうな笑みを浮かべるが、幽助はそれを、断固阻止すると宣言した。
「あと半時間もすれば、君達も歴史的な目撃者になれるのだよ。誰もが知っていて、誰もが見たことのない、伝説上の生き物を見れるかもしれない。A級以上の妖怪は、外タレやスポーツ選手などメじゃない、崇拝すべき真のアイドルだ。
そう……瑠璃覇くん、君のようにね」
指摘されると、今度は瑠璃覇が、鋭い目で仙水を睨みつける。
「君は、人間界でも語られている、神や伝説上の生き物ではない。妖狐といえば、人間界では九尾の狐が有名だが、君は九尾ではない。しかし、彼らに匹敵するほどの力をもち、生きた伝説とまで言われている。この中では、君が一番強い。オレにはわかる…。
そう………オレが今、この中で一番興味があるのは君だよ」
「………それはそれは……。おほめにあずかり光栄だね」
そうは言うものの、眼は鋭いままで変わることはなく、淡々と話す。
「だが……私は世間一般的なアイドルとは違って、ファンサービスなどはせんぞ。好きな奴にはとことん尽くすが、気にいらない奴はとことん害する。相手が動かなくなるまで攻め続けるからな」
「ふふっ、それは楽しみだな。「過剰なサービス」を期待しているよ」
挑発されたというのに、仙水は笑いながら簡単に受け流してしまう。
つかみどころのない仙水を、瑠璃覇は気に入らなさそうに、更に強く睨みつけた。
「ごちゃごちゃうるせーよ、てめー…」
「お気に召さないか…」
「ヘドがでらァ…」
今さっきまで笑みを浮かべていたのに、幽助に否定されると、仙水は幽助を睨む。
「巻原」
しかし、またすぐに笑みを浮かべて、幽助達に顔を向けながら、舟の上にいる巻原に声をかける。
「はい」
巻原は声をかけられると、舟から跳躍し、仙水の隣に立った。
「巻原を倒せたら、桑原君は君達に返そう」
「何?」
自分の計画に必要な能力をもち、わざわざさらった桑原を、あっさりと返すと言われたので、幽助達は面をくらった。
まさか、このような展開になるなど思ってもみなかったからだ。
「悪い条件じゃないだろう?本来なら彼を盾にして、君達の動きを封じることもできるんだ」
「(こいつ……うまいな…。あえてチャンスを与えることで、心理的に私達の動きを抑えた。ヘタに人質に刃を向けて刺激するよりも、行動が読みやすくなる。人質の使い方を、よくわかっている…!)」
しかし、これも仙水が、自分が勝つための作戦であった。
それがわかっている瑠璃覇は、心の中で感心していた。
巻原は幽助達の相手をするため、幽助達の方へ歩み寄っていく。
「信用するな。話に乗るふりをして、スキを見て桑原君を取り戻す」
「蔵馬」
蔵馬は視線を巻原に向けたまま、小声で幽助にささやく。
「(取り越し苦労だったな。やはり蔵馬は冷静だったぜ)」
天沼を倒した時から、怖い顔でピリピリしており、今にも爆発しそうな雰囲気だったので心配していたが、蔵馬はいつもの冷静な蔵馬であったことに、幽助はほっとしていた。
「御手洗さー、頭ん中、桑原助けることで一杯じゃん。でも、妙なマネしたら仙水さんの気が変わっちゃうかも知んないぜ」
「なに?」
「オレ倒したら、返すって言ってんだからさーー」
幽助達から少し離れたところで止まると、御手洗に話しかけた。
今自分が思っていることをあてられ、御手洗は驚き、巻原を警戒する。
「それから、蔵馬って人?天沼殺したの、そんなに悔しい?顔と裏腹に、ハラワタ煮えくり返ってるでしょ?」
今度は蔵馬の考えてることを言いあてると、今一番ついてはいけない部分をつかれ、蔵馬は鋭い目で巻原を睨んだ。
「(ヤロォ、次から次となぜ…。まるで心を読んだみてーに。
はっ。ま、まさか!!)」
御手洗と蔵馬が心に思ってることを言いあてる牧原をふしぎに思っていたが、そういう能力に覚えがあるので、まさかと思い、ハッとなる。
「ピンポーン。正解。室田ってヤツの"盗聴"は、オレが喰っちゃった」
幽助が真実にたどりついても、巻原はまったく動揺することなく、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
「てめェが…室田を…」
そのことが許せず、幽助が巻原を倒そうと一歩踏み出すと、そこを蔵馬が止めた。
「手を出すな。こいつはオレがやる」
「蔵馬…」
蔵馬はゆっくりと巻原の前まで歩いていき、先程よりも鋭い目で巻原を睨みつける。
「蔵馬の奴、やっぱり天沼のことを…。勝算はあるのか?あいつじゃ、何を考えても先を読まれちまうぜ」
「問題ない」
「え?」
「蔵馬は、常に3つ先のことを考えて行動をする。あいつはムダなことはしない。それに、例え心が読めたとしても、体がついていけなければ、まったく意味がない。お前が室田と対峙した時もそうだっただろう?」
「ん…まあ、そうだが…」
自分が心配していたことを瑠璃覇に否定され、説明されると、一応納得はしたが、それでも心配なことに変わりはなかった。
「(それに……あいつが相手なら、今の蔵馬だったら、まったく問題はない)」
そして、心の中で意味深なことを考え、一人で納得しながら、蔵馬と巻原を見ていた。
目の前にいる蔵馬は、髪の中からバラを取り出すと、目をとじて精神を集中させた。
「(心の声が止まった………?)」
今まで聞こえていたはずの心の声が、全く聞こえなくなったので、巻原がふしぎに思った次の瞬間……
蔵馬はバラの花を、一瞬にしてムチに変化させると、上唇と下唇の間のところで、真っ二つに切りさいた。
「な……っ」
一瞬のことだったのと、敵の能力者とはいえ、人間相手を容赦なく切ったことに、全員驚きを隠せなかった。
それは、仙水と樹も同様であった。
斬られると、巻原は血を吹き出しながら仰向けに倒れ、体を少し痙攣させていたが、やがて動かなくなった。
「な、何をしたんだ。全然わからなかった…」
「(一瞬で巻原をやりやがった…。蔵馬が完全に冷酷に徹した!!)」
これで終わりかと思ったが、蔵馬は無言で巻原に近づいていく。
「見え透いた芝居はやめろ。立て、戸愚呂」
「は?」
と蔵馬が言っていても、幽助はまったく状況が飲みこめていなかった。
仙水は巻原の正体を見破られたというのに、不敵な笑みを浮かべていた。
「もはやそいつの体からは、戸愚呂兄…!貴様の臭いしかしない」
「くくくくくくくくくくくく。ウヒヒハハハハハハハ」
蔵馬に指摘されると、巻原の亡骸が突然体を震わせて笑い出し、ゆっくり体を起こすと、切断されたところから、戸愚呂兄の頭が現れた。
「げっ」
「やはりな…」
あまりに不気味なのと、戸愚呂弟にこなごなにくだかれたはずの戸愚呂兄が生きてここにいるのとで、幽助は短い声をあげたが、瑠璃覇は至って冷静で、戸愚呂兄を見ていた。
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