第七十三話 仙水、強襲
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向かい側の建物の屋上には、仙水と、赤い上着を着た男…刃霧が立っていて、こちらを見ていた。
「仙水」
「何!?」
幽助が仙水の名を口にすると、桑原も驚き、その場を立ちあがった。
その間に、仙水は刃霧の方に顔を向けてあごを動かし、何やら合図を送っていた。
それがどういう意味なのかわかってる刃霧は、無言のままコクリとうなずいた。
うなずくと、にぎっていた左手を上までもってきて、手を開く。
その中には、五つのサイコロがあった。
そして、反対側の右手を左手の上までもってきた。
それは、幽助達ではなく、隣の幽助の部屋へ向けられる。
狙いは御手洗だった。
「は!!」
すると、急に桑原が声をあげた。
「御手洗が危ねェ!!」
敵の狙いがなんなのかわかった桑原は、血相を変えて、隣の幽助の部屋へ走っていく。
第七十三話 仙水、強襲
「ん……あ…何?」
幽助の部屋に行くと、部屋にはぼたんもおり、ぼたんはせんべいを食べながら雑誌を読んでいた最中で、突然あわててやって来た桑原に、何事かと思い顔をあげた。
御手洗はベッドにすわっていて、ぼたんと同じように、何事かと桑原を見た。
その瞬間、刃霧がサイコロを指ではじき、攻撃してきた。
「でやーーーーーーっ!!ふせろーー!!」
「うわっ!!」
説明しているひまはなく、桑原は御手洗にとびかかり、床に伏せさせた。
そのすぐあとに、ただ指ではじかれただけのサイコロが、窓ガラスをつらぬき、壁にめりこんだ。
それを見たぼたんは顔がひきつり、冷や汗をかいていた。
本来なら、サイコロが窓ガラスをつらぬいて、壁にめりこむなどあり得ない。
それはにわかには信じがたいことだが、やはり彼も能力者なのだ。
「一体何が…」
「仙水が攻めてきやがった」
「えぇっ!?」
「みんな、頭低くして、窓の下へかくれろ。
おっとすまねェ。立てっか?」
ぼたんは桑原の言う通り、窓の下に移動する。
桑原は、こんな時でも御手洗を気遣いながら、御手洗の上からどいた。
御手洗は起きあがると、ズボンのポケットから違和感を感じ、ポケットの中を探る。
「なんだ!?」
ポケットを探ると、小さな盗聴器が出てきた。
「盗聴器だね!?なんて奴なんだい。自分の仲間にー…
!!」
ぼたんが怒鳴った瞬間、再びサイコロがとんでくるが、それをなんとかよける。
「御手洗…。お前のモロさは計算ずくだ。寝返ることもな。お前の言動は、全てこちらでチェックしていたんだよ」
こんなに距離があっては、相手に聞こえるはずないのに、仙水は淡々としゃべり出した。
「あのヤロォ。なんか、ぐちゃぐちゃしゃべってやがんぞ」
なので、もちろん話は通じていない。
「どうやら御手洗はおよがされていたらしい」
「そのようだな…」
「うむ」
だが、蔵馬、瑠璃覇、幻海には聞こえていた。
「なっ!!オメーら聞こえんのか」
「まぁね」
「私は耳がきくからな」
幽助はそのことに驚くが、これは二人が妖怪だからこそできることだった。
「唇を読むんだよ」
幻海にアドバイスされると、幽助は後ろへ向けていた顔を、もう一度仙水の方に戻し、唇の動きを見ることに集中した。
「まさか、敵の中に探していた能力者がいたとはな。皮肉だが、運命を感じるぞ。戦う運命をな」
仙水も、相手が聞こえている前提で話しているので、構わずに言葉を続けていた。
「探していた能力者?」
「なんのことだ?」
「一体誰のことなんだ?」
仙水が言っている意味がわからず、三人は顔を見合わせた。
「ヤロォ!!ジャマになったら、即殺そうってか………!!」
一方幽助の部屋では、御手洗のポケットに盗聴器を仕込んでいたことと、御手洗を狙って強襲してきたことで、それがどういうことかわかった桑原は、怒りで震えていた。
それは、桑原がもっとも忌み嫌うものだったのだ。
「くそったれが!!」
「お、おい、待て!!」
怒りが頂点に達した桑原は、部屋をとび出していった。
刃霧がまたサイコロで狙って撃ってきたが、まったくのおかまいなしである。
そんな桑原を、御手洗が止めようとしたが、その声は届かなかった。
「ぐっ」
「ダメだよ、まだ動いちゃ」
けど、昨夜桑原にやられた傷は、そんな簡単に治るものではなく、動いただけで傷が痛んだ。
「ヤロォ!!」
「おい桑原、テメーは休んでろ!!ケガしてる上に、霊力も使えねーんだろーが」
自分の部屋から出てきた桑原の後を追い、幽助も家の外へとび出していった。
「へっ。テメーにはまだ言ってなかったがな、御手洗のおかげで、パワーアップして復活したんだよ!!」
「パワーアップ?」
「オレもよくわかんねーが、剣の形が少し変わってたからパワーアップしたに違いねェ!!」
「ホントかよ。たよりねーな、オイ」
パワーアップして復活したというわりには、どこか曖昧だったので、幽助は疑っていた。
「ここにこうしていてもしかたないな」
「我々も行くか」
幽助の家では瑠璃覇達が取り残されていたが、幻海とコエンマがそう言うと、瑠璃覇と蔵馬は同意するようにうなずき、家を出ていった。
四人は、先にとび出していった幽助と桑原のあとを追い、下の方へ降りていく。
「次元刀だ。桑原が使うのはな」
外へとび出した桑原を見た仙水は、獲物がひっかかった時の喜びのように、うれしそうに笑っていた。
「あいつの能力なら、結界を破ることができる!!人間界と魔界との間に張り巡らされた、亜空間結界をな。
まずは桑原をつかまえる。他の奴は、全て殺して構わん」
何も言ったりはしなかったが、刃霧は静かに、仙水の命令にうなずいた。
「行くぞ!!」
二人は桑原を捕えるために、下の方へ降りていく。
一方で幽助と桑原は、階段をつかって降りていくのがわずらわしくなったのか、二階から下へとび降りた。
そこにはすでに、仙水と刃霧がいた。
「いつの間に…」
自分達が走り出した時はまだ屋上にいたのに、この短時間で地上まで移動していたのを見て、幽助は驚いた。
「仙水!!」
仙水の姿を目にすると、幽助は仙水を睨みつける。
二人が来ると、仙水は余裕の笑みを浮かべて、Vサインをつくってみせた。
「なんだ?」
「てめェ…Vサインなんか出して、おちょくってんじゃねーぞタコ!!」
何故Vサインをしたのか幽助はわからず、桑原は仙水に噛みつく。
「あと2日。穴が広がりきるまではな」
「何!」
しかし、これはVサインなどではなく、数字の2を表していた。
穴が広がりきるまではあと2日間しかない…という意味で、昨日コエンマからはあと一週間と聞いていたので、真実を聞いた幽助は驚いた。
「意外そうな顔だな。もっと後だと思っていたか?」
「くっ…。あと、一週間くらいかかるんじゃねーのか?」
「それだけ、トンネルの穴が広がるスピードが上がってるわけだ。フフハハハハハハ」
意外そうな顔をする幽助達を見て、仙水は嫌な笑みを浮かべる。
そこへ蔵馬、瑠璃覇、幻海、コエンマが合流してきた。
「仙水」
「しばらく……」
「ワシにあいさつできた義理か」
仙水は冷静にあいさつをするが、その仙水を、コエンマは軽く睨むように見た。
場所は、再び幽助の部屋に戻る。
先程、無理して桑原のあとを追おうとしたところで、傷が痛んだので、御手洗はぼたんにささえられ、ベッドにすわった。
「大丈夫かい?」
ぼたんが心配する中、御手洗の心に浮かんでいたのは、仙水のことだった。
仙水が、次元を切りさくことができる能力者を必要としていたこと…。
仙水に、魔界の穴をあける計画に誘われた時のこと…。
黒の章のビデオを観て、仙水に人間の本性を教えられた時のこと…。
そのことを思い出していた。
しかし……
同時に昨夜のことも思い出していた。
それは…
敵だというのに、深手を負った自分を、とどめをさすわけでも、見捨てるわけでもなく、ここに連れていこうとした桑原の姿だった。
友達でもないのに………友達をすでに三人もひきずっているのに……その友達や桑原自身を攻撃して殺そうとしたのに……それでも弱音をはくことも、放り出すこともしなかった桑原。
それは、黒の章に映っていた人間とは、まったく違うもの。
自分が忌み嫌っていた人間とは、まったく逆のものだった。
「ダ…ダメだ…」
御手洗は桑原を気にかけるが、それでもまだ、少し迷っているようにも見えた。
「あいつを………連れ戻してくれ…!」
迷っていたが、それをふっきり、意を決したようにぼたんに声をかけた。
「あいつって……桑ちゃん?」
「そうだ……」
「桑ちゃんがどうしたのさ?」
「あいつが……桑原が、ボク達の切り札になる能力者だったんだ!!仙水に捕えられてしまったらおしまいだ!!」
「なんだってェ!!」
まさか、味方(桑原)が敵(仙水)の計画の切り札だとは思わず、ぼたんは驚いた。
「よし、オレが行くぜ」
下の方では、両者睨みあっていたが、その静寂を打ち破るかのように、桑原が先陣をきるとはりきった。
「バカヤロー。てめェは下がってろ」
「なんでだよ?」
しかし、そこを幽助に止められたので、疑問をぶつける。
「君は病みあがりだ。ここは、ひかえた方がいい」
「無理をすれば傷がひらくぞ」
「そうだ」
「ちっ…」
けど、更に瑠璃覇と蔵馬にも止められ、幻海も同意してきたので、舌打ちをしながらも大人しく引き下がった。
そんな中、幽助が仙水の方へ歩きだす。
「幽助…これ以上奴に近づくな」
だが、そこをコエンマに止められる。
「ヤツもお前と同じように、霊気をためて撃てるぞ」
「敵も飛び道具ってワケか」
「威力は?」
「かなり…。この10年で、どう変わったかはわからんが」
「危険なかけと…いうことか」
「わかってんのか浦飯ィ!!」
「フン。おもしれェ」
「お、おい、幽助!!」
コエンマは冷や汗をかくが、幽助は笑みを浮かべて、躊躇することなく、仙水へ近づいていった。
「よォ、先輩。聞くところによると、トチ狂ったそうじゃねーか」
「それは誤解だな。真実に目覚めたのだ」
「止めるぜ」
「ムダだ」
これから攻撃をするということを表すように、幽助が挑発的に霊気を放出すると、仙水も霊気を放出しだした。
「いきなりおっ始めやがった」
これから起こる戦いに、そこにいる者達は、みんな固唾をのんで見守る。
二人が霊気の放出をすると、刃霧が仙水の側から離れていき、幽助が霊気を放出するのをやめて走りだした。
幽助が走りだすと、続いて仙水も、霊気を放出するのをやめて、幽助の横にならぶように走りだす。
コエンマからは、相手が自分と同じで、霊気をためて撃つことができることと、威力がかなりあるということは先程聞いたが、実際どの程度の力があるのか、話を聞いただけではわからないので、この目で確かめようとしたのだ。
そう考えると、幽助は仙水と並ぶように走っていたが、いきなり方向を変えて、仙水に向かってまっすぐ走っていく。
「!」
だが、仙水がいるところの寸前ですばやく横に移動すると、仙水に向かって拳をつき出した。
幽助はとらえたと思った。
しかし、仙水は幽助の拳を、自分の腕で横からはじいて軌道を変え、そのまま蹴りとばした。
「ぐっ」
その蹴りはかなりの威力で、蹴られたところからは、少しではあるが、血が流れ出た。
幽助は、途中でなんとか体勢をたてなおすが、結構後ろの方までとばされてしまう。
「やろォ」
幽助は悔しそうに顔をゆがめ、もう一度向かっていくが、先程と同じように、拳の軌道を変えられ、蹴りとばされてしまい、後ろにある標識にあたってしまった。
「何やってやがんだ浦飯。思いっきりぶちかましちまえ」
桑原が野次をとばすが、そうではなかった。
幽助は、一発目はともかく、二発目は全力で殴りにいった。
まるで、柳を相手にしてるように攻撃を流されてしまい、自分の攻撃をあてることができなかったのだ。
「まずいな。幽助の最も苦手な相手だ」
「え!?」
「幽助のパンチを、よけるわけでも、真っ向から受け止めるわけでもない。自らの体勢は崩さず、幽助のパンチの軌道を変えて、反撃してくる」
「そうだ。あれこそ裂蹴拳!!」
「はあ?」
「裂蹴拳?」
幻海が言う裂蹴拳というのは、足技を主体とした拳法で、上半身は攻撃に転ずるための防御に徹し、破壊力のある足蹴りで敵を粉砕する。あらゆる体術を修練した上でないと、学ぶことが許されないとされている裂蹴拳は、肉弾系格闘技では史上最強といわれているものだった。
「その通り。私は裂蹴拳を使う。さらに…」
仙水は不敵に笑いながら、左手に霊気を集中させると、霊気の球を作り出した。
「裂蹴拳に霊力をミックスすることで、独自の拳法を作りあげた。それが霊光裂蹴拳」
そして、その霊気の球を上に放ると、右足を後ろにひき…
「くらえ。裂蹴紅球波!!!」
「危ねェーー!!」
霊気の球を、瑠璃覇達がいる方に蹴りとばしてきた。
こちらにとんできた霊気の球は、もうすぐで自分達に直撃すると思い、瑠璃覇は風の結界をはった。
しかし、その球は幽助達にあたる直前でカーブし、幽助のマンションの、幽助の家に直撃し、爆発を起こしたのだ。
「カーブして、幽助のマンションを」
「しかも……あそこは、幽助の部屋じゃないのか?」
「最初から…最初から、ワシ達を狙ったんじゃなかったのか」
「しまった。マンションにはまだ、ぼたんと御手洗が!!」
自分達ではなく、ぼたんと御手洗がいる自分の家にあたったので、幽助は呆然としていた。
その間に仙水は宙に飛び、そのまま蹴りをくり出してきたが、幽助はそれを間一髪でよける。
「ばーさん、コエンマ、上の2人を頼む!!」
「幽助」
「オレは奴を倒す!!」
幽助は仙水を睨むように見て、相手がいつきてもいいように構えをとった。
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