第七十二話 首謀者の正体
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そして次の日…。
「どうしたんだ?瑠璃覇」
瑠璃覇と蔵馬は、いつも通り学校に来ていた。
今は昼休みで屋上におり、瑠璃覇が何やら難しい顔をしているのを見て、蔵馬が声をかける。
「ちょっとな…。どうにもひっかかることがあるんだ」
「ひっかかること?」
「ああ。この前の、四次元屋敷の時からずっと思ってたんだが……コエンマは穴の中心がある場所を知っていた。なのに何故、穴の中心がわかってるのに、私達に攻撃をさせないんだろうな」
「それは…確かに…」
「そのことがずっとひっかかってる。昨日、あまりにもタイミングよく現れた首謀者の男といい、なんか気になるな」
「そっか。なら、明日行ってみる?」
「どこへ…?」
「コエンマのとこだよ」
第七十二話 首謀者の正体
次の日、瑠璃覇と蔵馬の二人は、学校を休んで霊界に来ていた。
「あれぇ?瑠璃覇さんに蔵馬さんじゃないですかぁ。どうしたんです?」
いつもコエンマがいる部屋まで行くと、コエンマの姿は見当たらず、部下のジョルジュ早乙女だけがおり、書類の整理をしていた。
「コエンマはどうした?」
「コエンマ様ですか?今調べものをしてる最中なんですよ。だから、しばらくは戻ってこないんです~」
「調べもの?どこでだ」
「それは言えませんよ~。言わないように言われてるんで」
「そうか」
どうやら口止めされてるらしく、情報は何も得られなかった。
瑠璃覇はあっさりと引きさがると、扉の方へ向かって歩き出す。
意外なほどにあっさりと引きさがった瑠璃覇を見て、ジョルジュはほっとしていた。
「瑠璃覇…どこへ?」
「あっちから、コエンマのニオイがする」
「えぇ!?」
引きさがったのではなく、自力で探すつもりだったようで、あっさりとバレてしまい、ジョルジュは大きな声をあげる。
「この私を……たばかれると思うなよ!?」
後ろへふり向き、ジョルジュを見た時の瑠璃覇の顔は恐ろしく、「ゴゴゴゴゴ」という擬音でもついていそうなものだった。
あまりの怖さにジョルジュは涙目になり、その間に、瑠璃覇はコエンマのニオイがする方へと歩いていき、蔵馬も瑠璃覇に続いて歩いていった。
瑠璃覇は自分の鼻を頼りに、コエンマがいるところへ進んでいき、蔵馬も瑠璃覇の後に続いて進んでいく。
「ねえ~、やめてくださいよ。お願いしますよ~。そこは、極秘の資料室なんです。勝手に入られたら、この私(ワタクシ)ジョルジュが、コエンマ様に、お尻ペンペンペンペンされちゃうんですよ。この間なんか、お尻がこ~んなに赤く腫れあがっちゃって、かっこ悪いのなんのって……でしょ?これから、お嫁さんだってもらいたいし、この体型だって維持しとかないといけないんだから……」
二人が歩いているところは、極秘の資料室に続く廊下だった。
瑠璃覇は怖いが、それでもコエンマのいいつけなので、止めないわけにもいかず、二人のあとを追いかけながら止めるのだが、そんなことを聞くような二人ではなく、瑠璃覇と蔵馬はジョルジュの言葉を無視して、コエンマのいる場所へと向かっていく。
止めるのもむなしく、話している間に、もうコエンマがいる極秘資料室に足を踏み入れてしまった。
「ジョルジュ!!そうぞうしい!!
ん?」
あまりのうるささに、脚立の上で調べものをしていたコエンマはふり返り、ジョルジュに怒鳴り散らす。
「瑠璃覇と蔵馬か。何しにきた?」
けど、瑠璃覇と蔵馬の存在に気づき、何故ここにいるのかを問う。
「聞きたいことがあります」
「なんだ?」
蔵馬に質問されそうになると、再び手にもっていた本に目をむけ、若干低めの声で返す。
「ほんとは、魔界の穴をあけている首謀者を、知ってるんじゃないですか?」
「何をバカなことを…。知っていたら、とっくにそいつを攻撃させておるわい」
コエンマは本から目をはなさずに、もうむこうへ行けと言わんばかりに、手で二人を追いはらう動作をする。
「もし、敵がオレ達以上だとしたら?」
「何っ!?」
けど、次に蔵馬が言った言葉に、驚きのあまり目を見開き、再び二人の方を見た。
「敵がオレ達より強いかもしれないと考えたなら、迂闊に攻撃の指令も出せないでしょう。それで、敵の正体を知りながらも悩んでいる。違いますか?」
そう言われると、コエンマは持っていた本を床に落としてしまった。
今蔵馬に言われたことが、真実であるというように…。
「く、くだらん!!憶測でものを言うな!!」
「図星……ですね」
「コエンマ…。私達に、ウソやかくしごとが通用すると思うのか?」
「うぐっ…ぐ……」
もう態度からしてバレバレなのだが、それでも隠そうとするコエンマ。
けど、とどめをさすような二人のセリフに、言葉をつまらせてしまう。
「コエンマ……素直に白状した方がスッキリするぞ」
「な、何をだ!?」
「まだシラをきる気か…」
明らかに動揺しているのだが、それでもなお、知らぬ存ぜぬと言うコエンマに、瑠璃覇はため息をつく。
「いいかコエンマ。貴様に教えといてやる。魔界でも霊界でも人間界でも、この世には、二種類の生き物がいるんだ」
「二種類の生き物だと?」
「そうだ。一種類めは、自分から素直に白状する奴。そして、もう一種類は……痛い目にあってから、ようやく白状する奴だ」
にこにこと笑いながら、とんでもないことを言う瑠璃覇に、それがどういう意味なのかわかったコエンマは、ドキッとなり、顔が青ざめた。
後ろでは、ジョルジュまでもが青ざめている。
「お前はどっちだ?コエンマ」
目を細め、ニヤッと不敵に笑いながら、今にも何か技を出すと言わんばかりに、スッと右手をあげる。
もともと、そういう冗談は言わないということと、極悪盗賊と恐れられているということで、瑠璃覇が言ったことは現実味を増し、コエンマはますます顔面蒼白になった。
「よせ、瑠璃覇。オレ達は暴れに来たわけじゃない」
けど、蔵馬の声によって瑠璃覇は手をさげたので、コエンマは内心助かったと思った。
「………犯人の目星はついている。だが……確証がない。……今は…これ以上は言えん…」
「……しかたない。今は、それでカンベンしておくか」
言葉を濁しているが、それでもとりあえずは納得したようで、瑠璃覇は引きさがった。
「だがな、コエンマ」
「ん?」
「いつまでも、曖昧なままでいられると思うなよ。魔界の穴が近いうちにあいてしまう以上、遅かれ早かれ知られることになるんだからな」
そう言うと、瑠璃覇は踵をかえしてそこから去っていき、蔵馬もあとに続いた。
そして次の日の朝。
人間界では、前日の大雨からは考えられないくらいの快晴となっていた。
朝起きて、制服に着替えていると、幽助から電話で連絡が入った。
内容は、敵の能力者をとらえたので、幽助の家に急ぎ来てくれというものだった。
瑠璃覇は蔵馬に知らせたあと、駅前で合流し、幽助の家に向かった。
幽助の家につき、幽助の部屋に入ると、見知らぬ少年が幽助のベッドで寝ていた。
実は彼は、電話で話していた、とらえたという敵の能力者だった。その側では、桑原がパンツいっちょで寝ている。
そして桑原の側には、桑原の友人である桐島、沢村、大久保がおり、桑原を心配そうに見ていた。
瑠璃覇は以前、皿屋敷中学校に通っていたことがあるので、瑠璃覇が盟王学園の制服姿で現れた時、三人は驚いていたが、瑠璃覇はそんなことはおかまいなしに、昨日の夜にあったことを聞き出した。
事情を聞いたあとは、蔵馬の夢幻花で記憶を消し、桑原が幽助の部屋で寝ていることは適当に誤魔化して、早々に家に帰した。
いつ、幽助のベッドで寝ている敵が起きるかわからないし、いつどこから、仲間の敵が襲ってくるかわからないからだ。
ベッドで寝ている少年の名前は、御手洗清志といい、能力名は水兵(シーマン)。
昨日の夜、桑原が、友人三人とライブに行った帰りを狙って襲ってきた人物で、敵の一人だった。
彼は、自分の血液を液体にまぜることで、変幻自在の液体生物をつくることができるという能力をもっており、その生物を使って、桑原を攻撃した。
友人を人質にされ、彼らを助けようとしたところ、桐島、大久保、沢村の三人だけでなく、桑原は液体生物の中に閉じこめられ、絶体絶命のピンチになった。
何故なら、御手洗の領域は、液体生物の中であり、入ったら最後、御手洗を倒さないかぎり、外には出られないというものだったからだ。
手も足も出せない状況で、御手洗を倒すことなど絶対に不可能と思われたが、桑原の、三人を助けたいという気持ちが、新しい能力を目覚めさせたのである。
桑原の新しい能力は、次元を切ることができる能力だった。
御手洗の作り出す液体生物の中は異空間で、そこからは攻撃できないはずなのだが、その能力のおかげで、四人は助かったのだ。
御手洗は返り討ちにあい、腹を切られたが、仲間のことをしゃべらせるため、桐島達を運ぶついでに、桑原に幽助の家に連れてこられ、手当てを受け、今は眠っているのだった。
「は!!」
桐島達が帰ってしばらくすると、御手洗はようやく目を覚ました。
「痛っ」
勢いよく起き上がると、その際に傷口が痛み、顔をしかめた。
「!!」
ふいに顔を横に向けると、そこには、瑠璃覇、幽助、蔵馬がいたので驚いていた。
「よぉ」
「こ、ここは」
「オレの部屋だよ。さんざん探し回って帰ってみたらな、あいつがマンションの前で、四人背負ってぶっ倒れてやがった」
幽助が親指でさした先には、パンツいっちょで眠っている桑原がいた。
「他の三人も無事ですよ。キミのことは三人から聞きました。あの三人にはその後で、昨日のことは全て忘れてもらいましたがね」
「洗いざらい、全部しゃべってもらうぜ。言っとくが、黙秘はムダだぜ。柳沢(ヤナ)がいるからな。さ、しゃべってもらおうか」
御手洗は眉をしかめ、うつむき加減になって、悲しそうな顔をした。
「ボク達は……生きてちゃいけないんだ…。死ぬべきなんだ」
「ボク達って、キミ達の仲間のことか?」
「人間全部さ!!お前らだって……お前らだって、あのビデオを見ればそう思うぜ」
「ビデオ?何だそりゃ?」
「黒の章っていうビデオテープさ…」
「「黒の章!?」」
「そうさ。今まで人間がどれだけ非道なことをしてきたか、一目でわかるビデオだ」
「まさか!黒の章!?」
「そのビデオが…使われているのか!?」
「蔵馬、瑠璃覇、知ってんのか?」
「霊界の巨大資料館に収められている、極秘テープですよ」
「極秘テープ?」
「人間の陰の部分を示した、犯罪記録です。飛影が欲しがっていた」
「人間は、今までさまざまな罪を犯してきた。その中でも、最も残酷で非道なものが記録されている。何万時間という量で。テープの存在は知っていたが、まさかそれが、今回の事件に関係しているとは…」
「段々読めてきたな…」
「人間が今まで、どんなひどいことをしてきたか、お前らは知らないんだ。だから善人ぶっていられるんだよ。お前らだって、あのビデオを見れば、価値観変わるぜ!!人間は生きるに値しないってな。だから…」
まだ御手洗が話している途中だが、幽助はすわっていた椅子から立ちあがると、その椅子を蹴りあげた。
「だから何だ!?だから人間全部、妖怪のエサになっちまえってのか!?」
「そうさ」
いきなりのことにびっくりしていたが、御手洗は声が震えながらも肯定しきった。
「お前は自分が、どんな生き物かまだ知らないのさ。たまたま平和っぽいところで生きてこられたおかげでな。だが、そんなのは人間の本質じゃない。
お前、殺されるために並んでる人間の列を見たことあるか?その横に蹲ってる、ウジ虫だらけの死体を。明日殺されることがわかってて、オモチャにされてる人間を見たことあるか?それを笑顔で眺めてる人間の顔をよ。
目の前で、子供を殺された母親を見たことあるか!?その逆は!?殺ってる奴らは鼻唄まじりで、いかにも「楽しんでます」って顔つきだ。わかるか!?人は笑いながら、人を殺せるんだ!!お前だってきっとできるぜ。気がついてないだけでな!!」
「――で…おめェもそんな人間の方か」
「………そうさ!!お前も、一皮むけば同じだよ」
全部話し終えた御手洗は興奮しきっていて、あらい息をくり返していた。
「オレよ…桑原に聞いたんだよ。何でこんな奴助けたんだってよ。したらあいつ何て言ったと思う?
おめェが、"「助けてくれ」って言ってるように見えた"んだとよ………。そんときゃ笑っちまったけど、今の……お前見てると、なんかわかるぜ。お前の口を割らせるために助けたなんて、とってつけたような言い訳してたけどな。
正直言って、あいつはバカな奴だ。おめェが毛嫌いしてる人間だ。でも、あいつはおめェのことを……」
幽助が話すごとに、御手洗はその目に涙を浮かべる。
「うわあああ。夜寝ると、そのビデオの夢でうなされて目が覚めちゃうんだ」
緊張の糸がきれたのか、御手洗は泣きだしていまい、ベッドにつっぷした。
「さっきも、殺された人達がみんなこっちを見てやがった。まるで、ボクがやったような気になってくる………。どんどん自分がうす汚い生き物に見えてくるんだ。わけもわからず何かを償いたくて、どうかなりそうになるんだ…。誰でもよかったんだよ…。どうしたらいいのか教えて欲しかった。
ちくしょう。ちくしょう……」
「休ませてやりましょう」
「ああ」
「もう、彼は無害ですよ」
自分の苦しみを吐きだした御手洗を落ちつかせるため、幽助達はベランダに出た。
「人間のしてきた悪の中でも、最も非道で残酷なもの。そんだけをおさめたビデオか…。そんなにヒデー内容なのかな」
「見たことはないが、まあ…普通の人間なら、見るにたえないようなものじゃないのか?」
「想像はつきます。普通の人なら、5分ともたずに人間の見方を変えてしまうでしょうね」
「おどかすなよ。不安になってきちまうじゃねーか」
「はは。心配なく。邪悪な心は、あくまで人間の一面にしかすぎませんよ」
「そうだよな…」
「しかし、彼がそれを人間の全てだと思い込んでもおかしくはないな。黒の章のビデオは、それほど内容が過激で悲惨なんだ。そのために、霊界の中でも限られた者しか見ることができないらしい」
話してる途中で幽助をチラッと見ると、思い切りこちらを睨んでいた。
「あ…ゴメンゴメン」
睨んでいたのは、やっぱり蔵馬がおどかしていると思ったからだった。
「それより、昨日オレ達がどこに行ったか言ってませんでしたね」
「あ、そーいや」
「昨日は、霊界に行ってたんだ」
「実は、コエンマと会ってたんですよ」
「コエンマに?霊界TVを使えばよかったじゃん」
「ちょっと…気になることがあったんだ」
「どうしても、直接聞きたいことがあってね」
「ん?」
「昨日は言葉を濁してましたが、彼の今の証言でハッキリしました。コエンマは、首謀者の正体を知ってますね」
「何!?」
「これから、コエンマに聞いてみま…」
話しながら蔵馬と瑠璃覇がふり向くと、そこにはすでに、幽助の姿はなかった。
「やいコラてめーー。ハッキリ説明しろ!!ことと次第によっちゃ、オレはもう、仕事やめんぞ」
幽助はすでに部屋の中におり、霊界TVを開いてコエンマに文句を言っていた。
「「(は、早い)」」
それを見た蔵馬と瑠璃覇は、軽く顔をひきつらせた。
《そうか…。あのテープが利用されていたか。これで決定的だな》
「はじめっから、犯人の目星はついてやがったな。なんで今まで黙ってた!!」
《確証がなかったのは事実だ。…が、信じたくなかった。それが本音だろうな》
「!? どういうことだよ」
《結論から言おう。首謀者の名は、仙水忍。
実は…奴は
霊界探偵だった男だ》
意外な事実に、そこにいた者は全員言葉を失った。
《これが、探偵当時の仙水の写真だ。高校生の頃だな》
コエンマの後ろに画面が現れると、昔の仙水の写真が映しだされる。
「こいつ…。オレが見たのは確かにこいつだ!年はもっと上だったが」
《奴は、正義感の強い男だった。度が過ぎるほど潔癖だった。奴が姿を消したのは、十年ほど前。行方をくらます直前に、奴は口癖のように言っていた。人間は、生きる価値があるのだろうか。守るほどの価値があるのだろうか……とな。黒の章のビデオの紛失。それに我々が気付くと同時に奴は消えた。しかし、なぜ今頃になって…。
気をつけろよ幽助!!奴は手強い。ワシもこれから、すぐ人間界に向かう!」
仙水のことを軽く説明すると、そこで通信は途絶えた。
「敵は元霊界探偵だったとはな…」
霊界TVを閉じると、未だ信じられないといった感じに幻海が口を開いた。
「おい、ぼたん。これは、一体どうなってんだよ?」
「えっ…えっ…えぇ!?」
「お前なら知ってるはずだろ。詳しく話せ」
「それがなんにも聞いてないんだよ」
「聞いてねーだと!?霊界探偵との連絡は、おめーがやってんじゃねーのか?」
「やだよ。あたしがこの仕事始めたのは、あんたが最初なんだから」
「それじゃあ、仙水のことは」
「ぜーんぜん、知らにゃい知らにゃい」
「まあいずれにしろ、コエンマは間もなく来るはずだ。話はそれからにしよう」
幻海は落ちついた様子で椅子にすわり、お茶をすすっていた。
それから数十分後、霊界からコエンマが来たので、ぼたんと御手洗以外の者は全員リビングに集まり、食卓にすわり、コエンマの話を聞いていた。
「そんでよォ、その元霊界探偵だった仙水ってのは、どんなクソッタレなんだよ?」
「それに、霊界探偵といえば、人間を守る立場のはず。なぜ仙水は、180度立場を変え、人間をおびやかす方へ…」
「そーよ。そこんところがオレは一番ひっかかるっつーんだよ。あたたた」
「黙って聞け」
コエンマはセキばらいをひとつすると、いよいよ本題にはいるべく口を開いた。
「仙水は生まれながらにして、強い霊力を持っていた…。それ故に、子供の頃から邪悪な霊や妖怪に命を狙われ続けながら生きてきた」
今回のことを話す前に、まずコエンマは、仙水の小さい時のことから話しはじめた。
「正義感の強い奴だった。その反面、融通がきかないところがあってな……。
そんな奴が、一転して人間不信に陥る事件が起こった」
「事件?」
「きっかけは、ワシが与えた指令だ。今となっては、それが最後の指令となったわけだが…」
「ど、どんな?」
「指令内容は……魔界に通じたトンネルをふさぐこと」
「何っ!?」
「今回のオレ達とおんなじか…」
仙水が最後に与えられた指令と、今回幽助達が与えられた指令の内容が同じで、そこにいた者は驚いていた。
「規模は違うがな。その時のトンネルの入り口は、今回のような大規模なものではなかった。せいぜい直径10mほどの、低級妖怪を召喚するための小型のトンネルだった。それを行っていたのは、全ての生き物を売買の対象にしている巨大密売組織、B・B・C。召喚された妖怪は捕えられ、巨額の金で取引きされていた」
「B・B・Cと言やァ…」
「雪菜さんを閉じこめていた奴らじゃねーか」
「あいつらか…」
「そう…。そしてその時、妖怪捕獲のスペシャリストとして台頭していたのが、左京だ」
「左京!!」
「野郎、オレが幼稚園ぐれェの時から、そんなことやってやがったのか」
「人間が妖怪を、ブローカー兼ボディーガードとして雇い、売買用の妖怪をとらえる。そのシステムを作り出したのが、左京なのだ。
山深い山荘で、妖怪の巨大な売買が行われるという情報を手に入れ、仙水とパートナーの樹を向かわせたのだ。
当時左京が雇っていた妖怪は、戸愚呂兄弟とは比べものにならない程弱い連中だった。急襲は成功し、左京をはじめとする組織の幹部を、あと一歩というところまで追いつめた。
しかし、そこで仙水は、見てはならないものを見たのだ」
「見てはならないものって?」
「一体なんなんだ?」
「人間の悪の極みともいえる営み…。この世とは思えぬ悪の宴だ」
「悪の宴だと…?」
「そこでは、人間達が召喚した妖怪を弄び、はてには虐殺していたのだ。血を求め、快楽に酔いしれる人間達の欲望の宴は、仙水が長い間忌み嫌っていた妖怪よりも、残酷で、醜いものであった」
それは………
仙水の目の前でくり広げられていたものは…
残酷で非道なもの……。
殺した妖怪から流れた血でつくられた風呂に入る人間達。
その人間達は、とてもいやな笑みを浮かべていた。
妖怪達がどんなに叫び、苦しんでいても、いっさい躊躇することなく、妖怪達を殺し、その妖怪達の血を流す光景。
命を奪うことを喜び、笑顔でながめ、下品な笑い声をあげる人間。
あまりにも凄惨な光景を、二階のバルコニーから、満足そうに見下ろす左京の姿……。
その信じがたいものを見た仙水は、発狂したように叫んだ。
そんな、悲惨なものだった…。
「仙水は、そこで自分が持っていた価値観とは全く逆のものを見てしまったのだ」
「…似てるな。オレと浦飯と瑠璃覇が垂金の屋敷にのりこんだ時と」
「ああ」
「そうだな」
「お前達とは、決定的に違う点がある。
奴は…そこにいた、全ての人間を殺した…」
あの後仙水は、その場にいた人間を全て、手刀で切り裂いて殺した。
あとからその部屋にやってきた樹に、仙水は
「樹…ここに人間はいなかったよ。一人もな」
と言ったのだそうだ。
悲しそうな…残念そうな…苦しそうな…絶望したような……そんな顔で…。
それは、そこにいた人間は、全員自分が殺したからなのか…それとも、自分がもっていた価値観にあてはまる人間がいなかったという意味なのかは、定かではない。
「それからだな。仙水が人間の犯罪を記録したビデオ、"黒の章"に、異常な興味を示しだしたのは…。人間そのものに、疑問を持ち始めたようだ……。
仙水は使命感が強すぎたのかもしれん。奴は、人間の存在そのものに、悪を感じてしまったのだ。
そして仙水は、人間全てに、罪の償いを求めようとしている」
「それで、魔界に通じるトンネルをあけようとしているのか」
「ケッ。これだから、クソマジメな奴は始末が悪いよな。極端から極端へ走りやがる」
「ああ。それで、次の霊界探偵には不マジメな奴を選んだのだ」
「「ああ、なるほど!」」
「蔵馬、瑠璃覇、納得しすぎ」
コエンマが言ったことに、瑠璃覇と蔵馬は真剣な顔でやけに納得していたので、幽助は二人を睨みつけた。
「なぜ、10年も過ぎた今になって、奴が動いたのかはわからん。この10年、何をやっていたのか、知る由もない。
ただ一つ言えるのは、一度動き出した仙水は止まらない。目的を遂げるまではな」
コエンマがそう言った時、幽助、蔵馬、瑠璃覇の三人は、急に目が鋭くなり、勢いよく後ろへふり返り、外の方を見た。
「どうした?」
三人が睨みつけている向かい側の建物の屋上には、二人の男がいた。
一人は、赤い上着をきた黒髪の男。
そして……もう一人は………。
「仙水!!」
今の話の中心人物であった
元霊界探偵の…仙水忍だった……。
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