第七十話 ドクターの強襲
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仙水を凝視していると、幽助の腕に抱えられている室田は、力なく落ちそうになる。
「室田!」
だが、そこを幽助に服をつかまれたので、そのまま崩れ落ちることはなかった。
「しっかりしろ」
「病院だ!!救急車を!!」
幽助達が室田を気にかけている間、瑠璃覇と幻海はあたりを警戒していた。
けど、仙水はいつの間にか姿を消しており、どこにも見当たらず、幻海は、自分の手の上の、あるものを見た。
その後、救急車が到着すると、室田は救急車で運ばれていった。
第七十話 ドクターの強襲
救急車がサイレンを鳴らしながら、病院まで向かっていく。
室田だけでなく、幽助達も付き添いとして救急車に乗り、室田を見守っていた。
「室田、しっかりしろ」
「早く弾を取り出さないと……室田が死んじまうぜ!!」
「心配するな。死ぬことはない」
「ああ。人間と言っても、これくらいでは死なん」
「「「えっ!?」」」
幽助、城戸、柳沢は心配そうにしているが、瑠璃覇と幻海は至って冷静。
彼女らの、自分達が言ったことを否定する言葉に、三人は驚き、瑠璃覇と幻海を見た。
「室田を撃ったタマはこれさ」
幻海は、先程駅前でじっと見ていたものを、彼らの目の前に出した。
「な…なんだこれは?」
「消しゴムの切れっぱしだよ」
「消しゴムーー!?」
「まさか」
聞くからに、殺傷能力がないものだったので、聞いても三人は信じがたそうにしていた。
その中で、幽助が幻海の手から、見せられたものをとる。
「確かに消しゴムだ。こんなもんで室田の頭を割ったってのか!?」
「そうだ」
幻海に説明され、室田の頭を割ったものを直接目にしても、幽助はまだ信じがたそうに、消しゴムをジッと見ていた。
病院に搬送され、手当てを受けた室田は意識を取り戻した。
幸いにも、出血のわりには傷は大したことはなかったので、入院も必要はなかった。
手当てを受け、待合室に行くと、室田は深刻な顔で、先程聞いた仙水の心の声の内容を話していた。
「全ての人に墓を掘る。俺達七人で穴を掘る。暗黒天使(ダークエンジェル)、門番(ゲートキーパー)、狙撃手(スナイパー)、美食家(グルメ)、遊熟者(ゲームマスター)、医師(ドクター)、水兵(シーマン)の七人で…」
「なんだそりゃ?」
「その七人が、魔界と人間界をつなぐ、暗黒の穴をあけようってのか?」
「そうなのか?」
「わからない。あの男の心の声で、手がかりになりそうなのは、これだけだ。あとは……あとは、異常な殺意だけだったぜ」
先程の仙水の心の声を思い出し、室田はまた頭を抱えて震えだす。
「グルメとか…ドクターとかってのは、奴らのニックネームですかね」
「多分な。それが奴らの能力にも関係しているにちがいない」
「だとしたら、さっき撃ってきたのは、恐らくスナイパーって奴だろうな…」
「わかんのかよ!?」
「名前でなんとなくな…」
「そっか」
「それにしても幽助、お前よくあいつの後を追わなかったな」
「ん?」
「少しは成長したようだね」
「追えなかったんだよ」
「ん?」
「一目見て感じたぜ。奴は……奴はなんかやばい」
幽助は、あの時の仙水を思い出し、冷や汗をかき、顔をゆがめていた。
「いやな目ェしてやがったぜ。敵がワナにかかるまで、ジッと待つって感じのな。戸愚呂が剛球投手なら、あいつは魔球を使いそうなフンイキだ」
「フン。まず合格だな。同じ印象を、あたしももった。さらに言えば、奴は魔球を、土壇場まで見せんだろう。やつが自分の能力を見せるのは、敵にとどめをさすときだろうな。
こいつを"撃った"のが、奴じゃないことも、それを裏づけている」
「何!?」
「どういうことだ」
てっきり、仙水が室田を撃ったとばかり思っていたのだが、幻海はまったく違うことを言ってきたので、室田本人と柳沢は、驚いて幻海を見た。
「まさかっ……室田を撃ったのは、あの男じゃなかったってのか?」
「そうだ。奴は何もしちゃいねー」
「ただ……あそこに現れただけだ」
「お前達も気づいたか。
タマは正面からとんできた。奴がこっちをふり返ったのは、合図にすぎなかったのさ」
「そんなっ」
「マ…マジかよ」
驚いている室田の前に、幻海は、先程幽助達にも見せた消しゴムの切れっぱしを、室田の目の前に出して見せた。
「これを撃った人間の気が、まだわずかに残っている。撃った者は、恐らく、気で周りをコーティングすることで、この消しゴムの切れっぱしを、BB弾ほどの硬さにして、念でとばしたんだ。弾道から発射された位置を予測して、狙撃手を、目で追ってみたがわからなかった。恐らく500m以上離れたところから撃っているな」
「ごっ、500m!?」
「なんて奴だ」
その、ありえない条件で自分を撃ったとわかった室田は、ますますおびえだす。
「これを念でとばした奴も」
「相当の能力者ってわけか」
「もうカンベンしてくれ。オレだって死にたかねェ」
恐怖のあまり、室田は再び頭をかかえこみ、震え、叫んだ。
「なんか、とんでもねェ奴らみたいだな」
「ああ。とにかく油断しないこった」
「そうだな。わざわざ敵の前に現れて、宣戦布告をしに来るぐらいの奴みたいだからな」
「えっ!?ど…どういうことだよ?瑠璃覇」
「私には……どうにも、あの男がわざとその声を伝えてきたようにしか思えない…」
「え…?」
「偶然にしてはできすぎてるってことだ。いくら穴をあけている蟲寄市にいるからって…。敵に…しかも首謀者に遭遇するなんて、いくらなんでも早すぎる。
つまり、あいつはたまたまあそこに現れたのではなく、必然的に現れ、宣戦布告をしていったんだ。たぶん……私達のことを知ってるんだろうな…。あいつが、幽助を知っていたことを考えると、恐らくそうなんだろう…」
「なっ…」
幽助が、瑠璃覇が言ったことに驚いている時だった。
突然、領域に入った時の、妙な違和感を感じたのだ。
それは、誰かが領域を広げたということ。
それは……この病院のどこかに、柳沢、城戸、室田以外の能力者がいるということだった。
「だ…誰かが、領域を広げやがった」
「この病院の中にも能力者が!!」
「き…聞こえた。七人の中の一人だ。本物の医者だぜ。オレ達を狙ってるぅうーー!!」
「気をつけろ。死角をつくるな。どっからくるかわからねーぞ」
いつ何がきてもいいように、全員円を描くような形で背中合わせになり、辺りを警戒し、構えをとる。
「! (なんだ…。今何か、小さいものが下の方で動いた)」
瑠璃覇は空気が揺れたのを感じとり、その正体を確かめるため、下の方を見ようとした時だった。
「いてっ」
「痛っ」
突然、柳沢と室田が声をあげた。
「なんだ!?」
二人は痛みを感じた手をあげて見てみると、そこには、黄色い奇妙な形をした虫がとまっていて、口を自分達の手にさし、何やら液体のようなものを流しこんでいた。
「うわああ」
「なんだこいつはーーーー!?」
「ヤナ!!」
「くそっ」
その気味の悪い虫を、柳沢があわてて叩きつぶすと、虫は煙となって消えてしまう。
そして虫が消えると、虫にさされた箇所から、柳沢の体がみるみるうちに、緑色に変色していった。
「ああっ…あ、あああ」
「うああ」
それは、同じ虫にさされた室田も同様で、二人は体が緑色に変色したと思うと、苦しそうに叫びながらひざをつき、体を抱えて震えだした。
「ヤナ!!室田!!どうした!?」
「さ、寒い」
「か、体中がいてェ……!!」
「す、すごい熱が」
室田に近づいた城戸が、室田の額に手をあてると、室田の額は信じられないくらいに熱くなっていた。
「一体今の不気味な生き物はなんなんだ!?」
「街中にいた虫とは違うな」
「ウイルスだ…。領域内の人間を、病気に…できると言ってやがる」
「(さっき、私の下を通ったのはこいつだったのか…)」
苦しそうに顔をゆがめながらも、感じとった声を伝える室田。
瑠璃覇は、先程自分の下を通った小さなものの正体がわかり、こんな状況にも関わらず、冷静な顔つきだった。
「気をつけろ!二匹だけじゃないかもしれん」
幻海がそう言うと、言ったことが現実になったように、二人をさした虫がいっせいに自分達に向かってきた。
「くそっ」
狙ってきた虫達を、四人は拳で消していく。
「何かあったんですかァ!?」
「なっ」
「あぁっ」
「一体どうしました?」
そこへ看護師がやって来て、瑠璃覇達に声をかける。
看護師の肩や頭には、虫がうじゃうじゃととまっていた。
「あ、あんたの肩!!頭!!」
「はやくふりはらえ!!」
「え?何もついてませんよ。何言ってんですかあなた達は」
「見えねーんだ。普通の人間には。それにあの生き物、明らかにオレ達だけ狙ってやがる」
けど、看護師には、その虫がまったく見えていなかった。
「このままじゃやられちまうぜ」
「能力者を見つけんと、二人の病気も進むだけだ。行くしかあるまい」
「ああ」
四人は、この虫を操っている能力者を見つけるため、そこから走り出した。
「ねーちゃん。そこの二人をたのむぜ!!」
「病院内は走らないで!!」
本当はウイルスをもった変な虫がいて、さらにはその虫を操っている能力者がいるので、能力者を倒すために急いでるのだが、事情をまったく知らない看護師は、四人に注意をする。
「探すっていっても、病院の中は医者だらけですよ」
「とりあえず、病院中の医者をぶん殴る!!」
「気はすすまんが、それが一番手っとり早い。死なない程度に殴れよ」
「おう」
「わかった」
「(………!! おそろしい人達だ)」
「このまま、四人かたまって探すのか!?この病院、かなりデカイぜ!」
「二人の病気の進み方、異常な早さでしたよ。ここは、バラバラに探しましょう!!」
「その方が効率的だな」
「しかたあるまい。いいか、能力者を見つけたら、とにかく騒げ」
「おうっ」
「オレは一階を探します!」
「よし。オレは二階だ」
「私は最上階を探してくる」
「敵はこの病院の医者じゃないかもしれんぞ!看護婦をつかまえて、まず見慣れない医者を探させるんだ!」
四人は能力者を探すため、それぞれ違う階に行った。
城戸はそのまま一階を探し、幽助はその上の二階。幻海は六階。瑠璃覇は最上階を探した。
突然現れた瑠璃覇に、その階の病棟にいる人々は驚いた。
ただ現れただけなら、この病棟に入院している患者のお見舞いに来た人間だと思っただけだろうが、瑠璃覇がものすごい剣幕で走ってきたのだ。
しかも、それだけではなく、何もいないというのに、拳をふりまわしている。
実際はウイルスを注射する虫と戦っているのだが、そこにいる者達には虫が見えないので、瑠璃覇がトチ狂って、一人で暴れているようにしか見えず、全員異様なものを見る目で瑠璃覇を見ていた。
瑠璃覇はただ廊下を走るだけでなく、もしかしたらと思い、病室や物置など、様々な場所を探していた。
当然、突然やってきた、怪しい見知らぬ女に全員さわぎたてるが、瑠璃覇はまったく気にすることなく、平然として病棟内を探していた。
「おい」
「え?は、はい!」
その途中で、ナースステーションをみつけたので、瑠璃覇はそこにいた看護師に声をかける。
いきなりやって来た変な女(瑠璃覇)にびびり、声をかけられた看護師は、引き気味になっていた。
しかし、瑠璃覇はそんなことはまったく気にする様子もなく、話を続ける。
「今、この階に医者は何人いる」
「は……え…?」
質問の内容を看護師は理解できず、疑問符を浮かべるばかりだった。
「答えろ!!今この階には、医者は何人いるんだ!?」
「わ、私が知るかぎりでは……今は一人……ですけど…」
「そうか。どこにいる」
「えっと……私の後ろに…」
看護師に言われて見てみると、確かに看護師の後ろには、白衣を着た若い男がいた。
医者をみつけた瑠璃覇は、何も言わずにナースステーションの中に入っていく。その医者が能力者かもしれないので、死なない程度に殴ろうと思ったのだ。
「あ、あの……ちょっと」
当然看護師は、いきなりなんの断りもなくナースステーションに入っていった瑠璃覇を不審に思い、止めようとするが、声をかけたくらいで瑠璃覇が止まるはずはなかった。
「ん?なんだね、君は?」
医者は瑠璃覇の存在に気づくと、何事かと声をかけるが、瑠璃覇は医者の質問に答えることなく、その医者を殴ろうとした。
「!?」
だがその時、突然あの虫がやって来て、目の前の医者の体をさした。
それも、一匹や二匹ではなく、数えきれないほどのたくさんの虫が……。
それだけでなく、後ろにいる看護師もさされてしまった。
しかも、周りの看護師や、患者や、見舞いに来た来院者達まで…。
自分以外の全員が…。
それを見た瑠璃覇はふしぎに思った。
先程待合室にいた時、自分達に話しかけてきた看護師にはただとまっていただけで、危害などいっさいくわえなかったのに、今は自分以外の人間も襲っているのだから…。
「(もしかして……何かあったのか!?)」
そう考えていたその時、下の階から、窓ガラスが割れる音がした。
あわてて窓の方を見てみると、空の方へ向かっていく光の球体を目にする。
「あれは……幽助の霊丸!!」
窓ガラスが割れる音が響いた後に、霊丸がとんでいくのを目にすると、その事態にただごとではないと判断した瑠璃覇は、ナースステーションを出ると、目の前の窓を開けはなった。
そして、窓から風をとり入れると、周りの状況を探る技を使い、今の状況を把握した。
それは、敵らしき医者の男と幽助が、対峙しているところだった。
あの虫達は、男の念でできたもの。男の念を消さないかぎり、虫は消えないし、みんなの病気は治らない。
そのために幽助は戦っているが、どうやら迷っているところがある。それなら、幽助の代わりに、自分があの男をとらえようと、瑠璃覇は思った。
そこで瑠璃覇は、階段から行くか、それとも窓から下に一気に降りて、今幽助がいるところから、一番近い窓から入るかを考えた。
一瞬、窓から降りていこうとも考えたが、その考えはすぐに払拭される。
人間をつかまえるなど、瑠璃覇にとっては造作もないことだが、窓から入っていくと、あっさりと自分の存在がばれてしまうので、ふいをついて拘束…というのができなくなる。
なので、ここは中からこっそり行って、敵に余計な警戒心を抱かせないようにするのが得策だろう。
そう判断して、幽助を助けるため、階段から下に降りて行こうと走り出した。
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