第六十九話 首謀者
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朝も近い頃、仙水は、蟲寄市にある洞窟の中を歩いており、奥へ奥へと進んでいた。
そして、洞窟の最奥まで進むと、そこには池と…その中心に浮かんでいる船の上には、緑色の髪の男がいた。
「樹」
「仙水か」
「穴は順調に広がっているようだな」
「一つ障害がある」
「障害?」
「魔界と人間界の堺である亜空間に、強力な結界がはってある。穴が広がりきったとしても、このままでは強力な妖気を持つ妖怪はこちらにこれない。亜空間にはられた特殊な障壁だ。この結界には、私と違うタイプの次元をつかさどる能力者が必要だ。私の能力なら、次元の扉をあけることはできる。だが、扉の間にはってある結界ははずせない。亜空間にはられた結界を切り裂くことのできる能力者が必要だ」
「次元を切る能力者か。よかろう。オレが必ず見つけ出す。
ジャマ者を、始末するついでにな」
そう言った仙水の後ろには、五人の男達が立っていた。
第六十九話 首謀者
それから夜があけて、一同は一度家に帰って着替えてから、再び皿屋敷駅に集合となった。
「なんで?」
これから蟲寄駅まで行って探索に行こうとした時、瑠璃覇は何やらふてくされた顔で、目の前にいる蔵馬達を見やった。
「なんで私が、蔵馬と一緒じゃないの?」
それは、二手にわかれて行動することになったのだが、その際の組み分けが、幽助・瑠璃覇・幻海・城戸・柳沢のチームと、蔵馬・桑原・ぼたん・海藤のチームという分け方だったからだ。
自分が蔵馬と一緒じゃないので、何故自分が、蔵馬と離れて行動しなければならないのだという疑問(文句)だった。
「ワガママを言うんじゃないよ。もう、このチームで行動をすると決めたからね」
この組み分けは幻海が決めたもので、誰がなんと言おうと、組み分けを変えるつもりはないようだ。
「だが…私には、蔵馬を護る使命がある。もし途中で敵と遭遇し、その敵が強力だったらどうするつもりだ!?」
「お前には風の移動術があるだろう。いざという時は、それでとんでいけばいい」
「だからってな」
「それに、今回のことは魔界が絡んでいる。強い力を持ち、魔界にも霊界にも人間界にも精通している人物が、各チームに一人ずついる方がいい。戦闘に長けていて、頭もキレればなおいい。その条件にあてはまるのは、蔵馬とお前だけだ。私は妖怪には詳しいが、魔界のことはよく知らん。幽助は……戦闘はできるが、頭はからっきし。魔界のこともよくわかってないだろうからな」
「そうだな。オレも瑠璃覇が一緒にいれば安心だぜ。よろしく頼むわ」
屈託のない笑顔で幽助に頼まれれば、瑠璃覇は一瞬固まり、顔を赤くして幽助を見た。
「そ………そういうことなら仕方ないな。幽助はバカで無鉄砲だから、私が面倒見てやらないとな」
赤くなったのは、幽助に信頼されたからで、瑠璃覇は顔を赤くしながらホームへと向かっていき、そのあとに続いて、瑠璃覇以外の全員が、電車に乗るためにホームへ向かっていった。
探索する場所は隣の市なので、それから30分もしないうちに蟲寄駅に着き、改札を出るとそこから二手に分かれた。
天気は悪く、まるで今起こっていることを表すかのような暗雲がたれこめている。
出口を出て目にしたのは、おびただしい数の魔界の下等生物達が、街の中を飛んだり、跋扈したり、建物や人の体に止まったりしていたが、街の人達には見えておらず、いつも通り普通に過ごしていた。
「普通の人間には見えないのかよ」
「見えてたら、パニックですよ」
「一刻の猶予もならん。この街一帯を、くまなく探るんじゃ」
幽助達は駅を出ると、街を歩きだし、穴や敵のことを探り始めた。
「どうスか。この街の感想は?」
「蟲だらけで、それどころじゃねーよ」
「シケた街っスよ。陰気くせーし娯楽もない。いつかおん出てやるってずっと考えてた。
でも、不思議ですよね…。今、この街を守りたいと思ってる。
こんな状態を見ながら、陰でニヤけてる奴らがいるかと思うと、胸クソ悪くて、ヘド出そーですよ。相手が誰でも、オレの生まれた街で勝手なマネさせんですよ」
「意気込むのはいいが、先走るなよ。能力を持っている反面、危険も大きいんだからな」
城戸が自分の決意を話すと、幻海は城戸に忠告をした。
「穴の中心を見に行った蔵馬達は大丈夫だろうな。いわば、敵の本拠地なんだろ」
「蔵馬はお前と違って安心だ。ヘタなマネはせんよ」
「その通りだな」
「信用ねーな、クソ!!」
そう…幽助がぼやいた時だった。
突然、テリトリーに入った時の、あの奇妙な違和感を感じたのだ。
「気付いたか?」
「ああ、誰かの領域に踏み込んだようだな」
「「能力者が能力を使わない限り、この違和感はしない」はず!!」
「てことは、この近くに能力者がいるな」
「どんな奴だ」
違和感を感じたということは、近くに能力者がいるということなので、五人は能力者がどこにいるか探した。
「この下がくせェぜ」
しかし、辺りを見ても誰もいなかった。
ふいに幽助が建物側に目を向けると、地下へ続く階段をみつけた。周りに人は見当たらなかったので、もしやと思い、そこにあたりをつけたのだ。
「幽助、わかっているな」
「おう、同じ過ちはしねー」
幽助達は、テリトリーを広げた能力者をみつけるため、下に降りていった。
下に降りていくと、そこは喫茶店で、五人は店の中に入っていく。
中に入ると、そこには店員も合わせて、全員で六人の人間がいた。
五人は、一体どの人間が能力者なのかを考えながら、店を見回した。
「ククククク。そこの連中、お前らオレに何か用か?」
すると、一人ですわっていた角刈りの男が、雑誌を読みながら幽助達に声をかけ、幽助達が自分に注目すると、もう一度不敵に笑うとその場を立ちあがり、幽助達の前に立った。
「おめーらも能力者だろ?」
「お、お客さん、もめごとは困りますよ」
「うるせーな。ひっこんでろ。
何しにきたか知らねーーがな、妙なもめごとはオレもゴメンだぜ」
「穴を掘ってる奴らを探してる。すげェでけェ穴だ」
「………穴?フン…。界境トンネルとかいうやつか?」
「!! 知ってんのか!!」
「さっきから、おめーらが言ってるじゃねーーか。"心の中"でよ」
今のその返答は、自分が能力者だと言っているもの。しかも、それはわざとばらしているようにも思えた。
「奴の能力は、人の心を読むことか!!」
「いや……わかんねーぜ。そんなフリをして、別の能力を持ってるのかもしれねーー。奴が、探してる奴の仲間ってこともある。奴らの仲間なら、穴のことはもちろん、オレ達のことも知っているはずだ!!」
「オレに試させて下さい」
「城戸」
相手の能力がどんなものかを考えていると、城戸が相手の能力を見極める役を、自ら買って出た。
城戸は自信に満ちた顔で前に出ていき、男の前に立つ。
城戸は自分の能力を使い、相手をとらえようとしているのだ。
相手は自分の能力が、どんなものかは知らないはずだと…。
もし、心を読むのがハッタリなら、簡単に影を踏ませるはずだ…と…。
「なんだてめェは……?やる気か、コラ」
「腕ずくでも聞きだすぜ。こっちは命がけなんでな」
そう言うと、城戸は能力を使うため、領域を広げた。
「城戸が領域を広げた」
そして、相手の影を踏むためにジャンプをするが、城戸の足は、相手の影を踏むことはできなかった。
男は城戸に影を踏まれる前に、後ろにとびのいたのだ。
「城戸!!」
その光景を見ていた幽助が叫ぶが、時すでに遅く……城戸は男に、腹部や顔を殴られ、めったうちにされた。
「城戸っ!!」
最後にアッパーをくらい、仰向けに倒れた城戸に、柳沢が心配そうに駆け寄っていく。
「くくくくくく。残念だったな。影が踏めなくて」
「何!?」
「よ…読まれてたんだ……!!ヤツに心を探られた……!!」
この騒動を見ていた三人の男子学生は、代金を置いてそそくさと店から出ていき、店員はこっそり電話をかけようとする。
「警察呼ぶにはまだはェーぜ!!」
「呼びません呼びません」
けど、そこを男にみつかり、制されると、店員は怖くなって受話器を置いた。
「フン。さあーて、まだやるかい?これでもプロボクサー志望だぜ。心の声を盗み聴く能力"盗聴(タッピング)"で世界を狙う。心が読めれば、相手の攻撃が、全て手にとるようにわかるからな。どんな人間も、オレにはかなわねェ!!」
「心を読むってのは、本当みたいだね」
「だが、クロかシロかは、本音を聞くまでわからねーーー」
すると、今度は幽助が前に出た。
「なあ、ちょっと話を聞いてくれ。あの男の能力は相手の頭にふれて、その人間の全てをコピーすること。しかも記憶までコピーできる。もし、あんたがただの能力者なら、協力してくれねーか」
「オレをコピーするってのか?」
「そういうことになるな」
「いやなこった。面倒に巻きこまれるのはまっぴらだ。お前ら全員倒してでも帰るぜ。コピーしたけりゃ、オレをぶっ倒してみな」
「わっかんねーヤローだな。ったく、世話がやけるぜ」
幽助は戦うため、上着をぬぎすてた。
「大丈夫ですか。心を読まれてるんじゃ、攻撃が……」
「心配いらん。あれでも武術会の優勝者だ。相手の男が、もし心を読めるだけなら、幽助にとっては、普通の人間と同じさ」
「へへへ、どうした?いつでもいいぜ。かかってきな」
余裕の顔で、男はステップを踏みながら幽助を挑発する。
「まあ、焦んなって。これからてめーを、右ストレートでぶっとばす」
「何?」
「真っすぐいくから、覚悟しろよ」
戦う前に幽助は、自分の攻撃方法を、バカ正直にばらした。
男はハッタリかと思い、幽助の心を読んでみるが、幽助の心の中は、今言った通り、「右ストレートでぶっとばす」という考えと「真っすぐいってぶっとばす」という考えしかなかった。
それがハッタリではなく、本気なのだと思った男は、楽勝だと笑う。
「行くぜ」
そして、すごい速さで、自分で宣言した通りにまっすぐ向かっていって、右ストレートを繰り出すが、その拳は男の目の前で止まる。
「うわあああっ!!」
だが、男は後ろへふっとんでいき、壁にぶちあたった。
そのまま気絶してしまうと、壁から落ちていって、うつぶせに倒れる。
「す……すげェ…!!」
「動きが見えなかった」
「あれで三分くらいの力だ」
「寸止めしたんだけどな。衝撃波でぶっとばしちまった。
柳沢、こいつコピーしてみてくれ」
「あ、ああ…」
後ろにいた柳沢は、幽助に言われると男の前までやって来て、能力を使うため、男の頭にふれた。
すると、みるみるうちに、柳沢の顔が男の顔になっていく。
「どうだ?」
「……こいつシロですね。何も知りませんよ」
「そうかい。だが、この男は使えるな」
能力のことを知っている幽助達にはどうということはないが、柳沢の能力を見て、何も知らない店員達は頭が混乱していた。
その隙に幽助達は、男を連れて店から出ていった。
そして街に出た幽助達は、駅まで戻ってきて、駅前の広場の、街のスローガンが書かれた金属の棒の前にすわった。
真ん中には先程の男、男の右隣には幽助、左隣には幻海がすわり、その両脇をかためるようにして、幽助の隣には瑠璃覇と柳沢が、幻海の隣には城戸が立っていた。
「室田っていったな。おめーの領域は、どのぐらいなんだ?」
「半径30mってとこかな…。その中にいる人間の心の声が、会話と同じように聴こえてくるんだ。周りの人間達の考えが、強ければ強いほどデカい声で聴こえるんだ。そいつが一人で叫んでるみてーにな」
「よし。それなら、ここを通る人間全てをチェックできる」
「妙な考えを持った奴がいたら教えろ。だが、表情に出すな。そいつと視線も合わせてはならん。敵も能力者。お前の領域に気付くに違いない」
「あ…ああ…」
室田は冷や汗をかきながら、震える声で返事をした。
その直後、室田は目を見開き、声をあげた。
「いたか!」
「どいつだ?」
「あ…あの女…」
「あいつか…!」
室田が目をやった方向にいたのは、一見して普通の女子学生だが、もしかしたらすごい能力を持った敵かもしれないので、瑠璃覇は鋭い目で睨みつける。
「あの女、これから担任の先公と、エッチする気だチクショーーー!!」
けど、能力者とは何も関係ない人物で、とんでもないことを言う室田の頭を、両脇にいた幽助と幻海が同時に殴った。
それを聞いていた他の三人も、室田を見て、引いているような、呆れたような目をしている。
その中でも、女である瑠璃覇は特にドン引きしていた。
「ぶっ殺すぞてめー!!」
あまりにふざけた発言に、幽助は顔に青筋を浮かべ、室田の胸ぐらをつかみながら怒鳴る。
「あっ。あんた、本気でオレを殺そうと思ってる」
「オレの心なんか読まなくていーんだよ!!」
今度は幽助の心を読んだ室田は、胸ぐらをつかまれたまま、上下にゆさぶられた。
「こんな時にふざけおって」
「すんません、すんません」
「いいか。見つかるまでやらせるかんな」
「は、はい」
それから幽助達は気をとりなおして、再び怪しい奴を探り始めた。室田に心を読ませ、自分達は周りを警戒する。
けど、なかなか不審者はみつからず、時間だけが刻々とすぎていった。
そして、探し始めてから、1時間ほど時間が経った頃…。
「おい、どうだ。まだみつからねーか?」
なかなか室田がしゃべらないので、しびれをきらした幽助が問いかける。
「室田?」
問いかけた時、幽助は室田の様子がおかしいことに気づいた。
見てみると、室田は目を大きく見開き、尋常でないほどの冷や汗をかき、顔は青ざめ、恐怖で体が震えていたのだ。
「いた…いました。な、なんて奴だ…」
それは、全ての人間を皆殺しにし、この世を墓でうめつくしてやるという、狂気的な思考だった。
「わああああああっ!!」
「室田、しっかりしろっ」
その思考に、室田は頭をかかえて叫ぶ。
先程は、話さなかったのではなく、恐怖でしゃべることができなかったのである。
「誰よりもデカい声なのに、誰よりも静かで暗い………こんな陰気で殺伐とした心の声は、初めて聞いた」
「どいつだ。指はさすな。方向と人相を言え」
「右です………。オールバックの背の高い、黒い服の男」
室田に言われた人相の男に目をやると、その…黒服で背の高いオールバックの男…仙水は、幽助達の方へ顔を向けた。
その瞬間、何かが光の速さでとんできて、室田の額を撃ちぬいた。
室田の額からは血が噴出し、仰向けに倒れてしまい、突然のことに周りから悲鳴があがる。
「室田!!」
幽助は倒れた室田を抱き起こすと、室田が言った男を睨むように見る。
仙水は幽助を見て、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
「あいさつがわりだ、浦飯幽助」
「(………奴が首謀者(アタマ)だ!!)」
この日…この時…初めて、幽助と仙水の二人は対峙したのである。
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