第六十三話 異変
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暗黒武術会終了から、一ヶ月ちょっと経った頃だった。
「あーーー、いそがしいいそがしい。ちょーっと留守しただけで、こんなに書類がたまってるとはなぁ…」
コエンマはいつも通り仕事に追われており、武術会に行っていたせいでたまりにたまった書類に、休む暇もなくハンコを押していった。
「コエンマ様ーー!!たっ、たっ、大変ですぅーー!!」
そこへ、血相を変えたジョルジュが、あわてて部屋の中に入ってきた。
「なんじゃ、そうぞうしい。ジョルジュ、お前の相手をしてる暇はない」
「この報告書を見てください。大変なんですってば!!」
ジョルジュは机の上に、持ってきた報告書を強くたたきつけた。
その衝撃で、机につんである書類の山が揺れ動き、崩れ落ちてしまう。
「あ、あ、あ~!!ジョルジュ早乙女!!」
「はい」
「地獄行きと天国行きがまざっちゃったじゃないか!!どうすんだ!?ドアホ!!」
せっかく仕分けてあった書類をぐちゃぐちゃにされたので、コエンマは怒りのあまり金棒を構えた。
「………プぅ~~」
「プぅ~~じゃない!!ジョルジュ!!」
「ご、ごめんなさい」
ジョルジュはおどけて誤魔化そうとするが、そんなものは今この状況で、しかもコエンマには通用せず、コエンマは怒ってジョルジュをボコボコにした。
第六十三話 異変
同じ頃、ぼたんは休憩所で、案内人仲間と、お茶を飲みながら休憩をしていた。
「えーー!!今月、20人も霊界に案内したのかい!?いくら仕事とはいえ、無情を感じるわよね」
「そーお?あたしはタイプの男の子に死の宣告する時が、いっちば~ん幸せよ」
自分と正反対の意見に、ぼたんはなんと言っていいかわからなくなっていた。
《ぼたんさんぼたんさん、コエンマ様がお呼びです》
その時館内放送が入り、自分が呼ばれたので、ぼたんはコエンマのもとへ向かっていった。
「う~~~~~~む。う~~~~む」
一方執務室では、コエンマが考えごとをしながらうなっていた。
「ぼたんで~す。入りま~す」
そこへ、放送で呼ばれたぼたんが入ってきた。
「う~~~~む」
「あら、便秘ですかい?コエンマ様」
「ボケ!考え事だ」
コエンマは、先程ジョルジュが持ってきた報告書を、もう一度手にとった。
「ん~~。人間界にただならぬ動きがあるという報告があってな」
「またぁ、取り越し苦労じゃないんですかい?あの武術大会以降、妖怪達は、静かなもんですよ」
「実は妖怪ではないんだ」
「え?」
「う~~む。あ~~、わからん。こんなことは初めてだ。ぼたん、至急幽助と瑠璃覇に連絡をとってくれ。霊界探偵出動だ!!」
コエンマの命令を受け、ぼたんはオールに乗って、人間界へと飛び立った。
ある街の、工事中の鉄骨の上に飛影がいた。
自分の目の前から飛んでくる、人間界にはいない奇妙な虫。
それは、魔界に生息する魔界虫。
飛影は今いた場所から跳ぶと、流れるように、空中でその魔界虫を剣で切った。
そして鉄骨の上に着地すると、今しがた、自分が切ったばかりの、まっぷたつになった魔界虫を、怪訝そうな顔で見た。
飛影が目を向けると、魔界虫はすぐに消えてしまい、見えなくなった。
魔界虫が消えると、飛影は上の方へ跳躍していき、上の方まで来ると、そこから街を眺めた。
「(瘴気の濃い街だ。下等な妖怪どもの動きが活発になってきやがった。何かの前ぶれか、それともすでに、何かが起こっているのか?オレには関係ないがな…)」
飛影は少しの間街を眺めると、そこから跳んで去っていった。
その頃、瑠璃覇と蔵馬が通う盟王学園では…。
校内では、テストの上位50名の結果が張り出され、その周りにはたくさんの生徒が集まり、にぎわっていた。
「すげぇ…。また南野が一位だ」
「これで何回連続だ?」
学年一位はもちろん蔵馬で、結果を見ていた男子生徒達が、蔵馬のテストの結果を見て感心していた。
「銀は二位か…」
「あいつも頭いいよな」
「そうそう。編入試験、全教科満点だって聞いたしな」
「おまけに美人!運動神経も抜群!非のうちどころがないよな~…」
「でも、そんなに頭いいんなら、なんでいつも二位なんだろうな?」
「さあ?」
「けど、二位でもすげぇよ」
「ほんとほんと」
そして、今度は瑠璃覇の話になり、瑠璃覇の結果を見て、同じように感心していた。
その生徒達の中に、眼鏡をかけた男子生徒が、無言のままジッとテストの結果を見ていた。
おもしろくなさそうに、片方の指で、眼鏡を動かして…。
「おしかったな、海藤」
結果を見ていると、男子生徒に教師が声をかけてきた。
「だが、気にすることはないぞ。学年三位だってりっぱなもんだ」
「気になんかしてませんよ。勉強ばかりが人生じゃあるまいし。それに……」
「ん?」
「いえ、別に…」
中途半端に答えると、海藤は教師に背を向けて歩きだした。
「(それに……いずれ目にもの見せてやるよ、南野)」
心の中で蔵馬に宣戦布告をしながら、海藤はいずこかへ歩いていった。
一方、うわさの蔵馬はというと……教室で静かに本を読んでいた。
そこへ、二人の女子生徒が、蔵馬もとへやってくる。
一人は黒髪のボブヘア。もう一人は、茶色い長髪の女子だった。
「南野くん南野くん。また南野くんが一位だったわよ」
「やったね」
目をきらきらと輝かせている二人の女子は、見るからに蔵馬が好きなのだということがわかるほどだった。
「そう、そいつはラッキーだったな」
けど、女子生徒とは反対に、蔵馬はテンションが低く、本に目を向けたまま淡々と答えた。
「もう、南野くんてば淡白なんだから~。もっと喜べばいいのに」
「喜んでるさ。
!!」
答えながら女子生徒の方へ顔を向けると、蔵馬は顔をしかめた。
長髪の女子生徒の肩に、魔界虫が止まっていたのだ。
「でもいいのよ、南野くん。私、南野くんのそういうクールなところが…」
「あれ、なんだろ?」
「「え?」」
さすがに、いきなり相手の肩に手を伸ばすのは不審に思われるので、蔵馬は二人の後ろを指さして、二人の気をそらした。
そして蔵馬は、指をさした方に二人がふり向いた隙に、魔界虫を手でつかまえた。
「なんにもないわよ?」
「な、なーに?」
「いや、気のせいだったみたいだ」
「そう。それでね、南野くぅん」
「すまないが……この本を読んでしまいたいんだ」
再度話しかけられるが、蔵馬は再び本に向け、二人を遠ざけるように言い放った。
「わかったわ。じゃあ、読み終わったらお相手してね」
「う、うん…」
蔵馬が了承してくれたことで、うれしくなった女子生徒達は、はしゃぎながら教室を出ていった。
二人がいなくなると、蔵馬は魔界虫をつかまえた手をそっと広げた。
魔界虫は、蔵馬につかまえられたことにより、手の中でつぶれていた。
「(これは、人間の目には見えない魔界虫。寄生する前だったから、大事には至らなかったが、危ないところだったな)」
魔界虫は、先程の飛影の時と同じように、消えてなくなった。
「(しかし何故こんなところに?一体何が?)」
蔵馬は疑問に思い、席にすわったまま、窓から空を仰ぎ見た。
「相変わらずもてるのね、南野くんは」
すると、突然瑠璃覇の声が、蔵馬の耳に聞こえてきた。
「瑠璃覇」
「よっ」
軽くあいさつすると、自分の席ではないが、蔵馬の隣の席にすわった。
「学校では、気配を消して近づくのはやめてくれと言っただろ?」
「途中で気配に気づいていたくせに、よく言うな」
「そっちこそよく言うよ。途中から、オレでも気づけるようにしていたくせに」
呆れたように蔵馬が返せば、瑠璃覇は軽く息をはいた。
「ところでどうしたんだ?」
「これ」
どうして声をかけたのかを問えば、問いに答えるように、瑠璃覇はにぎり拳をつくった左手を蔵馬の前に出して、手をひらいた。
「これは…魔界虫?」
「ああ。さっき、廊下を歩いている時にみつけてな」
瑠璃覇がそれだけ言うと、瑠璃覇の手の上でつぶれていた魔界虫は、姿を消したのだった。
「どういうことだと思う?」
今まで気のぬけたような表情だったのに、急に真剣な声と顔になる。
「さあ……見当もつかないな。むしろ、オレが知りたいくらいだよ。瑠璃覇は、本当に何も思いあたらないのか?」
「ああ、さっぱりだ。魔界虫は、魔界の中でも下等生物。はっきり言って、下等妖怪よりも弱い…。だが、そんなやつでも魔界に存在するもの。意思もちゃんとある。そして、魔界から人間界に来るには、界境トンネルを通らなきゃいけない。けど、魔界の穴など、簡単に開くものじゃない。それに、魔界と人間界の間には結界がはってある。いきなり人間界にこれるとは思えない。何かが起こっているのか、それとも、誰かが意図的にはなったのか…」
何故魔界虫が人間界にいるのかを、瑠璃覇は真剣に考えていた。
「ところで秀一。お前、最近体はいいのか?」
「ああ、今のところはね」
「そうか……」
だが、瑠璃覇は突然話を変え、蔵馬の体調を問いだす。
なんともないことを伝えられると、瑠璃覇は安堵した。
「なんともないんならいいんだ。大事にしてくれ」
「ああ。わかってる…」
二人の間にある甘い空気。
それは、誰にも壊すことのできないもの…。
今、自分達以外誰もいないこの教室で、瑠璃覇と蔵馬は、二人っきりの世界をつくっていた。
だが……そんな二人のおだやかな世界を、ただ一人、見ている者がいた。
それは海藤……。
先程、テストの結果を見ていた、眼鏡をかけた男子生徒だった…。
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