第六十二話 さらば、首縊島
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決勝戦から、一夜あけた翌日……。
いよいよ……島を去る時がやって来た…。
「よっしゃ、準備いーな」
「おう」
幽助は、荷物をつめたバッグを肩にかけると、みんなに聞く。
幽助以外は、もう準備万端で、ソファの背もたれに腰をかけていた桑原が、返事をしながら立ちあがる。
第六十二話 さらば、首縊島
「そういや、のんびり海を見てる暇もなかったよな…」
闘いやら特訓やらでいそがしく、なかなかゆっくりする時間がなかったため、幽助は、部屋の窓からぼんやりと海を眺めた。
「なんか、一年ぐらい戦ってたような十日間だったな」
「ああ、長かった」
「本当にな…」
「プー」
どこかしんみりとしていると、そこへ、外からプーが飛んできた。
「おっと、こいつも無事だったしな」
幽助が閉じていた窓を開けて、プーが中に入ってくると、幽助は片手でプーをつかまえる。
「こいつがばーさんのツラになったときはビビったぜ」
つかまえてるというよりはつかんでるといった感じで、ぞんざいな扱いをされたプーは、嫌がって幽助に噛みついた。
「霊界との電話機みてーなもんかな、お前。
なあプー、もういっぺん、ばーさん出してくれよ。な?なあ…な、出してくれよォ。プー、頼むよォ」
「たぶん」
「ほれほれ」
「もう、ムリだろうね…」
「………もうムリ?」
蔵馬が言ったことに、幽助はふり返りながら、疑問をぶつける。
「霊界は、生と死の中間にある、駅みたいなものなんだ」
「死んだ人間は霊界に行くんじゃねーのか?」
今度は幽助ではなく、桑原が疑問をぶつけた。
「行くには行くんだが、霊界は死への中継地点なんだ」
「ふーん」
「この世とかろうじて通信ができるのは、霊界まで…」
あまり聞いていたくないのか、幽助は窓まで移動すると、窓枠に腕をのせ、外を眺めた。
「でも、霊界に長くいることはできない。そしてそこから、みな行き先の違う旅に出る。それが、死…。幻海さんも、もうすでに……」
「………そっか」
「死へ旅立ったか…」
説明されると、納得するにはしたが、やはりなかなか受け入れられないようで、幽助は落ちこんだ。
「ま、いーか。終わっちまったものは、しょーがねェーしィィィ。人間、前向きに生きるべきよ。なっ。ハハハハハハハ」
窓から離れると、ムリをしながら、大きめの声で一人ごとを言うように、部屋の扉まで歩いてった。
「よっしゃ、明日から遊びまくんぜ。くそったれ」
そう言って、幽助は先に部屋を出ていった。
「お、お、おい、学校どーすんだよ?進級できねーぞ」
「というか……春休みは、今日で終わりなんだがな」
「ちっ。ムリがみえみえで、見ているこっちが恥ずかしいぜ」
プーは先に行ってしまった幽助を追いかけ、残った瑠璃覇達も、部屋から出て行き、ホテルのロビーに向かった。
「るーりはちゃーん!」
ロビーに来ると、そこへ女性陣がやって来た。
瑠璃覇はぼたんに声をかけられると、無言のままふり返る。
「………なんだ」
「私達、これから買い物に行くんだけど、一緒に行かないかい?」
「行かない」
「ありゃ…」
いっさい考えもせず、間髪入れずに断ってきたので、ぼたんは肩を落とした。
「そんなこと言わずに行こうよ」
「そうですよ、瑠璃覇さん」
そこへ、今度は静流と雪菜が誘ってきた。
「私は……お前達と馴れ合う気はない」
それでも、冷たい言い方で再度断る。
「まあまあ瑠璃覇」
「蔵馬」
「そんなこと言わずに行ってきたら?たまには息ぬきも必要だし。オレ達以外の人間との交流も必要だよ」
「…………」
そこへ、蔵馬が瑠璃覇に話しかけ、母親のようなことを言って説得(?)をした。
「ほら、行こう」
「そうそう。たまには付き合いなよ」
瑠璃覇の隣に温子とぼたんがやって来て、瑠璃覇の腕をつかむと、強制的に、ホテルの中にあるおみやげコーナーまで連れていった。
瑠璃覇は不安げに蔵馬を見るが、蔵馬はその光景を見て、微笑ましそうににっこりと笑った。
ちょっと力を出せば、彼女らなど簡単にふりほどけるのだが、瑠璃覇はそうすることなく歩いていく。
おみやげコーナーに着くと、彼女達は、各々好きな場所を見てまわっていた。
「きゃあーー。この服かわいい~~」
洋服コーナーでは、螢子が自分の好みの服をみつけ、鏡の前で自分にあてていた。
「あ、こっちのワンピース、瑠璃覇さんに似合うんじゃないですか?ほら」
螢子は、わざわざ離れた場所にいる瑠璃覇のところまでやってきて、自分が手にしたハイネックの真っ赤なワンピースを瑠璃覇に見せた。
体のラインにそったものなので、腰の部分は細く、首元には白いリボンがついている、シンプルではあるが、どこか大人っぽさがあるものだった。
螢子は瑠璃覇が何も答えていないのに、そのワンピースを瑠璃覇の体にあてる。
「素敵!やっぱ瑠璃覇さんて綺麗だから、なんでも似合うんですね。これを着て、蔵馬さんとデートとかしてみたらどうですか?」
「着るものには困っていない」
そっけなく返せば、今度はぼたんが、大量のお菓子を持ってやって来た。
「ねえねえ瑠璃覇ちゃん、案内人仲間にお茶菓子を買ってこうと思うんだけど、これでいいと思うかい?」
「別に……なんでもいいんじゃないのか?」
「そう…」
またしてもそっけなく返すと、今度は温子、静流、雪菜がやって来た。
「瑠璃覇ちゃん、お酒とか飲む?私たくさん買ったから、少しわけたげよっか?」
「このアクセサリーなんか、似合うんじゃないのかい?美人だし、肌も白いからね」
「瑠璃覇さん、このかばんも、とっても素敵ですよ」
三人は、瑠璃覇が返す隙もないくらいに、こぞって話しかけてくる。
それを見ていた瑠璃覇は、突然笑い出した。
「る…瑠璃覇ちゃん?」
「どうしたんですか?」
突然笑い出した瑠璃覇を見たぼたんと螢子は、ふしぎそうに声をかける。
「いや、お前達があまりにもバカすぎるから」
「え…バ、バカって…?」
いきなりバカと言われたので、全員どう返したらいいかわからず、ぼたんはどういう意味なのか問いだす。
「どうせお前達……私が昨日、コエンマから真実を聞かされて、落ちこんでるとでも思ったんだろ。「あの話は、あまりにも残酷だ」「かわいそう」「元気づけてあげたい」とでも思ったんじゃないのか?」
「な、なんでわかったんだい?」
「私は今まで数えきれないくらい、いろんなヤツを見てきたからな。人が考えてることは、大体わかる」
「そうなんですか…」
「それに、わざとらしいんだよ。お前達の話し方も、接し方も、テンションもな。
特にぼたん」
「え…。わ…私?」
遠まわしに、自分が一番演技がヘタクソだと言われ、ぼたんは焦りながら、自分を指さす。
「お前達はバカだな。幽助達と同じくらい」
そう言いながらも、瑠璃覇は軽く微笑み、おみやげコーナーから立ち去っていった。
《本日、3時10分の直行便をもちまして、首縊島発の旅客船業務は、全て終了致します。お客様は、くれぐれもお乗り遅れのないよう、お気をつけください》
ホテル内に、旅客船業務に関するアナウンスが流れていた。
「瑠璃覇……」
四人は、ラウンジでコーヒーを飲みながら女性陣を待っており、そこへ、瑠璃覇が一人だけで戻ってきた。
「一人?みんなは?」
「まだみやげをみてる」
「そっか…。瑠璃覇、もっと…みんなと一緒にいてよかったのに」
「人付き合いは苦手だ」
「そう…」
瑠璃覇は蔵馬と幽助の間にすわると、近くにいた給仕にコーヒーをたのんだ。
注文したコーヒーは5分もしないうちにきて、それから他愛のない話をしながら、女性陣が来るのを待っていた。
「かーーー、もう!!女どもは一体何やってんだよ?」
けど、何十分経ってもなかなか来ないので、桑原は少し苛立っていた。
「いろいろ身支度があるんですよ」
「パタパタと厚化粧するようなヤツはいねーはずだがなァ。うちのねーちゃん以外はよ」
「なーんかあたしのこと言った?」
「だひゃあーーーーー!!」
急に後ろから声をかけられた桑原は、驚いて跳びあがる。
それを見た蔵馬は、落ちついた動作で席を立ちあがり、桑原は、蔵馬がすわっていた席についた。
「あ、いやいやいやいや…。うちの姉ちゃんはいつもきれいだなって…」
「このおー!!」
しっかりと桑原が言っていたことが聞こえていたようで、静流は桑原を怒った。
「「「おっまたせーー」」」
そこへ、他の女性陣がやって来た。
「おせーんだからよォ」
「ほーら」
幽助が文句を言ってると、静流は買ってきたおみやげや荷物を、当然のように桑原に投げて持たせる。
「え…?あ…あちきに…持てと?」
「当然だろ。さ、雪菜ちゃんも持ってもらいなさいよ」
「喜んで」
「ありがとうございます」
他ならぬ雪菜の荷物ならと、桑原は目を輝かせて、雪菜の荷物を持とうと立ちあがった。
「いえー」
「はい」
桑原が雪菜の荷物を受け取ろうとすると、雪菜より先に、ぼたんが自分の荷物を出してきた。
「あのな…なんでオレがお前の…」
「持てるんだからいいじゃないの」
桑原がガクッと肩を落としていると、その上をプーが飛んできた。
それを、幽助が片手でつかまえ、螢子に渡す。
「こいつはお前が持ってろよ」
「うん」
「武術大会優勝者が、そんなもん持ってたら、いい笑いもんだぜ」
「プー!」
「かわいいのにね、プーちゃん」
幽助が言ったことに怒ったプーを、螢子は愛しそうに抱きしめた。
ホテルを出ると、船の停泊所まで行き、船を待った。
「ようやく、この島ともおサラバか」
「長かったモンなあ」
「いろいろあったしね…」
ぼたんがしんみりしながら言うと、桑原があわててぼたんの口をふさぐ。
「このスダコが。みんな気ィつかって、ばーさんを思い出さないようにしてんだからよォ」
「ごめんごめん」
幽助に聞こえないように小さな声で言うと、ぼたんはハッとなり、あわてて謝る。
その時、船の汽笛が響いた。
「おっ、きたきた。船が」
桑原はぼたんの口から手を離すと、再び前を向く。
「よし、行くか」
「ああ、行こうか」
「行かれますか」
「行くとしましょう」
「さっさとな」
「いざ!!凱旋!!」
「「「「おーーーー!!」」」」
幽助が声をかけると、幽助とぼたんは拳をあげて、それ以外の者も拳をあげてはいないが、瑠璃覇と飛影以外、みんな微笑んでいた。
「おいおい、なんて冷たいんだろーね」
「え?」
「その…声は」
聞き覚えがあるが、ここにはいるはずのない、ありえない人物の声が聞こえたので、全員後ろへふり返った。
「年寄りをおいて帰る気かい?」
そこには、死んだはずの幻海が立っていた。
「ば…」
「幻海しはーーん!!」
「ばーさーん」
幽助が驚いていると、ぼたんが幻海に駆け寄っていった。
ぼたんに続き、みんな次々と幻海のもとへ走っていく。
ただ一人、幽助だけが驚いたまま固まり、その場に立っていた。
「勝手に人の墓を作るんじゃないよ。ボォケぇえ」
「ば…ばーさん」
一人その場で固まって立っていた幽助は、幻海に毒をはかれてようやく覚醒する。
「ばーさぁあーーーん!!」
そして、うれしさのあまり、幻海のもとへ走っていった。
幻海が来てしばらくすると、船は港につき、幽助達は船に乗りこんだ。
時間になると、船は汽笛を鳴らし、出航した。
みんな、この島に来る時とは違い、おだやかな顔で、段々と小さくなっていく島を、船の上で眺めていた。
こうして、暗黒武術会は浦飯チームの優勝で幕を閉じた。
しかし……左京の邪悪な野望を受け継がんとする者が、ただ一人あの島に残っていたことを……
今の幽助達は、知る由もなかったのだ………。
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