第六十一話 一番に望むもの
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「「浦飯選手の勝利でーす!!」」
樹里と小兎が手をあげ、口をそろえて幽助の勝利を宣言する。
「よって、暗黒武術会優勝は、浦飯チームに決定しました!!」
幽助が戸愚呂を倒したことで、優勝チームは浦飯チームとなり、そのことを小兎が告げた。
「ついに…戸愚呂を倒した」
「フン。かなり手間取ったがな」
「とにかくよかった。幽助が勝って…」
「ここまで…ここまで、幽助が成長していたとは……。よくやったぞ」
幽助が勝ったことに、瑠璃覇達は喜び、同時に安堵していた。
なんとか立っていた幽助だが、肩で荒い息を数回くり返すと、力がぬけ、そのまま倒れた。
第六十一話 一番に望むもの
「幽助!!」
それを見た蔵馬達は、幽助のもとへと走っていく。
「しっかりしろ。大丈夫か?」
幽助のもとに来ると、蔵馬は幽助の体を起こした。
「勝ったぞ幽助!!キミが勝ったんだ!!」
「………オレ…生きてんのか…」
「そうだ!!お前が勝ったんだ。見事な戦いだったぞ」
幽助が顔を上げると、地面に倒れている桑原が目に映った。
「くっ……」
桑原の姿を見ると、悔しそうな顔でよつんばいになり、地面の土をにぎりしめる。
「ち…く…しょお…。ちくしょお。ちくしょお!!」
桑原の死を嘆き、守れなかったことに悔しい思いをしている幽助を、瑠璃覇達は静かに見ていた。
「オレが…オレが不甲斐ないばっかりに、桑原を…」
幽助の脳裏には、桑原の最期がよぎっていた。
後悔や悲しみといった感情が、幽助の中を支配する。
思い出すのは、桑原のことばかりだった。
「桑原に…桑原に何て言えばいい!?あいつを見殺しにしちまったオレは…」
「幽助…」
「あいつは…オレの目の前で死んでいった。オレは…オレは、何も出来なかった。オレは…あいつに、なんて言ってやればいいんだよ。桑原ァ…」
幽助は悲しみで目から涙があふれ出て、悔しさのあまり地面を一回たたいた。
「桑原…」
幽助が桑原の名前を呼ぶと、それに反応するかのように、目の前で倒れている桑原が立ちあがった。
「ヘーーイ、バックライス。浦・飯。なんちって!アハハハハ!」
そして、両手でピースサインをしながら陽気な声でしゃべりだすと、幽助ははっとなる。
顔を上にあげれば、桑原がいつもの調子でおどりながら笑っていた。
「よお、元気ぃ?桑原ちゃん…だよ~~ん」
とても、戸愚呂に胸をつらぬかれ、流血したとは思えないほどに、いつも通りの元気な姿だった。
「え…えー!?」
目に涙をため、鼻水をたらしながらも、何がなんだかわからないこの状況に、幽助は鳩が豆でっぽうをくらったような顔になる。
「えーーっ!?あ…お…お…」
状況がつかめていない幽助は、うまく言葉を発せず、驚きながら桑原を指さし、わけがわからないといった感じに、答えを求めるように、蔵馬の方を向いた。
「幽助…すまん。彼はもともと死んじゃいなかったんだ」
「にゃにゃにゃにゃんだとお~~~!?」
「れ~~~せ~~いに聞いてくれよ」
「えええええ?」
桑原を死なせてしまったことを悔やんでいた時よりも、大量の涙と鼻水を流している幽助。
そんな幽助に詰め寄られ、蔵馬はたじろいだ。
「そう、あの時…」
蔵馬は、先程の戦いで…桑原が戸愚呂に胸をつらぬかれた時のことを語りだした。
「桑原くん!!しっかりしろ、桑原くん!!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ。急所には届いてねェ…。浦飯には……だまっとけ。ショック療法も…いいかもしれねェ…」
そう…桑原は、今まで死んだふりをしていただけだったのだ。
「……と、いうわけだったんだ」
「なあ?大正解だろ?」
「みんな、知ってたのか?」
「ワシゃあ…まずいんじゃないかな~っと思ったんだがな…」
「瑠璃覇!お前、「こんな嫌な思いをしないですんだ」って言ってたのは、演技だったってのかよ!?」
「あたり前だろ」
「くっ…。みんなでオレをハメやがって」
悪びれもせず、シレっとした態度で瑠璃覇に返されると、幽助は、先程とは違う意味で涙を流した。
「フン。もとはお前がだらしないからだろう」
「うん。そういう理屈も成り立つな」
「自分でも言ってたように、初めからあの力を出していれば、こんな茶番は……」
飛影がしゃべってると、途中から何かを殴る音が響いた。
顔をあげると、そこには幽助と桑原の姿がなかった。
「フフ。あっち」
蔵馬が指差した方を見てみると……
「桑原ァ!!コノヤロー!!オレをだましやがってェ!!」
そこでは、幽助が桑原をボコボコにしていた。
「だ、だからあれしか方法が…」
「おうおう、元気じゃねーか!!てめーはオレが殺してやるゥ!!」
「ああー!!いて!!死ぬ!!あぁー!!マジでやめろよ。……雪菜ちゃーん!」
「お前ら…」
それを見た飛影は呆れ顔になる。
上では、女性陣が桑原の無事を喜んでおり、その間も幽助は、桑原を殴ったり蹴ったりしていた。
「幽助、いい加減にやめんと、本当に桑原が死んでしまうぞ」
誰も止めずに見ている中、コエンマが幽助を止めた。
幽助はコエンマに止められると、桑原を殴ってる手を止め、桑原の服を離す。
手を離されると、桑原は仰向けに倒れた。
「そういや…何で戸愚呂は…桑原を殺さなかったんだ?」
「そう言われてみりゃあ…そうだな」
疑問に思ったことを幽助が口にすれば、復活した桑原もそれに同意した。
「戸愚呂が、あのままオレの急所をえぐってりゃ、オレはおだぶつだったんだ…」
「きっと桑原の防御力が予想以上に上がっていて、心臓を貫ききれなかったんだろう。あきらめの悪さだけはピカ一だからな」
「ほめねー奴だな、てめーは」
ほめてるのかけなしてるのかわからないセリフに、桑原は噛みつく。
「よくわからないけど………戸愚呂は、はじめから、桑原君を殺す気がなかったんじゃないかな…。オレには、彼がずっとこうなることを待ってたような気がしてならない」
「こうなること?」
「本当に強い者が、自分を倒してくれることを…」
「どうして?」
「仲間を捨ててまで強くなった自分が、むなしかったのかもしれん」
「だから、仲間を信じる者に倒されたかったのかもしれない。悪役を演じ続けてでも…」
「今となってはわからんことだがな……」
「多分、蔵馬君の言ったのが正解だろうな」
「左京」
幽助達が話していると、そこへ、左京が幽助達のところまで歩いてきた。
「奴とのつきあいは数年程度だが、今思えば、確かにそんなところがあった。戸愚呂が浦飯くんに出会った時、近年にない喜びようだった。戸愚呂は待っていたのかもな。浦飯くんのような男が現れるのを。最高の舞台で、望みうる最高の相手と戦い、望み通りの結末を迎えた。
コエンマさん、かけは私の負けだ。潔く認めよう。敗因はまあ、戸愚呂の本質を見ぬけなかったこと…とでも言っておきましょう」
「もういい。ワシゃあお主の命などいらんよ」
「いけませんね。負けをチャラにしてもらうなんざ、ギャンブラーとして最低。きっちりとカタをつけさせてもらいますよ」
そう言って、左京はポケットからリモコンを取り出すと、スイッチを押した。
すると、急にドーム全体が激しく揺れだし、ドーム全体に亀裂が入った。
「な…なんだ?」
そのことで幽助達は、何事かと思い、周りを見回した。
《自爆スイッチ始動。爆破マデ、アト15分。爆破マデ、アト15分》
今のは爆破スイッチで、会場内に機械の声のアナウンスが響いた。
それを聞いた観客達は、冗談じゃないとばかりに、いっせいに逃げだした。
「ドームはまもなく爆発する。私と、私の野心もろともにね」
「き…貴様」
「なんてことを…」
「これで、かけの清算をさせてもらいますよ」
左京は踵を返して歩きだした。
「どこへ行く?」
コエンマが問うが、左京は何も答えず、選手入場門をくぐって会場の中へ行ってしまった。
《爆破マデ、アト13分。爆破マデ、アト13分》
ドームはどんどんと崩れていき、観客席では、ぼたんがおろおろしていた。
早く逃げなきゃ、自分達は死んでしまう。
しかし、半分失神してしまっている螢子を置いたまま、逃げることはできなかった。
その間にも、大きな瓦礫が落ちてきたり、床が崩れ落ちたりしていた。
「螢子!」
「お前達はあいつらを」
「コエンマ、オメーはどうすんだ?」
「左京ともう少し話が残っている」
「頼んだぞ」
幽助が無言でうなずくと、コエンマは左京の後を追って走り出した。
「オレ達も行くぞ」
「ああ」
けど、戸愚呂との戦いで力を使いきってしまった幽助は、体がふらついて倒れそうになるが、そこを蔵馬が支えた。
「大丈夫か?幽助」
「ああ…」
蔵馬の質問に短く答えると、幽助は戸愚呂に目を向けた。
「あばよ、戸愚呂…!」
戸愚呂に笑みを向けると、幽助達は女性陣のもとへ向かった。
「まだこんなに残ってんのかよ。これじゃ、雪菜さんのところに行けねェじゃねェ………
あっ!!雪菜さんが!!」
女性陣のところへ行こうとするも、逃げていく妖怪達が自分の前を横切って走っているので、かき分けながら向かおうとするが、なかなか進めずにいた。
その時、上の方に目を向けると、そこにはぼたんと一緒に螢子を起こそうとしている雪菜の姿があった。
「危ねェーーーー!!」
雪菜のピンチに、桑原はすごい勢いで走りだした。
「どけどけてめーらァァァ。オレの邪魔だてする奴は、容赦しねェぞおおお!!」
そして、妖怪達を殴りとばしながら、雪菜のもとへ走っていった。
そんな桑原を見て、幽助達は呆然としていた。
「なんなんだ、あいつは」
「とにかく、彼について行こう」
蔵馬がそう言うと、四人は桑原の後を追いかけた。
「何何何よもーー。何も爆破することないじゃないの。出口どこ!?早く逃げるわよ」
「螢子さん、しっかりしてください」
「螢子ちゃん。螢子ちゃんってば。お~~い。正気に戻っとくれよ」
雪菜とぼたんが、何度も螢子を起こそうとするが、螢子はあさっての方向を見たまま反応しなかった。
「ダメだ。焦点があってない。すぐには無理かもしれない。螢子ちゃん!!螢子ちゃん!!」
「困ったわ」
ぼたんが、名前を呼びながら激しく揺さぶっても、螢子は動かなかった。
「雪菜さーーーん!!」
その時、雪菜の後ろから桑原の声が聞こえたので、雪菜が振り向くと、そこでは桑原が手をふっていた。
「雪菜さん!!こっちです。早く早く!!」
「和真さん、私より螢子さんを。半分失神してしまってるんです!!」
「あっ」
雪菜は桑原のもとへ行きながら、桑原に螢子を助けるよう求めた。
すると、雪菜が立ってる横の壁にひびが入り、雪菜の方へ倒れてきた。
「きゃああっ」
大きな壁が自分の方に倒れてきたので、雪菜は悲鳴をあげた。
「あ……雪菜さーーん!!」
桑原はあわてて雪菜のもとへ走りだす。
「あ…あー!!」
雪菜は、間一髪のところを飛影に助けられていた。
「ボヤボヤするな」
「は…はい。ありがとうございました」
それを目にした桑原は、雪菜が無事だったのはいいのだが、自分が雪菜を助けられなかったことと、よりによって飛影が雪菜を助けていたことに悔しがり、両手の拳を強くにぎりしめた。
《爆破マデ、アト8分。爆破マデ、アト8分》
「どうした?大丈夫か?」
そこへ、ようやく幽助が、瑠璃覇と蔵馬に支えられながらやって来た。
「幽助、螢子ちゃんが」
「何!?」
全てを言っていなくても、幽助はよくない状況だというのを察し、瑠璃覇と蔵馬から離れて螢子に近寄っていく。
「螢子ちゃんが、あさっての方見たまんま動かないんだよ」
「螢子」
幽助は螢子の隣に来ると、顔を近づけ、螢子の名前を呼んだ。
「おい螢子。しっかりしやがれ!!」
そして、螢子の胸ぐらをつかんで、前後に揺さぶる。
「オレが勝ったぞ!!おい!!螢子!!」
けど、それでもピクリともしなかった。
「っちゃあ~~~~めんどくせェ…。
えーーい。急げコラァ!!目ェ覚ませ!!オラオラァ」
もう、強制的に起こそうと、幽助は螢子に往復ビンタをし始めた。
「…った。いったいってもう!!」
すると、螢子は反応を示し、拳をにぎった。
「いたいわね、このバカーー!!」
正気に戻ると、螢子は幽助に、強烈なビンタをかました。
その勢いで、幽助は床に思いきり顔をぶつけ、気絶してしまう。
「あら?私どーしたの?ここは?あれ?……ゲッ!!」
「お…おい…」
気絶してる幽助を見て、螢子も桑原も顔が青ざめ、桑原は幽助の顔を、指でつついた。
「今度は幽助か……」
せっかく螢子が起きたというのに、次は幽助が気絶してしまったので、瑠璃覇はため息をついた。
「いってーな!!何しやがる、このアマ!!」
「あんたが先にやったんでしょーが!!」
けど、毎度のことなのでなれているのか、あっさりと復活した。
そして、これも毎度のことながら、すぐにケンカになってしまう。
「あっ!」
二人がケンカになると、突然ぼたんが短く悲鳴をあげた。
自分達の上の屋根が、自分達のもとへ崩れ落ちてきたのだ。
しかし、それを瑠璃覇が、風の結界をはって防ぐ。
瓦礫ははじきとばされ、全員無事だった。
「さすがだぜ、サンキュー瑠璃覇」
「助かったよ~。ありがとう、瑠璃覇ちゃん」
「ありがとうございます、瑠璃覇さん」
「問題ない…」
幽助だけでなく、ぼたんや雪菜にも礼を言われるが、瑠璃覇は背を向けてそっけなく返す。
「にしても、やっぱスゲーよな、瑠璃覇は」
「別に…」
「あ、やっぱあれか?おめー、今回は戦ってないどころかなんにもしてねーから、妖力がありあまってるんだな。アハハハハ」
デリカシーのないことを言われた上に、大声で笑いとばしてきたので、瑠璃覇は振り向きざまに、鋭い目で睨みつけ、それと同時に腕をふって、幽助を裏拳で殴りとばした。
幽助は殴られるとふっとんでいき、壁にめりこんでしまう。
「余計なこと言うからだぜ」
「バカな奴だ」
桑原と飛影は、呆れながら幽助を見た。
「ってーー!!何しやがる!?」
「お前が嫌なこと言うからだろ!!」
「嫌なことだァ?本当のことだろ!!」
「それが嫌なことなんだ!!」
またしてもあっさりと復活した幽助は、今度は瑠璃覇に噛みつく。
プライドが高い瑠璃覇にとって、先程の幽助の発言は許しがたいものだが、幽助はただ正直に言っただけだったので、殴られる理由がわからなかったのだ。
「だからって、あんな強く殴んなくてもいーだろが!!」
「お前があれしきで死ぬか!!バカのくせに」
「あんだァ!?バカはかんけーねーだろ!!」
「大アリだね。バカは死なん」
「死ぬだろ!!確実に!!バカ関係なく!!」
「いーーや!!バカは死なんな。実際お前は、戸愚呂に殺されそうになりながらも死ななかっただろう」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
もう、これ以上言い返す言葉がなくなったために、幽助は悔しそうに歯を噛みしめた。
《爆破マデ、アト5分。爆破マデ、アト5分》
「げげっ、もう時間がねえ!!」
ドームの爆発まで、もう5分をきってしまったので、桑原はあわてた。
「瑠璃覇、おめーの風の移動術でなんとかなんねーか?あれなら、一発で外に出られっだろ」
「ムリだな」
「なんでだよ?」
「今のレベルでは、全員を外に移動させられない。あの技は、結構妖気を消費する。あれは…移動できる距離や使える回数が、その時の妖力値に比例するもの。今のレベルじゃ、一日に三回。一度に二人が限度だ。例え、一回で移動させようとしても、それでは誰かを置いていく形になる」
今はケンカをしてる場合じゃないと、いがみあうのをやめ、瑠璃覇に助けを求めるが、あっさりと拒否されてしまう。
「それなら、妖力を解放すりゃあ…」
「ムリだ」
「ちょっとくれー大丈夫だろ。コエンマも許してくれるって。人助けなんだからよ」
「ムリなもんはムリだ」
「なんでだよ!?」
自分が提案をしても、頑なに拒否をする瑠璃覇に、疑問をぶつける。
「幽助、瑠璃覇は本来は、かなり強い妖力を持っている。例えば、全員運べるくらいに妖力を戻したとすると、それだと、あまりに強い妖力故に、オレ達もろとも、ドームごと消し去ってしまう。瑠璃覇が拒否をしたのは、そういう理由からなんだ」
そこへ、助け舟を出すように蔵馬が口をはさむと、幽助は何も言えなくなってしまう。
「とにかく、ごちゃごちゃ言ってないで、ここから出るぞ。走れっ!!途中フォローはする。いざとなったら、風の結界で爆発を防ぐ。行くぞ!!」
瑠璃覇が先陣をきって走り出すと、蔵馬は再び幽助を支え、みんなで出口へ走り出した。
《爆破マデ、アト3分。爆破マデ、アト3分》
会場内を走っていると、アナウンスとサイレンが鳴り響く。
もう、あとわずかな時間となってしまった。
「な、なんだなんだ?」
しばらく通路を走っていくと、人だかりができていた。
「どーけどけどきやがれェェェ!!」
瑠璃覇達五人がすごい勢いで走っていけば、妖怪達はそれをよけた。
「おっ」
走っていくと、その先にはたくさんの瓦礫が落ちていて、通路が塞がれていた。
「道が塞がってる。どうする?」
「仕方ねェ。ふっとばす」
「幽助、君はやめとけ」
戸愚呂との戦いで、かなり疲労している今の状態では危ないと判断し、蔵馬は幽助を止める。
「バカヤロー。おめェ達だって…」
しかし、それは蔵馬や桑原、飛影にも言えることだった。
《爆破マデ、アト2分。アト2分》
「ダメだよ。他の通路にまわる時間はないわ」
「くそォ……」
これで万事休すかと思った時、後ろから竜巻がとんできた。
「瑠璃覇!!」
幽助が後ろにふり向くと、そこには瑠璃覇が手を前に出して立っていた。
その竜巻を放ったのは、もちろん瑠璃覇で、瑠璃覇は矢を放つように、竜巻を横に放って瓦礫を破壊したのである。
「うおおお!!」
幽助、蔵馬、桑原が瑠璃覇に礼を言おうとした時、瓦礫の向こう…瑠璃覇達がいる反対側の方から、叫び声が聞こえてきた。
何事かと思い、瑠璃覇達は、声がした方へ顔を向けた。
「あっぶねー。死ぬかと思ったぜ」
「何しろ、魔界屈指の実力者と言われてる、瑠璃覇の技だかんね」
そこには、酎と鈴駒、陣や凍矢が立っていた。
「ああっ!!」
「浦飯ィ!!」
「おめーら」
「助けに来たんだが……どうやら、瑠璃覇が竜巻で穴をあけちまったみてーだな。見せ場なくしちまったぜ」
「せーっかく、オラ達が穴あけて助けようと思ったのにな」
「まあ、すべてはタイミングだから仕方あるまい」
「それはそうと、早く来いや。大会のヒーローに、こんなとこでケガさせられねェぜ!!」
「そうだ。おめ達はオラ達の目標だからな。次の大会で、必ずやっつけるだべ」
「ああ、またやろうぜ」
幽助は親指をたてて再戦の約束をすると、蔵馬に支えられながら、そこから走りだした。
そして、他の者達も、いっせいに走りだす。
「ぷ~~」
「プーちゃん」
走っていると、後ろからぷーの声がしたので、その声に螢子が振り向くと、後ろからプーが飛んできて、螢子の腕の中におさまった。
「もう、どこ行っちゃってたのよ?」
「プ」
螢子に抱きしめられると、安心したように、プーはにっこりと笑った。
「螢子ちゃん。早く!!早く!!」
「はい!」
もう時間がないので、ぼたんが螢子を呼ぶと、螢子はプーを抱きかかえて走りだした。
《爆破マデ、アト30秒。爆破マデ、アト30秒》
とうとう1分をきってしまったが、幽助達は、なんとかドームの外に脱出した。
《5・4・3・2・1…》
残り5秒になると、カウントを始めた。
なるべくドームから離れようと、全員急いで、全速力で走っていく。
そして、カウントが0になると、すさまじい爆発音が響き渡り、暗黒ドームは跡形もなく崩れ落ちた。
「コエンマ」
そこへ、爆発に追われるように、間一髪のところで、コエンマとジョルジュが走ってきた。
ドームから爆発音が鳴り続け、崩れ落ちてもなお、幽助達はドームを見続けていた。
「終わったな……」
「ああ…終わった」
「あーーーーーーーーーーー!!」
感傷にひたっていると、急に温子が大きな声をあげる。
「優勝したら、それぞれ一つずつ望むものがもらえるんでしょ!?これじゃ、何にも叶えられないじゃないの」
温子が大声で叫んだのは、優勝賞品である望むものを、まだもらってないからだった。
「ゲッ…そーいやそーだ」
「でっしょ。招かれ損だわ!!」
「………いーよ、別に。どーせ一番の望みは、やつらにゃ叶えられねーしよ」
「一番の望み……あっ」
その時、みんなの頭を、幻海の姿がよぎった。
「おい、ばーさん。オレ達が勝ったぞ…。勝ったんだぞ!!」
幽助は空を見上げ、幻海に報告するように、空にむかって叫んだ。
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