第六十話 最後の戦い
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「くっ……」
戸愚呂はニヤニヤと笑いながら、よつんばいになっている幽助を見下ろす。
「もう一人くらい死んでもらうかね。おのぞみとあらば……」
幽助はゆっくりと立ちあがると、そこから消えて、一瞬で戸愚呂の背後に移動した。
「む」
そのことで戸愚呂は後ろへ振り向くと、動きが止まり、寒気を感じていた。
「なさけねェ。仲間一人、助けられねェよ…」
うつむいている幽助から、会場に広がるくらいの強大な霊気が放出される。
「今までの幽助の気じゃない!!」
それは、桑原が戸愚呂に刺される前の幽助の霊気とは、まるで違っていた。
「許せねー…。誰より、自分自身(オレ)を許せねーよ……」
幽助は虚ろになり、悲しげな目をしていた。
「ふっきれたな」
第六十話 最後の戦い
戸愚呂は、幽助から寒気を感じとっているの認めていた。
だが、これは恐怖ではなく、不安と期待が、等しく全身を支配しているというものだった。
そして、初めて勝敗の見えない戦いに身をおけるかもしれないと、高揚していた。
かつてない緊迫感。これこそが戸愚呂の望む戦いだからだ。
「そしてお前も、こうなることを望んでいた!!
感謝してもらおう、浦飯!!お前は今、確実に強い!!オレと同じ強さの境地に近づきつつあるのだ!!」
戸愚呂は戦いを再開すべく、幽助に向かって走りだした。
「あんたと………同じ……?
違う。違う!!」
「どこが違う!!?」
幽助の前まで来ると、戸愚呂は幽助を殴りとばした。
その衝撃で、幽助はふっとんでいく。
「立て!!それほど効いていないはずだ!!オレの殴る力は同じ!!しかし、お前の受けたダメージは小さくなっているはずだ!!それが強さでなくてなにかね!?」
「……………確かに、体は前ほど痛くねー」
壁に激突したものの、大したケガもなく、血も流れていなかった。
幽助は無気力のまま、体を起こす。
「確かに近づきつつある。二人の強さが」
「だが、二人は決定的に違う。きっと違う」
「ああ……。あいつは、たった一人で戦っている。でも…幽助は…」
戸愚呂が言ったことに同意するが、それでも幽助と戸愚呂の強さの違いを、蔵馬と瑠璃覇は見抜いた。
「心が痛むかね。くくくくくくく。"はしか"みたいなものだ。越えれば二度とかからない。今お前は、無力感に病んでいるのだろう!?強くなりたくないか!?もっと、もっとだ!!オレと同じ境地に!!他の全てを捨ててでも!!それが今だ!!強く信じろ。力が全てだと!!」
「オレは、あんたと違う。オレは捨てられねーよ。みんながいたから、ここまでこれたんだ」
幽助は戸愚呂が言ったことを否定し、悲しげな目で戸愚呂を見た。
「甘いねェ。甘い甘い甘い甘い!!
もうお前は、一人で十分なのだ。それがわからないかね!!」
否定されたことに、戸愚呂は激怒すると、浦飯チームのメンバーがいる方へ顔を向けた。
「……くくく。もう一人くらい、死んでもらうか。いや…全員殺した方がいいかな………」
その言葉に、幽助の眼が鋭くなる。
自分が言ったことを実行するべく、戸愚呂は浦飯チームのもとへ歩きだそうとした。
それを見て、瑠璃覇は手を前に出して構えをとり、応戦できるようにする。
だがその前に、戸愚呂は幽助に腕をつかまれ、阻止された。
「はなせ」
「オレは………どこかであんたに憧れてた。絶対的な力の差を見せつけられて、小便ちびりそうにビビリながら、その強さに憧れてたんだ。あんたの強さの正体もわからずに」
幽助の霊気の放出で、足もとの地面にひびが入る。
「全てをなげうってでも。そう思ってた…。ばーさんが何度も、何度も教えてくれたのに。
あんたが捨てたものの重みが…ようやく………わかりやがった」
そして、戸愚呂の手首をつかんでいる幽助の力が、どんどん強くなっていった。
「オレは捨てねーーー!!しがみついてでも守る!!」
放たれているすさまじい霊気で、周りの瓦礫が宙に浮いていく。
「(幽助……!!迷いがはれた!!)」
「……やはりお前は幻海の弟子だ。所詮、そのレベルなのだな」
「もう、誰もお前に殺させねーー。
そのために、てめーを倒す!!」
「フ、できるかね」
聞いた瞬間、一瞬で反対側にまわった幽助が、戸愚呂の顔を殴りとばした。
そのすさまじい威力に、戸愚呂の体はバウンドしながらふっとんでいき、リングと観客席をへだてている壁に激突すると、戸愚呂はその壁すらも越え、観客席に穴があくくらいまでめりこんだ。
「ぐはっ」
戸愚呂はすぐに体を起こすものの、その首は殴られた方向に曲がっていた。
そして、息つぐひまもないほどの早さで、今までよりも大きな霊丸が襲ってきた。
霊丸は、戸愚呂の頭上を通過し、闘技場の壁だけでなく、先程左京が出現させた、闘技場をかこんでいる壁をも破壊して、島や……海すらも越えていった。
今のすさまじい霊丸に、戸愚呂は呆然としている。
「次が最後の一発だ。オレの全ての力を、この一発に込める。あんたが魂を捨てた代わりに得た力全部…全部まとめて使ってかかってこい」
迷いのない、まっすぐな目で戸愚呂を見据え、戸愚呂を指さした。
「あんたの全てを壊して、オレが勝つ」
「いい目だ」
そんな幽助の目を見ると戸愚呂は立ちあがり、首をもとの位置に戻す。
「そんな目をして挑んできた奴の屍を乗り越えて、オレは勝ってきた。そんな時は、相手がどんなに弱くても全力を出したよ。
そして、今ならかつてない力が出せる!!
勝負だ!!」
迷いがはれ、目の前の敵(自分)を倒そうとする目をした幽助を見た戸愚呂は、決着をつけるべく、幽助のもとに向かって走りだし、幽助もまた、戸愚呂のもとへ走っていく。
「うぬああああ」
走りながら、戸愚呂は更に変形していき、ズボンの下の部分やくつが破けた。
「フルパワーー。100%中の100%!!!」
肩パッドのような筋肉が何重にもなり、肩の突起が増え、それが太くなり、ズボンやくつが破れるくらいに発達した太い筋肉。
変形したその筋肉は、もはや体の組織というよりは鎧のようで、戸愚呂は、元人間とは思えない風貌となっていた。
「何か一つを極めるということは、他の全てを捨てること!!それが出来ぬお前は、結局はんぱ者なのだ」
「………捨てたのかよ?逃げたんだろ?」
幽助は霊丸の構えをとった。
「(オレん中の全部の力よ、集まってくれ。ありったけの力で、この一発うちてーんだ。二度とうてなくなってもいい……!!オレはくたばってもかまわねェ!!)」
霊気を集中させ、今まで撃ったより、もっともっと大きな霊丸を撃とうとした。
幽助の指先には、今までの中で最大の霊気が集まっていった。
「(まだだ!!もっと力を出せーーー!!)」
「二人とも、すごいパワーだ。今までより、何倍も強い…」
「全生命力を…!!」
「幽助!!」
「うおお。くらいやがれ!!」
戸愚呂が目の前に来ると、幽助は今までで最大の霊丸を撃った。
「ぬううううんン」
戸愚呂は霊丸を片手で受け止める。
「ぐああああ」
だが、体がきしみ、切れて血が出たので、とても片手だけでは太刀打ちできそうにないくらいのすさまじい威力なので、もう片方の手を使って防御にまわった。
「戸愚呂が両手を!?」
「初めて完全に防御に回った!!」
「いけるか?」
今まで、ずっと攻撃ばかりで、幽助の攻撃をくらっても平気な顔をしていた戸愚呂が、防御にまわったので驚いていた。
後ろでは、観客達が幽助に声援を送っている。
「決まってくれ!!」
「戸愚呂を倒してくれ」
「これが最後なんだ」
「幽助にはもう…反撃する力がない!!」
幽助は全霊気を使い果たし、ひざをついてしまった。
しかし、それでも霊丸の威力は死んでおらず、浦飯チームは幽助の勝ちを祈った。
「ぎ ぎぎぎっ」
戸愚呂は霊丸を破壊しようと、抱きつぶすように腕に力をこめた。その際に、体中から更に血がふき出す。
「がああーーーっっっーーー!!」
戸愚呂は力をふりしぼって、霊丸を両腕でかき消した。
それを見て観客達は、喰われてしまうと絶望的になった。
そして、なんとかひざをついて意識をたもっていた幽助は、地面に力なく倒れた。
「礼を言うぞ、浦飯…。こんな力を出せたのは初めてだ…」
今まで見てきた戸愚呂からは、考えられないほどのおだやかな笑みを、幽助に向ける。
礼を言うと、戸愚呂の全身の筋肉にひびが入った。
「100%を……越えたひずみ………か…」
その瞬間、戸愚呂の体中の筋肉が壊れ、はじけとんだ。
「他の誰かのために、120%の力が出せる…。それがお前達の強さ………」
戸愚呂は幽助と向かい合うように地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
それを見て、観客は安堵し、小兎は観客席から震える足でリングの方まで行き、樹里も瓦礫から顔を出すと、判定をするため、倒れた戸愚呂に近づいていった。
「うっ」
戸愚呂は、髪も体も、全身がまっしろになっており、まるでミイラのようになっていたので、思わず後ずさった。
「あっ…」
その時樹里は、小兎の後ろを見て驚きの声をあげる。
その声に小兎が振り向くと、そこには幽助が立っていた。
「幽助…」
「幽助」
「無事だったんだな」
「フン」
幽助が勝ったことに……そして無事だったことに、瑠璃覇達は喜んだ。
「「浦飯選手の勝利でーす!!!」」
幽助の勝ちが宣言されると、観客達から歓声があがった。
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