第五十九話 悲しみの試練
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「じょ、冗談じゃねーー。つきあってられねーぜ」
「早くここを出るんだ!!エサにされてたまるかよ」
「逃げろーーー!!」
今の状況に危機感を感じた妖怪達は、次々に逃げ出す。
しかし、突如会場の周りに出現した巨大な壁にはばまれ、出られなくなってしまった。
「か」
「壁が!?」
「壁がドームを覆っちまったーーーー!!」
「なぜ逃げるのかね?こんなすばらしいショーなのに。どうせゴミ同然の命だ。安いもんだろう」
壁を出現させたのは左京で、左京は唯一、この闘いを心から楽しんでいた。
「くそったれがーーーーーー」
「やられる前にやってやるぜーーーー」
一部の観客達は、やられるくらいなら先に自分が戸愚呂をやってしまおうと、戸愚呂に立ち向かっていった。
だが…無残にも、指弾だけであっさりとやられてしまう。
「エサはだまって見てろ。これはオレと浦飯の戦いだ」
「いっしょにすんじゃねーーーっ」
今の発言に頭にきた幽助は、高く跳ぶと、戸愚呂に向かって急降下していき、額にパンチを喰らわせた。
その衝撃で、地面が割れる。
第五十九話 悲しみの試練
「やはり憤怒か。幻海のときもそうだった」
しかし、その攻撃は、まったく効いていなかった。
「うおおーーーっ」
だが、幽助はなんとか倒そうと連続で殴りかかるが、その攻撃は、先程と同じく効いてはいなかった。
そして、何発か殴った時、殴るために突き出した拳をあっさりと受け止められ、つかまれてしまう。
「だが、まだまだ足りん」
「うあああ」
つかまれると、骨がきしむ、とても嫌な音がした。
その痛みに幽助は叫ぶが、戸愚呂は容赦なく、幽助の体を何発も何発も殴った。
「こ、このままじゃ喰われちまう!!」
「も、もう奴に頼るしかねーーー」
「ウラメシ、負けるんじゃねーーっ」
「奴を倒せ。倒すんだーー」
自分の命の危機を感じた観客達は、突然幽助の応援を始めた。
「勝手な奴らだ…」
「まったくだな」
ついさっきまでは、戸愚呂の応援をしていたというのに、自分の命の保身のために幽助の応援を始めた妖怪達に、飛影も瑠璃覇も不快感を示していた。
「あっ、螢子ちゃん!!」
その頃観客席では、幽助の今のひどい状況に、螢子は足に力が入らなくなり、その場にすわりこんでしまった。
「しっかりして!!幽助は絶対勝つって!!」
ぼたんが螢子をなんとかはげまそうと、声をかけた時だった。
「………やれやれ」
「え?」
その時、聞き覚えのある声が、ぼたんの耳に届いた。
「(今の声は…!?でも、まさか)」
まさかと思った。その声の主は、もうとっくに死んでいるのだから…。
側では、彼女達の上を飛んでいるぷーの目が光っていた。
場所は下の闘技場に戻る。
戸愚呂と戦っている幽助は、戸愚呂に腹を思いっきり強く踏みつけられた。
その衝撃で、幽助は口から血を吐いてしまう。
「くくく、どうした。動かないのか!?その格好で、皆が喰われるのを待つかね?」
そう言うと、戸愚呂はまた、観客席の妖怪達を喰い始めた。
「………うっ…どうやら、私も…最後までお伝えすることが……」
観客達が喰われていく中、小兎も力が抜けていき、力無くひざをついた。
幽助はなんとかぬけだそうと、戸愚呂の足を下から持ちあげようとするが、びくともしなかった。
「100%のオレは、以前のオレとは"別物"だ。お前の強さを引き出すためならなんでもするぞ。
こんなこともな!!」
戸愚呂は観客席に向かって、拳をふった。
それは、女性陣のすぐ横の壁に当たる。
「次は当てるぞ」
今のは、幽助をやる気にさせるため、わざとはずしたのだった。
戸愚呂は幽助を見下ろし、口角をあげて、嫌な笑みを浮かべていた。
「てめェ~~~!!」
そうさせてなるものかと、幽助は戸愚呂の足の下から脱出し、後ろに跳んで距離をとると、勢いをつけて戸愚呂を殴りとばした。
「うおあーーーっ」
攻撃は決まり、また殴りかかった。
だが、今度はあっさりと顔を殴られ、返り討ちにあった幽助は、リングと観客席をへだてている壁に激突する。
「まだだ。まだ足りんな。怒りだけでは不足のようだ」
「ぐあっ。ちっ…く しょお~~~」
あまりに力の差がありすぎて、幽助は戸愚呂には勝てないと絶望しかけた。
「だ……だめだ」
「もう終わりだ~~~」
「誰も奴にゃかなわねェよ」
「みんな喰われちまうんだ~っ」
頼みの綱である幽助さえも戸愚呂には敵わず、観客達は絶望し、涙した。
「な…んで。なんで、ここまでやらなきゃいけないの」
観客達がさわぐ中、螢子は半分意識がないままつぶやいた。
「くそったれ。てめーー、あたしが相手だ」
「温子さん。この周りから出たら死んじゃうんだよ」
「いーからはなしな」
側では、幽助がやられて怒り狂った温子が、無謀にも戸愚呂に挑もうとしており、それをぼたんが、温子の体を押さえて止めていた。
「18年とちょっとか…」
「静流さん、手伝ってよーーー!!」
もうすでにあきらめムードな静流に、ぼたんは手を貸すように叫ぶ。
「雪菜!ぼたん!」
その時、突然ぷーが二人に声をかけた。
しかも、それは聞いたことのある声で、今ここにはいないはずの、ありえない人物の声に、ぼたん達は目を丸くする。
「5人分の結界くらいはつくれるな?」
そう言いながら振り返ったぷーの顔は、幻海のものだった。
「そ…その声は…」
「幻海師範!?」
目を丸くして驚いているぼたん達に背を向けると、幻海は幽助と戸愚呂のもとまで飛んでいった。
「盛り上がってるとこ、ジャマするよ」
その声に、幽助のところまで歩いていた戸愚呂の動きが止まる。
「そ…の声は…ばーさん?」
「幻海…」
「戸愚呂…。幽助の、本当の底力を見たいんだろ。てっとり早い方法を教えてやるよ。
幽助(こいつ)の仲間を殺すことだな」
いきなりの残酷な言葉に、幽助だけでなく、他の浦飯チームのメンバーも、全員固まった。
「ば、ばーさん。いきなり何言い出すんだよ!?」
「今のこいつは、自分だけで真の力を引き出すことはできない。誰か一人くらい目の前で死ななきゃ、目が覚めないのさ。
どのみちこのままじゃ全員死んじまうんだ。一人が犠牲になることで、お前の実力が引き出されるんなら願ったりだろ」
「ふざけんじゃねェ!!」
今の発言にキレた幽助は、勢いよく立ちあがった。
「見損なったぜ、くそばばぁ。他のもんのために、誰か一人見殺しにしてめでたしってか。できるか、くそったれ」
幽助は幻海に怒鳴るが、幻海はぷーの大きな耳で、幽助の頭をたたいた。
たたかれて頭が下を向くが、幽助はすぐに頭をあげて幻海と顔を合わせる。
「これが、お前の首つっこんだ世界なんだよ、幽助。力のないもんは、何をされてもしかたがないのさ。それがいやなら止めるこったな」
「フッ……」
幻海が幽助に話をしていると、戸愚呂は幽助と幻海に指弾を撃った。
それは二人に命中し、幽助は倒れ、幻海はどこかへ飛んでいった。
「話はまとまったようだな。オレもそれは考えていた…。最後の手段としてな。お前が、自分自身の力すらコントロールできないほど未熟なら、それしかあるまいな」
「くっ、や…めろ」
幽助は血だらけでぼろぼろになりながらも、戸愚呂を止めようと、ふらふらしながら立ちあがろうとした。
「フ~ム」
戸愚呂は誰を殺そうかと、まるで品定めをするように、浦飯チームのメンバーを順番に見ていく。
「お前がいいな」
薄く笑って戸愚呂が指をさしたのは、桑原だった。
突然の指名に、桑原は固まり、目を見開く。
「浦飯の力を引き出すため、つまりはオレのために
死んでもらう」
言ったことを実行するため、戸愚呂は桑原に近づいていく。
「やめろ、戸愚呂ォーー!!」
幽助は勢いよく立ち上がり、その場を跳ぶと、後ろから戸愚呂を殴った。
だが、まったくびくともしないので、今度は戸愚呂の前に立つと、何度も殴り続けた。
「くそォーーー」
それでもダメなので、また次の攻撃をしようとする。
「ジャマだ」
しかし、その前に、戸愚呂はあっさりと幽助を殴りとばす。
その衝撃で、幽助は後ろにふっとんでいった。
「ぐっ。ちっくしょおーーー」
しかし、何度も何度も戸愚呂を止めるべく、立ち向かっていく。
その度に殴られ、傷つき、血を吐きながらも、幽助は攻撃をやめることはなかった。
桑原を護るために……。
それを見て、桑原は胸が痛んだ。
自分の命を護るために、傷だらけになって、血だらけになってまで、戸愚呂を止めようとする幽助に…。
「ヤツが仕掛けたら4人で攻撃するしかない。ヤツはもはや異常だ。自身の強さを、幽助にまで求めだしている」
「素手でか?お前、ろくに妖力も残ってないだろう」
「それは、黒龍波を使った貴方も同じことだ。それとも逃げるか?」
「ふざけるな。やってやるさ」
今の現状を見て、蔵馬と飛影は覚悟を決めていた。
「(幻海…。なぜ、あんなことを。本当に、幽助の力を引き出し、他の者を救うためだけか!)」
一方コエンマは、先程幻海が言ったことを疑問に思っていた。
幽助は、何度目かわからない攻撃を戸愚呂にするが、腹を殴られると、両ひざをつき、血を吐き、激しい痛みに顔をゆがめていた。
「がはっ。うぐぁ~~~」
「みじめだな、浦飯」
「うあああァ」
幽助は半分やけになったように、霊丸を撃とうとした。
けど、戸愚呂は一瞬で幽助の背後に回りこみ、幽助の隣に顔を近づけ、肩に手をまわした。
「お前は無力だ」
静かに言うと、そのまま幽助を地面にたたきつけた。
「(オレは…
無力ダ…)」
幽助の頭の中には、戸愚呂が言ったことが浮かんでいた。
桑原を助けるため、何度も何度も立ち向かっていったのに、攻撃が通用しない。
まったく歯が立たない。
自分は傷だらけ。血だらけ。
なのに、戸愚呂は無傷。ちりひとつついていない。
圧倒的な実力の差をみせつけられた幽助は、そのことで頭がいっぱいになった。
「ぐっ」
幽助は、そのままの体勢でうめき声をあげる。
「くるぞ」
再び歩き出した戸愚呂を見た蔵馬は構え、同時に飛影も構えた。
「「!!」」
その時、二人の前に、一本の腕が伸びた。
「瑠璃覇っ」
それは、瑠璃覇の腕だった。
瑠璃覇は、二人を止めるように、二人の前に立ちはだかっていた。
「瑠璃覇、何を?」
「一体なんのマネだ?」
応戦しようと構えたのに、それを止める瑠璃覇に、二人は疑問に思った。
「みんなは戦わなくていい」
その二人の疑問に、瑠璃覇は彼らに背を向けたまま答える。
「あいつは………私が倒すっ…!」
しゃべりながら蔵馬達に顔を向けた時の瑠璃覇は、とても力強い眼差しをしていた。
「あいつに対抗できるだけの力を、少しだけ解放する。安心しろコエンマ。一瞬ですむ」
「そういう問題じゃない。お前っ……」
コエンマが全てを言い終える前に、瑠璃覇は妖狐の姿に戻る。
「幽助を信じてないわけじゃない…。ただ……もう…嫌なんだ。大切な者を……目の前でなくすのが……」
瑠璃覇は16年前、もっとも愛する蔵馬の死を目の当たりにしている。
その時の思いを、この試合が始まる前に聞いた彼らは、瑠璃覇を見たまま固まった。
「私はもう……二度と失いたくない…。幽助のことは信じてる。でも、幽助を信じるだけで、もし誰かやられてしまったら、その時私は死ぬほど悔やむだろう……。信じたまま……後悔はしたくない…」
「瑠璃覇…」
「大丈夫だ。一瞬で片づける。みんなで一緒に帰ろう」
蔵馬が瑠璃覇の名前を呼ぶと、瑠璃覇はにこっと笑った。
「安心しろ。お前達は……私が必ず…護ってみせるっ…!!」
微笑みながら、強い意志をもった目で、蔵馬達をみつめた。
「待て!」
だがその時、桑原が声をかけ、瑠璃覇を制止した。
「オレ一人でいい」
そして、瑠璃覇の前に立った。
「桑原くん、何を…!?」
「みすみす殺される気か。貴様、考える力もなくなったのか?」
「お前は余計なことをするな。あいつは私一人で充分だ」
三人が口々に言うが、桑原がゆっくりと振り返り、何かを決意した目に、全員言葉を失った。
「コエンマ、あんた浦飯に命をかけてくれたよな。それに瑠璃覇……お前も、浦飯に命をかけようとしてくれたよな。オレもかけるぜ。しけた命だがな…」
「桑原」
「オレぁよ、根がとことん負けず嫌いでな。
蔵馬、飛影、瑠璃覇、手出しは無用だ。
花は桜木、男は桑原。ただじゃやられねェ!!一太刀なりと、奴に喰らわしてやるぜィ!!」
桑原は、戸愚呂に対抗するために、霊剣を出して構えた。
「よせ、桑原ァ!!」
幽助はひざをつきながらも、桑原を止めようとする。
「どりゃあああああああああああ!!」
桑原は戸愚呂に一矢報いるために、戸愚呂に向かって走りだした。
だが、戸愚呂は一瞬で桑原の前に移動すると、右手の指を桑原の左胸に突き刺した。
その光景に、幽助は頭の中がまっしろになる。
「浦飯ィ…」
戸愚呂が指を引き抜くと、桑原は弱々しい声で幽助の名前を呼び、口から血を吐き、刺された箇所を押さえ、ふらふらした足で幽助の方を向いた。
「てめェ…は、こんなモンじゃねェ…はずだろ?オレを、ガッカリ……させる…な……よ」
血を吐きながらも激励すると、桑原は力無く地面に倒れた。
桑原が倒れると、あわてて蔵馬達が駆け寄ってきた。
「桑原くん!!」
一番最初に桑原のもとに駆けつけた蔵馬は、桑原の腕を自分の肩にまわして、支えながら体を起こす。
「しっかりしろ!!桑原くん!!桑原……」
体を起こそうとするも、だらりとして、もう自分を支える力をいっさいなくした桑原は、起き上がることは不可能となった。
そのことがわかった蔵馬は、悲しみで体を震わせた。
「………こんなことなら……余計な話なんかしてないで……さっさとあの無礼者を…始末しておけばよかった。
いや……もっと前……決勝戦が始まる前にやっておけばよかった。幽助と幻海に、気をつかわなければよかった…。
そうすれば……」
蔵馬だけでなく、瑠璃覇も顔をうつむかせ、体を震わせていた。
「そうすれば…!!こんな……嫌な思いなど……しなくてすんだのに…!!」
戸愚呂をキッと睨んだ時の瑠璃覇は、悲しみと怒りと後悔が入り混じった表情になっていた。
幽助は、頭の中だけでなく目の前もまっしろになり、絶望に満ちた顔となった。
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