第五十七話 嵐の大将戦
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「あんな話、知らなかったですよ」
休憩が始まるとコエンマは、まだ瑠璃覇から不穏な空気が放たれていたので、いたたまれなくなって会場の中に入って行くと、そこで女性陣と会った。
コエンマと会うなり、いきなりぼたんが口を開き、先程の瑠璃覇と蔵馬の話をし始めた。
「蔵馬を襲撃したのは、実は、裏で瑠璃覇ちゃんを陥れようとしていたなんて、初めて知りました。それに、あんなこと瑠璃覇ちゃんが知ったら、コエンマ様やエンマ大王様だけでなく、私達も確実に、瑠璃覇ちゃんに殺されちゃいますよ。瑠璃覇ちゃんには、「自分が提案したわけじゃないから関係ない」は、通用しないですから…」
「そうですよ。瑠璃覇さんが、コエンマ様やエンマ大王様だけを標的にするとは、とても思えません」
ぼたんが言ったことに、同じ霊界の住人であるジョルジュも同意をする。
「あの時、コエンマ様を本気で恨みました」
「私もです」
「いや………返す言葉もない…」
先程のことをぼたんとジョルジュに責められ、コエンマはさすがに猛省した。
「でも…なんでですか?なんで瑠璃覇さんを、そうまでして追いこまなきゃいけなかったんですか?」
そこへ、霊界や魔界とは、まったくといっていいほどに関係のない螢子が、突如口をはさみ、疑問に思ったことをコエンマにぶつける。
「瑠璃覇さん、霊界に何か悪いことをしたんですか?そうじゃないなら、瑠璃覇さんがあまりにもかわいそうです」
「そうですよ。いくら極悪盗賊と言われているからって……。瑠璃覇ちゃんが、霊界に対して何かしたんですか?」
「そうそう。何かあるなら教えてくださいよ、コエンマ様」
「い…いや………実は……それが、とんとわからん」
予想外の答えに、ぼたんやジョルジュだけでなく、他の女性陣も目を丸くした。
「「は…?」」
そして、ぼたんとジョルジュは、間のぬけた声を出した。
「実は……ワシも親父に言われただけなのだ」
「だけって……コエンマ様…」
「それじゃあ、あまりにも無責任すぎますよ」
ぼたんやジョルジュは呆れながらつっこみ、この二人だけでなく、他の女性陣も呆れていた。
「確かに瑠璃覇は極悪盗賊と言われてるが、ワシらの管轄外で活動をしていた妖怪。それに、霊界にも人間界にも害をなしたという話は、いっさい聞いておらん。
それなのに、ある日突然、親父が瑠璃覇を追いつめると言ってきた。今まで、大して気にもとめていなかったのにな。
そこがわからんのだ」
実は、コエンマもエンマ大王に言われただけであり、何故、霊界が瑠璃覇と蔵馬を襲ったのかは謎だった。
「だが……それこそ瑠璃覇には通用しない。結果として、昔の蔵馬は亡くなった。人間に憑依して生きのびたとしても、前の姿ではなくなっている。特に……まだ頭に血がのぼっている、今の瑠璃覇には、話せんことだ……」
先程の話でも怒り狂ったというのに、こんな無責任なことを話せばもっと怒り狂ってしまうだろう。そう思ったコエンマは、このことは自分の胸ひとつにしまっておくことにした。
第五十七話 嵐の大将戦
それから、あっという間に10分がすぎ、ブザーが鳴り響いた。
《判定が出ました!!両者の意向を認めます!!この試合で勝った方に2勝を与え、同時にそのチームを優勝とします!!》
小兎が結果を伝えると、会場は盛りあがった。
「両者、前へ!!」
いよいよ最終戦が開始される。
樹里の合図で、幽助と戸愚呂弟はリングにあがった。
「二人とも、準備はいいですか?
それでは…」
「くくくくくくくくく」
樹里が開戦の合図を出そうとした時、どこからともなく、不気味な笑い声が闘技場に響き渡った。
「この声は…」
「まさか…」
瑠璃覇と蔵馬は、声の主に気づき、リングを睨みつけた。
樹里が声の主を探してキョロキョロしてると、突然樹里の目の前の石盤の破片が動き、中から戸愚呂兄が笑いながらとび出してきて、幽助と戸愚呂弟の間に降り立つと、幽助と向かい合った。
「クククク。今度の相手は貴様か?浦飯幽助」
「ゲゲ!!あ、あのヤロー、まだ生きてやがったのか!?」
「ククククク。さすがにさっきのは効いたぜ。つなぎあわせるのに時間をくっちまった」
「これは驚きです。桑原選手に粉々にされたはずの戸愚呂兄選手が、復活してきました!」
「これでてめェらの死は確実だぜ、ウラメシ。てめェは弟には勝てねェ。あの幻海でさえ負けたんだ!!幻海でさえな」
「ヤ…ロウ…」
戸愚呂兄の品のない発言に、幽助は戸愚呂兄を睨みつける。
「弟と決着をつける瞬間、幻海は確かに若がえった!!つまり、力を出しつくしても勝てなかったのさ。てめェより、なん倍も強かったのにな。
若い頃の幻海は、そりゃあいい女だったぜェ。何度オレの女にしてやろうと思ったかわからねェ。だが、それもうす汚くおいぼれてくたばっちまえば、おしまいよォ。浦飯よ、てめェも見たろ?幻海の最期をよォ。もうすぐ全員同じところへ送ってやるぜェ」
「や、やろォ、今度こそぶち殺してやるぜ」
「やめときなさい」
「止めるな蔵馬!!」
「場ちがいなクズはすぐ消える」
「何?」
「壇上のふたりがそう言ってる」
「えっ?」
蔵馬の発言に桑原は意味不明になりながらも、リングに顔を戻した。
「さあ、弟よ。オレを武器として使え!!なにがいい。剣か、ヤリか!?我ら兄弟がひとつになれば、向かうところに敵はない」
武器に変化する気満々で、戸愚呂兄が右手を横に伸ばした。
しかし戸愚呂弟は、戸愚呂兄の手をとることなく、すぐ後ろに来た。
「どけ」
「なんだと!?」
「ジャマだ、兄者」
短くそう言うと、戸愚呂弟は戸愚呂兄を蹴りあげた。
「き、貴様。じ、実の兄貴をォ~~~。共に武道のため魂を売ったこの兄を………!!許さんぞォーーー!!」
戸愚呂兄は空中で体勢を整えると、戸愚呂弟に向かって襲いかかってきた。
「関係ないね」
つぶやくように言うと、今度は戸愚呂兄を殴りとばした。
戸愚呂兄は空中で粉々に砕け、島の外まで飛んでいき、海の中に落ちた。
「オレは品性まで売った覚えはない。―――だれにもジャマはさせん。一対一だ」
「ああ」
幽助も戸愚呂弟と同じ思いで、口が弧を描き、笑みを向けた。
「いよいよ最後です!!この試合で、全て決まります!!戸愚呂チーム、大会連覇か!!浦飯チームの初優勝か!!優勝決定戦、戸愚呂選VS浦飯選手」
戸愚呂は試合開始の合図が出る前に、上着をぬいだ。
「浦飯ィ!!てめェ、負けたら承知しねェぞ!!わかってんだろうなァ!?」
「(幽助…)」
「(負けるなよ、幽助!!)」
「(絶対勝つんだ)」
リングの外では、他のメンバーが、心の中で幽助の勝利を祈っていた。
「両者いいですね?では…決勝戦、始め!!」
浦飯チームのメンバー、戸愚呂チームのメンバー、観客席にいる、女性陣やジョルジュ、そして、今までこの暗黒武術会で戦ってきた対戦相手達が見守る中、大将戦の戦いの火蓋は切られたのだった。
樹里が試合開始の合図を出すと、観客達が一気に盛り上がる。
試合が開始されると、戸愚呂は筋肉操作を始めた。
そのことで、体全体の筋肉が盛りあがる。
「まずはおさらいだ。先日の攻撃、怒りまかせのまぐれかどうか…
80%からいくか!!」
それを見た観客達から歓声があがるが、観客席にいた妖怪の一部が、いきなりとけ始めた。
「うわぁーーー」
「なんだァ!?客が、硫酸でもかけられたみてーにとけていくーーー!!」
そのことに、まだとけていない他の観客達はあわてだした。
「ヤツだ。戸愚呂の妖気!!放出する攻撃的な妖気だけで、弱い妖怪はやられちまうんだ」
「奴の妖気、このケガにはこたえる…。くそ…この場で見ていることさえできないのか」
飛影は一瞬で状況を把握し、蔵馬はひどいケガを負っているので体を押さえていた。
その時、瑠璃覇が彼らの前に来て、風の結界をつくった。
「瑠璃覇?」
「周りに結界をはった。そこから動くな」
「すまない、瑠璃覇」
結界をはったので、戸愚呂の妖気は蔵馬の傷にふれることはなくなり、楽になったので、蔵馬は瑠璃覇に礼を言った。
瑠璃覇は何も言わなかったが、顔だけ蔵馬の方に向けて、にこっと微笑んだ。
「(自分自身、不思議だぜ…。妙に気分が落ち着いてやがる。あまりにひでーケガをすると、痛みを感じなくなるって言うが…。恐怖もそうなのかもな……)」
幽助は拳をにぎると、一気にとび出していき、間合いをつめると、戸愚呂に殴りかかった。
それと同時に、戸愚呂はアッパーをくり出す。
幽助のパンチは戸愚呂の腹に、戸愚呂のパンチは幽助のあごに命中した。
その攻撃により、幽助は後ろにふっとんでいったが、リングに手をついてなんとか体勢を立て直し、再び戸愚呂に向かっていき、殴りかかった。
だが、戸愚呂は幽助の攻撃を素早くよけ、幽助の左側に回りこむと殴りかかろうとした。
それに気づいた幽助は、戸愚呂の顔を蹴り、その反動で攻撃をよけた。
「(うまい!!キックの反動を利用して、ピンチを脱した!!)」
その攻撃は、くり出した拳の風圧だけで、リングをえぐりとるように破壊してしまった。
これを幽助がくらっていたら、ひとたまりもなかっただろう…。
それを戸愚呂は、もう一度くり出すが、幽助はその攻撃を跳んでよける。
その衝撃で、壁は簡単に破壊されてしまう。
着地すると、また向かってくるが、幽助は今度は、よけずに正面から受け止めようとした。
「ばっ、ばかたれァーーーー。まさか奴のパンチを受け止める気かァ!?」
焦った桑原は怒鳴るが、幽助の意図に気づいた瑠璃覇は、軽く笑みを浮かべる。
戸愚呂も瑠璃覇と同じことに気づき、幽助にあてる寸前で拳を止めた。
「――っと…失礼。この角度で攻撃するのは、フェアじゃないな…」
「………へっ、フェミニストだったとは知らなかったぜ」
そう……その先には女性陣がいたのだ。
幽助が、戸愚呂のパンチを受け止めようとしたのはこれだった。
「す…すごーーーーーーーーーーーーーい!!一瞬の間の、火花の出る様な攻防!!皆さん、ごらんになれましたでしょうか!!」
息つく暇もないほどのすさまじい攻防に、小兎も観客達も、しゃべるのを忘れていたほどだった。
「まだだ…。まだ、どっちも力を出しちゃいない。ただ、確かめあってやがるんだ。互いの力をな…………。ちくしょう…。幽助にゆずるんじゃなかったぜ」
今更ながら後悔をした飛影は、右手をウズウズさせていた。
あまりのすごい攻撃に、観客席からは戸愚呂コールが響き渡る。
「ふむ…。緊張はしてないようだねェ。……結構。
さあ、見せてくれ。幻海から渡された力を」
催促されると、幽助は笑みを浮かべて、霊丸の構えをとった。
「電光石火の攻防から一転して、両者のにらみ合いが続いています。そして今、浦飯選手が右手に力をこめ始めましたーーーー!!」
「さあ、見せてもらおうか。幻海から渡された力を」
構えをとると、右手の人差し指に、霊気を集中させた。
「出すぞ!!」
だが、幽助は霊丸を撃たず、先程と同じように戸愚呂に向かって走っていく。
「(霊丸は四発が限度。一発もはずせねェ)」
相手は戸愚呂なので、四発の霊丸で倒せるかどうかわからない。
そのため、むやみやたらと撃たず、間合いをはかり、隙を待とうと考えたのだった。
幽助は戸愚呂の間合いに入りこむと、戸愚呂の体にパンチを連続で打つが、まったく効いていなかった。
「軽いね」
戸愚呂は余裕の笑みを浮かべ、拳をふるうが、それを幽助はよけた。
「くっ。はええ!!」
しかし、戸愚呂は一瞬で間合いをつめた。
「少し強くいくぞ」
宣言すると、今自分で言った通り、幽助に向かって拳を強くふるうが、その拳を幽助は結構ギリギリでよけ、拳はリングに突きささった。
今の一撃でリングは粉々になってしまい、戸愚呂も幽助も宙を舞った。
けど、それは戸愚呂の作戦で、わざと隠れみのを作り、霊丸を撃たせようというものだった。
戸愚呂の作戦通り、幽助は霊丸の構えをとり、戸愚呂に向けて撃った。
霊丸は、見事戸愚呂に命中した。
「クリーンヒットォオおーー!!」
戸愚呂は、その勢いのまま闘技場の壁をつらぬき、外に出ると、外にある森の木を何本も倒していき、その後すさまじい破壊音が響いた。
何十メートルかわからないくらい、戸愚呂はふっとばされてしまったのだ。
「か……完全に戸愚呂選手をとらえましたーーーー!!しかもその威力は、以前の霊丸とは比べものになりませーーーん。闘技場のはるかかなたまで、ふきとばしましたーー!!」
信じられない光景に、小兎も観客達も、動揺を隠せなかった。
「お、おい。審判はどこだ!?カウントは!?戸愚呂は場外の外までふっとんでるぞ」
「幽助の足元をよく見てみろ」
「え?」
飛影に言われると、桑原は幽助の足元に目を向ける。
「と、闘場が………」
目を向けた先には、リングが粉々に砕け、跡形もなくなっていた。
「この闘いに、場外など無意味だ。倒すか、倒されるかだ」
浦飯チームのメンバーは、戸愚呂がどうなったかを確認するために、戸愚呂がふっとんでいった方に目を向けた。
「完全にとらえた」
「戸愚呂はガードもまにあわなかったはずだ」
「もしもこれで、戸愚呂が無傷だったら…………」
一方で、闘技場の外までふっとばされた戸愚呂は、仰向けに倒れていたが、指がピクっと動くと、腕に力を入れ、その場を立ちあがった。
そして、ゆっくりと闘技場へ戻ってくる。
戻ってきた戸愚呂を見た幽助や、浦飯チームのメンバーは、驚きのあまり目を見開いた。
「こんなものかね………?お前の力は…」
戸愚呂はズボンがぼろぼろになっていたが、かすり傷ひとつついておらず、余裕の顔で、体についたほこりをはらっていた。
「ば……バケモンだ。かすり傷すらついちゃいねー…!!」
それを見た桑原は顔が青ざめ、力がぬけ、地面にすわりこんだ。
戸愚呂は幽助の前に来ると、妖気を放出した。
「うっ!?」
それに対し、幽助は霊気でガードするが、そのガードはあっさりとつきやぶられ、体に刃で切られたような傷ができた。
「(気を放出しただけで、こっちの霊気のガードをつきやぶりやがった。80%で、まだこれほどの力の差があるのか)」
何も技を使っていないのに、まだ100%になっていない80%の姿で、これほどまでに力の差があるのかと、幽助は冷や汗をかく。
「期待しすぎたオレがバカだったか。お前も、100%で戦うに価しない。80%で十分だ。これで終わりにしてやる」
戸愚呂はそのまま決着をつけるべく、幽助にゆっくりと近づいていく。
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