第五十六話 怒りの襲撃
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戸愚呂兄は、桑原の攻撃により、体全体を切りさかれ、リングに仰向けに倒れた。
「ぐはっ」
バラバラにされた戸愚呂兄は、うめき声をあげた。
桑原を見てみると、桑原の手には霊剣があり、その霊剣の周りには、飛び道具のように小さな霊気の塊が、いくつか浮かんでいた。
「剣から発する霊気を、手裏剣のように飛ばしたのか。意外に器用な奴だ」
戸愚呂兄が感心していると、桑原は手とひざをつく。
「はァはァ」
桑原は今の攻撃で疲れてしまい、そのせいで、肩で荒い息を繰り返していた。
「くくく。だが、無理は体によくないぞ。なれない放出系の霊気を使うには、お前の体は傷つきすぎている。しかも残念なことに、今の一撃はオレにダメージを与えていない」
それを証明するかのように、戸愚呂兄はバラバラになった体をつなげ、元に戻っていき、全部つながると、戸愚呂兄は何事もなかったかのように立ちあがった。
それを見た観客は感心していた。
第五十六話 怒りの襲撃
「お前も蔵馬のように、オレの心臓めがけ、一発逆転をねらってみるか?しかしお前には、内臓をも自由に動かせるオレの心臓や脳ミソの位置はわかるまい」
戸愚呂兄はニヤニヤと笑いながら、自分の臓器やパーツをいろんな場所に動かす。
「くそォ……」
桑原は体が震えながらも、なんとか足に力を入れて立ちあがる。
「せっかく立ちあがったのに悪いが、地面にへばりついている方がお似合いだ」
そう言って、左手の指を伸ばし、桑原の両方の手足を、押さえるようにつらぬいた。
「うああーー!!」
「桑原!!」
手足をつらぬかれ、悲鳴をあげた桑原を、幽助は心配そうに叫ぶ。
「お前らはこうでもしないと、なにをしでかすかわからないからな」
「ダウン!!1!!」
「10カウント負けを期待するなよ。お前は首をかっ切って殺す」
「………てめェはぶち殺す。必ずな」
「4!!」
「解剖前のカエルに等しい分際で笑わすな。あの世でわめいてろ」
戸愚呂兄は右手を、大きく鋭い剣に変形させ、上に振りあげた。
「死ね」
そしてその剣を、桑原に振り下ろそうとした。
「(剣よ。のびろ!!)」
だがその時、桑原は地面についた右手に霊気を集中させると、試しの剣に向けて、霊気を放った。
するとその霊気は、まるで戸愚呂兄の能力のように地中を通って剣に届き、霊気で形づくられた剣は宙に浮くと、戸愚呂兄に向かってとんできた。
「(地中(オレのマネ)を……!!) しかも遠隔操作!?」
「解剖されんのはてめーだよ。くたばれ」
剣は戸愚呂兄の体を斬り、バラバラにした。
戸愚呂兄の体がバラバラになると、桑原は立ち上がる。
「カウント8!!逆に、戸愚呂兄選手ダウン!!」
「くっ、ちと油断した!!だが、またしても致命的なダメージを加えてはいないぞ!!なん度でも元通りになるからな。くくくく」
けど、それでも戸愚呂兄は、元に戻っていく。
だがその時、桑原の持つ剣は、フライパンのように丸い形に変形した。
「こいつは本当に便利な道具だぜ。今のオレの気分ピッタリに変形してくれやがった」
この変形した剣を見た時、戸愚呂兄は初めて冷や汗をかいた。
「弱点がどこかわからねェなら」
桑原はその剣を上に振りあげると
「全部ぶっつぶしたる!!」
叫ぶと同時に剣を振り下ろし、剣を戸愚呂兄にたたきつけた。
その光景を見た観客達も、呆然として固まる。
「えーー。か、確認しまーす」
樹里は判定のため、戸愚呂兄がどうなったか確認しようと、おそるおそる近づいた。
「げ」
近づき、今の戸愚呂兄の状態を見ると、樹里の顔が青ざめる。
「桑原選手の勝利でーーす!!」
見ただけで、戦闘不能な状態だと判断した樹里は、桑原の勝利を宣言した。
観客達がざわめく中、桑原は自分のチームがいる方へ戻っていく。
「桑原君!」
「桑原!」
「ナイス桑原。大丈夫か!?」
桑原が帰ってくると、幽助、瑠璃覇、蔵馬は心配そうに駆け寄る。
すると、突然桑原は、幽助を殴りとばした。
その行動に、全員が固まってしまう。
「なんでばーさんが死んだこと黙ってた。オレだけかやの外か。ばーさんが殺されたことをオレに言ったら、ビビッて逃げ出すとでも思ったのか。ああ!?」
「桑原くん」
「だまってろ」
「オレ達も、幽助から聞いたわけじゃない。なんとなく気づいたが………聞かなかった」
蔵馬がフォローするように間に入ると、桑原は毒気をぬかれたようにおとなしくなった。
「オレの目の前で、ばーさんは死んだ。コエンマにばーさんのこと頼んで、今日も助っ人としてきてもらった。もう、オレ達だけで闘うしかねーって、ハラくくった。―――それでも、まだ…信じられねーんだ。ウソみてーでよ。もしかしたら突然、ここに来んじゃねーかって、今でも思えてよ…。なんか…"死んだ"って言っちまったら―――――認めちまったら、こねーような気がして。………言えなかった。ワリィ」
めずらしく悲しそうな顔をする幽助に、桑原も何も言えなくなってしまう。
「ちっ。そんならそうと、早く言えってんだ」
「だから、言ったらこないような気がしたんだってば」
幽助は桑原に謝罪すると、リングに向かって歩きだした。
「浦飯!!」
そこを、桑原に呼び止められると、幽助は足を止める。
「勝てよ」
背中を向けながら激励する桑原に、幽助は笑みを向ける。
「まかしとけ」
そして、桑原に短く返すと、再びリングに向かって歩き出した。
「じ…場内、水をうった様に、静まっております。まさに、嵐の前の静けさ……!!」
幽助がリングにあがろうとすると、戸愚呂もリングにあがろうとした。
「戸愚呂」
その時左京に呼ばれ、戸愚呂は動きを止めた。
「私が行く」
何故か、戸愚呂弟ではなく、左京がリングにあがってきた。
そのことで、観客達はざわめき、幽助も目を丸くする。
「審判、マイクを」
「はい」
左京は、幽助ではなく樹里のもとへ行き、樹里からマイクを借りる。
「第4試合を始める前に、かけをしたい。私は戸愚呂が勝つ方にかける。かけるものは……
かけるものは、私の命だ」
「なるほどな。この試合を、事実上の優勝決定戦にするわけか」
浦飯チームのメンバーや観客達が固まっている中、飛影はいち早く、左京が言ってることを理解した。
「その通り。この試合で勝った方に、5試合目の分も含めて、2勝を与える。それだけの価値が、この戸愚呂と浦飯幽助の戦いにはある。
私は大将の位置にいるが、観客を満足させるだけの武力は持ちあわせていない。そのかわり、この生命を戸愚呂の勝利にかけることを、この場で断言する。
もちろん、そちらの大将と大会本部が、イエスといえばの話だが…」
左京は、今自分が言ったことの答えを聞くように、瑠璃覇に目を向けた。
「冗談じゃねーぜ!!誰がそんなことに命かけるかよ!!」
桑原だけでなく、蔵馬と飛影も、桑原が言ったことに同意するように、左京を睨んだ。
「いいだろう」
「「えっ!?」」
「私の命を、浦飯幽助の勝ちにかける」
「「なっ!!」」
あっさりと承諾した瑠璃覇に、浦飯チームのメンバーは、全員驚いた。
「何を驚いてるんだ?別に大したことはないだろう」
「た、大したことないって……お前な…」
命をかけるのを「大したことない」という瑠璃覇に、幽助は詰め寄った。
「私は、幽助が負けるとは思っていない。絶対に勝つと信じている。だから、まったく問題はない」
自分が勝つことを、微塵も疑っていない瑠璃覇に、幽助だけでなく、他の浦飯チームのメンバーも、更に驚いた。
特にコエンマは一番驚いており、大きく目を見開き、瑠璃覇を凝視する。
「だっ…だからって、お前……自分が何を言ってるのかわかってんのかよ!?」
「わかってるよ。お前と違ってバカじゃないからな」
毒をはかれるが、それに関しては自分でもわかってるので、何も言えなくなる。
「それとも……お前は、戸愚呂に負けるつもりなのか?」
瑠璃覇に強気な笑みを向けられると、一瞬固まるものの、それはすぐにとけ、幽助は勝ち気な笑みを瑠璃覇に返した。
「それでは……」
二人が笑いあっていると、樹里は二人が合意したと判断し、先に進めようと声をあげた。
「待てっ」
だが、そこをコエンマに止められる。
そのことで、全員コエンマに注目した。
「お前はそんなことをするな。代わりに……ワシの命を、浦飯幽助の勝ちにかけよう」
突然、瑠璃覇の代わりに、コエンマが自分の命をかけると言いだしたので、浦飯チームのメンバーは全員驚く。
「お前っ……何を勝手なこと…」
「すまん。だが、ワシはお前に、命を投げだすような行為は、いっさいしてほしくないのだ」
「はあ!?」
「ワシは………お前には……幸せになってもらいたい……」
「わけがわからんぞ。お前は私の父親か」
瑠璃覇は軽く息を吐き、顔をしかめる。
コエンマは、瑠璃覇と蔵馬を一瞥すると、苦しそうに顔をゆがめ、落ちつかせるために息を吐くと、口を開いた。
「……………瑠璃覇……それに、蔵馬……。…………ワシは………お前達に……謝らねばならんことがある…」
「謝らなければいけないことだと?」
「そうだ…。……………実は………16年前………蔵馬を襲ったのは……………瑠璃覇………お前を…始末するためだったのだ…!」
コエンマの口から出た真実に、瑠璃覇と蔵馬は衝撃を受ける。
そして、瑠璃覇と蔵馬だけでなく、他のメンバーや、観客席にいる女性陣やジョルジュも衝撃を受けた。
当の本人である瑠璃覇と蔵馬は特に衝撃的で、目を大きく開いてコエンマを見ていた。
「お前は、魔界屈指の実力者。その上、極悪盗賊ときてる…。
だからある時、親父……エンマ大王が提案したのだ。
『パープル・アイを始末するため……奴がもっとも愛する妖狐蔵馬を追いつめ、パープル・アイを心身ともに追いこみ、始末しよう』
…とな……」
そして、次に出た事実に、瑠璃覇と蔵馬は固まってしまった。
「お前達には言い訳にしか聞こえんだろうが……ワシは、何もそこまで…と思った。しかし、親父も…周りの霊界の者…特にハンター達は、絶対にそうするべきだと押し通してきた」
コエンマが真実を話すごとに、瑠璃覇の拳はふるえ、奥歯を噛みしめる。
「直接手をくだそうとしてもダメなら、周りの大切なもの……すなわち、蔵馬を亡き者にすれば、パープル・アイもたやすく殺せる。そう思って、蔵馬にハンターを送りこみ、蔵馬ごと瑠璃覇を始末しようとした。
だが……霊界にとって予想外だったのは、蔵馬が霊体の状態で人間界に逃げこみ、人間に憑依したこと。そして、瑠璃覇までもが、蔵馬を追って人間界に行ってしまったことだ。
その予想外の出来事に、霊界は焦った。始末することができなかったどころか、もっとも人間界に行かせてはならない奴が、人間界に行ってしまったのだから…。
そこで、人間の前では人間の姿でいること。妖力を、低級妖怪なみに抑えること。人間を襲ってはいけないこと。人間の前では、自分の力を見せないこと。このことを条件に、瑠璃覇に人間界の滞在を許した。
だが、我々霊界は、瑠璃覇の要望を呑むふりをして、瑠璃覇にとって不利な条件をつきつけ、人間界で始末しようとした。妖力を抑えこんだ人間の状態なら、始末することはたやすいと思ったのだ。すべては、瑠璃覇を殺そうという作戦だったんだ」
瑠璃覇は、今まで下に向けていた顔をゆっくりとあげると、今度は鋭い目で睨みつけた。
「しかし、結果として、瑠璃覇を始末することはできなかった。瑠璃覇は、その不利な条件を逆に利用し、生きのびた。
そして、蔵馬と再会した瑠璃覇は、霊界に報復してくるかもしれないと思った。しばるものは何もなくなったし、お前は霊界を憎んでる。覚悟を決めた……。
しかし、霊界が襲われることはなかった。蔵馬と再会し、幽助達と出会ったことにより、お前は変わった。たぶん、それが要因だろう。そのためか、お前は顔つきがやわらかくなり、他者を思いやり、信頼するようになった。ワシはそれを見て、とても胸が痛んだ。あの時のことを後悔した。何故、あの時体をはってでも、親父や周りの奴らを止めなかったのか…とな…。
だからワシは……お前には、その償いとして、何がなんでも幸せにな………」
コエンマは最後まで言うことができなかった。
何故なら、瑠璃覇が素早くコエンマのいるところまで移動し、コエンマを殴りとばしたからだった。
コエンマは、殴られた勢いのまま後ろにふっとんでいき、壁に激突する。
「ぐっ……は…ぁ…」
あまりのすさまじい力に、壁は破壊され、コエンマは息もたえだえになる。
「幸せ…?償い…?ふざけるなっ!!!!」
当然瑠璃覇は怒り狂い、体中から殺気があふれ出ていた。
怒りが爆発したせいか妖狐の姿に戻っており、その紫色の鋭い瞳をコエンマに向ける。
「16年前、人の幸せをうばっておきながら、よくもそんなことが言えたものだなっ!!!!」
その鋭い目や殺気は、今にもコエンマを襲いそうなほどだった。
「私があの時……蔵馬を失い、どれだけ悲しみにうちひしがれたかわかるか!?私があの時……蔵馬を失い、どれだけ霊界を憎んだかわかるか!?」
だが……それでも、瑠璃覇から目をそらすわけにはいかないと、瓦礫にもたれかかる形になりながらも、コエンマは瑠璃覇をまっすぐに見ていた。
「蔵馬がいないことで、私がどれだけ寂しい思いをしたかわかるか!?蔵馬を護りきれず、どれだけ悔しい思いをしたかわかるか!?どれだけ不安になり、自身や霊界を呪い、苦しみ、嘆き、恨み、怒り……そして、どれだけ絶望したか……貴様にわかるのかっっ!!!??」
自分の気持ちを吐露する瑠璃覇に、コエンマはバツが悪そうにしていた。
けど、それでも決して、瑠璃覇から目をそらすことはなかった。
「この私の憎悪………」
瑠璃覇は怒りで体全体がふるえた。
特に拳がぶるぶるとふるえ、押さえようとしても押さえきれないほどだった。
「貴様に…受け止めきれるかああああああっっっ!!!!!!」
その押さえきれない拳で、再びコエンマを殴ろうとする。
それでも、コエンマはよけようとはせず、そこから動かなかった。
「よせっ、瑠璃覇!!」
その時、幽助と桑原が瑠璃覇の体を押さえ、瑠璃覇の動きを止めた。
後ろから、はがいじめされるように押さえられるが、それでも瑠璃覇は前に進もうとした。
「放せっ!!お前達に、この私の気持ちがわかるかっ!!」
「わかる!!」
幽助に強く言われると、瑠璃覇の動きがピタリと止まる。
「オレは瑠璃覇じゃねえから、瑠璃覇の本当の気持ちはわからねえ…。だけど……オレもこの前、目の前でばーさんを失った」
そういえばそうだったと、瑠璃覇は無言で幽助に目をやった。
「ばーさんは、オレのもっとも愛する者じゃねーけど、オレの大事な師匠だ。あの時、戸愚呂だけじゃねェ…。自分自身を憎んだり…恨んだりもした。悲しかった…。悔しかった…。自分自身を呪った。自分の無力さを嘆いた。
さっきも言った通り、オレは瑠璃覇じゃねえから、瑠璃覇の本当の気持ちをわかってやることはできねェ…。だが、心を感じとることはできる…!
だから、今のお前を見れば、どれだけ蔵馬を大切に想ってるのか……蔵馬を失ったことで、どれだけ霊界を憎み、恨んでるのかってことわかるんだ…」
「オレは、もっとも愛する者を失ったこともないから、相手を憎んだりとか恨んだりとかしたことがねえ。だから、瑠璃覇の気持ちは理解してやることができねえ…。
だけど……瑠璃覇の気持ちは、痛いほどよく伝わってくる…。
蔵馬を大切に想う気持ちとか、悲しい気持ちや…悔しい気持ちも…。
確かにコエンマ……霊界もひでェけどよ…。でも、瑠璃覇はそんなことしちゃあダメだ。瑠璃覇は優しいんだからよ」
幽助と桑原になだめられると、瑠璃覇は少しおとなしくなった。
「瑠璃覇……」
そこへ、蔵馬が瑠璃覇の前にやってきて、声をかけてきた。
「瑠璃覇……。オレも、この南野秀一の肉体に憑依した時、どれだけ前の体に戻りたいと思ったかしれない…。妖力も……たとえ、肉体が完全に妖化しても、前の体の時のようにはならない…。完全には戻らない…。オレの魂が憑依していることで、この体は、通常の人間よりは、強いし、丈夫だ。でも、人間というのは、もろい…。だから、オレは普通の妖怪よりは、弱く…もろい…。だから、最初は現実を受け入れられなかった。
それに、正直……今の話を聞いて、霊界に対して、少し恨みの気持ちが出てしまった。もし襲われなかったら、あのまま妖狐の姿で……ずっと魔界に一緒にいて、瑠璃覇と愛しあえたのに…と思った…」
蔵馬の本音に、コエンマは、更にバツが悪そうにする。
「けど、それ以上に喜びもあるんだ」
だが、次に出た言葉に、瑠璃覇だけでなく、コエンマも驚きの顔で蔵馬を見る。
「オレは、南野秀一の肉体に憑依し、母さんからたくさんの愛情をもらった。そして、幽助や飛影、桑原君に会えた。そのおかげで、オレは今の自分を好きになれた。そのことには、とても感謝してるんだ」
そして、信じられない思いで、瑠璃覇とコエンマは蔵馬を凝視した。
「それは、瑠璃覇も同じなんじゃないのか?」
次に言われたことにハッとなり、瑠璃覇は何も言えなくなってしまう。
「なら……もうこれ以上、コエンマを責めるのはやめてほしい。オレは……瑠璃覇のそんな姿……正直見ていたくないんだ」
口をつぐんだだけで、瑠璃覇の心を理解した蔵馬は、なだめるように話す。
瑠璃覇はそれ以上、何も話すことはなかった。
しかし、何も話さなくても、蔵馬は瑠璃覇の今の感情や心情を理解していた。
瑠璃覇の体から力がぬけると、幽助と桑原は瑠璃覇から手を放し、瑠璃覇は解放されると、力なくそこに立つ。
「一体どういうことなのでしょうか?何やら、浦飯チームで仲間割れが発生したもようです」
「仲間じゃないっ!!!」
小兎が言ったことに、小兎がふっとぶくらいの勢いで、瑠璃覇は叫ぶ。
「あんな奴は……仲間じゃない…!」
また、拳を強くにぎり、奥歯を噛みしめる。
だが、先程のような殺気はなかった。
「でも………敵でもない……」
次に瑠璃覇の口から出た言葉に、蔵馬、幽助、飛影、桑原、コエンマ、そして…女性陣を含む観客達も驚いていた。
瑠璃覇はコエンマに顔を向けると、強く鋭い目で睨みながら、コエンマの前まで歩いてきた。
「いいか…。お前はこの私が始末をする。この私が、直接引導を渡してやる。……だから……絶対に生きのびろ。でないと許さん…」
「あ……ああ…」
信じられない思いだったが、目を丸くして瑠璃覇を凝視しながら、その場を立ちあがった。
「まあ、そういうことだ、審判。このワシが、瑠璃覇の代わりに大将となり、浦飯幽助の勝ちに、このワシの命をかける…!」
「コエンマ………」
「もともと、お前をまきこんだのはワシだからな。少しはかっこつけさせろ」
「だけどお前…」
「……なにより、気になるのは左京という男。あやつの眼は、自分の命を何度もドブにさらしてきた人間の眼だ。保身を考えない人間の抱く野望というのは、他人はおろか、自分自身をもまきこむ、巨大な破壊行為と、相場は決まっとる。それを止められる人間は、この場にお前しかいないんだ、幽助」
コエンマが力強い眼で幽助を見ると、幽助もまた、力強い眼でコエンマを見た。
「話がまとまったぞ」
「あとは、本部がうんと言うかどうかだ!!」
《お静かに。本部運営委員会議を行います。10分間、休けいとします!!》
「よーーし、おもしろくなってきたぞ」
「奴らの言う通りにやらせろーーー!!」
「じらすんじゃねーぞ、大会本部!!」
「早くうんと言っちまえーーーー」
運営委員は、戸愚呂が全員殺したはずだが、左京は演出のためにそう言ったのだった。
休憩が始まると、幽助達はそこに残ったが、コエンマは、瑠璃覇と蔵馬に対する気まずさがあるので、そこからいなくなった。
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