第五十五話 光の一閃
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黒龍が飛影を喰らうと、幽助と桑原は驚愕し、戸愚呂弟と左京はニヤっと笑っていた。
武威は黒龍波をはねかえすと、リングに降り立った。
「ははは、やった!!やったぞ!!炎殺拳敗れたり!!」
黒龍波をはねかえすことができたので、武威は高らかに笑った。
武威が黒龍波をかえし、黒龍が飛影を喰らったことで、妖怪達は大喜びした。
「ひ、ひ、飛影がやられた………」
けど、幽助と桑原は、目の前で起こったことが信じられず、口を大きくあけて固まった。
「なにをはしゃいでいるんだ?」
だがその時……上から信じがたい人物の声が聞こえてきた。
「見せたいものはこれからだぞ…」
それは、黒龍に喰われたはずの飛影だった。
「飛影!!」
飛影が無事だったことに武威は冷や汗をかき、幽助は安堵した。
第五十五話 光の一閃
「ば…ばかな」
確かに自分は黒龍波を返し、黒龍は飛影を喰らったはずだった。
それなのに生きていた。
武威は目の前の出来事が信じられなかった。
「極めたとは、こいつのことだったのか」
「そうだ。黒龍波を喰ったんだ………!!黒龍の、莫大なエネルギーを吸収し尽くすほどの器と、支配力の持ち主。それが、黒龍波を"極める者"。武威ほどの実力者ならわかったはずだ…。それが、どれほど強大なものかが」
「だが……黒龍波は、極めようと思っても、そんな簡単に極められるものではない。それなのに、この短期間で極められるなんて…。飛影は相当に妖力がアップしている」
飛影が無事だったことで、先程瑠璃覇や飛影が言っていたことを、幽助はやっと理解した。
「……く!!」
「見えるか。これが、黒龍波を極めた者の妖気だ。かん違いしてる奴が多いが、黒龍波は単なる飛び道具じゃない。術師の妖力を爆発的に高める栄養剤(エサ)なのよ」
飛影の周りには、黒い炎が取り巻いており、見るからに妖力が高まっているのがわかるほどだった。
「……くっ、くそォーー!!」
武威はやけになったように、何度も飛影を殴るが、飛影はびくともしなかった。
「うああーーっ」
次に殴ろうとした時、飛影に、腹に掌底をくらわされた。
「はうっ」
今の攻撃で、武威は上にふっとんでいき、飛影は武威を追いかけるように跳躍すると、一瞬にして武威の後ろに回りこみ、下に殴り倒した。
武威は観客席に落ちていき、飛影も武威が落ちたところに着地する。
「殺れ」
飛影が目の前に来ると、武威は弱々しく口を開いた。
「オレがかつて戸愚呂と戦って敗れた時……オレには、まだ強くなる可能性があった。再戦を糧に、オレは自分の限界まで強くなった…。戸愚呂はさらに強くなっていた。逆に、力の差は圧倒的にひらいたのだ。
そして、お前にも完全に負けた。もはや、生きる意味もない」
「フン。死にたきゃ勝手に死ね」
飛影は吐きすてるように言うと、後ろに跳んでカウント8でリングに戻った。
「8、9」
「オレは、指図されるのが嫌いでな」
「10!!試合終了ーー!!飛影選手の勝利でーーす」
勝利を宣言されると、飛影は幽助達のもとへ戻ってきた。
「よっしゃ。これで一勝一敗だ!!」
「オイ、近づいて大丈夫かよ」
「別に問題ないだろう」
「すげーな飛影!!」
「無敵じゃねーか、オメー。残り全部戦っちまえよ」
「できんな。この技にも致命的な欠陥がある」
そう言った飛影の足は、少しよろめいた。
「「欠陥!?」」
「極度に酷使した妖力と肉体の回復のため…数時間完全に"冬眠"する。ふぁ。これだけは、いかに技を極めてもどうしようもない…」
飛影はあくびをし、半分目を閉じ、とても眠たそうにしていた。
「いいか。たよりない貴様らを、あえて信用して、この技を使ってやったんだ。
もし、起きたとき…負けて…たら
承知…せ…ん…
ぞ」
段々とまぶたを閉じていき、全て言い終えると地面に倒れ、そのまま深い眠りに入った。
「ぷっ」
「ぶっ倒れるときまでいばってやがる」
寝る直前までいばっていた飛影に、幽助だけでなく、蔵馬や瑠璃覇もくすくすと笑っていた。
「うーむ。それにしても、寝顔だけ見とると、さっきまであれほど暴れていた奴とは思えん」
「らくがきしたろか」
桑原はどこからかマジックペンを取り出すと、キャップをはずしたペンの先を、飛影の顔に近づける。
「やめといた方がいいんじゃないのか?あとが怖いぞ」
「うっ…!お……おう……」
瑠璃覇に忠告されると、桑原は顔を青くして、あわててペンをしまった。
それから6時間後……。
飛影は覚醒し、ゆっくりと目をあけ、ぼんやりとしながら上半身を起こした。
「起きたか…」
「………オレはなん時間寝てた!?」
「6時間ほど」
隣には瑠璃覇と蔵馬がいたので、疑問に思ったことを問う。
「大会は!?桑原と幽助は!?」
「まだ戦ってませんよ」
「なに?どういうことだ」
「会場の後始末に手間どっていたんですよ」
6時間も経過していれば、もうとっくに終わっていてもいいはずなのに、まだ始まってすらいないので疑問に思ったが、すぐにその答えは返ってきた。
「皆様、大変長らくお待たせしちゃいました。第三試合の開始でーーす」
「よーし。待ってましたァ」
「あとは、戸愚呂兄弟の連勝で決まりだぜ」
樹里が試合再開を宣言すると、観客達は異様に盛り上がっていた。
「さあ、ようやく決勝再開です。中断時間、約6時間!!しかし、観客のテンションは上がる一方です!!」
「よっしゃ」
いよいよ自分の番だと、桑原は内心不安になりながらも、リングへと向かって歩きだした。
観客席からは、桑原に対する罵詈雑言がとんでくる。
「ち…こりない奴らだ。オレがあれだけたたきのめした割には、やけに盛り上がってやがる」
「貴方が寝てる間に、戸愚呂がちょっとしたパフォーマンスをやったんですよ」
「パフォーマンス?」
「戸愚呂弟が、前の闘技場の石盤(リング)を一人で持ってきたんだ」
「前の闘技場から石盤(リング)を運んできただと!?」
「黒龍波(いいもの)を見せてもらったお礼だそうですよ」
観客達が、異様な盛り上がりを見せているのはそれが原因で、そのことを聞いた飛影は驚いていた。
「(くそォ。飛影の完全勝利の気分が、一ペンにふきとんじまった。あらためて、怪物ぶりを見せつけやがって。
えーい。負けるか!!オレには、必殺スペシャルソードがある!!)」
一方で桑原は、改めて戸愚呂弟の怪物ぶりを知り、冷や汗をかいていた。
しかし、自分には鈴木にもらったスペシャルソードがあるので、負けてたまるかと奮起してもいた。
「おい、大丈夫か!?顔色がすぐれんぞ」
「てめーに言われたくねー」
自分の番になったら逃げる気満々なコエンマにだけは言われたくないと、桑原はコエンマに噛みついた。
「ったく、屁の役にも立ちゃしねー。ばーさんが来ないまま、ついに試合再開しちまうしよ」
まだ幻海の死を知らない桑原に、飛影は目を見開く。
「まさかあいつは、まだ、幻海の死をしらんのか」
「………らしいね」
「そのようだな」
「幽助、なぜ奴に教えてやらんのだ」
飛影は幽助に問うが、幽助は何も答えず、前を向いたままだった。
向かい側では、戸愚呂兄が戸愚呂弟の肩から降り、リングにあがってきた。
観客席からは「殺せ」コールが響く。
「(先手必勝!!オレの必殺剣で、ど胆ぬいたるぜ!!)」
「始め!!」
「うおおっ」
試合開始と同時に、桑原は試しの剣に霊気を集中させた。
すると、普段よりも強力な霊気を放つ霊剣が出来あがり、その霊気が桑原を護るように包んでいた。
「ほう」
「桑原君の驚異的な回復力を、さらに高めている。剣に通う霊気も、数段強い。まさに、攻防一体の武器だ」
それを見て、浦飯チームだけでなく、戸愚呂兄や観客達も、桑原の剣に驚いていた。
「行くぜ!!」
剣を構えると、桑原は戸愚呂兄に向かって走っていった。
戸愚呂兄も、桑原の新しい武器を見てやっかいだと思い、自分の戦法を決めていた。
戦法を決めると、戸愚呂兄の足元にひびが入った。
「(なんだ…。あいつの妖気が移動している?いや…伸びている?)」
「!? (戸愚呂の足元が…!?)」
瑠璃覇と幽助はその異変に気づくが、桑原は異変に気づくことはなかった。
「おりゃあーーーっ」
桑原は戸愚呂兄をめがけて剣を振り下ろすが、戸愚呂兄は微動だにせず、剣をよけることをしなかった。
それを見た観客達も、みんなふしぎに思った。
次の瞬間、桑原の霊剣が、戸愚呂兄を切った。
戸愚呂兄は頭から体にかけてななめに切れ、左半身がダラリと崩れる。
「え?どうなってんだ」
あまりにもあっさりとやられてしまったので、桑原はそのことを疑問に感じた。
「おいおい。か、勝っちまったのかよ」
決勝戦まで残った奴が、いくらなんでも、こんなにあっさりとやられるはずがないので、桑原は動揺する。
「ま…」
その時、後ろから複数のとがったものが、桑原の体をつらぬき、剣は桑原の手から離れた。
「なにィーーーっ」
そのことが、桑原も、浦飯チームも信じられずにいた。
桑原をつらぬいたものは桑原の体からぬかれ、桑原がリングに倒れると同時に、リングの中から出てきた。
「くっ」
「くくく」
そこから出てきたのは戸愚呂兄で、桑原の体をつらぬいたのは、戸愚呂兄の伸びた指だった。
「お前ほど単純だと、だますオレも気分がいいよ」
「な…なに~~。やつがふたり!?」
何故二人もいるのかと、桑原が疑問に思ってると、二人の戸愚呂兄の間に、一直線にひびが入った。
「オレの体で作った、生き人形(ダミー)だよ。擬態さ。痛みは感じるが、今のお前ほどじゃない」
先程桑原が切ったものは、戸愚呂兄の左手から作られた、ただの人形だったのだ。
「姿形はおろか、内臓の位置も、自在に移動させることができる。足の裏から本体を移動させたのさ…。石盤(リング)の下をドリルでけずってな」
説明すると、戸愚呂兄は右手の指を伸ばして、試しの剣をひろいあげた。
「なかなか便利な道具だな。これは幻海の形見か?しかし、遣った弟子がこのマヌケじゃ、死んだあいつもうかばれないな…」
「!? なに?い、今、なんて言った!?」
桑原は驚きのあまり目を見開き、手をリングにつけて起き上がろうとした。
「なにを驚いている?まさかお前、知らなかったのか」
戸愚呂兄の言ったことに、桑原はショックで言葉を失い、固まってしまった。
「幻海は死んだ。殺されたのさ」
そう言いながら、戸愚呂兄は嫌な笑みを浮かべる。
「そ…そんな」
『ばーさんは………今日は戻らねェ』
『やれやれ。めでたいヤローだ』
真実を知り、幽助と飛影が言っていた言葉が、桑原の脳裏をよぎる。
「(オ…オレだけ。オレだけ、知らなかったのかよ)」
ようやく、その言葉の意味を知り、桑原はフラフラと立ち上がると、拳を強くにぎりしめた。
すると、戸愚呂兄の伸ばした指が、桑原の足や体に突き刺さった。
「ぐっ」
その痛みで、桑原は再びリングにひざと手をつく。
「くくくくくく。くっくっく。ひゃはははははは。お前の仲間も冷てェな。だれも教えてくれなかったのか。
よし、オレが教えてやろう。人形劇でな」
戸愚呂兄は右手を変形させ、若い頃の幻海を作り出した。
「!」
「昔々、若い男と女がいました。ふたりは共に武道を極めんとする仲間でした。しかし…年月がどんどん過ぎて、女はみにくく年をとり」
戸愚呂兄が作った若い幻海が、どんどんと歳をとり、今の幻海に変わっていく。
「兄者!」
「いいからやらせろよ。
逆に男は、武道のために魔界の力を借り、若さをたもち続けたのです」
戸愚呂弟が戸愚呂兄に、やめるように名前を呼ぶが、戸愚呂兄はきくことなく話を続けた。
「年をとった女は、若いままの男をねたみ、決闘を申しこみました。しかし、あわれにもかえりうちにあってしまうのです」
そして、戸愚呂兄は左手の指を伸ばし、自分の作った人形の幻海に突き刺した。
その卑劣な行いに、幽助達は戸愚呂兄を睨みつける。
「こうして幻海は弟に殺されて、天国へ行きましたとさ。めでたしめでたし。ひゃはははははは」
戸愚呂兄はすべてを語り終えると、下品な声をあげて笑い出した。
「ち…。兄者の悪いクセだ」
「ん」
話を聞くと、桑原は足に力を入れて、無言のまま立ち上がる。
「切れたぜ。カンペキによ…」
「ふん、威勢がいいな。………だが、お前の切り札はここだぞ。お前の霊気だけじゃ、オレは切れんぞ」
戸愚呂兄は右手をもとに戻すと、桑原の目の前に、わざとらしく試しの剣をちらつかせた。
「うるせェ」
「だまるのはお前だ。死ね」
戸愚呂兄は左手の指を、桑原の心臓を目がけて伸ばし、つらぬこうとした。
しかし、戸愚呂兄の指は桑原の体に刺さることなく、皮膚で止まった。
「ヒフで………止まってる………?ばかな、これ以上ささらん」
どんなに力いっぱい押しても、戸愚呂兄の指はそれ以上進まず、いっこうに刺さらなかった。
桑原はゆっくりと顔をあげ、鋭い目で戸愚呂兄を睨みつける。
「てめェは許さねェーーー!!くたばりやがれァーーー!!」
「なに!?」
桑原が叫ぶと、突然桑原の手が光った。
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