第五十三話 命をかけて
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爆発すると爆風が起こったが、瑠璃覇が結界をはっていたので、幽助達は巻きこまれて飛ばされずにすんだ。
「あっぶねェ~~…。巻きこまれてたら、大けがしてるとこだったぜ…」
「サンキュー、瑠璃覇」
「別に…。どうってことない」
幽助に礼を言われるが、瑠璃覇は照れくさそうに、そっけなく返すだけだった。
「蔵馬は!?」
肝心の蔵馬はどうなったのかと、幽助は心配そうに、蔵馬の姿を探した。
「!! (この気配…)」
その時、ひとつの妖気を感じた瑠璃覇は、信じられない思いで、目を見開いた。
「これは一体!?蔵馬選手の姿が見えません!!爆発に吹きとばされたのでしょうか!?」
だんだんと煙が晴れていき、リングが見えてくると、そこには蔵馬の姿はなく、鴉だけが立っていた。
そして、幽助達が蔵馬を探していると、リングの外の瓦礫が動き、崩れると、そこから蔵馬が姿を現すが、蔵馬は妖狐の姿ではなく、南野秀一の姿に戻ってしまっていた。
第五十三話 命をかけて
「あっと、蔵馬選手生きております。しかし、妖狐の姿ではありません!!しかも、今の爆発でかなりのダメージ」
しかも、ただ戻っただけではなく、先程の鴉の攻撃で、更に深手を負ってしまっていた。
「蔵馬!!戻っちまってる。薬の効き目が切れたんだ」
「バ、バカな。まだ、5~6分しかたってねーぜ。あの薬を使えば、15分は妖狐の姿でいられるはずだ」
「………まさか……習慣性…?何度も試していたから、薬の効果が少しずつ弱くなっていったのか!?」
あと10分くらいは妖狐になっていられるのに、急に戻ってしまったので、幽助達は不思議に思った。
一方、蔵馬はふらつきながら、その場を立ち上がる。
「くっ」
しかし、左腕に負った傷が痛み、苦痛に顔をゆがめた。
「(まだ……時間はあったはず。何故だ。
あっ……。何度も試したんで、薬のきれるのが早くなってるのか?)」
自分でも、何故こんなに早く薬が効き目がなくなったのかふしぎに思っていたが、瑠璃覇と同じ結論に至った。
「あっ…」
考え事をしていると、蔵馬のもとに鴉が歩いてきた。
「考え事の最中悪いが、おいのりの時間だ。せめて、楽に死ねますように……」
「くっ」
蔵馬は髪の中からバラを取り出し、武器化させようとしたが、バラは武器化することなく砕け散ってしまった。
「あっ…」
「植物を武器化するだけの妖力も残っていないようだな。もはや私の妖気を見ることすらかなわんな」
「くっ……」
「ギブアップを宣言しろ。苦しまずに殺してやる」
「くっ」
その言葉を聞いた蔵馬は、手に残ったバラの茎をすてると、瓦礫を蹴って、リングに跳びあがる。
そして、鴉に向かって走っていくと、蹴りを入れるが、鴉はそれを跳んでよけた。
蔵馬は自分も跳ぶと、今度は手刀で攻撃をするが、それもかわされ、鴉の髪の毛が少しばかり切れた。
そして着地すると、拳をつきだすが、それすらもよけられてしまう。
けど、蔵馬は決してあきらめることなく、拳や蹴りの、肉弾戦での連続攻撃を続けた。
しかしその攻撃も鴉にあたることはなく、鴉はすべてギリギリでかわしていた。
「おーーっと、蔵馬選手。今大会初めて見せる肉弾戦!!しかし鴉選手、これを全て、ギリギリでかわしている!!」
「蔵馬め、なにかたくらんでいるな」
「ああ…」
めずらしく体術で戦う蔵馬を見た瑠璃覇と飛影は、長年の付き合いから、蔵馬の考えを読んでいた。
「ケガで血迷ったか。近づくのは、自殺行為だ!」
鴉は右手に妖気を集中させ、攻撃をしようとするが、蔵馬は気にすることなく、鴉に向かっていった。
「妖気が見えなきゃ、どこにいても同じだ」
蔵馬は鴉の攻撃を跳んでよけて、鴉の前に着地すると、両手の平で鴉をつきとばしたが、鴉は後ろにふっとぶだけで、場外になることも、体勢が崩れることもなかった。
「なかなかいい突きだ。…………といいたいところだが」
鴉は笑いながら、先程蔵馬の手があたった自分の胸の中に手をつっこみ、あるものを取り出した。
「ねらいはこれだろ?」
取り出したのは、ひとつの種だった。
「シマネキ草か……。二番煎じは通用しない」
自分の考えが読まれていたので、蔵馬は冷や汗をかいた。
「フフフ。一度ならず二度までも、私に傷をつけたことはほめてやろう」
鴉がシマネキ草の種を上にはじくと、種は空中で小さく爆発した。
種を爆発させたことで、後ろに左足を動かしたその時、枷のようなものが地面から出てきて、蔵馬の左足をとらえた。
「あっ…」
「キキキキ。つかまえた」
そしてそこから、導火線を頭につけた、妙な目玉が出現した。
「地下爆弾。マッディボム」
マッディボムの火が導火線を全て燃やすと、蔵馬の左足を巻きこんで爆発した。
「うああああああ」
「蔵馬っ!!」
爆発により、蔵馬の左足は大量に出血をした。
それを見ていた瑠璃覇は、顔をゆがめ、心配そうに叫ぶ。
爆風でとんでいき、リングに倒れた蔵馬の左足は、爆発により深手を負っていた。
けど、それでも、フラフラの状態になりながらも、全身に力を入れて立ち上がった。
「蔵馬動くな!!囲まれてるぞ!!」
幽助に言われ、周りを見てみると、蔵馬の周りには無数の光っている爆弾が浮遊していた。
「動きたくとも、立っているのが、精一杯だろう。打つ手なしだな。魔界の植物はよべない。植物の武器化もできなくなった…。違うか?」
鴉はしゃべりながら、一歩一歩ゆっくりと、蔵馬のもとへ歩いていく。
「コナゴナにふきとばすのは簡単だが、そうはしない」
鴉が右手をかざすと、爆弾が1つ1つ蔵馬にぶつかって爆発していき、そのたびに蔵馬は叫び声をあげる。
そして、ぶつかるたびに、ぶつかったところからは血が流れていった。
いくつかぶつかると、蔵馬は力無くくずれ、両ひざをリングにつけた。
「蔵馬っ…」
妖狐の姿ならまだしも、南野秀一の姿では、勝ち目がないだけでなく、ダメージがかなり大きい。
実際に今、傷つき、たくさんの血を流している蔵馬を見て、瑠璃覇はますます顔をゆがめ、泣きそうなくらいに目を潤ませていた。
「よくぞここまで私を手こずらせたものだ。お前はいつまでも私のそばにおいておきたい。ごほうびに、その美しい顔だけはきれいなまま残してやるよ」
蔵馬は重傷を負い、血だらけの状態でも、なおも立ち上がる。
「(どうやら、お前は気づかなかったようだな……。オレの本当のねらいに。お前が血を流しているところ。心臓だ。あとは、妖怪の血が大好きな吸血植物をよぶだけだ。
お前は大きなかんちがいをしている。オレは、この姿でも魔界の植物をよべるのさ。
死とひきかえにな…………)」
先程、シマネキ草の種を鴉の胸に植えこんだのは、そのためだった。
妖狐の姿であれば自分の妖気でよべるのだが、今の南野秀一の姿では、魔界の植物は死とひきかえでなくてはよぶことはできない。
蔵馬の最後の奥の手だった。
蔵馬は、今の全妖力を一気に燃焼しつくそうと考えていたのである。
そのことを考えていると、蔵馬はふいに瑠璃覇を見た。
約束を守れそうもないからだ。
「さて、じわじわいくか」
蔵馬が考えていることを知らない鴉は、再び蔵馬に爆弾をぶつけ、爆発させる。
またいくつもの爆弾が爆発し、蔵馬は更に深手を負い、更にたくさんの血が流れ、体のほとんどが赤くそまっていた。
「いやああああ!!」
「蔵馬ぁーーーー!!」
そんな蔵馬を見て、幽助と瑠璃覇は悲痛な叫び声をあげた。
何度も何度も爆弾をぶつけられ、深手を負ったせいで、蔵馬はついには崩れ落ちる。
「ダウン!!」
蔵馬が深手を負って倒れたことで、妖怪達は盛り上がり、歓声をあげて喜んだ。
「蔵馬を殺したら、次は貴様の番だ。パープル・アイ」
急に自分の名前を呼ばれたので、瑠璃覇は鋭い目で鴉を睨みつけた。
「貴様は、蔵馬の心を奪った愚か者だ。跡形もなく、すべてをふっとばしてやろう。どうせ、蔵馬がいなければ、生きている意味などないのだろう?それなら、蔵馬を殺したあとに、蔵馬のあとを追わせてやる」
「………もし……そんなことをすれば……」
瑠璃覇はハラワタが煮えくりかえる思いで、声をしぼり出すように話し始めた。
「私が貴様を殺すっ!!」
瞳孔が開き、先程よりも鋭く恐ろしい目で睨まれれば、鴉はたじろぎ、冷や汗をかいた。
「いやっ………そうなる前に貴様を殺す。蔵馬に代わってな!!」
「そんなことをすれば、ここにいる妖怪を、すべて敵にまわすことになるが……それでもいいのか?」
「かまうものか。すべて殺せばいいだけのことだ…。また蔵馬を失うくらいなら、その方がいい」
言いながら、リングの方へ歩こうとした時だった。
「待てっ!」
鴉の後ろから、蔵馬の声がかかった。
「そいつの相手は……オレだ…!!」
蔵馬は、10カウントぎりぎりで立ち上がり、瑠璃覇を制止する。
「ボロボロの状態で何を言うかと思えば……」
のどの奥でククッと笑うと、浮遊している爆弾をぶつけた。
そのことで、蔵馬は再びダウンする。
そしてまた、大歓声が起こる。
「す、すさまじい大歓声です。全く周りの声が聞きとれません!!多分、今樹里さんがカウントをとっていると思います!!」
「カウントなどいらん。
生きるか死ぬかだ」
鴉はとどめをさすため、右手を構えた。
「(ちがうな)」
「死ね!!」
そして、蔵馬に向けて手を前に出し、攻撃をしようとした。
「(お前も死ぬんだ!!)」
だが、蔵馬もまた、体から全妖力を放出する。
すると吸血植物が召喚され、蔵馬は目を閉じてリングに倒れた。
吸血植物は、鴉の左胸にある、血が流れている傷口につきささると、すごい勢いで血を吸い始めた。
自分の血を吸っている吸血植物を見た鴉は、驚きの表情で口を開く。
「吸…血植物?ば…かな。よべる…はずが…」
大量の血を吸われた鴉は白くなっていき、その場に仰向けに倒れた。
吸血植物は、鴉の血を吸って成長していき、鴉の体を覆い隠すように大きくなっていった。
「蔵馬……!!」
「蔵馬ーーー!!」
地面にうつぶせに倒れ、少しも反応をしない蔵馬を見て、幽助と桑原は叫んだ。
「蔵馬っ!!」
今の状況にこらえられなくなった瑠璃覇は、今いる場所から走り出し、リングにあがろうとした。今なら、まだ妖気を送ればなんとかなるかもしれない。そう思ったからだ。
だが、その寸前で足を止める。
それは……聞こえたからだ。
かすかにだが、蔵馬の心臓が動く音を……。
人間の姿の時なら聞こえないが、今の妖狐の姿なら、至近距離であれば、わずかにだが聞こえる心臓の音。
それが信じられず、体がふるえながらも、蔵馬を凝視した。
そのことを証明するように、蔵馬の指がピクっと動き、ゆっくりと目をあける。
「(い……生きてる?)」
蔵馬は信じられない思いで、ゆっくり手足を動かし、体を起こして四つん這いの状態になる。
「(な…何故だ……。知らないうちに…妖力が増してきているのか…!?)」
そして、ゆっくりとその場を立ち上がった。
その姿を見て、瑠璃覇だけでなく、浦飯チームのメンバーも、螢子達女性陣も歓喜した。
「(そうか!!薬の効果が弱まったんじゃない。南野秀一の肉体に、妖狐の力が戻りつつあるんだ!!)」
「やったぜ!!大逆転ーーー!!」
「蔵馬の勝利だーーー!!」
蔵馬が生きていたこともだが、逆転勝利をしたことで、幽助と桑原は更に喜んだ。
蔵馬の隣では、吸血植物が鴉の血を吸って成長し、バラのような形の、真っ赤な美しい花を咲かせていた。
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