第五十話 戦い前夜
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それから瑠璃覇は、屋上から自分の部屋に戻っていった。
しかし、まだ誰一人として部屋に戻ってなかったので、すぐに部屋を出て、ホテルの外に行った。
「!
あれは…!」
ホテルから出てすぐに、空に大きな光をみつける。
幽助の霊丸だった。
それは、幽助から幻海への返事だった。
瑠璃覇はその霊丸を見て、ほっとしていた。
それは、幻海の霊気が消失した後、幽助と戸愚呂が激突したのを、二人の霊気と妖気を感じとって知っていたからである。
もしかしたら、幻海が死んで、気が沈んでいるのかもしれない…。そう思っていた。
だから、あんなにも大きな霊丸を撃てるほどに元気になったのだと思うと、瑠璃覇はうれしくてたまらなかったのだ。
瑠璃覇は気づいていなかった。
これこそが、幻海が言っていた、情の心であることを…。
まだ何も知らないまま、森の中へと姿を消していった。
第五十話 戦い前夜
しばらく森の中を歩いていると、突如ありえない妖気を感じとった。
「蔵馬…?」
蔵馬の妖気である。
それも、南野秀一ではなく、妖狐蔵馬の……。
何故、今この妖気を感じるのかわからず、気配がした方へ飛んでいく。
「あ…」
妖気を感じた方へ飛んでいくこと3分。
瑠璃覇は見覚えがある影を見つけた。
「蔵馬!」
蔵馬の姿だった。
蔵馬の姿を見ると、瑠璃覇は下降していき、蔵馬の前に降り立った。
「瑠璃覇……」
「蔵馬…」
瑠璃覇は、妖狐の姿の蔵馬を見るだけで顔を赤くした。
「蔵馬…。何故、その姿に…?」
顔を赤くしながら、妖狐の方の妖気を感じた時から思っていた疑問を、蔵馬にぶつけた。
「ああ、これか。これは、あの裏御伽チームの鈴木にもらった薬の効果だ」
「え…。鈴木?裏御伽チームの?」
「そうだ」
「裏御伽チームの鈴木っていうと、あの死々若丸よりも弱っちかった、あのピエロの?」
「ああ」
「なんか、その薬……怪しくないか?」
「ん……まあ……そう言えんこともないな」
蔵馬が、何故南野秀一の姿から妖狐の姿に戻っているのかという説明を受けるが、鈴木からもらった薬というだけで、警戒心を抱いた瑠璃覇に、蔵馬は同意した。
「それで、その薬というのは……まさか…?」
「妖狐の姿に戻れる薬だ。前世の実というらしい」
蔵馬は説明をしながら、鈴木にもらった薬を取り出し、瑠璃覇に見せた。
「魔界で最近発見された、トキタダレという花の果肉だそうだ。裏浦島が使っていた逆玉手箱の煙は、これが元になっているらしい。液体のまま飲めば、長い時間、妖狐の姿に戻っていられるようだ」
「……そうか…」
瑠璃覇が納得すると、蔵馬はいきなり、なんの前触れもなく瑠璃覇を抱きしめた。
「蔵馬…」
蔵馬に抱きしめられると、瑠璃覇もまた、蔵馬を、強く…強く抱きしめた。
そして、蔵馬に抱きしめられると、瑠璃覇は妖狐の姿に戻る。
少しでも、魔界にいた時のことを味わっていたくなったのだ…。
そんな瑠璃覇を見た蔵馬は、ますます強く抱きしめた。そのぬくもりを、自分の中に閉じこめるように…。
「瑠璃覇……。久々に……この姿でお前を抱きしめたかった。今日の試合で戻った時から、ずっと思ってた…」
蔵馬も自分と同じ気持ちだとわかると、瑠璃覇の頬は赤くそまった。
蔵馬のぬくもりをより近くに、より強く感じるために、自ら体を寄せる。
「オレは、二度とこの姿に戻れないと思っていたから、戻ることができたのも……またこの姿で瑠璃覇にふれられるのも、とても信じられないことだが、それでも、それ以上にうれしさや喜びがある。だから……今のうちに、少しでもふれておきたいんだ」
「ああ…。私もだ、蔵馬…」
ただ、互いに体を寄せあい、抱擁する。それだけで二人は、安心感や喜び、うれしさを感じていた。
「もう……二度と、妖狐のお前には会えないと思っていた。妖狐のお前のぬくもりも、二度と感じることができないと思っていたから…。だから、このぬくもりを、今は1秒でも長く感じていたい…」
「オレもだ…!」
蔵馬がそう言うと、二人は顔を近づけ、口づけをかわした。
お互いのぬくもりを、更に強く確かめるかのように…。
何度も何度も、角度を変えて…。
しかし、幸福な時間はそう長くは続かず、蔵馬は10分くらい経つと、南野秀一の姿に戻った。
それを見た瑠璃覇は人間の姿に戻り、少しだけ残念そうにした。
また、残念そうにしてる瑠璃覇を見た蔵馬も、少し残念そうな、悲しそうな顔をする。
蔵馬が南野秀一の姿に戻ると、二人はその場所に、横並びですわった。
「それで?蔵馬はこんなところで何をしていたんだ?」
「決勝戦にむけての特訓さ。オレは昔とくらべると、あまりにも弱々しくなってしまったからね。正直……戸愚呂はおろか、あの二人にも太刀打ちできそうにないから……」
「そうか…」
「鈴木に会ったのは偶然だ。だが、その偶然の出会いによって、オレは妖狐に戻る術を手に入れたというわけだ」
「そうだったのか。確かに、南野秀一の肉体だと、あいつらに勝つのは難しそうだな……」
「はっきり言うね…」
「事実だ」
相手が恋人だろうと誰だろうと、包み隠さずはっきりとものを言う瑠璃覇に、蔵馬は苦笑いをする。
「でも、妖狐の姿ならいけるかもしれんな」
そう言われ、にっこりと微笑まれると、蔵馬は少し顔を赤くそめた。
「ところで……蔵馬が特訓をしてるということは、他の連中も特訓してるのか?」
「まあね。桑原君も鈴木からアイテムをもらっていたし、飛影は今日の試合が終わってからずっと姿が見えないから、恐らくずっと特訓してるだろう。幽助は…………まあ……」
幻海のことはなんとなく気づいているが、それでも表だって言うことではないので、それ以上は言わなかった。
「なあ……蔵馬…」
「何?」
「私に………情の心はあると思うか?」
「何?いきなり」
「……ちょっとな…」
あまりに唐突な質問に、蔵馬は疑問符を浮かべるが、瑠璃覇は昼間幻海に言われたとははっきり言わず、言葉を濁した。
「……そうだな…。あると思うよ。くやしいことにね」
「なんだ?その…くやしいっていうのは?」
「あ…いや…こっちのことだよ」
「ふーん?」
わけのわからないことを言われたが、あまり言いたくなさそうだったので、瑠璃覇はそれ以上はつっこまなかった。
「で……なんでまた、いきなりその話を?」
「…………前に………四聖獣を倒した後……桑原の家から帰る時、話したことがあるだろ?私は病気なのかってな…」
「ああ……。そういえば、そんなこともあったね」
「それを昼間、ある人物に話した」
ある人物と言っただけだが、それは恐らく幻海のことだろうと察した。
けど、決して幻海の名前を出すことはしなかった。
「そうしたらそいつは、私に情の心がめばえているからだと言ったんだ」
この時瑠璃覇は、蔵馬ではなく、星空に目をむけて話していた。
「蔵馬も知ってるだろうが、今まで私は、周りの奴は、敵なのかそうでないのかで判断していた。相手が敵だと、とても煩わしく、腹立たしい。敵でなくても、蔵馬以外の他人と関わるのが、正直苦痛でしかなかった。隣にただ立っているだけで不快だったんだ。
けど、今はそうでもない。
今は………あいつらといるのが、苦痛じゃなくなってる……」
星空を見て、おだやかな顔で話している瑠璃覇を見て、蔵馬はとても複雑そうな顔だった。
「………確かに……瑠璃覇は変わったよ。前は絶対に、そんなことは言わなかったからね」
「そうか?」
「うん…。確かに瑠璃覇は、その人が言った通り、情の心がめばえている。あれから、その手の会話はなかったから言わなかったけど、その会話があった時よりも、ずっとね……」
「……………」
「瑠璃覇が、幽助や桑原君、飛影のことを大切に想い、信頼しているのは、オレにもわかる」
「……私は……まだ、自分があいつらをどう思っているのかは、よくわからない…。でも……もし…今抱いてる感情が、蔵馬に対して抱いてる気持ちと同じだというなら……たぶん………きっと……」
瑠璃覇の口からその言葉が出ると、蔵馬はますます複雑そうな顔をする。
「…………やっぱり………くやしいな……」
「え…?」
「オレは……瑠璃覇の信頼を得るまでに、ずいぶん長いことかかった。でも、幽助達はこんなにもあっさりと、瑠璃覇の信頼を得ているからね」
そのことを聞くと、瑠璃覇は目を丸くしてきょとんとした。
「あっはははははははは」
そして、突然大きな声で笑い出す。
その笑い声を聞くと、今度は蔵馬が目を丸くした。
「ヤキモチか?」
「……悪い?」
「いや、別に……」
そう言いながらも、瑠璃覇はまだ少しだけ笑っていた。
「そうだな…。確かに、あいつらのことは嫌いじゃないよ。でも………」
「でも?」
「私が一番好きで大切なのは、蔵馬だ」
少しだけ不機嫌だった蔵馬だったが、瑠璃覇が今言った言葉で、表情がやわらいだ。
「蔵馬がいるから、私は私でいられる。まっすぐ立っていられる。まっすぐ歩いていける。何もしなくていい。そこにいてくれるだけで十分だ」
「瑠璃覇……」
「だから……明日も……明後日も……その次の日も、変わらず…私の隣にいてほしい」
「ああ、約束しよう…」
約束を証明するように、蔵馬は顔を近づける。
その行動の意味がわかった瑠璃覇は、何も言わず、自分も顔を近づけ…
そして……お互いに唇をかさねた…。
その後、蔵馬は瑠璃覇に特訓を頼み、薬を飲んで妖狐の姿となり、瑠璃覇と特訓をした。
その日だけでなく次の日も、妖狐の姿と、南野秀一の姿で特訓をしていると、あっという間に夜になった。
「瑠璃覇……そろそろ、幽助達の様子を見に行かないか?」
「ああ」
もう試合は明日で、夜はゆっくり休もうということと、他のメンバーがどんな特訓をしているのかが気になったので、彼らを探しに行った。
蔵馬が歩き出すと瑠璃覇も歩き出し、瑠璃覇は自分の腕を蔵馬の腕にまわして、蔵馬と腕をくんだ。
その様子は、とても幸せそうだった。
その頃桑原は、原っぱに一人すわりこみ、目の前に置いてある、鈴木にもらったアイテム、試しの剣とにらめっこしていた。
にらめっこしながら、鈴木に言われたことを思い出していた。
それは、妖気や霊気は、指紋や声紋のようにひとりひとり違い、試しの剣はその気を吸いとって剣となる。桑原の気からできる、世界でただひとつの刀になる…と…。
ただ、どんな恐ろしい副作用が出るかは鈴木本人にもわからない。そう言われたのだ。
それでずっと思い悩んでいたわけだが、桑原は覚悟を決めて剣をとり、剣に気を集中させた。
すると剣ができ、それを見た桑原は驚き、ホテルへ帰った。
「浦飯ーー!!浦飯どこだーーー」
そして、ライバルである幽助をまっさきに探し出す。
「すげェぜこいつはァ。桑原様の必殺兵器だーーー!!」
恐らく自分達が泊まってる部屋だろうと思い、部屋へ直行した。
「おいってばよ。いねーのか」
部屋に着くと、扉をノックもせずにあける。
「う…」
その時、扉を開けた先にあるものを見て驚き、固まってしまった。
「ふう~~」
それは、幽助がとんでもない量の霊気を放出していたからだ。
「よっ、オメーか」
「よ……よっじゃねーー!!」
桑原に気づいた幽助は気軽にあいさつするが、桑原は悔しい思いをしていた。
「へ、へん!!だがな、気ってのは、ひとりひとりちがうんだ!!オレには、世界でただひとつの霊剣があんだぜ!!」
「?」
鈴木に言われたことを話すが、突拍子もないため、幽助には何がなんだかさっぱりわからない話だった。
「あいかわらず、さわがしい野郎だ」
「にィ」
そこへ飛影がやって来て、もはやあいさつのように毒づいてきたので、それを腹立たしく思ってふりかえれば、そこには右腕が真っ黒にこげた飛影が立っていた。
「飛影」
「うげっ、どーしたんだよ。その右腕」
「あまりにも言うことをきかんので、少々痛めつけてやった」
「は…はは。まーー、なにはともあれ、これで蔵馬と瑠璃覇がくれば久々に…」
「もういるよ」
「お前の後ろにな」
桑原が瑠璃覇と蔵馬の名前を出すと、二人の声が桑原の後ろから聞こえた。
「さっきからね」
そこには瑠璃覇と蔵馬がいたので、まったく気配を感じなかった桑原は内心驚いていたが、それを口にすることはなかった。
「よ、よっしゃ。これで全員集合だ」
結局幽助は、みんなには、「ばーさんは今日は戻らない」とだけ伝えた。
幽助自身、まだ、「明日になれば、憎まれ口をたたきながら、ひょっこり姿を現すんじゃないか」と思っているかもしれない。
そのことを知っている者。
それに感づいている者。
なに考えてるのかわからない者。
全く気づいてない者。
それぞれの思いを抱きながら
「よっしゃ、行くか!!」
「おう」
いよいよ……
決勝戦が始まる…。
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