第四十八話 美しい?必殺技
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桑原がいなくなると、三人はリングに上がり、怨爺の前に立った。
「さて、次はだれかな。ワシのカンでは、蔵馬あたりが出そうじゃの。ワシに勝ったら、裏浦島の使った逆玉手箱の秘密を教えてやってもいいぞ」
「さっさとサイを振ったらどうだ?」
蔵馬が怨爺を軽く睨みながら言うと、怨爺はサイコロを振った。
出た目は瑠璃覇だった。
対戦者が決まると、蔵馬と飛影はリングの下に降りる。
「ホッホッ、大丈夫かね?死々若丸の時から、ほとんど連戦の状態じゃろ」
「いい加減、その耳障りな年寄り言葉と変装をやめたらどうだ?」
その発言に、怨爺は眉をピクリと動かす。
「変装?」
そのことに、蔵馬と飛影も驚いた。
「そんな、年寄りの格好で油断させようと考えているなら、相手が悪いと思うがな」
「フッフッフ、よく見破った。妖気の波調も変えていたのにな……。変装は趣味だ。悪く思わんでくれ。いいだろう。お初にお目にかける」
怨爺は顔に手をかけると、マスクを…まるで顔の皮をはぐような形で、半分ほどとった。
第四十八話 美しい?必殺技
「私が老人に変装したわけは、年寄りは私の最も嫌いな生き物だからだ。最も嫌いなものに化けることで、自らの闘争心をさらに高めるためにな」
顔のマスクを中途半端にとったままで、手をひろげて上にあげ、何やら呪文を唱えると、爆発がおこり、怨爺が煙に包まれた。
煙の中から高らかな笑い声がすると、段々と煙がはれていき、中から現れたのは、ハデなかっこうをしたピエロだった。
それを見た周りの者は、口をあけて固まってしまう。
「老いは醜い!もはやこれは罪だ。そうなる前に、私は死のうと思う。美しいままで。だが、その前に私は伝説を作る!私が主役の恐怖神話をな。この大会の優勝は、その伝説の第一章となるのだ!!そしてこの大会の目撃者全てに、私の伝説の語り部となってもらう。
自己紹介が遅れたが、私は、千の姿と千の技を持つ、美しい魔闘家鈴木!!美しい魔闘家鈴木だ!!ハーハッハッハッハッハ!!」
何やら自己陶酔したようにしゃべると、自分で自分のことを美しいと言った上、最後は高らかに笑い出した。
「2回も言わなくても聞こえてるよ。魔闘家の鈴木さん」
「私の名を呼ぶ時は、名前の前に、美しいという言葉をつけるのを忘れるな。美しいとは、私のためにある言葉」
あまりに自意識過剰すぎるその言葉に、瑠璃覇はウンザリといった顔になる。
「バカげたことをヌケヌケと」
「見ているこっちがはずかしいよ」
これには、蔵馬と飛影も呆れていた。
そして鈴木はまた、高らかに笑い始めた。
「怨爺の時とは一転して、異常な……あ、いや…派手な装いとなりました。鈴木選手」
今の小兎の発言に頭にきた鈴木は、小兎を睨みつけると、トランプを小兎に投げつけた。
小兎があわててよけると、そのカードは後ろの妖怪の額に刺さる。
カードが刺さった妖怪は、額から激しい出血をして絶命した。
「名前の前に、美しいという言葉をつけろと言ったはずだ」
「美にこだわるくせに、顔をかくしているのが理解できんな。そんなに、自分の顔に自信がないのか?」
「巨大な伝説は永遠に残る。その伝説に、必要のないものが素顔だ。人は、姿形のわからないものをおそれたり、それにひかれたりして、あれこれ想像するものだ。神や悪魔が、最もいい例ではないか。百年後、人々は口々にこううわさする。「最も美しく、強く、おそろしい魔闘家鈴木って、きっとこんな顔よ。いいえ、こうかしら。あら違うわ、きっとこうよ」。それを思うだけで、私はゾクゾクワクワクするよ。アッハッハッハッハッハ」
「よく笑う奴だ」
「何がそんなにおかしいの…かな?」
鈴木の、一般的には理解しがたい発言に、飛影と蔵馬は更に呆れる。
「美しい私はここに宣言する!!私が優勝したあかつきには、まず手始めに、老いたる者は皆殺し!!それに反対する者も皆殺し。私に従う者にのみ生きる権利を与える!!」
その発言に、当然のごとく、観客からブーイングがとんでくる。
すると鈴木は、観客席に向けて技を放った。
あたった場所では大きな爆発が起こり、観客席に大きな穴があく。
「私は大真面目だ」
「マッド・ピエロめ」
その様子にびびった観客達は、どっちも応援できないと、顔が青ざめた。
「パープル・アイ、お前も私の伝説の一ページに入れてあげよう。「魔界屈指の実力者であるパープル・アイは、美しい魔闘家鈴木に、こてんぱんにやられました」とな」
指をさして宣言すれば、また自分の世界に入りこみ、高笑いをする。
「始めていいのでしょうか?」
「早く始めろ…」
瑠璃覇はもうこのやりとりにあきあきし、ため息をつくと、樹里の問いに答える。
「それでは、始め!!」
瑠璃覇が答えると、樹里は手をあげて試合開始をつげた。
「言っておくが、私に勝とうなどと考えん方がいいぞ。私にはとっておきの技があるからな」
自信満々に鈴木が言っても、瑠璃覇はまったく動じなかった。
「見よ!!美しき必殺技!!レインボー・サイクロン!!」
試合開始の合図が出されると、鈴木は技を出した。七つの色の妖気を放出させた技である。
その技は瑠璃覇に直撃し、同時にリングが破壊されたことにより、煙が舞った。
「鈴木……あ、もとい……美しい魔闘家鈴木選手の攻撃が見事に決まりました!!」
「ハッハッハッハッハッハ。私は自分の妖気の波調を、自由自在に変えることができる。波調を変えた、七色の妖気を放出する必殺技。おお…なんて美しいんだ。私は自分の技の中で、これが一番気に入っている」
技を放っただけで、鈴木は再び自己陶酔をしており、何やら語りだした。
「おやおや、もう終わりか。他の999の技も、全部お見せしたかったのに」
「そんなものを見せる前に、お前はリングに沈むがな」
まだ完全にはれていない煙を見ながら話していると、後ろから声が聞こえてきたので、そちらを見てみると、そこには瑠璃覇が立っていた。
「ほう、なかなかやるな」
「貴様こそ、なかなかいい鼻の形しているじゃないか。素顔の方が、伝説を作りやすいのではないか?」
「お……おおっ!!」
瑠璃覇の指で、弄ばれるようにくるくると回っている自分のつけ鼻を見ると、鈴木はあまりのショックに固まった。
「あんな、見え見えの残像に気づかないなんて…」
「話にならん」
蔵馬と飛影が呆れていると、後ろの選手入場用の扉が開き、怨爺の技で、また前の闘技場にとばされた桑原が戻ってきた。
「あ、桑原くん」
「浦飯チームのバカのお出ましか」
「お、おい、オレの相手はどうした?」
「そうだ。あんなバカには、お前がちょうどいいかもしれん」
「どういうこった?」
飛影の嫌味に、意味がわからない桑原は、頭に疑問符を浮かべる。
「いたっ!!」
瑠璃覇は指で回していた鼻を、鈴木に投げつけた。
そのつけ鼻が自分の鼻にあたったことで、鈴木は我にかえる。
「いつまで固まってるんだ?貴様は」
「貴様、いつの間に…」
「まだわかっていないようだな。前にも言ったが、私は極悪盗賊と呼ばれた女だ。敵には容赦しない。だが、貴様など、全力を出さずとも勝てるからな。貴様のような弱い奴相手には、肉弾戦で十分だ」
「おのれ……なめるなよ!?ならばオレも妖気は使わん!!爆肉鋼体!」
鈴木が気合いをいれると、みるみるうちに筋肉がふくれあがった。
「ハッハッハッハッハ。戸愚呂程度の技ならこの通りよ!!」
もうすでに勝利が決まったかのように、鈴木は高笑いをしながら、ボディービルダーのようなポーズを決める。
「貴様のことは調べさせてもらったぞ、パープル・アイ。貴様は確かに強い!だが、体術は苦手だろう?貴様はどちらかといわなくとも、技で翻弄させるタイプの妖怪。だがオレは、体術も妖術も使える。そんなオレに、貴様が勝てると思うのか!?」
瑠璃覇は呆れ顔で頭をかき、軽くため息をつくと、鈴木の目をまっすぐ見た。
「貴様の敗因を教えてやる」
「敗因だと!?」
「確かにお前は、ほかの妖怪達の性質にあわせて、武器を作ってやることにかけては、天才的だ。だが、それを自分の強さとかん違いしている。お前の技は、見せかけだけで軽い。お前に比べたら、死々若丸の方がまだマシだった」
「うるせェーーー!!」
激怒した鈴木は、瑠璃覇に殴りかかっていく。
だが瑠璃覇は、自分が殴られる前に、向かってきた鈴木を逆に殴りとばした。
「なっ!こんな……バカな…」
殴られた時の力は、想像を絶するような力だったので、鈴木は目を見開いて驚いた。
「さっきの続きだ…。私のことを調べたといっても、お前は調査不足だ。確かに私は、肉弾戦は苦手だ。それに関しては一番弱い。もとの妖力に戻ったとしてもな。しかし、力の応用はできる。貴様など、簡単にふっとばせるくらいにな」
「くそォ!!」
半分やけになり、また瑠璃覇に殴りかかるものの、またしてもあっさりと殴りとばされてしまう。
瑠璃覇は鈴木のところまで歩いていき、鈴木の前まで来ると足を止め、鈴木を見くだすように見下ろした。
「言っておくが、私は相手が誰だろうと容赦しない。女だろうと男だろうと……赤子だろうと老人だろうとな…。
あと、私は他人が大切にしてるものを奪うのが大好きだ。盗賊だからな。
だから……」
そして、黒い笑みを鈴木に向けた。
「だから……貴様のその、美しいと言っている顔をおがみ、逆玉手箱の秘密を聞き出した後、再起不能になるくらい、貴様が大切にしているその美しい顔とやらを重点的に殴って、見る影もなくしてやろうな。二度とその、美しい顔というのを見れなくしてやる」
黒い笑顔にもだが、自分がそうなることを想像し、鈴木はぞっとして、顔が青ざめた。
「殺しはしない。貴様は重要な情報をにぎってるヤツだからな。だから、貴様の意識がなくなる寸前まで殴り続ける!!」
そう言うと瑠璃覇は、鈴木に反撃する暇も与えず、どんどん殴り続けた。
「つ…強ェ…」
あまりの強さに、桑原は驚いていた。
「違う。あいつが弱すぎるんだ」
「しかし、どういうことだ?瑠璃覇が肉弾戦で戦ってるとこは、今まで見たことがないぞ。あのバカの言う通り、瑠璃覇は肉弾戦は得意じゃなさそうだが…」
「あれは力の応用だ」
「「応用?」」
飛影の問いに蔵馬が答えると、飛影だけでなく桑原も、声を合わせて返した。
「瑠璃覇は今、自分の操る風を、体全体にコーティングしてる状態だ。瑠璃覇自身に力はないが、風でコーティングされた拳にふれた瞬間、相手はあっという間にふっとんでしまう。まるで、怪力でぶっとばされたようにね…。
陣が使っていた、修羅旋風拳と同じだ。風をまとうことで、自身の攻撃力を強化している。陣は、小さな竜巻を腕に作っていたが、瑠璃覇は不動の風を全身にまとい、攻撃力を強くしているんだ」
「そうだったのか」
「なら、死々若丸との戦いで、死々若丸の剣を指で受け止めていたのもそれか?」
「いや、あれはまた違うものだ。あの時、剣を指で受け止めていたのは、自身の力ではなく、風の力だ。
瑠璃覇は、攻撃や防御として使うだけでなく、風でものを動かしたり、逆に動けないようにすることもできる。指を使うことで、あたかも怪力だと思わせられるというわけだ」
今度は桑原に質問されると、蔵馬はその質問に答える。
「じゃあ、以前迷宮城で、オレが瑠璃覇を剣で攻撃して止められた時と同じか?」
「いや……あれはちょっと違う。あの時は、攻撃の風ではなく、結界の風をまとい、体全体をコーティングさせ、強化していた。結界で体が切れないようにしていたんだ」
「なるほど…。力の応用か…」
「ああ…」
蔵馬の説明に、飛影も桑原も納得した様子だった。
一方で、瑠璃覇の攻撃は続いていた。
瑠璃覇は、何度か殴った後、鈴木に蹴りを入れた。
それだけでも十分にきいているのだが、それを瑠璃覇が許すはずもなく、瑠璃覇は蹴った後も更に殴り続けた。
何度も…何度も……。
「あ、しまった」
そして、もう何度目かわからないくらい殴った時、瑠璃覇は我に返ったように拳を止めた。
「こいつの、美しい顔とやらを見るのと、逆玉手箱の秘密を聞きだすのを忘れてた…」
鈴木は見る影もないくらいボコボコにされ、顔中から血がふき出していた。
「あ…あひる」
そのまま鈴木は、よたよたと歩いていくと倒れてしまう。
樹里が鈴木を足でつつくが、動く気配はなかった。
「美しい魔闘家の鈴木選手!!戦闘不能とみなし、瑠璃覇選手の勝ちとしまーす!!」
瑠璃覇の勝利が宣言され、浦飯チームは決勝進出となった。
戦いが終わり、出口へ向かう途中で、幻海と女性陣と合流した。
「いよいよ決勝だね。よくがんばったよ」
「皆さん、とても素敵でしたわ」
「ゆ…雪菜さん。今回はオレが出るほどの相手じゃなかったんで、みんなにまかせましたが……決勝戦は、きっと大活躍しますから」
「ええ」
鼻の下をのばしながら話す桑原に、雪菜はにっこりと微笑む。
「今回の勝因は、お前が活躍しなかったからだろ」
その後ろで静流は、ニヤニヤと笑いながら、桑原に嫌味を言う。
「姉ちゃん、そりゃねーだろ!!」
「違うのかい?」
「ああ!!違うよ!!」
「いや、違わない」
「うるせーぞ、チビ!!」
「どうどうどうどうどう」
桑原が、静流が言ったことを否定すれば、飛影は肯定し、桑原はそれに反発する。
周りでは蔵馬と瑠璃覇が笑っており、ぼたんが飛影と桑原をなだめていた。
「先行くよ」
それを見ていた幻海は、一人で先に歩いていってしまった。
「まあまあ。期待してるよ、桑原くん」
「オレは期待しない」
「もうおよしったら」
蔵馬がなだめるように桑原に声をかけても、相変わらずな飛影に、ぼたんは呆れた。
先を歩いていた幻海が角を曲がると、その先には、戸愚呂弟が壁に寄りかかって立っていたので、それを見た幻海は、一瞬足を止める。
けど、すぐに動き、戸愚呂弟がいる方に足を進めていく。
「話がある。後で会ってくれるか?」
「いいだろう…」
幻海が目の前に来た時、戸愚呂弟が静かにそう言えば、幻海はまた動きを止め、視線を戸愚呂弟に向けて返事をすると、また歩きだした。
「おい、いつまでも漫才などやってないで、そろそろ行くぞ」
このやりとりにあきてきた瑠璃覇は、呆れ気味に言い、歩みを進める。
瑠璃覇に言われると、他の者も、瑠璃覇に続いて歩きだした。
「あ!!そういえば、幽助と螢子ちゃんを外に置いてきたんだった。迎えに行かないと…」
「そういやそうだったな。浦飯のこと、すっかり忘れてたぜ」
今更になって幽助と螢子のことを思い出し、ホテルに戻る前に、二人とも合流しようとした。
「あ、幻海師範」
けど、会場から出る前に、先に行ったはずの幻海と会った。
「どうしたんですか?先に行ったはずじゃ…」
「瑠璃覇と蔵馬と飛影に話があってね」
「話?なんですか?」
「瑠璃覇、蔵馬、飛影、奴らの戦いをよく見ておけ」
それだけ言うと、幻海はホテルへと戻っていった。
その幻海の背中を、瑠璃覇はジッと見ていた。
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