第四十七話 飛んで火に入る桑原
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死々若丸は刀を上に持ち上げると、頭上で魔哭鳴斬剣を回し始めた。
「見るからに不気味な、死々若丸選手の魔哭鳴斬剣!!はたして、どのような技が飛び出すのか!?」
「くくく」
剣を振り回しながら、死々若丸は不敵な笑みを浮かべていた。
すると、突然剣から、不気味な声が聞こえてきた。
「う…な、なんだ。この、頭を蝕むようなうめき声は………」
「あ…あれだ。あの刀だ。あの剣が、悲鳴をあげてやがるんだ!!」
「うう~~~!!」
「ぐあ!!あ、頭がいてェ…!!」
「死々若丸選手の刀から発せられる音で、観客の中に、倒れる者が続出しております」
刀から発せられる不気味な悲鳴により、観客達は頭をおさえたり耳をふさいだりして苦しみ、中には倒れる者も続出した。
「抵抗力のない者は、聞くだけで命がもぎとられていく、死霊の招き声。オレには聖歌隊のコーラスに聞こえるが
貴様はどうかな、パープル・アイ!!」
死々若丸は妖気がこめられた刀を構えると、その場を跳躍した。
第四十七話 飛んで火に入る桑原
「くらえ!!爆吐髑触葬」
死々若丸は瑠璃覇に向けて、勢いよく刀を振り下ろす。
刀がリングにあたると同時に、激しい爆発が起こり、髑髏の形の妖気が放たれた。
髑髏は不気味な笑い声をあげながら、会場中の妖怪達を襲い出した。
観客の中には、髑髏に喰われてしまう者もいたが、蔵馬や飛影、戸愚呂弟などの強い妖怪は、己の技をぶつけて髑髏を粉砕した。
「怨邪解放の呪鳴を発する魔笛と、それに共鳴増幅し、衝撃波をくり出す妖刀が一体となった魔哭鳴斬剣。媒体をなすオレも、かなりの妖力を消耗させられるが、まともにくらう敵は、跡形も残るまいて」
刀をぶつけた場所は大きな穴があき、周りには砕けたリングの破片が散乱していた。
「まともにくらったら……だがな…」
死々若丸が技の説明をすると、後ろから声が聞こえた。
その声に死々若丸が振り向くと、後ろには瑠璃覇が、無傷の状態で立っていた。
「前のスピードは様子見…というわけか」
「やはりお前は大したことはないな。これなら小技程度で十分だ」
「なに?猪口才なネズミめが!!一度かろうじてよけた程度で図に乗りおって。いやでもくらうようにしてくれるわ!!」
瑠璃覇の発言で頭に血がのぼった死々若丸は、再び刀を構える。
「じょ、冗談じゃねェーーー。巻き添えはごめんだぜ」
「てめェの命の方が大事だぜ」
また、爆吐髑触葬が放たれるのがわかると、観客達はいっせいに会場から逃げ出していった。
「おっと。あまりの技の恐ろしさに、逃げ出す客が後を絶ちません!!かくいう私も、ちょっと逃げ腰!!」
「どいつもこいつも腰ぬけだぜ。パープル・アイが死ぬ瞬間を見る絶好のチャンスじゃねェか」
「残る者、強がる者など様々ですが…試合はもちろん続行です!!」
その頃、会場の観客席に通じる通路を、一人の男が走っていた。
「オラオラオラどけどけェ!!」
桑原である。
実は桑原は、死出の羽衣で、前の闘技場にとばされたのだった。
そこで、会場を間違えた女性陣と遭遇し、今の闘技場まで案内している途中で、試練を乗り越えて眠っていた幽助を見つけたので、かついで戻ってきた。
しかし、中に入ろうとした時、死々若丸の技にびびって逃げ出してきた観客達が出てきたので不思議に思い、木の影に身をひそめて様子を見ている時に、死々若丸が爆吐髑触葬を放ったことに怒り、同時に、あの技ならいかに瑠璃覇でも死ぬだろうと話していたのを耳にしたのだ。
それを聞いた桑原は、中に入るのは危険だと判断し、女性陣をそこに置いて、一人で様子を見に、中に入っていったのである。
「(まさか、あの瑠璃覇が死ぬわきゃねーとは思うが…)」
そう思いながらも、桑原は心配せずにはいられなかった。
瑠璃覇のことを考えながら通路を走っていき、観客席に出ると、桑原はとんでもないものを目にした。
「な、なんだありゃあ!?まるで死霊の声が形となって、ふたりをつつんでいるみてーだ」
妖気の壁が二人の周りをかこんでおり、先程の技よりも強烈な叫び声が、会場に響き渡っていたのだ。
「怨呼障縛壁。間合いをはかることはおろか、逃げることもかなわんぞ」
動ける範囲は限定されてしまったので、うまく動くことができない状況だった。
しかし、そんな状況にもかかわらず、瑠璃覇はまったく気にとめていない様子だった。
「くくく。心地よい瞬間が近づいてきた。正義などという、くだらん幻想を抱く、戯け者を葬り去る瞬間がな」
「やけに正義にこだわるな。そんなに嫌いなのか?」
「無論!!暴力は悪にのみ許された純粋な破壊行為!!貴様らえせ平和主義者に、汚されたくないわ」
「なるほど…。その意見には私も同感だな」
「おのれ、嬲るか!!まっぷたつにかっさばいてくれる!!」
瑠璃覇が言ったことに激怒した死々若丸は、跳躍し、刀を振り下ろす。
しかし、またしても瑠璃覇に、指で刀をつかんで止められてしまった。
「くそっ!!」
死々若丸は剣をひこうとするが、どこにそんな力があるのかというくらいに強い力なので、押すこともひくこともできなかった。
その間に、死々若丸は剣を通して妖気を奪われてしまい、瑠璃覇は妖気を奪うと、指で剣を折った。
剣に風化の術をかけていたので、剣はあっさりと、マッチ棒のように折れてしまう。
「風壊玉(フウカイギョク)!!」
そのことで死々若丸の動きが止まった瞬間、瑠璃覇はすかさず技を発動させた。
いくつもの風の玉を、死々若丸に向けて放ったのである。
その技をまともにくらった死々若丸は、後ろへふっとんでいき、そのまま仰向けに倒れた。
「オレの妖気を……とりこんだ…だと…?」
そこへ瑠璃覇がやって来て、死々若丸を見下ろした。
「どうだ?自分の妖気をくらった気分は?」
「くっ……。オレの妖気をとりこむことで自分のものとし、自分自身の妖気を使うことなく、このオレを攻撃したというのか…!?」
「その通りだ。貴様ごときが私にケンカを売るなど、100年早い。そんなお前に、この私が全力を出すわけがないだろう」
「あ……悪魔か、きさま」
「ハハハ。妖怪にむかって悪魔とは、おもしろいことを言うな」
死々若丸の発言に、瑠璃覇は吹き出し、思いきり笑う。
「大体、何故私が平和主義者で正義だ?私はどちらかといわなくても、貴様と同じ部類だと思うがな」
「フン…。人間はやたらと正義をふりかざす。だから、その人間側についた貴様も同類だ」
「違うな。私は極悪盗賊と言われた女だぞ。しかも、生きた伝説とまで言われたな…。今はたまたま人間界にいて、たまたま人間の側にいるだけだ。本来の私は、貴様の言う、悪にのみ許された純粋な破壊行為である暴力をもって、他者をあざむき、傷つけ、他者から金品を奪い、命を奪ってきた…。他人の財産も、命も、人生も、どうなっても構わないと思ってる。自分以外の奴がどうなろうと、私の知ったことか。だから、貴様がどうなろうと私には関係ない。私はそういう女だ」
「……フッ…。やはり美しいな、貴様は…」
瑠璃覇が話し終えると、死々若丸は目を半分閉じかけた状態で、軽く笑った。
「もし……貴様が蔵馬のものになっていなかったら……意地でも貴様を、オレのものにしていたかもな…」
それだけ言うと、死々若丸は意識を失った。
死々若丸が倒れると、樹里はカウントを数え始める。
「10!!瑠璃覇選手の勝利です!!」
カウントが10までとられ、瑠璃覇の勝ちが決定した。
「あとひとり」
瑠璃覇が勝つと、飛影は敵側に一人だけ残った怨爺を睨みつける。
「どっこいしょ…」
死々若丸がやられると、怨爺はゆっくりとリングにあがった。
「最後はじじいかよーーーー」
「大丈夫か、あんなのでよーー」
怨爺を見た観客達は、不安そうに野次をとばした。
「さて……こっちはもうサイを振る必要がなくなったわけだが…まだこいつで決めるかね?」
「勝手にふれ。だれが出ようと、お前がやられるのに変わりない」
「ホホホ。お言葉に甘えるとしようか」
飛影に嫌味を言われても、大して気にする様子もなくサイコロをふる。
出た目は桑原だった。
「おやおや」
「桑原選手の目が出てしまいました。彼は帰らぬ人となりましたので、振り直しでーーーす」
「ちょっと待てや、ねーちゃん!!」
その時、樹里の後ろから桑原の声が響いた。
「だれが帰らぬ人だ、てめーー」
「キャ、びっくり」
「桑原和真ふっかーーーつ!!!確か、生きてりゃなん度でも出れるハズだったな!!」
そこには、小兎のマイクを奪ってしゃべっている桑原の姿があった。
「やれやれ、あやつか………。まァ…あれなら新しい技を出すまでもない……」
怨爺はいきなり戻ってきた桑原を目にしても、まったく動じてはいなかった。
「最後をしめくくるのは、このオレ様だ!!」
桑原は得意気な表情で、高らかに笑った。
そして、今いる場所から跳躍すると、リングへと着地する。
「おっしゃあ!!いつでもきやがれィ!!」
指をバキバキと鳴らす桑原は気合充分で、怨爺は攻撃のために構えをとった。
「それでは、準決勝第6試合、桑原対怨爺。始め!!」
「おりゃあーーーーー!!」
桑原は試合開始の合図と同時に、怨爺に殴りかかっていった。
何度も何度も殴りかかるが、怨爺は桑原の攻撃をあっさりとよけていく。
「こら、ジジイ!!もう容赦しねェぞ!!霊剣!!」
肉弾戦がダメならと、桑原は霊剣を出した。
「おやおや、こりゃまた物騒なもんを持ち出したもんじゃ」
「どりゃあーーー!!」
桑原は怨爺のもとへ走っていき、霊剣を勢いよく、怨爺に向かって振り下ろした。
だがその瞬間、怨爺は桑原の視界から消えた。
「何ィ!?」
「どこを狙っておる」
怨爺は桑原の後ろに立っていた。
「このヤロー!!」
「鈍い奴じゃの」
桑原は再び怨爺に斬りかかっていくが、またしてもよけられ、怨爺は今度は横に立っていた。
「うるせェ!!」
それを見た桑原は、何度も何度も斬りかかっていくが、少しもかすりもせず、全てよけられてしまう。
「ちょこまかしてんな!!」
頭に血がのぼってるというのもあり、なかなか怨爺をとらえることができない桑原。
このままでは、雪菜にいいとこを見せられないと、内心焦ってもいた。
しかし、それからまた何度も斬りかかるが、怨爺にあっさりとよけられ、まったくあたることはなかった。
「やい、このォ!!今度はどこ行きやがったんだ!?オラァ!!」
「こっちじゃこっちじゃ」
怨爺は樹里の後ろに隠れており、樹里の後ろからひょっこり現れると、おちょくるようにVサインをした。
「テメェ!!ちょこまか逃げてばっかりいやがって!!勝負になんねーだろうがよォ!!」
「ホホホ。ならば、かかってくるがよい」
怨爺は挑発するように言いながら、樹里の後ろから出てきた。
「何ィ!?」
「少々動くのにくたびれた」
そして、わざとらしく肩を叩く。
「よーし…。そのままジッとしてろ。今楽にしてやんぜェ!!」
怨爺の言動に切れた桑原は、額に青筋を浮かべて、霊剣を振り上げる。
「ダメだ。罠だ…!」
「どりゃあーーーー!!」
桑原は怨爺に向かってまっすぐにつっこんでいくが、あと少しで怨爺に届こうとしたその時、怨爺は不敵に笑うと、手を動かして、黒くて丸い球体を作りだした。
「何!?」
その黒い球体は、ゆっくりと桑原に近づいていく。
「なんだ、こんなもん。霊けェーーーーーーーん!!」
どう見ても罠には違いないのだが、桑原はわかっているのかわかっていないのか、霊剣を構えると、その球体につっこんでいった。
すると、体ごとその球体にとりこまれてしまった。
「自分から罠に入るなんて…」
「本当のバカだ」
「バカでアホでマヌケだろ…」
自ら罠にはまるような行動をとる桑原に、全員呆れていた。
「桑原選手。怨爺選手の発した、黒い球体の中に、閉じこめられてしまいましたァ」
「くそォ。なんだ、またかよォ!!」
「これが、死々若丸の使った、死出の羽衣の正体…。妖力をこめた布などで空間をさえぎり、その中に異界の入り口を作る。ワシくらいになると、そんな闇アイテムなど使わんでも、この通りじゃがな」
怨爺が説明をしながら手を上に動かすと、球体は桑原をとりこんだまま浮かびあがる。
また別の場所に行ってしまうことがわかっているので、桑原は出せと叫ぶが、敵である怨爺がそんなことをするわけがなかった。
「裏御伽Tとは、頭数をそろえるための、いわば前座にすぎん。闇アイテムも、ワシがやつらの性質にあわせて作ってやったおもちゃじゃ」
球体は天井近くまでいき、くるくると回り出した。
「ホッホッホッホッホッホッホッホ」
そして、何回か回ると、桑原は黒い球体ごとどこかへ消えてしまった。
「桑原選手が消えてしまいましたので、怨爺選手の勝ちとします」
桑原が消えると、怨爺の勝利が宣言された。
「あと3人か。決勝までに死々若丸くらいは残ると思っていたが…」
桑原は、先程の死々若丸と戦った時と同じ手段で負けてしまったのである。
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