第四十五話 伝説の妖怪、妖狐蔵馬
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「フフフ。サイコロの偶然とは不思議なものだな」
「全て、こちらの都合のいいように目が出る」
「前のふたりは、いわば捨て石。そして思惑通り、飛影に深手を負わせた。
そして裏浦島。奴は、蔵馬を倒すには、最もうってつけだ」
「第三試合、蔵馬対裏浦島。始め!!」
死々若丸と怨爺が話をしていると、次の試合開始の合図が響き渡った。
第四十五話 伝説の妖怪、妖狐蔵馬
試合開始とともに、裏浦島は持っていた釣り竿を、蔵馬はバラのムチを構えた。
「おっと。どうやら両者、似た武器を使うようです。これはどちらの技が冴えるか、洗練された技術の勝負となりそうです!」
先にしかけたのは裏浦島だった。
裏浦島が釣り糸で攻撃をすれば、蔵馬はムチで応戦し、攻撃をはじき返す。それの繰り返しの攻防戦となった。
「こ、これはすごい攻防の応酬。両者の間に、火花の壁が見えるほどです!!」
お互いが打ち合うことで、その度に、打ち合ったことでできた火花の壁が見えていた。
「(……? 妙だ…。本気を出していないように見える)」
一方蔵馬は、相手の攻撃に、何か違和感を感じていた。
「そのまま、攻撃しながら聞いてくれ」
「?」
「あんたに頼みがある」
その時、突然裏浦島が、蔵馬に小さな声で話しかけてきた。
「頼みだと?」
「オレを…オレを……殺してくれ」
突然のことに、蔵馬は動きが止まりそうになった。
「!?」
「攻撃を続けて!」
「どういうことだ?」
「オレ達は、お伽話の登場人物の邪念によって生まれた存在だ。正義や道徳と称し、様々な矛盾には目をつぶり、オレ達を葬った奴らに復讐するつもりだった。浦島太郎の話を知ってるだろう?開けちゃいけない玉手箱を、なぜよこしたのか?亀を助けた報酬が、なぜあの玉手箱だったのか?」
「その疑問と不満が邪念となり、生まれたというのか?」
「そうだ。だが、復讐はやめた。今はもう、死々若丸達の考えにはついていけない。オレ達の物語を読んで、人間達がいろいろな事を学びとる。それでオレ達の役目は終わってるんだ」
自分の思いを語る裏浦島の目には、涙が浮かんでいた。
「今度しかける瞬間、オレが体勢を崩す。それが合図だ。ひと思いにやってくれ」
「………わかった。だが、殺しはしない」
「何!?」
「存在理由が変わっても、生きていけるさ。オレがいい例だ」
「………あんた、優しいな」
目じりに涙を浮かべていた裏浦島は、真剣な顔になると、釣り糸を振る。
そして、それを蔵馬がはじいた瞬間、自分で言った通りに体勢を崩した。
「今だ」
「よし」
蔵馬は言われた通り、ムチをふりおろして攻撃をしようとした。
だがその瞬間、裏浦島はニヤリと笑うと蔵馬の視界から消えた。
「何!?」
言われたことと違うので、蔵馬は驚いた。
その隙に、蔵馬の体中に釣り糸が巻きつく。
「うっ」
そして裏浦島は、そのまま蔵馬の体を切り裂いた。
「うわああああっ」
蔵馬の体からは血しぶきがとび、同時に叫び声が響く。
「蔵馬!!」
蔵馬がやられたので、瑠璃覇は蔵馬の名を叫んだ。
「ぐっ…」
蔵馬はたたきつけられるようにリングに落ち、蔵馬から少し遅れて落ちたムチもバラに戻る。
「蔵馬……。今の姿になってから、悪いくせが増えたな…」
瑠璃覇は蔵馬を心配すると同時に、蔵馬の不甲斐なさにも顔をゆがめた。
「ダウン!!」
観客席からは歓声があがり、その少し後にリングに降り立った裏浦島は、バラの花を踏みつける。
裏浦島がバラを踏みつけると、蔵馬は体を起こしている途中だったが、裏浦島の方へ顔を向けた。
「ハハハハハハハハハハ。こうもカンタンに信じるとはなァーー。あんたの人の良さは致命的だぜ。この、ボケナスがよォオオ。頭の切れるあんたも、お涙にゃあめっきり弱いね。邪念から生まれたオレ達裏御伽チームに、改心なんて考えはねーんだよ」
自分をだまし、陥れた裏浦島を、蔵馬は睨みつけた。
「じっくりいたぶってやるぜ!」
裏浦島は釣り糸で攻撃をするが、蔵馬はそれを走りながらよけていく。
しかし、リングの端まで来ると、何やら足にひっかかった。
「フフフフフ。ようやく気づいたようだな。今までの攻撃は、お前を倒すためじゃない。お前を結界内に封じこめるためのものだったのさ」
「こ、これはいつの間に!!なんとリングを囲み、糸が張りめぐらされています!!」
蔵馬の周りには、いつの間にか、リングを囲むように糸が張りめぐらされ、結界が張られていたのだ。
「強力な妖具を使えば、あの結界師瑠架程度の結界は、オレにも作れる。さあ……あんたはもう、どこにも逃げられねェぜ」
裏浦島は持ってる釣り竿をリングに捨てると、背負っているカバンの中から、ひとつの箱を取り出した。
「裏御伽闇アイテム、逆玉手箱」
それは、あの浦島太郎の話にも出てきた玉手箱だった。
「物語では、箱を開けた主人公が年をくっちまったよな。これは逆に若返る。オレ以外のヤツがな………。オレは、オレより顔がよくて、背が高い奴が大嫌いでなァ。てめェは、赤ん坊のそのまた先にまで戻してやるぜ!!」
そう言いながら、裏浦島は逆玉手箱のフタを開けた。
すると、中から煙が舞い上がり、結界内に広がっていった。
「う…うわあああ……くっ…」
「なぶり殺しだ。ハハハハハハハハハハ」
煙はリングだけを覆い、結界内全体に広がる。
「蔵馬ぁっ!!」
「煙が、リングだけをおおってやがる」
「あの糸だ。結界になっているんだ」
煙の効果で、蔵馬の妖気がジワジワと弱くなっていく。
「フフフフフ。感じるぞ。感じるぞ。どんどんと妖気が弱まってるぜ」
自分の策略通り、蔵馬の妖気が弱まっていってるのを感じとり、裏浦島はニヤニヤと笑っていた。
煙の中、蔵馬は体がふらつき、意識が薄れていった。
薄れていく意識の中、蔵馬が思い出すのは、小学校に通っていた時のこと。母の志保利と、手をつないで歩いていた時のこと。自分が赤ん坊の頃、志保利に抱かれていた時のことだった。
「ヘヘヘヘヘヘ。やったぞ。ヤツの妖気が……ん!?妙だな。ヤツの妖気が完全に消えちまった。……ん?…あっ……」
裏浦島が、蔵馬の妖気が完全に消えてしまったのを妙に思った次の瞬間、突然強大な妖気が流れだした。
その妖気を感じとり、桑原や飛影だけでなく、怨爺や死々若丸までも、目を見開いて驚いた。
「こっ……これは…!?」
その中で、一番驚いていたのは瑠璃覇だった。
桑原の隣でその妖気を感じとった瑠璃覇は、信じられない思いで、心がいっぱいになる。
「この妖気は………まさか……!?でも……これは間違いなく……だが、何故だ…?」
そのことを考えていると、先程裏浦島が言っていた、「逆に若返る」という言葉と、「赤ん坊のそのまた先にまで戻してやる」という言葉を思い出す。
「………なるほど…。あいつ……いい仕事してくれたな」
その言葉を思い出すと、何故今になってこの妖気を感じることができたのかを理解し、同時にうれしそうに笑った。
その心は高揚しており、体が身震いするほどだった。
「ヒヒヒヒィ…ヒィ…ああっ……ヒィィィィ!!あっ…あっ…ああああっ!!」
一方で裏浦島は、あまりにも強大な妖気を感じとり、顔がみるみるうちに青ざめていった。
「な、なんだ!?この、おそろしいほどの……よ、妖気は~~~~!?たっ、確かに奴は、赤ん坊以前にまで…」
その時、裏浦島は自分の背後にその恐ろしい妖気を感じとり、たくさんの冷や汗をかいて、悲鳴をあげた。
「ふうう…。まさかまた…この姿に戻れる日がくるとは…………」
それは、長い銀色の髪の毛をなびかせた男だった。
「妖狐の姿にな…」
そこには、長い銀髪に、金色の瞳をもった妖狐が立っていた。
「よよ、妖狐~~!?じじじ、じゃあ、あ、あんたが」
彼の姿を見た途端、裏浦島の顔はますます青ざめ、足は力を失い、尻もちをつく。
「伝説の極悪盗賊、妖狐蔵馬ーー!!」
それは、南野秀一の体に憑依する前の妖狐の頃の蔵馬であった。
「さあ、おしおきの時間だ。オレを怒らせた罪は重い!!」
妖狐となった蔵馬は、目の前にいる裏浦島を、金色の鋭い目で睨みつけた。
一方リングの外では…。
「うわああああっ!!」
あまりに強い妖気にはじかれ、桑原は今いる場所から後ろにさがった。
「し、信じられねェ…。一体このどぎつい妖気は、どっちのものなんだ!?」
「フン。蔵馬の妖気に決まっている。多分、あのマヌケが闇アイテムとやらで呼び出してしまったんだろう。南野秀一とひとつになる前の蔵馬をな」
「こ、これが、蔵馬の本来の妖気だってのか!?」
「まさか、これ程の妖力だったとはな。一度手合わせ願いたいもんだぜ」
蔵馬の本来の妖気を感じとった飛影は高揚し、笑みを浮かべた。
「おい瑠璃覇、これが本当に、蔵馬の本来の妖気なのか?」
長い間、ずっと蔵馬とともにいた瑠璃覇ならわかるだろうと、桑原は隣にいる瑠璃覇に確認する。
「瑠璃覇!?」
隣を見ると、妖狐の蔵馬と同じ、銀色の長い髪に、蔵馬とは違う紫色の瞳。そして、体に狐の耳としっぽがついている、本来の妖狐の姿に戻っている瑠璃覇がいた。
瑠璃覇はリングを凝視しながら、リングの前まで走っていく。
「あれは……瑠璃覇…か…?」
「そうだ。あいつも、蔵馬と同じ妖狐。魔界では、魔界屈指の実力者として名高い極悪盗賊。あれがあいつの、本来の姿だ」
瑠璃覇の本来の姿を初めて見る桑原は、瑠璃覇を信じられない思いで見ていた。
「蔵馬……」
瑠璃覇は、姿は見えないが、せめて少しでも蔵馬に近づいていたいという思いで、本来の姿に戻り、リングの前まで来ていた。
もう……二度と感じることができないと思っていた妖気を感じとり、切なさと喜びを浮かべた表情で、煙で覆われているリングをみつめる。
それは、極悪盗賊と言われ、魔界屈指の実力者として恐れられている妖怪ではなく、一人の女の顔だった。
その頃煙の中では、蔵馬と裏浦島が対峙していた。
「さて…。どう料理してくれよう」
とは言っても、裏浦島は蔵馬の恐ろしさに腰をぬかしたまま蔵馬を見上げ、一方的に蔵馬が何かをしかけようとしているだけであった。
蔵馬は髪の中から、ひとつの種を取り出した。
それに妖気を通し、発芽させると、あっという間に成長していき、蔵馬の腕にまきつく形で出現する。
それはとても奇妙な形で、鋭い牙がはえた、大きな口がついている、どこからどう見ても魔界の植物だった。
そして、その植物を見た裏浦島は悲鳴をあげ、ますます顔が青ざめた。
植物は静かにゆっくりと裏浦島に近づいていった。あいた口からたれる唾液で、リングがわずかに溶ける。
「コイツの唾液は酸性でな。お前の骨など、1分としないうちに溶かしてしまうだろう」
わざとらしく、この植物の性質を説明すると、それを聞いた裏浦島は、恐怖のあまりますます顔がゆがみ、全身から冷や汗をかく。
「どうやら空腹で機嫌が悪いみたいだ。お前の体は、この食妖植物に喰わせることにするか!!」
「あひゃひゃ。たったったっ、助けてくれ!!助けてくれ!!助けてくれ!!なっなっ、なんでもする。い、命だけはァーーーー。お、お願いだァーーーー」
裏浦島は尻もちをついたまま勢いよく後ずさると、土下座と命ごいをする。
「なら話せ。このケムリの秘密はなんだ?」
「オ、オレは知らねェ」
涙ながらの返答に、蔵馬は冷ややかに裏浦島を見下ろすと、食妖植物を近づけた。
「本当だ!!死々若丸にもらったんだ。奴が知ってるはずだ!!」
「知っていることは全て話せ。嘘と感じれば、容赦なくこいつをけしかける…」
「な、なんでもしゃべるから許してくれ。オ、オレは浦島でもなんでもねェ。優勝すれば、欲しいものが手に入るっていう、奴等の話に乗っただけだ!!い…いいや、オ…オレだけじゃねェ。魔金太郎も……くくっ、く……黒桃太郎も………す、全ては…」
その時、裏浦島が全て話し終える前に、リングの外から光るものがとんできた。それに気づいた蔵馬は、顔を少しあげる。
それは一本の刀で、結界をあっさりと破ると、裏浦島の首に刺さった。
結構悲惨な光景なのだが、それすらも、蔵馬は冷たい目で見下ろす。
「ぎゃああああああああああっ!!」
裏浦島は悲鳴をあげると、ブタのような姿の獣に変わった。
「幻魔獣か……。……それにしても、この結界を軽々と破るとは…」
結界が破れたことで穴があき、そこから、煙がどんどん外へ流れていく。
「お、煙が消えてくぞ!!」
そして、煙が消えていくことにより、外からも少しずつリングの様子が見えてきた。
煙がなくなり、蔵馬の目の前にいたのは、この結界を破った刀を投げた死々若丸だった。
「な、なんと!!煙の中から現れてきたのは、お…恐ろしくも美しい、銀髪の妖怪!!そして倒れているのは……げ、幻魔獣!!どちらも試合開始時の姿ではありません!!一体どちらが勝ったのか!?」
「なっ、なんだ、信じらんねェよ!!あれが、蔵馬の本来の姿なのか!?」
自分が知ってる蔵馬とはまったく違うので、桑原は実際に昔の蔵馬を見て驚いていた。
「蔵馬……」
瑠璃覇が静かに蔵馬の名前をつぶやけば、それに気づいた蔵馬は、瑠璃覇の方に顔を向けた。
それだけでドキっとした瑠璃覇は、頬を赤くすると、手をゆっくりと蔵馬の方へ伸ばす。
それを見た蔵馬もまた、瑠璃覇の方へ歩み寄りながら手を伸ばした。
「!」
しかし、手を伸ばしたところで、完全に煙が消えてしまった。
「(煙の効果が消えていく。時間がまた元に…
戻っていく…)」
それにより、蔵馬は妖狐から南野秀一の姿へと戻った。
それを見た瑠璃覇は、とても残念そうな顔をする。
「なんと…。なんと言っていいものでしょう。銀髪の妖怪は、蔵馬選手へとその姿を変えました!!」
「勝者、蔵馬!!」
逆玉手箱の効果で、子供の姿に戻っていた樹里だが、蔵馬が元の姿に戻ると、樹里も元の姿に戻った。
そして、銀髪の妖怪が蔵馬だとわかると、蔵馬の勝利が樹里の口から宣言される。
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