第四十四話 飛影の策
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飛影が場外にとばされると、観客席からは「殺せ」コールが響き渡り、盛り上がりをみせた。
「奴ら、専用の魔具を持つ、特別な種類の妖怪か!自分のペースに持ち込んだら、恐るべき力を出すぞ…!!」
「オレの体は、受けたダメージから、敵の攻撃力を完璧に記憶する。そして今の奇美団子は、その攻撃力に耐え、それ以上の力を与えてくれる、オレ専用のアイテム!!」
黒桃太郎は、自ら自分の能力やアイテムの説明をした。
「なるほどな…。さっきの妙な行動はそのためか…」
今の黒桃太郎の説明に、瑠璃覇は先程黒桃太郎がとっていた妙な行動の謎がとけ、納得していた。
「さあチビ野郎、邪王炎殺拳を使え!!この肉体が、その攻撃力を記憶した時!!それが貴様の最期だ!!」
「やってやるぜ」
飛影は黒桃太郎に言われた通り、ハチマキをとると、妖気を手に集中させた。
「さあ使え!!邪王炎殺拳をな」
「くらわしてやるぜ。のぞみ通りな」
飛影は手に妖気を集中させると炎を生み出し、すぐにでも技を出せるようにした。
第四十四話 飛影の策
「うっしゃァ。出るぜ、黒龍波!!あれなら、記憶もクソも全て焼き尽くすぜ!!」
「いや!黒龍波は撃てない!!」
「なに?」
これで決まると思っていたが、横から蔵馬に黒龍波は撃てないと言われて驚く。
「魔界の獄炎の化身である黒龍は瘴気を好み、その中でしか存在できない。それを人間界に呼び出すには、自らの妖気をエサにおびき出すしかないが、そのためには、莫大な妖気を放出し続けなければならないんだ。是流戦では、飛影がベストの状態でも、まだ妖気が足りなかったため、右手を食われかけた……。
飛影の妖気は、今六分から七分の状態だ。あれでは、黒龍は呼びたくても呼べない」
「六分!?あ、あれだけすげェ妖気で、飛影はまだ六分だってのか!?」
「あれは、相当に妖気を必要とする技なんだ。たとえベストの状態だったとしても、妖力の弱い奴、中途半端な奴が、簡単に使えるような技じゃない。妖力を高め、なおかつ、それをベストの状態にしなければ、あの時の飛影のようになる」
蔵馬の説明を補足するように瑠璃覇が説明すれば、桑原は更に驚いた。
瑠璃覇と蔵馬が、黒龍波について説明をしていると、飛影がリングに戻り、黒桃太郎に攻撃をするためにとび出していった。
「くらえーーー」
「こい!!」
「邪王炎殺煉獄焦」
しかし、間合いをつめて繰り出した技は、黒龍波ではなく、初めて見る別の技。更には、今の技で飛影が使った炎は、魔界の炎ではなく人間界の炎だった。
飛影は炎で包まれた拳を、黒桃太郎の顔と体に一発ずつ打ちこんだ。
「ぐああああ」
その強烈な拳に黒桃太郎は苦しみ、体がぐらつき、ひざをつく。
「フン。魔界の炎を召喚するまでもない。人間界の炎でも、貴様など倒せるぜ」
「ヒヒ。ヘヘヘ」
だが、かなりのダメージを負いながらも、黒桃太郎は気味悪く笑いながら立ち上がる。
「ヒヒヒヒヒ。ヘヒャヒャ。記憶したぜ~~。この痛み」
飛影は今の技で黒桃太郎を倒すことができず、黒桃太郎に技を記憶させてしまった。
黒桃太郎が、深手を負いながらも笑っていたのはこれだったのだ。
「なんと倒れません!!黒桃太郎選手!!言葉通り、闇アイテムによって、全てがレベルアップしている様です!!」
「くくくくくくくく」
黒桃太郎は不敵に笑いながら、また腰についている奇美団子を取るとそれをにぎりつぶして、中から出てきた妖気の煙を吸いこんだ。
すると、今度は体が青と黄の羽根に変わり、キジの姿へと変化していく。
「ふははははァーー!!もう、炎殺拳も効かねェ。
武獣装甲其の二、魔雉の装」
「黒桃太郎選手、またも変身!!妖気も姿も、さらにまがまがしく強化していきます!!」
変化すると、黒桃太郎の妖気はさらに上がり、姿もまがまがしくなっていった。
「ひゃホホホホォ」
黒桃太郎は変身して、空中へ飛び上がると飛影に向かって急降下していき、あっさりと飛影の顔を殴りとばした。
飛影は殴られはしたものの、着地をして、そのまま流れるように、つばを吐きながら横に移動し、目くらましをするように黒桃太郎の周りを素早く動いた。
「シャッ!!」
黒桃太郎は飛影を殴りとばそうとするが、飛影はあっさりとよける。
「ハァーーーーー!!!!」
そして、隙をついて、また黒桃太郎の腹に、邪王炎殺煉獄焦をくらわせた。
しかしそれは、多少こげ痕を残すものの、まったく効いておらず、黒桃太郎は不敵な笑みを浮かべる。
「くっ……。本当に強化してやがる」
それを目にした飛影は、先程黒桃太郎が言ったことが真実であったことを確信する。
「!!」
その隙をついて、黒桃太郎は左手で飛影をたたきつぶそうとするが、飛影はそれをよけた。
「なに!?」
しかし、あっという間に飛影の背後にまわりこみ、飛影を後ろから蹴りとばし、飛影はリングにたたきつけられた。
「フヘァヘァ。スピード!!攻撃力!!全てにおいて、貴様はもう、オレの敵じゃねェ」
「つけあがるなよ」
飛影はひざに手をつきながら立ち上がり、黒桃太郎を睨みつける。
「飛影より早いとは…」
「なんてヤローだ」
「確かにな…。私も正直驚いている。まさか、あんなザコが飛影より早いなんてな…。
しかし、だからといって、あいつの勝ちが決まったわけじゃない」
「そ、そうなのか?」
「ああ…。強い技というのは、時に弱みにもなる。それを、長く見せれば見せるほどな」
「ど、どういうこった?」
「要するに、一撃で決めなければ、どんなに強い力も意味がないってことだ」
そう言われても、桑原は瑠璃覇が説明していることの意味がわからず、頭の上に疑問符を浮かべる。
一方黒桃太郎は、飛影の剣や炎殺拳を記憶したので、それらはもう通用しないと……この試合は勝てると確信していた。
「くくく。必殺技の黒龍波が使えねェのが悔しいだろうなァ。だが、オレは手加減しねェ…。念には念を入れてぶち殺す!!」
黒桃太郎は不敵な笑みを浮かべながら、また腰から奇美団子を手にとった。
「とどめの奇美団子を使うぜ!!」
それをにぎりつぶし、団子から出てきた煙を吸いこんだ。
「またしても変身します、黒桃太郎選手。これは飛影選手、大ピンチーーー!!」
煙を吸いこむと羽根が消え、今度は全身からは茶色い毛が、口からは鋭い牙、手からは鋭い爪が生え、耳はとがり、黒桃太郎は犬のような風貌に変身していく。
「武獣装甲其の三、魔犬の装!!ふしゅるしゅりィイイイ。これで攻撃力はさらにアップしたぜ。強力な妖気に守られたてめえの体も、この牙と爪で、ボロゾーキンみてーに引き裂いてくれるぜ!!」
「………やれやれ」
飛影は足もとに落ちている折れた剣を見ると、それをひろいあげた。
「この技だけは、使うまいと思っていたが…………」
「くくく。つまらん心理作戦はよすんだな。思わせぶりな言葉で大技がある様に見せかけ、動揺させるつもりだろう」
「いや…。ひどく気のすすまない、ダサくてかなりイメージの悪い技だ」
「飛影がちゅうちょするほどの、恐ろしい技だと!?」
「一体、どんな技を使う気だ!?」
飛影自身が躊躇するほどの技はどんなものなのかと、三人は目を見張った。
「それが、お前のこの世で最後の言葉だ!!さえないセリフだったな!!」
そう言って、黒桃太郎は素早く動くと、飛影にとびかかり、飛影の右肩に噛みついた。
その瞬間、血しぶきが、まるで噴水のように激しくふき出す。
蔵馬と桑原は息を飲み、樹里は顔が青ざめ、裏御伽チームのメンバーはニヤっと笑ってるが、瑠璃覇もそれを見てニヤっと笑う。
すると次の瞬間、黒桃太郎の背中から炎が燃え上がった。
「なにィ!?」
「邪王炎殺剣!!」
飛影はニヤリと笑うと、炎の剣で、黒桃太郎の体をまっぷたつに切り裂いた。
「炎の剣!?しかも、ただの炎じゃない…!!自らの妖気を炎とドッキングさせ、強度を増した黒桃太郎の肉体を切り裂けるだけの鋭さを、瞬時に創り出したんだ。なんて格闘センスなんだ」
「オ、オレの霊剣とよく似ていやがるが…発する力は、くらべものにならねェくれェ強え!!
ん?」
飛影の邪王炎殺剣を見て、顔が青ざめ、冷や汗をかいていたが、そこで、ふとあることに気づく。
「おい、コラてめェ!!ってことは、オレの霊剣が、ダサくてイメージが悪いっていうのかァ!?」
それは、自分と飛影の剣の形が似てることで、飛影が何気に自分のことをバカにしたことだった。
「フン。ほかにいるか?」
桑原はそのことに憤慨し、リングをたたきつけるが、飛影は悪びれもせず吐いてすてた。
「あのヤロ~~」
飛影の態度に、桑原はますます怒り、隣にいる瑠璃覇は声を押し殺して笑っていた。
「まあ、あいつの敗因は、ちょっと調子にのりすぎたことかな…」
「あ、そういえば気になってたんだけどよ。さっき言ってた、強い技は時に弱みにもなる…とか、一撃で決めなければ、どんなに強い力も意味がないってのは、あれ…どういう意味なんだよ?」
先程瑠璃覇が言ったことをずっと疑問に思っていた桑原は、その疑問を瑠璃覇にぶつける。
「強い技……特に、今まで誰にも見抜かれたことのない技をもってると、どうしても、相手に対してタカをくくってしまう。誰にも見抜かれていない、この技は100%勝てると確信していると、いざという時の対処法を考えようとしないし、油断を生む。相手もバカじゃない。どうやったらその技を見破れるか、どうやったら勝てるかと模索する。その技を長く見せれば見せるほど、相手が考える時間をつくり、打開策をみつけるヒントを見せ、相手の勝因と自分の敗因をつくるきっかけになってしまう。だから、強い技は時に弱みにもなるんだ。私はそういう奴をたくさん見てきたし、どんな技でも弱点はあるし、自分よりも強い奴の前では無力だからな」
「な、なるほど…」
瑠璃覇から答えを聞けば、桑原は妙に納得をした。
「それにあいつ、大して強くないしな」
「え?何言ってんだよ。さっき飛影をぶっとばしたじゃねーか。攻撃だって記憶されちまったしよ」
「それはたまたまだ。たまたま相手が、飛影の技を記憶できただけのこと。逆に言えば、記憶することが可能な技よりも、もっと上の強力な技をぶつけてしまえば、記憶すらできない。その前にやられるからな。何しろあいつ、戦う前怨爺という奴に、飛影は黒龍波を撃たないかどうかを聞き、撃てないとわかったら安心していたからな。だから、もしも飛影が黒龍波を撃てる状態だったなら、さっきお前が言った通り、記憶する前にやられていただろうな。奇美団子を使えば、攻撃力に耐えて、それ以上の力を与えてくれるということは、使わなければ大した力はない。実際今の戦いで、奇美団子以外は使っていなかったしな。
つまり奴は、相手の攻撃を記憶できず、奇美団子を使わなければ、観客席にいる奴らに毛がはえた程度の妖怪ということだ」
自分は黒桃太郎が飛影を殴りとばしたことに驚愕し、飛影がやられるとさえ思っていたのに、瑠璃覇は隣で、冷静に相手を分析していたことに、今の戦いとはまた別の意味で驚き、同時に感心していた。
「黒桃太郎選手、戦闘不能とみなし、飛影選手の勝利とします」
「肉を切らせて骨を断つー!!飛影選手の逆転勝利です!!」
今の戦いで、黒桃太郎に噛みつかれて折った傷は深く、肩からは血が流れていたので、布を出して手当てをする。
そして、その様子を見ていた死々若丸は、計算通りだとニヤリと笑っていた。
試合が終わると、次戦う相手を選ぶため、両チームの選手はリングにあがる。
「さあ、サイを振れ。またオレを出せよ」
「(まだオレを出すなよォ。オレは最後だ。なんつっても、大将の看板しょってるかんな!!)」
「(退屈してきたから、そろそろ出たいんだがな…)」
飛影に言われると、死々若丸はサイコロを投げる。
「(オレになれ)」
サイコロが振られた時、飛影は自分の目が出るように願い
「(オレになれ)」
空中で回転をしながら落ちていくサイコロを見て、蔵馬も自分の目が出るように願い
「(私になれ)」
あとちょっとでリングにつきそうなサイコロを見て、瑠璃覇も自分の目が出るように願い
「(オレになんな)」
リングに落ち、回転していくサイコロを見て、桑原は自分の目が出ないように願った。
それぞれが願いながら、止まったサイコロの目は、蔵馬と裏浦島だった。
「(よし!!)」
「(よォオーーし!!)」
「(ちっ)」
「(くそっ…)」
自分の願いが通じた蔵馬と桑原は、この結果に満足していたが、願いが通じなかった瑠璃覇と飛影は不満そうだった。
「第3戦、蔵馬選手VS裏浦島選手!!」
出場選手が決まると、次に戦う2人を残して、他の者はリングを降りていった。
次の試合……蔵馬と裏浦島の戦いが始まる…。
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