第三十四話 浄化の風
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「全てが、三人を実験に使うためにしくんだワナだったのか!!」
「……だったら、どうだというのだね。君達にとって重要なのは、目の前の敵を倒すことだけだ。そうだろう?うちのチームの身の上を心配する必要はない。
遠慮は無用だぞ。そいつら、殺人機械だ。始末した方がいい。やれるもんならな。しょせんそいつらは、ワシの理想の第一歩。捨て石にすぎん。データのほんの切れ端じゃ!!」
「「てめェ~~!!」」
イチガキは、実にうまかった。二人の感情を逆なでし、動揺させたのだ。
一方で、瑠璃覇は冷静沈着。まったく動じていなかった。
「「ふざけんじゃねェーーー!!」」
「おーーっと。浦飯・桑原両選手が、イチガキの発言に激怒!!戦いを放りなげて、殴りかかっていったァ!!」
怒りが爆発した幽助と桑原は、試合そっちのけでイチガキを倒そうと、イチガキのもとへ走っていく。
第三十四話 浄化の風
だが、イチガキのもとへたどり着く前に、幽助は魁に蹴られ、桑原は円に殴られてしまい、妨害された。
「「ぐあっち」」
二人はその衝撃で、後ろへふっとんでいく。
「「!!」」
更に三人は、イチガキをかばうように、イチガキの前にたちはだかった。
「なんでそんなヤローを……!!」
「ワシの作った操血瘤は優秀じゃの~~~~。あの三人にとりつけたコブは、奴らを操る、第二の脳であり、心臓じゃ!!コブをはずすことは、死を意味し、死をもってしか、あのコブははずせん。
そして瘤には、自分達の命よりも、ワシの命と命(めい)を尊ぶよう入力してある。ワシを殺したければ、そやつらを殺してからしか、方法はないぞ」
「「ぐっ」」
イチガキに瘤の説明をされれば、二人はますます動けなくなった。
「で……できねェ。そんなマネは」
それは、自分の夢の中に彼らの意識が流れこんできたからだ。
そのことで、彼らの心は、完全に支配されたり洗脳されてるわけではないと思った桑原は、攻撃をますます躊躇した。
「さあ、お前達は迷うことはない!!奴らを殺せ!!」
イチガキの命令を受けた三人は、瑠璃覇達に向かっていった。
三人が向かって来ると、瑠璃覇と幽助は彼らの攻撃をよけようと走り出すが、桑原だけはその場に立っていた。
「なんと!?桑原選手、イチガキチームの三人に対し、逃げずに仁王立ち!!」
「桑原!!」
「バカめ。死ぬぞ」
「何を考えてるんだ!!」
「目をさませ。さましてくれ!!あんた達の力は、あんな奴に利用させるためにあるんじゃねェ!!」
桑原は、三人に必死に呼びかける。
しかし、必死の呼びかけもむなしく、桑原は三人の攻撃をいっせいに受け、血を流して倒れ、気絶してしまった。
「桑原ァーーー!!」
桑原がやられると、幽助と瑠璃覇は桑原のもとへ走っていった。
「ヒョヒョ。まずひとり」
「必死のよびかけもむなしく!!桑原選手、非情の集中攻撃の前にあえなく倒れました!!」
「……!!」
幽助は桑原のもとまで来ると、桑原を抱き起こす。
その、あまりにもひどい状態に、幽助は怒りで体が震えた。
「てめぇら………!!
!?」
桑原がやられ、更に激怒した幽助だが、彼らが血の涙を流していることに気づく。
「コロス 殺し…て コロスコロス」
「殺して……くれ コロス」
「おれ達を コロスコロス 殺して…」
「血の……涙」
「かろうじて急所ははずれているみたいだ。いや、奴らがはずしてくれたといった方が正しいのかもしれんな。
おそらく、奴らも戦ってるんだろう。精神のギリギリのところで…」
「ヒョヒョヒョ!!こいつは驚いた。せっぱつまると、おもしろい芸をつかうなァ!!人間の精神というモンは、ゴキブリ並にしぶとく悪あがきをしよる!!」
「てめェ!!!確かにむごいぜ…。あんな外道にあやつられっぱなしじゃ。オレでも、死んだ方がましだぜ。なぁ…」
「!! (幽助の霊力の最大値が、あがっていってる!!まさか、怒りでレベルアップをするとは…。こんな奴は初めて見た)」
三人の状況やイチガキの発言にキレたことで、幽助は霊力がアップしていく。
瑠璃覇は、今の状況にキレてレベルアップした幽助を見て驚いていた。
幽助は素早く彼らの前まで移動すると、まず魁を殴りとばした。
そのことに、イチガキも小兎も驚いて目を丸くする。
魁がやられると、梁がハウンドクローで攻撃をしようとした。
「(見える!!)」
霊力の最大値があがったことで、今まで見ることができなかった彼らの霊気が見えるようになった幽助は、梁の攻撃を難なく避ける。
「これはビックリ!!いきなり、形勢逆転です!!浦飯選手、今までの苦戦が、ウソの様な動き!!」
それを見て驚いたイチガキが、再度自分のチームの勝率をたたき出すと、52.725%という、かなり低い数字が出た。
「頭では整理しきれなくなったか?」
たたきだされた低い数字に冷や汗をかいていると、別の声が聞こえてきたので、イチガキはギクッとなる。
後ろへふり向いてみると、そこには飛影と蔵馬がいた。
「マニュアル通りの心理作戦もけっこうだが、なにがきっかけで、人間強くなるかわからないんだぜ」
「う ぬ。
えーーい。なにかのマチガイじゃ、これは。さあ、さっさと奴らをぶち殺せ!!」
それでも、その数字を認めようとはせず、再度幽助達を殺すよう命令する。
三人は命令通りに幽助と瑠璃覇を倒そうと向かっていき、幽助もまた、彼らを倒すため、彼らのもとへ向かっていく。
「(右腕にも完全に霊気が戻って、霊丸が撃てるくらいにまでに回復している)」
「(見える…。こいつは、伸縮自在の、棒みてーな霊気か!!)」
「(だが、それでも幽助の霊力じゃ、奴らを殺せても、救うことまではできんだろうな…)」
魁を蹴りとばした幽助を見て、瑠璃覇は冷静に分析する。
「先にいって、待っててくれや!!ワビは地獄で、きっちり入れるぜ!!」
幽助は霊丸の構えをとると、右手に霊気を集中させ、霊丸を撃とうとした。
だがその時、瑠璃覇に腕をつかまれて、腕を動かせなくなった。
「お前はやめておけ」
「(う…腕が動かせねェ!!)」
「私がカタをつける」
瑠璃覇は幽助の前に立ち、構えをとった。
「おっと、瑠璃覇選手!浦飯選手を制し、たったひとりで三人にたち向かうつもりです!!」
幽助の前に立つ瑠璃覇を、全員緊張した面持ちで見守る。
「フハハハハ。やれるわけがない。人間を!!しかも、操られているだけの人間を、殺せるわけがないわ!!
行けィ!死ぬのは奴等じゃあ!!」
再びイチガキの命を受けると、三人はいっせいに瑠璃覇に立ち向かっていく。
それを見た瑠璃覇は、手に妖気を集中させた。
「ひょっとして瑠璃覇は、あの技をやるつもりか…」
「そうみたいだな…」
リングの外では、妖気を集中させている瑠璃覇を見て、飛影と蔵馬は、これから瑠璃覇が何をやるのか察した。
「あいつ……試合前も使っていただろう?大丈夫か…」
「…………」
飛影は、朝のことを思い出していた。
「治る可能性は、五分五分だ。しかし、治る可能性があるというだけで、治らない可能性もある。それでも受けるか?」
それは、今朝の出来事。
飛影の腕を治療してほしいと、蔵馬が瑠璃覇に頼んだ時のことだった。
「………遠慮するぜ…」
あの時、治療を受けるかどうかを問われた時、飛影は断り、そこから去ろうと踵を返した。
しかし………
「まあまあ、飛影。ここは、受けておきましょう」
「蔵馬…!」
隣にいた蔵馬によって、脇の下に腕を入れる形で体を拘束され、その場から動けなくなった。
「瑠璃覇、頼む」
「………ああ……」
蔵馬に頼まれると、瑠璃覇は返事をし、風を起こした。
その風は、飛影自身を……特に右腕を包みこむように吹いていた。
だが……
「………どうやら……無理だったようだな。やはり、妖力不足故に食われかけた右腕は、治せなかったようだ…」
その技では飛影を治すことはできなかった。
技が終わったことで、蔵馬は飛影の体を拘束していた腕をほどくと、飛影はそこから立ち去ろうとした。
「…フン。とんだ期待はずれだな」
「ああ…。だからせめて…」
瑠璃覇は立ち去ろうとする飛影の右手をとり、飛影の指と指の間に、自分の指をからませ、手を合わせた。
「何を…」
「せめて、私の妖気を、貴様に少しだけわけてやろう」
そして、妖気を手に集中させると、あまり量は多くないが、飛影に自分の妖気を送った。
「あれから多少は時間が経っているが、簡単には回復せんだろう。そんな状態で使って、妖気がカラになったりはしないのか?
大体、何故試合がある前に、あんな妖気を失うようなこと…」
「それは、相手があなただからですよ。飛影」
「どういう意味だ?」
「瑠璃覇は、戦う時には、妖気の配分に気をつかう。無駄なことはしない。少しでも多く妖気を残せるように、緻密に計算をし、なるべく一瞬で倒せるような技を使う。ましてや、これから戦いがあるとわかっているような時に、妖気を無駄に減らすようなことは、絶対にしないんです。
あの技は、今の瑠璃覇の状態だと、一回使うだけで、妖気を3分の1は消費してしまう。
それでも瑠璃覇が、あの時あの技を使い、妖気をわけたのは、すでにあなたを、充分に信頼しているから。もちろん、幽助や桑原くんのこともだけど…。
でなきゃ、大事な試合の前に妖気を失うようなことはしない」
「……そうか…」
「まあ、ちょっと妬けますが…」
「何故だ?」
「オレは、瑠璃覇に信頼してもらえるまで、結構時間がかかった。それなのに、会って半年も経っていないのに、すでに瑠璃覇の信頼を得ているあなたや幽助、桑原くんには、嫉妬してしまいますよ」
「…………」
蔵馬はわかっていなかったが、飛影は理解していた。
瑠璃覇が、自分や幽助、桑原を、会って半年も経っていないのに、すでに信頼しているのは、昔蔵馬に出会い、一番最初に蔵馬に心を開いたからだということを…。
飛影はわかっていたが、蔵馬は、逆に瑠璃覇に近すぎて気づいていなかった。
「す、すげェ妖気だ!!」
「ただのハッタリじゃ」
「さあ、これで決着がつくのかーーーー!?」
蔵馬と飛影が話している間にも、戦いは進んでいた。
瑠璃覇の全身からあふれ出る、すさまじい妖気に、幽助は驚き、イチガキは冷や汗をかく。
「はっ!!!」
三人が自分に近づいてくると、瑠璃覇は風を放った。
その風は、三人を包みこむように激しく吹き
そして……
操血瘤を粉砕した。
そのことで、三人の背中からは大量の血が流れる。
「ば……か……な。こ…殺しおった……!!あっさりと」
操血瘤が粉砕されると、三人の動きは止まり、三人は後ろに仰向けになって倒れた。
「す…げェ。一瞬にして、三人の霊気をかき消した…。命までも………一瞬に」
操血瘤がはずれたことで、三人の霊気までもかき消してしまった。
あっさりと殺してしまったので、幽助もイチガキも驚愕する。
「(今の技じゃなきゃ、やられてたのはこっちだろう。しかし……しかし…)」
瑠璃覇が今の技を使わなければ、こっちがやられていた。
しかし、だからといって納得はできなかった。
「ダウンです!三人同時とみなし、カウントを統一します」
六人がめまぐるしく動いていたので、リングの外に避難して実況していた小兎は、リングにあがり、カウントをとり始める。
「3!4!」
「う…く」
「10!!浦飯チームの勝利です!!よって、二回戦進出は、浦飯チームに決定しました!!」
浦飯チームの勝ちが宣言されると、観客席からはブーイングがとんできた。
「………く。納得いかねーーぜ!!こんなムカツク勝ちは、もうごめんだ」
なんとか二回戦を突破したが、それでも納得のいかない勝ち方をしたので、それに腹を立てている幽助は、イチガキのもとへ歩いていく。
「てめェは絶対許さねェ!!」
「ぬ」
幽助だけでなく、蔵馬と飛影も、イチガキを囲むように立った。
「い、いいのか!?ワシを殺せば、奴等の師匠も死ぬぞ!!居場所も、病気の解毒剤の作り方も、ワシしか知らんのだぞ!!」
追い詰められたイチガキは、最後の切り札を使おうとする。
「そうかな?」
「む!?」
だが、それは通用せず、蔵馬が指をさした先には、三人の師匠が立っていた。
「貴様……」
「ま、まさか」
「貴様の助手が、全て教えてくれたぞ。幽閉場所もな。
解毒剤は、蔵馬がカンタンに作ったぞ。症状を見ただけでな」
「もっと猛毒の薬草を試してやろうか?お前の体で……」
「うぬう~~~」
「覚悟はいいか!?カス野郎」
「くっ、くくくく」
最後の切り札がなくなったというのに、イチガキは不敵な笑みを浮かべる。
「ふははは。バカどもがァ。だれが、お前等ウジ虫に殺られるか!!天才Dr.イチガキのおそろしさ、思い知らせてくれる!!」
イチガキは白衣のポケットから注射を取り出すと、自分の腕に刺し、中の液体を注入した。
「はははぁ。どぉだァ、戦闘妖液の威力を見せてやるわ!!」
液体が注入されると、イチガキはまがまがしく変形していった。
「死ねェーーーーー!!」
変形するとイチガキは、幽助を倒すため、幽助に襲いかかった。
だが、幽助はあっさりとイチガキを殴りとばした。
イチガキは観客席に激突し、一撃のもとに倒されたのだった。
「コナゴナになって反省しろ、アホンダラ」
「い…一発で、Dr.イチガキを粉砕しました………!!怒濤の一撃のすさまじさに、ブーイングをしていた場内、静まり返ってしまいました!!」
「くっ…。こんな老いぼれが、おめおめと生き残ってしまった……!!円…梁…魁…彼らに、なんとわびればいいのだ!!」
「悲しむ必要はない」
そこへ、リングから瑠璃覇が降りてきて、師匠にそう言った。
「ま、まさか!?」
まさかと思い、幽助達はリングに注目する。
「生きている!?」
「こ…これは」
そこには、血で汚れてはいるものの、まったくケガなどしていない、無事な姿の三人がいた。
「円!!梁!!魁!!生きていたのか………!!」
「し…信じられねェ。確かに、霊気が完全に消えて死んだはず」
「円!梁!魁!」
「し、師匠!!」
彼らの師匠は、三人に歩みよっていくが、三人は自分の師匠の姿を見ると、びくっとなった。
「こ、こないでください!!」
「!?」
「私達は、この手で償いきれない誤ちを犯してしまいました。とても、師匠にあわす顔などありません!!
いっそ、あのまま殺されていれば」
「バ…バカモノ!!」
「「「!!」」」
「殺された方がいいとか、くだらないことを言うな」
そこへ、瑠璃覇がため息をつきながらやって来た。
「さっきのは、私の治癒能力のひとつである、浄化の風。体の状態異状や変化を治したり、精神攻撃を無効にするものだ」
「浄化の風…。それで操血瘤が……」
瑠璃覇から、先程の技の説明をされると、幽助は納得をしていた。
「もっとも愛する者を失うことほど、辛く…悲しいことはない…。死んだら、そこでおしまいだ。愛する者にももう会えない。
だが、お前達は生きている。そして、お前達の師匠も生きている。まだ……ともに生きることができる…。
そんなことを考えるくらいなら、生きて償い、愛する者とともに歩む道を選びな。
例え……どんなに重い罪を背負ってでもな…」
「「「!!」」」
「円、梁、魁、私は信じていたよ。……お前達の、真の魂を。たとえ一時肉体を奪われても、心の奥には、一片の曇りもないことは、私が一番わかっているつもりだ。
たのむから…死ぬなんていうな!
さあ……こっちを向いて、手を貸してくれないか。久々にどなったら、足元がふらついてしまったよ…。ハハ」
「「「師匠…!!」」」
誤ちを犯して悔んでいても、それでも尊敬する師匠が無事だったこと、そして再会をはたしたことを、三人は喜び、全員で抱き合った。
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