第二十五話 暗黒武術会へのいざない
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それは、垂金の別荘から、幽助達が去った後のことだった。
幽助と桑原と瑠璃覇が戸愚呂兄弟と戦った場所には、腹に霊剣が刺さったまま倒れている戸愚呂弟と、剣に化けたまま床にころがっている、戸愚呂兄の姿があった。
三人にやられたはずの戸愚呂弟。
しかし、彼に刺さっている霊剣が、ピクっと動いた。
そして、戸愚呂弟の腹が動いたかと思うと、霊剣は腹筋で押し出されるように抜け、そのまま空中で消えた。
更に、隣にいた戸愚呂兄も、剣からもとの姿へと戻っていく。
「よっこいしょ……」
二人が何事もなかったように起き上がると、その場にあったテレビのうちのひとつ……一番左端の画面の電源が入った。
「御苦労…戸愚呂兄弟。見事な演技だったよ」
そこに映ったのは、あの左京だった。
「耳がいいんでね。奴等の作戦を聞いて、利用したまでですよ。わざと負けるってのは、思ったよりストレスがたまるねェ。
ところで、よかったのかね。あの女のコを逃がしちまって。あんたの売買ルートから、垂金がこっそり横流しした、大事な商品なんだろ?」
「かまわん……。これから行う一大興行にくらべれば、氷泪石など、河原の小石ほどの価値しかない」
「それを聞いて安心した。そこで、本当の依頼主であるあんたに、頼みがある。
あの三人と、武術会でもう一度戦いたい。今度は本気でね」
「もとよりそのつもりだ。
なにしろあの三人は、今度の武術会の大事な戦士(ゲスト)だからな」
「ふ……あんたも、人が悪い……。ジワジワと垂金をつぶすってのは口実で、あの三人とオレ達を戦わせることが、今回の目的だったんだねェ」
「くっく…察しがいいな。
――で、戦ってみた感想はどうだ」
「…………ウラメシといったかな…タマを撃つ方は…。あいつはもっと強くなるね。たたけばたたくほどだ」
「足元をすくわれんようにな…。大会は二か月後だ………。
―――ああ、ついでに、上のゴミを始末しておいてくれ………」
戸愚呂弟にすべてを報告すると、左京は消えていった。
「ひひひひ」
左京に言われ、上を見上げると、そこにはガラスにもたれ、狂った状態の垂金がいた。
「ひひひひひ。破滅じゃ破滅じゃ」
乗金は、賭けに負けた時のショックで、飛影に殴られた時の状態で狂ったように笑っていた。
「アイアイサー」
戸愚呂弟は左京の要求を承諾すると、乗金がいる高さまで跳躍し……
「ひひひひひ」
狂ったように笑う乗金に向けて
「ひ」
するどい蹴りを入れ、ガラスを突き破って、垂金の首をとばした。
第二十五話 暗黒武術会へのいざない
それから、3日経った日のことだった。
「秀一!秀一!」
昼休み。瑠璃覇は、自分の席で本を読んでいる蔵馬のもとへ行くと、うれしそうな顔で話しかけた。
「何?瑠璃覇」
「今日の放課後、あいてるか?」
「放課後?特に何もないけど…」
「本当か?部活とかは?」
「ないよ」
「よかった」
「どうしたの?一体」
蔵馬に問われると、瑠璃覇はにこっと笑う。
「今日学校の帰りに、制服デートしよう」
「え…?また急だね」
「駅前に、新しいクレープ屋ができたそうだ。高校生らしいデートを、たくさんしてみたくてな」
しゃべりながら、手に持っていた女性向け雑誌の、クレープ屋の記事が載っているページを蔵馬に見せる。
「クレープ?」
蔵馬が意外そうにしてると、瑠璃覇は辺りを見回して、誰もこちらに注目していないことと、近くに人がいないことを確認すると、口を開いた。
「今朝ぼたんから連絡があってな。しばらく任務はないみたいだから、ゆっくりしたいんだ」
けど、一応誰が聞いてるかわからないので、小さめの声で話をした。
「それとも……クレープは嫌いだったか?」
「いや、そんなことはないよ。ただ、瑠璃覇がクレープっていうのが、ちょっと意外だっただけで…」
「本当?じゃあ…」
「ああ…。一緒に行こう」
蔵馬が了承すれば、瑠璃覇の表情は、花が咲いたように明るくなる。
それから放課後、二人は駅前のクレープ屋にやって来た。
二人が来ると、店員を含めた周りの人達は、女性は蔵馬を、男性は瑠璃覇を見て頬を赤くしているが、二人はまったく眼中になかった。
「秀一!秀一は何がいい?」
「オレ?オレは瑠璃覇と一緒でいいよ」
「そう?じゃあ、このミックスフルーツクリームでいいか?」
「ああ、かまわない」
蔵馬が了承すると、瑠璃覇はさっそく注文をして、代金をはらうため、サイフをカバンから取り出す。
だが、瑠璃覇がサイフからお金を出そうとすると、蔵馬が瑠璃覇の手を、押さえるように包みこんだ。
「秀一?」
「ここはオレが出すよ。女に出させるなんてかっこ悪いマネ、できないだろ?」
「え…。でも、誘ったのは私だから、ここは私が……」
「いいから」
にこっと笑うと、それでもお金を出そうとする瑠璃覇をやんわりと制し、代わりに代金の支払いをする蔵馬。
「こういう時は、男にかっこつけさせるものだよ」
もう一度にっこりと微笑まれると、瑠璃覇はそれ以上は何も言わず、蔵馬の好意に甘えることにした。
そして、何分かするとクレープができあがり、商品を受け取ると、二人は店の前にあるテーブル席にすわり、雑談をしていた。
「そういえば……ちょっと気になっていたんだけど……」
「なんだ?」
「瑠璃覇って、普段の生活費って、一体どうしてるの?」
唐突な質問に、瑠璃覇は目を丸くする。
「なんだ…そんなことか……」
「いや……そんなことって……重要なことだけど…」
瑠璃覇は一人で、なんのつてもなく人間界に来たのに、本人は大して気にとめてない様子だった。
「そんなもの、コエンマを脅せば、いくらでもなんとかなる」
そして、あっけらかんとした顔で、さも当然のように言った瑠璃覇を見た蔵馬は、コエンマに心の底から同情したのだった。
「それより、この後のことだが…」
「他にもどこか行くの?」
「今度は映画に行かないか?興味があるんだ!この前は遊園地だったからな」
「いいよ」
蔵馬が二つ返事で応諾すれば、瑠璃覇はクレープを包んでいた紙を、蔵馬の分も近くのゴミ箱にすて、蔵馬の腕に自分の腕をからめて
「行こ!秀一!」
はずむような足取りで、幸せそうな顔で映画館へ歩き出した。
「さっきは出してもらったから、今度は私が出すぞ」
映画館へ向かっている途中、さっきはおごってもらったので、次は自分が代金を支払うことを宣言する。
「映画って、結構高いよ。今度もオレが出すから…」
けど、蔵馬はそれを応諾しなかった。
「それはダメだ。一度ならず二度までも、誘った上に金まで出してもらうなんて、私のプライドが許さん」
「それはこっちのセリフでもあるよ。せめて割り勘で…」
どちらも互いに譲らず、お金のことで少々もめてはいるが、それでも険悪なムードになることなく、どこか幸せそうな二人だった。
「「!!」」
しかし、その幸せそうな顔から一変し、二人の顔は急にするどいものになる。
二人は顔つきが変わると、人通りのある道から離れ、人気のない路地裏に入っていき、人の姿が見えず、ざわめきも聞こえないくらい奥の方に行くと、ピタリと止まり、後ろへゆっくりと振り返った。
「……なんだ?貴様は…」
「オレ達に、一体なんの用だ?」
そこには、見た目が人の姿の妖怪が一人立っていた。
「蔵馬様と瑠璃覇様………ですね?」
「……そうだが…」
「私、戸愚呂様の使いで参りました」
「戸愚呂!?あいつは死んだはず…」
「ふりでございます。あの方は、そんな簡単にやられる方ではありません」
「…………」
真実を聞き、瑠璃覇はそのことを見抜けなかった悔しさに、顔を歪めていた。
「それで?オレ達に、そのことを伝えてどうする?」
瑠璃覇は、今は口を開けそうにないので、代わりに蔵馬が使い魔に問いだした。
「あなた方お二人を、暗黒武術会のゲストとして、招待することになりました」
「暗黒武術会?」
「はい。闇の世界を利用して暗躍している、人間の金持ちや実力者が、それぞれ、最強と自負する妖怪(メンバー)5人を参加させて戦うトーナメントです。
人間は金と道楽を、妖怪は血と快楽を求めて参加するのです。
そしてその大会に、あなた方お二人と……ウラメシとクワバラという人間と、もう一人、飛影という妖怪を、ゲストとしてお招きします」
「それって……拒否権は?」
「無論、そのようなものはございません。断れば、死がまっています。生き残る術は、勝つことのみでございます」
用件を伝え終えると、使い魔はそこから去っていった。
「やはり、あの時私がとどめをさしておくべきだったな。そうすれば、あの礼儀知らずをのさばらせておくことも、こんな不愉快な思いをすることもなかった…」
「瑠璃覇……」
「もとの姿と妖力に戻ることができるなら、あの至近距離なら、心臓の音も息づかいも聞こえただろうに……。人間界というのは、本当に不便なものだな…」
「…………」
悔しさのあまり、自嘲気味に笑う瑠璃覇を蔵馬がジッと見ていれば、突然空から、黒い影が降りてきた。
「飛影…!」
それは、ゲストの一人である飛影だった。
「お前達のところにも、戸愚呂からの使い魔が来たのか…?」
「ああ…今しがたね」
「そうか…。オレのとこにも来やがった。奴め……このオレを、暗黒武術会のゲストとして招待するとか、ふざけたことをぬかしてやがったが…。
オレ達のもとに使い魔が来たということは、幽助のところには、直接奴が行っているかもしれん。行ってみるか…」
「そうだな…。
瑠璃覇、オレ達も幽助のところへ……
!!」
言い終える前に、蔵馬は瑠璃覇から黒いオーラが出ていることに気づき、思わず口を止めてしまう。
「どいつもこいつも……人のデートを邪魔するのが得意だな」
それは、戸愚呂のことを見抜けなかったという失態と、それが悔しいというプライドからくるものもあるが、途中でデートの邪魔をされて不機嫌になった瑠璃覇が、目が据わっていておっかなかったからだ。
「でーと?なんなんだ、それは?」
「別に…」
しかし、飛影は何故瑠璃覇が不機嫌なのか、皆目見当がつかなかった。
更に、デートという単語すら知らず、疑問符を浮かべて問いかければ、瑠璃覇は不機嫌なままそっぽを向く。
「とりあえず、幽助を探そう。
瑠璃覇、頼む」
あまり気分がのらないため、ため息をつくが、それでもなんだかんだと、瑠璃覇は風の技で幽助の現在地を探りあてると、風の移動術で目的の場所へと移動した。
移動した先は、ビルの建設現場だった。
「ここか…」
「とてつもない妖気を感じるぜ…」
そう言って飛影が目を向けた先は、建設途中のビル。
そこから、この間瑠璃覇が感じた、戸愚呂の妖気があふれ出てきていた。
飛影の予想通り、戸愚呂弟はここにいたのだ。
しばらくするとその妖気はおさまり、それから更に時間が経つと、戸愚呂弟が、建物の中から出てきた。
戸愚呂弟は三人の方へ歩いてきて、三人に気づくと足を止める。
「顔から察するに、使い魔から事情は聞いたようだねェ。もうあんたら三人も、ウラメシのメンバーに決定している。
一度人間側についた以上、もう抜けられないんだねェ。
そうそう。メンバーは5人だが、補欠を1人入れられる。試合に出られるのは、5人までだがね。
そのひとりは自由に決めてくれ。せいぜい、強い助っ人を見つけることだなァ」
暗黒武術会のことについて話すと、戸愚呂弟はそこから去っていく。
「………勝算は……?」
「さぁな」
蔵馬が飛影に聞くと、飛影は短く返しながら、いずこかへ去っていった。
次の日……。
瑠璃覇と蔵馬は、学校の時間以外は、二人で竹藪の中へ行き、暗黒武術会へ向けて特訓していた。
しかし、二人が手合わせをしようとした時、突然桑原がたずねて来た。
実は桑原は、昨日、あの建設現場の近くにいたのである。幽助が戸愚呂弟に着いていくところを、偶然にも目撃して、あとを着いて行ったのだ。
そして、近くの建物にいて、戸愚呂弟の、以前戦った時よりもすさまじい妖気を感じとり、幽助と同様に動けなくなった。
その後すぐに、戸愚呂弟に会い、暗黒武術会のことを知らされ、出場することを決意した。
最初は飛影と特訓をしていたのだが、あっさりと返り討ちにあい、そのまま飛影はどこかへ去っていってしまったので、こうして蔵馬と瑠璃覇をたずねて来たのだ。
二人も武術会に出場するのを知ってるからというのもあるが、二人の強さは知っているし、何より、以前瑠璃覇から特訓を受けたことがあるので、また特訓をしてもらおうと思ったのである。
「どうしても、武術会に出るのか?」
事情を聞いた蔵馬が、いくら断れば死がまってるといっても、まさか本気で、人間の身分で妖怪の大会に出場するとは思わなかったのか、眉間にしわをよせていた。
「ああ」
けれど、桑原の目は真剣そのもので、いっさいの迷いはなかった。
「飛影はあなたを人間と思って、手加減をしていた。オレの訓練は、飛影のよりもきびしい。それでも…」
「かまわねェ!強くしてくれ!」
「わかった。では……!
はっ!」
桑原が真剣で本気だとわかった蔵馬は、特訓をするため、その場を跳躍すると、桑原に向かっていく。
それからは早かった。
桑原は、飛影の時と同様に、あっさりと蔵馬にやられてしまった。
しかし、そんなことであきらめるような桑原ではなく、何度も何度も立ち向かっていく。
だが、経験の差や実力の差もあるが、桑原があまりにもバカ正直にまっすぐ立ち向かっていくため、蔵馬に傷ひとつつけることはかなわなかった。
「ぐはっ」
「立つんだ、桑原くん。大会まで、あと2か月しかないんだぞ」
「く……」
もうすでにぼろぼろの桑原だが、それでもなお立ち上がろうとする。
「おい蔵馬」
そこへ、見るに見かねたのか、今まで妖気のコントロールの修業のため、手の平の上で風を操っていた瑠璃覇が、間に入ってきた。
「もうちょっと手加減してやらないと、そいつ壊れるぞ」
「へえ……。他人に興味がない瑠璃覇が、そんな風に気にかけるなんて…………なんか妬けるな…」
「バカなことを言うな。ただ単に、そいつは以前、私が自ら面倒を見てやった奴だからな。それを、死んで台無しにされたくないだけだ。お前が思ってるような感情は、いっさいもちあわせていない」
「じゃあ、今の半分くらいの力でやれっていうのか?そんなんじゃ特訓には……」
「違う」
「え?」
「一気にたたきのめすな。つぶれるギリギリ一歩手前まで、手加減してやれ」
「瑠璃覇が言ってることの方が怖いよ」
蔵馬以上にきびしいことを言う瑠璃覇に、蔵馬はつっこみ、桑原はあの時の恐怖が甦り、顔が青ざめた。
「まあ、それは半分冗談だが……」
半分冗談ってことは、半分は本気なのかよ?と桑原は思ったが、敢えてそこにはつっこまなかった。
「桑原、お前が強くなるための、アドバイスをひとつしてやろう」
「アドバイス?」
「お前は、以前四聖獣との戦いで、霊気を結ぶという非常識な行動をとった。そういった意味では、お前は幽助以上に意外性のある男だ」
アドバイスをされても、それのどこがアドバイスなのかわからず、桑原は疑問符を浮かべる。
「お前の霊気の剣は、お前の意志ひとつで、伸ばしたり、縮ませたり、曲げたりと、どんな形にでも、自由自在に変えられる。そのことを忘れるな」
「オレの……意志で………自由自在に……」
桑原は瑠璃覇のアドバイスを、真剣に考えた。
「瑠璃覇って、結局は優しいんだね」
「どうかな…」
そう言いながらも笑っていて、瑠璃覇は再び、妖気のコントロールの修業に戻っていく。
そして時が経ち――――
2か月が過ぎた……。
暗黒武術会開会!!
場所は孤島、首縊島。
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