第五話 二人の過去
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それから数時間後…。
意識を取り戻した蔵馬は、うっすらと目をあけた。
視界に入った風景が、今までいた場所でないとわかると、目を大きく開き、寝ていたソファーから勢いよく起き上がった。
第五話 二人の過去
「気がついたのか?」
ソファーから体を起こすと、目の前のソファーに座っていた瑠璃覇が声をかけた。
「ここは…?」
自分が見たことのない場所だったので、蔵馬は辺りを見回しながら問いかける。
「私の家だ」
「そうか」
二人が話していると、幽助とぼたんが、瑠璃覇の後ろから姿をみせた。
「おっ、起きたのか?」
「急に倒れるなんて、どこか体の具合が悪いのかい?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
二人としゃべりながらも蔵馬は、瑠璃覇が気になるようで、瑠璃覇をジッと見た。
「どうした?私に何かついているのか?」
「いや……なんでも…」
「本当に変な奴だな…。ケガを治してやったというのに、頭がいかれたか」
蔵馬は瑠璃覇の言葉で、剣で刺されたところを見た。
見てみると、制服に穴があき、血がこびりついてはいるが、あれだけ深手だった傷が、跡形もなく消えていた。
「これ…君が?」
「まあな…」
「そうか、ありがとう」
「……別に…」
蔵馬は笑顔で礼を言うが、瑠璃覇はそっけなく返事をすると、蔵馬から顔をそらす。
「まあ、無理しねーでゆっくりしてけよ」
「何故お前が言う?」
「あはははははは」
自分の家じゃないのに、何故か我がもの顔で話す幽助に、瑠璃覇はつっこんだ。
そんなやりとりを見て、ぼたんは思わず笑う。
そして、その様子を見ていた蔵馬も、微かに笑みを浮かべた。
「にしても、ひれー家だよな。他に人の気配とかねーけど、もしかして、一人で暮らしてるのか?」
「あたり前だろ。私は、一人で魔界から来たのだからな…」
「ま、魔界!?てことは瑠璃覇って、ひょっとして妖怪なのか!?」
「今さら何を言っているんだ?」
幽助は、ずっと瑠璃覇は人間だと思っていたのだが、瑠璃覇はてっきり、幽助は自分が妖怪だと知っていると思っていたので、(ほとんど表に出していないが)不思議そうな顔をした。
すると、今の会話を聞いた途端、蔵馬は頭をおさえて苦しみ出した。
「ひょっとしてこっちに来たのって、その探し人を探しに来たからなのか?」
「そうだ。私は……」
「うっ……ぐぅ……」
「おい、どうした!?」
「また、どこか苦しいのかい?」
瑠璃覇と話している途中だったが、蔵馬のうめき声に気づいた幽助とぼたんは、心配そうに蔵馬に近寄っていく。
「くっ……ぅあ………ぅ………」
蔵馬はしばらく頭をおさえて苦しんでいたが、急にピタリとやみ、頭をおさえていた手をどけて、ゆっくりと静かに顔をあげた。
そして、顔をあげると、瑠璃覇をまっすぐにみつめる。
「………瑠璃……覇…?」
「えっ…?」
みつめると、途切れ途切れに、確かめるように瑠璃覇の名を呼んだ。
「オレだ…。蔵馬……」
瑠璃覇はその名前を聞くと、これまでにないくらいに、思いきり目を見開いた。
そして蔵馬をジッとみつめると、本来の妖怪の姿に戻る。
それは、銀色の長い髪に紫色の瞳をもった、美しい妖狐の姿であった。
本来の姿を見た幽助とぼたんは驚き、瑠璃覇は蔵馬の頬を、優しく包みこむように、壊れものを取り扱うように、おそるおそる触れた。
「………本当に……蔵馬……なの…?」
「ああ…」
蔵馬が答えると、瑠璃覇は感激のあまり、思いきり抱きついた。
蔵馬もまた、それに応えるように、瑠璃覇を強く抱きしめる。
「お…おい、一体…」
突然の出来事に、幽助とぼたんは戸惑ってしまう。
幽助の声に、二人は一旦抱きしめ合うのをやめて、幽助とぼたんの方へ振り向いた。
「幽助…。お前は、先程私の探し人を探すのを手伝うと言っていたが、その必要はもうなくなった」
「へ?」
「この蔵馬が、私が探していた人物だからだ」
「えぇぇーー!?」
「なんだってーー!?」
突然明かされた真実に、幽助とぼたんの二人は驚きの声をあげる。
「どういうことなんだ?一体…」
「……蔵馬が、本当は妖怪だということは知っているか?」
「ん?ああ…」
「私は魔界にいた頃、蔵馬とともに行動していた。二人で一緒に盗賊をやっていて、魔界のあちこちを回っていた。安住の地はなかったが、私は蔵馬と一緒にいるだけで、とても幸せだった」
今まで、鋭利な刃物のようなするどい目つきをしており、警戒心をむき出しにしていたが、過去を話している時の今の瑠璃覇は、信じられないくらいに穏やかで、やわらかい顔つきになっていた。
それだけ、蔵馬のことが大切だということがわかるほどだった。
「だが15年前、蔵馬は霊界のハンターに追われて、霊体のまま人間界に逃げこんだ。蔵馬が人間界に逃げこんだとわかった私は、蔵馬を探すために、一人人間界にやって来た。人間界にやって来てからずっと探していたが、今日(こんにち)に至るまで、ずっと見つけることはできなかった……。
けど、あれから15年経った今日この時、私はようやく、蔵馬を探し出すことができた…」
話し終えると、瑠璃覇は蔵馬を、懐かしそうに……そして愛しそうにみつめた。
蔵馬もまた、瑠璃覇を愛しそうにみつめる。
幽助とぼたんは、そんな二人を無言でじっと見ていた。
「そうだったのか…。
……あれ?でも、なんで顔見知りなのに、15年もかかったんだ?」
「そういえばそうだねぇ」
「人間界も、魔界ほどではないが結構広い。それに、魔界にいた頃と今では、容姿も違えば臭いも少し違う。
妖怪も人間もそうだが、霊体のままでは生きのびることはできない。生きのびる方法は、何か別の生き物に憑依するしかない。
だが、憑依してしまうと、力は一度失われる。それでは妖力を感じとれない。
それも理由のひとつだろう…」
「……ふーん。けど、なんかひっかかるな」
「何がだい?」
「だってよ、蔵馬は自分が妖怪で、魔界にいたってことも覚えてたんだろ?なら、なんで蔵馬は、さっき倉庫で会った時、瑠璃覇に気付かなかったんだ。瑠璃覇は、魔界にいた時と変わってないんだろ?」
「そう言われてみればそうだねぇ…」
幽助に言われて、そのことに気がついたぼたんは、人差し指を口元にあてて何故だろうと考えていた。
「きっと、記憶がなくなっていたんだろう。原因は……何かはわからないけど…」
「かもな…。だが、この際そんなことはどうでもいい。
15年という、短いようで長い年月をかけて、私はようやく、蔵馬と再会することができたのだから…」
瑠璃覇は、幽助達に向けていた顔を再び蔵馬に向けて、また愛しそうな眼差しでみつめる。
蔵馬もまた、瑠璃覇を愛しそうな眼差しでみつめていた。
それから幽助達は、そのまま居間のソファーに座り、瑠璃覇に出されたお茶を飲んでいた。
「それにしても、意外だったな」
「何がだ?」
「だって、瑠璃覇の性格からして、オレに深手を負わせ、死に追いやった霊界のいうことを聞くなんて、絶対にありえないから」
「「………」」
「普通だったら皆殺しにしてるよね」と続けた蔵馬の言葉に、幽助とぼたんの二人は、思わず口を閉ざしてしまう。
「コエンマの奴が、霊界探偵のパートナーになれば、お前を探すのを手伝うと言っていたからな。お前をみつけられるなら、大嫌いな霊界のいうことをきいても構わないと思い、従ってやってるだけだ」
「へえ、そうなんだ。なんか愛を感じるな」
にこっとうれしそうに笑う蔵馬。
蔵馬の言葉と笑顔に対し、頬をほのかに赤くする瑠璃覇。
幽助とぼたんは、今まで見たことがない瑠璃覇と蔵馬を、ものめずらしそうな目で見ていた。
「それで、いつから霊界探偵のパートナーをやってるの?」
「ついこの前からだ。任務が入ったのは、今回の三大秘宝の事件が初めてだ」
「そうなんだ。でも、幽助が初めてオレ達と出会った時と、オレの暗黒鏡を取り戻す時にはいなかったよね」
「それは、コエンマに呼ばれて霊界に………
!!」
そこまで言いかけると、瑠璃覇はあることに気がついた。
「おい、ぼたん……」
「なんだい?」
「コエンマもお前も……ひょっとして、ここにいる蔵馬が、私が探している蔵馬だということを、知ってたんじゃないのか?」
「え…。な……なんのことだい?私は……」
「とぼけるな!!ずっとおかしいと思ってたんだ。自分から、三大秘宝を取り戻してくれと言っておきながら、これから追いかけようとした時タイミングよくお前が現れ、霊界に行くように言い、コエンマがわざわざ雑用を頼むためだけに、私を霊界に呼んだということがな!!」
怒りに燃えている瑠璃覇に、鋭い目でギロリと睨まれると、ぼたんは縮こまり、顔が真っ青になる。
「さあ、どうなんだ!?早く本当のことを言いな!!」
そうは言われても、瑠璃覇の迫力にぼたんはますます縮こまり、あまりの怖さに口がきけないでいた。
「瑠璃覇、脅したら、しゃべれるものもしゃべれないよ」
そこへ、助け船を出すように、蔵馬が口を開いた。
蔵馬の言葉で、ぼたんは少しホッとする。
「………わかった…。じゃあ、殺したりしないから全部話せ」
「え…?う……うん…」
まだちょっとびびっているが、ぼたんは本当のことを話すために口を開いた。
「私もね、瑠璃覇ちゃんと蔵馬のことは、今回初めてコエンマ様に聞いたんだ。
もし…瑠璃覇ちゃんが、自分が探している蔵馬が、今回三大秘宝を盗んだ蔵馬だってことを知ったら、裏切る上に、霊界を襲撃してくるかもしれない。
それで、このことは、絶対瑠璃覇ちゃんには秘密だって…。
絶対に、瑠璃覇ちゃんを、蔵馬に会わせるなって……」
「そうか……」
若干低めの声で、短くつぶやくように言う瑠璃覇を見て、ぼたんは破裂しそうなくらいに、心臓をドキドキさせていた。
「あ、あの……瑠璃覇……ちゃん?」
「なんだ?」
「私も本当に、瑠璃覇ちゃんと蔵馬が恋仲で、瑠璃覇ちゃんの探し人が蔵馬だって、今回初めて知ったんだ。
あの……だから……」
なんとか声をしぼり出して話すが、瑠璃覇は何も答えずに黙っていた。
「えぇっと………瑠璃覇……ちゃん?」
「………わかった……」
「へ?」
「ぼたんは許してやる」
予想外の言葉に、ぼたんだけでなく、幽助と蔵馬も驚いていた。
「ただし!!」
今まで静かな口調だったが、瑠璃覇は急に強く声を出す。
「コエンマは絶対に許さん!!あいつ、次に会ったら、絶対半殺しにしてやる!!」
今言ったことを、いつか必ず実行すると決意するように、拳をにぎりしめ、目を思いっきり見開いて叫ぶ。
「あいつ、結構過激だな。半殺しって……」
「人のことは言えないだろう…。
でも、コエンマ様大丈夫かね」
「大丈夫ですよ」
ぼたんが心配していると、横から蔵馬が断言する。
「「え?」」
「本来なら瑠璃覇は、自分を陥れた相手は、絶対に……確実に息の根を止めます。なのに、半分にとどめているということは、あまり本気ではないということ。
それに瑠璃覇の性格からして、とどめをさすのなら、今すぐにでも相手の元へ向かっているはず…。
あれくらいなら、せいぜい百発殴るくらいにしておくんじゃないですか?」
言いながら、にっこりと笑う蔵馬。
途中いくつか怖い言葉があったが、それでも、長年瑠璃覇と付き合ってきた蔵馬が言うのだからと、ぼたんはどこか安心していた。
それから数日後…。
「剛鬼と飛影はタイホしたし、指令より、ニ日も早く三つの宝とり戻したんだからな。コエンマもオヤジにバレずにすんで、かなり喜んでたろ」
朝の登校中、幽助、瑠璃覇、ぼたんが並んで歩いており、数日前の三大秘宝について話をしていた。
「…………それがねェ、剣は血でサビてるわ、鏡は霊丸で割れてるわで、結局エンマ様が戻るまでに直ってなかったらしくて、盗まれてたことがバレちゃったんだよね」
「げ……。じゃ、大激怒か!?」
「いや…。宝は一応取り戻したことだし、コエンマ様ひとりの軽罪で済んだけどね」
「軽罪って?」
「………いいかい。だれにもないしょだよ」
周りに聞こえないように、ぼたんが告げた内容は…
「おしり百たたき」
小さな子供が受けるような罰だった。
「ひょひょひょ。やっぱなん百年生きてても、ガキはガキだな。ええ、おい?」
「しーーー!!声が大きい!!」
「フッ…。コエンマの奴、ざまあないな」
幽助が大笑いしていると、幽助の隣(ぼたんとは反対側)にいた瑠璃覇は、今のぼたんの言葉を聞き、恨みがこもった顔で笑いながら、おもしろそうにしていた。
「……ところで、瑠璃覇はあれから霊界にきたのか?」
幽助は、今の瑠璃覇の発言で、この前瑠璃覇が言った半殺しという言葉を思い出して、小さい声でぼたんに問いだした。
「うん…。来たよ」
「……じゃあ、ひょっとして…」
「百発殴られてたよ。見るも無惨な姿になっちまってねえ。
でもまあ、あれは、コエンマ様に問題があったんだけどね」
「だぁーっはっはっはっ。ホント、ざまあねえな、コエンマの奴。自業自得ってやつだぜ!」
真相を聞くと、幽助はまた大声で笑った。
「まあでも、その程度ならオーライだな。これで、三大秘宝盗難事件は、無事解決と!」
なんだかんだで丸くおさまったので、幽助は親指をぐっとたてながら、うれしそうに笑っていた。
「オハヨ!」
「「「!」」」
するとそこへ、タイミング悪く、後ろから螢子がやってきた。
その顔は平静をよそおっているが、どこか機嫌が悪そうだった。
「……あ…」
「………う~~ん。バッド・タイミング」
「………いっけね。あいつには、事情をな~~んにも説明してねーんだった」
原因は、間違いなく瑠璃覇とぼたんと一緒に歩いていたことなので、そのことがわかっている幽助は、冷や汗をダラダラと流していた。
「おい、待てよ螢子!説明すっから、よく聞けよ。実は…オイ」
幽助は螢子の後を追いかけていき、事情を説明しようとするが、螢子は聞こうとせずにすたすたと先に歩いていく。
「あはは…。これがあいつにとっちゃ、一番の難問かもね」
三大秘宝の盗難事件は解決したものの、幽助の一番の難問は、まだまだ未解決のままだった。
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