第二十四話 救出
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戸愚呂弟に殴られた幽助は、殴られた勢いで床をバウンドするように後ろへ飛んでいく。
近くにいる、先程殴りとばされた桑原は、なんとか立っていたが、限界がきたのか崩れ落ち、床に倒れた。
二人は、戸愚呂弟の圧倒的なパワーに、いとも簡単にやられてしまったのだ。
「うぐあっ ぐ…!!(つ、強え…!!)」
幽助はなんとか起き上がるも、立ちあがることはできず、ひざをついたまま、口から血を吐いていた。
「おやおや、期待はずれだねェ。もっと楽しませてもらえると思ったんだが…」
自分に対して、まるで歯が立たない幽助と桑原を見た戸愚呂弟は、愉快そうに笑いながら、幽助のもとへ向かっていく。
第二十四話 救出
「ふは。ふはは。ふははは。強い!!ふはは。勝つ!!確実にィィ。ツキは、まだわしにあるぞいィ!!」
戸愚呂弟の後ろにあるガラスの向こうでは、今まで劣勢であったが、今の戦いの、戸愚呂弟と幽助・桑原との圧倒的実力差を見て、狂ったように笑っていた。
そんな垂金の後ろでは、雪菜が二人を心配そうに見ていた。
「ふはは、左京さん。最後の賭けは、わしの勝ちのようですな!!」
「…………」
まだ勝負がついていないのに、もう勝った気でいる垂金は、下品な笑い声をあげながら、下のモニターの一番左端に映っている左京に話しかけるが、左京は無反応だった。
一方、幽助のもとへ走っていった戸愚呂弟は、まだ立ちあがっていない幽助を、容赦なく蹴りとばす。
「ぐ…あ」
そして、幽助を追いかけるように、蹴った方向へ走っていき、幽助を追い越すと、今度は右手で殴りとばした。
「そうじゃ。ひと思いにはやるな!!じわじわなぶり殺すのじゃ!!さんざん好き勝手やりおって、ガキどもが」
戸愚呂弟は、幽助の腹を殴る。
あまりにすさまじい痛みに幽助は血を吐くが、それでも戸愚呂は、まだ本気ではなかった。
「ぐあっ」
「もろいねェ、ガッカリだ。これ以上楽しめそうもないなァ」
幽助は壁に体を打ちつけ、戸愚呂はまた攻撃するため、幽助のもとへ歩いていく。
「!!」
その時、戸愚呂弟はひとつの気配を感じた。
それは瑠璃覇で、瑠璃覇は戸愚呂弟と幽助の間を、分断するように蹴りを入れる。
「おやおや、今度はおじょうさんがオレの相手かな?」
「……あまり、邪魔をするつもりはなかった。私の役目は、こいつらの成長を見守ることだから…。
…………でも……そうも言ってられないみたいだ…」
しゃべりながら、瑠璃覇はぼろぼろの状態の幽助と桑原をちらっと見る。
「こいつらに死なれるのは、私が困る……」
そして、幽助をかばうようにして、戸愚呂弟の前に立ちはだかった。
「(こいつは……もとの妖力だったら一瞬で片づけられるが……今の妖力を抑えた状態では難しいかもな。妖力に関係なく、倒せる技を使わなければ…。いざとなったら、妖力を少し解放して………)
!!!!」
瞬時に相手の妖力を見抜き、自分の現在の妖力と比較して、どうやったら、より有利に戦いを進められるかを考えていた。
しかし、考えている間にも、戸愚呂弟は瑠璃覇に殴りかかってくる。
だが、妖力を抑えていても、身体能力は変わらないままなので、瑠璃覇はそれを、バク転をして難なく避けた。
その瞬間、服の中にしまっておいた、金鈴珠のネックレスが外にこぼれ出る。
「あ、あれは金鈴珠!!」
その様子を見ていた垂金は、小さな金鈴珠を離れた場所から目ざとくみつけた。
「戸愚呂!!その娘を倒した後、娘がつけているネックレスを奪え!!」
「了解」
みつけると、戸愚呂弟に命令をし、戸愚呂弟はその命令を承諾した。
「これは昔、私のもっとも大切な人にもらったもの。絶対に誰にも渡さん。特に……貴様のようなゲスな人間にはな…!!」
「ゲスな人間?そりゃわしのことか?
フン!それだけの宝石。どうせ、どこかから汚い手で奪ってきたのであろう?それなら、貴様が負けた後、わしがそれを奪い取って、有効に使ってやるわい」
「………一緒にするなよ…」
同類扱いされ、瑠璃覇は不愉快そうに顔をゆがめ、垂金を睨みつけた。
「それに………この程度の相手に、私が負けると?おもしろい冗談だな」
「そういうあんたも、そんなに妖力を感じられないがね」
「……実力差がわかってないバカというのは、礼儀がなってないから困る…」
何気にザコ扱いされると、戸愚呂弟の眉がピクリと動き、顔が不愉快そうに歪められる。
「私がその気になれば、貴様らなど一瞬で、バラバラに斬りきざめる」
「ほう……。ならば、やってみせてもらおうかね…。まあ、あんた程度の技が、オレにどれだけの傷を負わせられるかはわからんが、暇つぶしにはなるだろう」
今度は戸愚呂弟が、瑠璃覇をザコ扱いしてきたので、瑠璃覇はピクリと眉を動かし、不愉快そうに顔を歪めた。
「…………いいだろう……。暇つぶし程度の技を……貴様にくらわせてやる……」
攻撃することを宣言されれば、戸愚呂弟はニヤッと笑う。
自分の実力に、絶対の自信があるからだ。
「(幽助達は納得しないかもしれないし、今の状態だと、妖力を半分は消費してしまうが、仕方ない…)」
瑠璃覇がいろいろと考えながら、手をわずかに動かすと、戸愚呂弟はあることに気づく。
「(なんだ……。急に、息が苦しくなった…)」
それは、呼吸がしにくくなったことだった。
そのことで、戸愚呂弟の動きが止まる。
「とどめをっ………さしてやるよっっ!!!!!」
自分が一体何をやったのか、戸愚呂弟が何もわかっていないのがわかると、ニヤッと笑い、手を前にかざして、技を発動させようとした。
しかしその時、後ろから手が伸びてきて、瑠璃覇の肩に置かれた。
「………し…んじられねェ」
それは、桑原の手だった。
最初の一撃で倒された桑原が立ち上がり、瑠璃覇を止めるように、瑠璃覇の肩に手を置いたのだった。
「本当に人間かよ………。人間のやることなのかよ!!」
「………驚いた。霊力がアップしている…」
「どけ…。オレがぶっ殺してーのはあんたじゃねェ。後ろのうす汚ねェ腐れ外道だ」
「ほ?わしのことか、それは?ほひゃひゃ、おもしろいわ!!
これるものならきてみィ、下衆がァ。
戸愚呂!!ヤツに引導を渡してやれい!!」
「………聞いたかい。あいにくだなァ」
「どけェーーー」
桑原は何を言われても、一人で戸愚呂弟に向かっていった。
それは、先程戸愚呂弟にやられ、意識が遠のいていこうとした時、雪菜の意識が桑原の中に流れてきたからだ。
昔の、ふれるだけでヤケドをするという呪符を腕に押しつけられ、ヤケドを負い、無理矢理涙を流させられた時のことや、自分を助けるために殺された男のことが……。
許せなかったのだ。
垂金の、あまりに非道な行いが…。
瑠璃覇は攻撃の途中だったが、ただごとではない雰囲気を察し、桑原に譲ったのだった。
もちろん、いざという時のために、いつでも攻撃できるように構えて…。
「おおお」
桑原は再び出した霊剣で、一心不乱に攻撃をする。
しかし戸愚呂弟は、戸愚呂兄が変形した盾ですべて防御してしまう。
「うあっ…」
更には、攻撃をくらってしまう。
やはり相手の方が上なので、掌底をくらっただけで、かなりのダメージだった。
「うぐ…っ」
今の攻撃で、幽助と瑠璃覇がいる壁までとばされたが、着地してふんばったので、なんとか壁に激突するのはまぬがれた。
「それじゃあムリだね。あんたのスピードはもうわかった」
「ぐ…!!」
「く、桑原…」
「桑原…」
「う…浦飯、瑠璃覇さん、頼みがある…!!」
桑原は二人に声をかけると、小さな声でその内容を話した。
「もういいぞ、戸愚呂。とどめをさしてやれ。思いきりむごくな」
「………アイアイサー」
垂金に命令されると、それに応えるように、腕の盾がまた剣に姿を変える。
「お前……自分が何言ってるか、わかってるのか!?」
「ば、ばかやろ。そんなマネ、下手したらオメーがくたばるぞ」
「くたばった方がましだ!!このまま負けるくれーならな!!
たのむ…!!」
桑原の真剣さに、幽助と瑠璃覇はもう何も言えなくなり、作戦に手を貸すことにした。
「うおおォ」
桑原は剣を構えると、無謀なことに、一直線に戸愚呂弟に向かっていった。
「………玉砕覚悟か……。いいだろう。ひと思いに
まっぷたつにしてやろう!!」
桑原が立ち向かってくる姿を見た戸愚呂弟は、自分も応戦するべく、剣を振り上げた。
「むっ!?」
だがその時、急に手が動かなくなった。
それは、瑠璃覇が風を使って戸愚呂弟の動きを止めたからなのだが、とても静かで動きのない風の上に、瑠璃覇の扱う力が風だということをまだ知らない戸愚呂弟は、何故急に手が動かなくなったのか、わからずにいた。
その間に、幽助が、後ろから桑原を霊丸で撃った。
「うおおおぉ」
「!!」
そして、幽助の霊丸で加速した桑原は、戸愚呂弟の腹に霊剣を突き刺した。
そのことに垂金は驚き、言葉を失った。
「やつの…霊気の砲(たま)を全身で受けて、ロケット噴射みたいに加速をつけたのか…。
やる
ねェ」
戸愚呂弟は、桑原の霊剣が腹に刺さり、そのまま仰向けに倒れた。
その姿を見て、垂金は驚愕し、尋常でない量の冷や汗をかいた。
「ゲーム・オーバー……………私の勝ちだね。全部で66兆2700億。………金は今月中に全額用意しておいてくれよ」
左京がそう言うと、左京だけでなく、後ろのモニターで見物してた他のB・B・Cのメンバー達のテレビがプツっと消えた。
戸愚呂兄弟が負けたことで、垂金の頭の中に、破滅と破産の文字が浮かぶ。
「さ、坂下ァ。ヘリを用意せい!!雪菜を連れて、逃げるのじゃあ。ひひひ、氷泪石さえあれば、いくらでも金は…」
あわてた垂金は、雪菜を連れて、そこから逃げようとした。
「残ったのは………貴様だけだ」
だが、逃げようとしたその時、後ろから声がした。
「呪符の結界に閉じこめていたとはな……」
「ひ」
「邪眼でいくら探しても、見つからなかったわけだぜ…。しかし、そこから出したのが運の尽きだな…」
そこには、雪菜を後ろにかばっている飛影がいた。
「わ、た…助け…」
垂金は飛影にただならぬものを感じたのか、坂下も他の護衛達も倒され、一人だけになってしまったからなのか、飛影に命ごいをするが、そんなものを飛影が聞き入れるわけもなく、飛影は渾身の一撃を垂金にくらわせた。
殴りとばされた垂金は窓に激突し、口と鼻から血を流して気絶した。
「………殺しはせん。貴様のうす汚い命で、雪菜をよごしたくないからな」
容赦なく殴りはするものの、飛影は垂金を殺すことはしなかった。
「あ…ありがとうございます。
あの…あなたは……?」
「………」
雪菜からしてみれば、自分が知らない人物が自分の名前を知っており、助けてくれただけでなく、自分を気づかってくれたので、なんでそんなことをしてくれるのか気になり、名前を聞いた。
けど飛影は、自分が誰かを名乗ることはなかった。
「……仲間さ。あいつらのな……」
下の階にいる幽助、瑠璃覇、桑原を見て、静かにそう言った。
誤魔化したにしても、飛影の口から出る、とてもめずらしい言葉だった。
「は!そうだわ、大変!」
三人の姿を見た雪菜は、飛影を置いて、一人走り出す。
飛影は、そんな雪菜の後ろ姿を、ただ黙って見ていた。
「やれやれ」
雪菜がいなくなると、全員片づけたはずの部屋のすみから、別の声が聞こえてきた。
「急いで駆けつけてきたのに、どうやら無駄足だったようですね」
「気配を断って近づくな。悪趣味な奴め」
それは蔵馬だった。
蔵馬も、霊界でコエンマから今回のことを聞いて、この垂金の屋敷に駆けつけたのだ。
「いいんですか?雪菜さんに、自分が兄だと名乗らなくても…」
「そんな必要がどこにある」
「さあ?それはあなた次第でしょ」
「フッ。だったら、このままでいい」
飛影は、雪菜を助けには来たが、自分が兄と名乗るつもりはさらさらなかった。
一方下では、幽助が桑原の身を案じていた。
「生きてっか?まったく、ムチャクチャなこと考えやがる」
「力を調節して、霊丸を撃てるようになったって言ってたろ。死なねー程度にやってくれると思ってたぜ」
確かにムチャクチャなことではあるが、それは幽助に対する信頼からくるものだった。
「ほんとにムチャクチャだな」
「瑠璃覇さん」
「くたばった方がマシだとか、妙なことを言う…。そんなに死にたいなら、私が今すぐにでもとどめをさしてもいいんだぞ」
「何言ってんだ?お前、オレ達が死んだら困るとか言ってたじゃねーか」
「オレも聞いたぜ」
幽助は戸愚呂弟にぼろぼろにやられながらも、桑原は意識が遠のきながらも、瑠璃覇が戸愚呂弟に言っていたことを聞いていたようで、あっさりと返した。
「わっ……私は、ただ………………そう…!あんた達の修業を見たことがあるから。それを、死んで台無しにされたくないから…。それだけだっ」
「オレは、一度も修業つけてもらったことないぜ」
「結構ヘタクソな言い訳だな」
「うっ…うるさい!」
頭がいい瑠璃覇だが、焦ってヘタな言い訳をしてきたので、二人はつっこみ、またしてもあっさりと返した。
つっこまれたことで、瑠璃覇は顔が真っ赤になる。
そして、今のことで、そこにいるのがはずかしくなったのか、瑠璃覇はもと来た扉まで歩いていく。
「ん?どこ行くんだ、瑠璃覇」
「上だ。あの氷女を助けなきゃ、今回の任務を完了したことにはならない…」
「おっといけねェ、そういやそうだったな。垂金!!あのやろうを、ボコボコにしねーと終わらねェ!!」
瑠璃覇が上に向かおうと歩いていくと、幽助も後に続いていく。
「(ほんと…妙な奴ら。私とは大違いだ…。
私は、くたばった方がマシとか…そんなことを考えたことはなかった。私は常に……いかに生きのび、勝ち抜いて強くなるということしか考えていなかったから…。
そんなことは思ったこともないし、理解もできない。
けど………それが、あいつらの強さでもあるのかもしれない…)」
二人のことを考えていると、突然雪菜がやってきたが、瑠璃覇は雪菜に一瞥をくれるだけで、そこから去って行った。
「あ、あの」
「オレはヘーキ。あいつんとこ、早くいってやってくれや」
自分を一瞥するだけで、何も言わずに行ってしまった瑠璃覇に戸惑っていた雪菜は、なんとか幽助に声をかけるものの、幽助は問題なさそうな顔をして、桑原の方を指さした。
「あ…」
幽助に言われた通り、雪菜は桑原のところへ行き、自分のところへ走ってきた雪菜に気づいた桑原は、目を丸くした。
雪菜は桑原の前にすわりこむと、突然頬に手をあててきたので、桑原は驚いた。
「雪菜さん」
「動かないで………!少しだけど、傷を治す力があるから……」
雪菜が桑原の頬に手をあてたのは、自分には治癒能力があるので、桑原のケガを治すためだった。
「ごめんなさい…。私の…ために」
「………!! (両腕にヤケドの跡が)」
腕にヤケドの跡があるのを見て、先程自分に流れてきた意識が真実だというのを、桑原は理解する。
「あやまるのは……こっちの方だ……。ごめんな…」
「?」
謝罪されるものの、雪菜は、何故桑原が謝るのかわからなかった。
「こんなヒデー目あってんだ。許してくれなんて言わねー。
……けど、人間には、気のいい奴もいっぱいいて…………。
オレの周りは、バカばっかりだけど………そんな奴らばっかりで」
桑原が言う、「気のいい人間」の一人である幽助は、瑠璃覇と一緒に二階にあがっていき、そこで蔵馬と飛影と会っていた。
「だから…だから、人間全部を…………人間全部を、嫌いにならないでくれ」
桑原はわずかに目に涙を浮かべ、雪菜に懇願する。
「………たのむ…」
そして頭を下げると、雪菜はやわらかい微笑みを桑原に向けた。
「大丈夫…!私…人間(あなた)のこと、好きです」
人間不信になってもおかしくないくらいひどい目にあわされたというのに、それでも雪菜は、桑原を好きだと言って微笑んだ。
それは、桑原の優しいまっすぐな気持ちを感じとったからだった。
雪菜の口から、確かに「好き」という言葉を聞くと、桑原は顔をあげて雪菜をみつめる。
「……………………あり…がとう」
そして、感激の笑みを浮かべると、頭を下げて静かにお礼を言った。
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