第二十一話 氷の美少女
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地獄団地で決闘があった次の日、瑠璃覇は、桑原の家の前に制服姿で立っていた。
第二十一話 氷の美少女
先日、地獄団地で決闘があった日の夜のことだった。
幽助が飛影からビデオテープを渡された時、明日このビデオテープを見るから、自分の家に来いと言われたのだ。
だが、その日の夜……瑠璃覇が夕飯の準備をしている最中に、一本の電話がかかってきた。
それは幽助からで、自分ちのデッキが壊れてるため、ビデオを見ることができないので、明日桑原の部屋で見せてもらうから、明日の放課後に、桑原の家に集合ということになったのである。
そんなわけで、瑠璃覇は学校が終わると、そのまま桑原の家に行ったのだった。
瑠璃覇は家の前に立つと、インターホンを押して、家の住人を呼び出した。
「はーい」
出てきたのは、桑原ではなく、桑原の姉の静流だった。
「あら、あなたは?」
この前の、四聖獣との戦いの後、桑原の部屋で寝ていた幽助を見舞った時には、静流はいなかった。
なので、初対面である瑠璃覇が、一体どういう人物なのかもわからない静流は、瑠璃覇に問いだした。
「あの……私、銀瑠璃覇といいます。桑原君いますか?」
静流に問われると、瑠璃覇は社交辞令の軽い笑みを浮かべて、桑原のことを聞き出した。
「ああ、カズのお友達。カズなら今、幽助君とぼたんちゃんて子と一緒に、部屋にいるよ」
瑠璃覇が名乗り、桑原のことを聞くと、弟の友達と思った静流は、瑠璃覇を家の中に招き入れた。
「おじゃまします」
家の中に入ると、瑠璃覇は靴をぬいで家にあがりこみ、その様子を静流はじっと見ていた。
瑠璃覇は静流の視線に気づいていたが、敢えて気づかないふりをしていた。
「カズの部屋は、そこの階段あがってすぐのところだから。勝手にあがってってちょうだい。私は、ちょっとお茶を淹れてくるから」
「はい。ありがとうございます」
瑠璃覇はお礼を言うと、階段をあがって桑原の部屋に行った。
そして静流は、お茶を淹れるために台所に行った。
「…カズったら…霊感が強いから引き寄せちゃったのかね。まさか、妖怪と友達になるだなんて……」
やかんに水をいれ、コンロをまわすと、カップを用意しながら一人つぶやく。
静流は瑠璃覇が妖怪だということを見抜いていた。
先程、瑠璃覇をじっと見ていたのは、それが理由だった。
一方瑠璃覇は、階段をあがって、桑原の部屋の前まで来ていた。
「おい!!ぼたん!!」
部屋の前まで来て、扉を開けようとすると、突然幽助の怒号が聞こえてきた。
「てめー、一体どんな説明したんだよ。螢子の奴、まるっきり勘違いしてんじゃねーか!!」
「まーまーまー。探偵ってとこを、霊界なしで説明しよーとしてさ。つじつまあわせよーとしたら、どんどんこーんな具合いにね」
それは、桑原の部屋で、幽助がぼたんに文句を言っている声だった。
というのも、この間の迷宮城の任務のこと、虫笛で操られた人間に襲われた時のことを、ぼたんが螢子に説明したが、螢子はまったく理解していなかった。
その内容は、こうだった。
人生を真面目に考え出した幽助が、とある名探偵の助手として修業を開始。麻薬組織の調査をしていた際、催眠術を使う組織の殺し屋が、皿屋敷中に逃げ込んだ裏切り者を、岩本先生らをあやつって抹殺しようとしたところ、偶然居合わせた螢子をも、口封じに消そうとした。
…というものだった。
結構めちゃくちゃな内容だったが、本当のことをしゃべるわけにはいかないので、当然霊界のことも言うわけにはいかず、霊界をぬきにして話をしたので、螢子が妙な勘違いをしていたため、幽助は怒ったのだ。
「でも、やっぱり本当の事言うわけいかないだろ。一応極秘任務ってことになってるし。
本当のことを知るってことは、それだけ危険に近くなるってことだしね」
「む…。そりゃま、そーだ」
しかし、なんだかんだとぼたんに言いくるめられている幽助であった。
「何やってるんだ?お前ら…」
そこへ、ずっと部屋の前で話を聞いていた瑠璃覇が、扉を開けて声をかけてきた。
「瑠璃覇!」
「瑠璃覇さん」
「瑠璃覇ちゃん」
「部屋の外からでも聞こえていたぞ」
二人の会話を部屋の前で聞いていた瑠璃覇は、呆れ気味の目をしてため息をついていた。
「来てくれたんスねェ~~。待ってましたよォ~~」
桑原は瑠璃覇が来てうきうきしていたが…
「やっと来たのかよ」
幽助は文句を言っていた。
「仕方ないだろ。私の通ってる学校は、ここから2駅も離れてるんだ。それに、何時にきっかり来いとは言われていない。放課後に来いと言われただけだ。これでも、授業が終わったら、すぐに来たんだぞ」
「別に力を使えばいいじゃねーか」
「あれは結構めだつんだ。街の中で、むやみやたらと使えるか」
「ぐっ……」
しかし、幽助は結局言い負かされて、黙ってしまった。
本当は、先日の地獄団地での決闘の時、蔵馬に頼まれてとはいえ、結構使っていたのだが、もちろん都合の悪いことは言わない瑠璃覇であった。
「オイ、どーでもいーから早く見よーぜ。気になってしょーがねーよ」
「お前、今回見るだけ見て、協力する気ねーだろ」
またオレを巻きこむ気か!?と、学校で幽助に言っていた桑原だが、なんだかんだと気にはなっているので、瑠璃覇と幽助の間に割って入ってきた。
桑原の考えていることがわかったのか、幽助は鋭いツッコミをいれる。
「行くぞ」
けど、桑原はそれをスルーすると、再生ボタンを押して、デッキにセットされたテープを動かした。
「ごくり」
普通のビデオではなく、霊界探偵に向けた指令のビデオなので、一体どんな内容なのかと、生唾をのみこんだ。
《親父が復職したため、霊界捜査部の役職に復帰したコエンマだ。これから、新たな指令の内容を伝える!
なお、このテープは、普通の人間にはノイズにしか見えないので、安心して聞け》
再生すると、当然ながら、コエンマが画面に出た。
「おいおい、こいつが霊界のえらい奴!?このうすら小っさいガキが!?」
「オレと同じこと言ってやがる」
「まあ、誰でもそう思うだろ」
初めてコエンマの姿を見た桑原は、想像していたのとはまるっきり違う、あまりに幼すぎる姿に驚いていた。
《今回の任務は…ひとりの少女を救出することだ》
けど、これはビデオなので、桑原の失礼な発言に反応することなく、コエンマは勝手に指令の内容を伝え始めた。
《その少女は人間ではない。しかし、あながちお前達と無関係という訳でもない。
その少女は、骨爛村という、今は村人のいない廃村の、ある屋敷に幽閉されている。霊界の使い羽達の情報で、最近わかったのだ。
少女は氷女とよばれる妖怪の仲間で、人間界では、雪女・雪娘・雪童などともよばれるな。
氷女は、その身から美しい宝石を生み出すことができる…。
彼女がとらえられているのは、金もうけのために、心ない人間が、無理矢理宝石を作らせようとしているためなのだ》
「……………」
「その宝石の源となるのは…………
――涙だ」
「涙……氷泪石だね!闇値で数億円は軽くする宝石だよ!」
「氷女の涙からつくられるといったら、氷泪石しかないだろう」
「じゃ、その心ない人間ってのは、宝石のためにその子を…」
事情がわかってきた桑原は、もともと正義感が強いためか、あまりいい顔はしていなかった。
《監禁しているのはこの男・垂金権造。宝石商。これでも人間だ。
もともと悪どい手口で金もうけをしているが、この宝石を裏のルートでさばき、飛躍的にのし上がった人物だ》
画面に映ったのは、とても人間とは思えないような、ひどい顔をしている男だった。
「くわーー。いかにもってツラしてやがるぜ」
「妖怪より妖怪みてーなヤローだな」
「あれとくらべるな…」
垂金の顔を見て、ポテチを食べながら、言いたい放題言う幽助達。
隣では、瑠璃覇が不快そうな顔と声で、二人につっこんだ。
《そして、これが使い羽達が念信してきた、少女の映像だ》
次に、監禁されているという、少女の映像を映し出した。
その少女は、翡翠色の髪を後ろでひとつにしばっており、薄い水色の着物を着た、赤い瞳のかわいい少女だった。
そして、少女の映像を見た途端に、桑原の動きが止まる。
《彼女が監禁されているのは、垂金の別荘の一室だ。呪符で結界を作り、出れなくしているのだろう》
コエンマが状況を説明していると、突然桑原が立ち上がった。
「のわっ」
突然立ち上がったので、幽助は驚き、瑠璃覇も何事かと目を丸くしていた。
「………ほれた…」
「は?」
「え?」
「骨爛村に行くぞ!!」
「お?これからかよ」
「たりめーだ!!」
「おいおい、ビデオもまだ途中だろが」
「バカ野郎、こんだけで十分だろーが。こうしてる間にも彼女はな。グズグズしてっと、オレひとりで行くぞ!!」
最初は協力する気なさそうだったのに、少女の映像を見た途端に、自分から積極的に骨爛村に行こうとしていた。
「姉貴!!金貸してくれィ」
「旅費?骨爛村?すぐ隣の県下じゃん」
部屋の前には、お茶を持ってきた姉の静流がおり、桑原は静流に金を借りると、すごい勢いで部屋を飛び出していった。
それを三人は、呆然として見ている。
「なんだありゃ?あのバカ行っちゃったけど、ゆっくりしてってよ」
「あいな。そのつもりです」
「おい」
静流にそう言われると、ぼたんは遠慮なしに返事をした。
「……なんだあいつ」
「う~~ん。桑原君に春がきたよ」
嵐のように去っていった桑原を見て、瑠璃覇と幽助はまだ呆然としており、ぼたんは横で、出されたお茶を飲んでいた。
それからお茶を置いた静流は下に降りていき、三人はテレビの方に顔を戻した。
見てない間に何か重要なことを言うかもしれないし、どんな小さな情報でも聞きのがさないようにしようと思っている瑠璃覇が、いつの間にか一時停止ボタンを押しており、ビデオは少女の監禁場所を伝えた時のまま止まっていた。
静流がいなくなると、瑠璃覇は再生ボタンを押して、三人はビデオの続きを見始める。
《彼女の身元をきけば、動かざるをえまい。特に幽助、お前はそいつに借りもあるしな》
再生すると、コエンマが指令の内容を再び伝え出す。
《娘の名は雪菜。
飛影の妹だ》
そして、コエンマの口から、信じがたい言葉が出て来た。
真実を聞くと、幽助、瑠璃覇、ぼたんは、目を丸くして固まった。
「……………え……?」
思考が一瞬停止していた幽助の口から出てきたのは、すっとんきょうな声だった。
「あの女が…飛影の妹?」
一方、瑠璃覇も信じがたそうにしており、目を丸くして固まっていた。
「にしても、信じらんねーな」
「世の中には、ふしぎな現象があるもんだな」
もはや、生物としてすら扱われていない、瑠璃覇のひどいセリフに、幽助とぼたんは顔をひきつらせる。
「それはともかく、これは桑ちゃんには黙っておいたほうがいいかもね…」
「そうだな」
「こんなおもしろいこと、教えられるわけないな」
雪菜と飛影の関係を話し、その後いろいろしゃべるとビデオは終わり、自然に停止した。
それから、桑原はきっかり2時間後に戻ってきて、幽助、瑠璃覇、桑原の3人は、骨爛村へと向かっていった。
出発してから一時間半後…。
電車やバスを乗り継ぎ、ようやく3人は、骨爛村にたどり着いた。
門の柱と柱の間には、木の柵と立て札があり、いかにも立入禁止区域といった感じであるが、3人はそんなものはお構いなしに乗り越えて、中に入っていく。
「おでれーたな。町から、電車とバスで一時間半。もうこんな山奥だ」
「土地ってなァ、あるとこにゃあるし、持ってる奴は持ってやがるな」
「この車のタイヤの跡たどってきゃ、別荘につくだろ」
「まだ新しいな。ここを通って、そんなに時間は経っていない。かすかにガソリンの臭いがする」
骨爛村に足を踏み入れると、幽助達は地面に残っているまだ新しい車の跡をたどり、雪菜が監禁されてる場所に向かって歩き出した。
「待っててくれよ、雪娘さん!!オレがガァ、必ずァ助けるぜェ」
骨爛村に入ると、気合いをいれる桑原。
目を大きく見開き、熱く燃えたぎっているその姿は、誰がどう見ても、雪菜にほれてるのがわかるものだった。
「(あ~~あ。一目ぼれってのは本当らしいな。やつが出てった後の、ビデオの続きは黙っておくか)」
一人別世界に旅立ったように、大きく雄叫びをあげて気合いをいれてる桑原を見て、幽助は、桑原がいない時にコエンマの口から出た、「雪菜は飛影の妹」という信じがたい言葉を思い出していた。
「「「!!」」」
するとそこへ、三人の目の前に、一人のスーツを着た男が現れた。
「ここは私有地だ。とっとと立ち去れ」
男は幽助達を追いはらおうとする。
「道に迷って帰れねーな!!」
「垂金って奴の別荘に泊めさせろ!!」
「お前ら……そんなバカ正直に……」
けど、もちろんそんなことで引き下がるような幽助達ではなかった。
包み隠さず垂金の名前を出したり、うそを堂々と言う二人に、瑠璃覇は呆れていた。
「(けどまあ……この程度なら問題ないか)」
だが同時に、何やら、一人で勝手に心の中で納得し、相手に鋭い目を向けた。
「それはできんな………。しかたあるまい」
男は幽助達の要求を拒否した。
そして、着ているスーツの足の部分がやぶけると、そこからは、人間のそれではないものが出現する。
「「!?
ゲ!!!」」
ズボンの下から現れたものを見て、瑠璃覇は冷静だったが、幽助と桑原は驚いた。
「無理にでもお帰り願おう……。死体でな」
男の足はタコのように変化し、手も人間ではないものに変わっていた。
そう……。男は人間に化けていたが、実は妖怪だったのだ。
そして、幽助達を抹殺しようと身構えていた。
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