第十九話 心の変化
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飛影が青龍を倒すと、一行は残りの敵の朱雀を倒すため、先へ進んだ。
今は、最上階の塔がそびえ立っている、広い場所を走っていた。
「さあ、敵はあと一匹だ。町の様子も気になるし、急ぐぜ」
朱雀のもとへ急いでいると、突然、霊界通信コンパクトが鳴った。
「オレだ」
《幽助!!瑠璃覇ちゃん!!こちらぼたん》
幽助と瑠璃覇がポケットからコンパクトを出して開くと、ぼたんの声が聞こえてきた。
「今、螢子ちゃんと学校にいるよ…………!魔回虫にとりつかれた人間にかこまれてる!!」
「!!」
「奴ら、あきらかに螢子ちゃんを探してる。ねらってきてるんだ!」
「なにィ!!」
ぼたんから現状を報告されると、幽助の顔が豹変し、怒りに満ちあふれる。
「あっ!!」
「貴様ァ、学校に私服でくるとはァ」
「早く虫笛を奪って…………」
ぼたんが話していると、そこへ魔回虫にとりつかれた岩本が現れた。
「危ない!」
「なにごとだぁ!!」
岩本はぼたんを殴ろうとするが、そこを螢子にかばわれたので、ことなきを得た。
けど、その勢いでコンパクトを落とし、岩本に足で破壊されてしまう。
「あ!!おい。ぼたんどうした!?おい!!」
そのことを知らない幽助は、急に画面が砂嵐になってしまったので、必死に呼びかける。
だが、何も応答はなかった。
「くそお!!早く…!!早くしねーと」
何があったかはわからないが、ぼたんと螢子がピンチなのは確かなので、幽助は急いで虫笛を壊すために、再び朱雀のもとへ走り出した。
第十九話 心の変化
塔の目の前まで来ると、幽助達は一度立ち止まった。
「あの塔だ。あそこを登っちまえば、最上階だぞ」
ようやく塔の前にたどり着き、先へ進もうとした時だった。
「ん!?」
塔の両側にある穴のような入り口から、妙な人影が現れた。
「な、なんだこいつらぁ!?」
1匹出てきたかと思えば、その後からぞろぞろと、数えきれないくらい出てきた。
みんな同じ姿形をしており、表情がなく、言葉を発しないその姿は、どこか不気味なものだった。
「なんちゅー数だ。いちいち倒してたら、時間がいくらあっても足りねーぞ」
「あいつらは、養殖人間だ。思考能力がなく、動作はきわめて鈍い。あいつら自身に意志はなく、術者の命令に服従する奴らだ」
「奴らを倒して突破するのは、かなり手間ですよ」
「痛みも恐怖も感じない。生きたでく人形みたいな奴らだからな」
「奴等のアタマの朱雀って奴ぁ、とことん性格ワリーぜ。このままじゃ、雪村がやべーぞ」
「くそ。面倒くせー!!オレのショットガン式霊丸百連発で、コナゴナにしてやらあ!!」
瑠璃覇、蔵馬、飛影が、養殖人間について説明をし、桑原が焦っていると、幽助は冷静さをかき、無駄に霊力を使って養殖人間を攻撃しようとした。
「冷静に!!無駄に霊力は使わないで。あせったら、朱雀の思うつぼですよ!!」
「もうちょっと頭を使え。バカ」
けど、そこを冷静な瑠璃覇と蔵馬が、幽助の肩をつかんで止める。
「だが、そうして突破するしか、方法ねーだろ!!」
「ある」
熱くなった幽助を止めるように、飛影が幽助の意見を否定をした。
「ヤツらの上を見ろ。あの窓から行ける」
「……なっ」
塔を見上げると、確かにそこには、人一人が通れるくらいの窓があった。
だが、普通の人間である幽助がそこまで跳ぶのは、不可能な高さだった。
「おい、ムチャいうんじゃねー!!バッタじゃねーぞ。どうやってあの高さまでジャンプすんだよ」
「オレに名案がある!」
飛影の名案というのを実行するため、飛影が説明をした後、瑠璃覇、蔵馬、飛影、桑原は行動に移した。
しかし……
「なんでオレが…。飛影(ヤロー)、いつかしめる」
「大丈夫?」
それは、桑原の肩の上に、蔵馬、瑠璃覇、飛影の順番でそれぞれの肩の上にのり、それを踏み台にして、幽助があの窓までジャンプするというものだった。
確かに名案は名案だが、一番下にいる桑原は、一番キツい役回りなので、ぶすくれていた。
「くそーっ。行ったるわ!」
もう、半分ヤケクソになり、桑原は叫びながら塔に向かって走り出し、幽助もその後に続いて走り出した。
「いいかぁ、浦飯ィ。ぶっつけ本番。どーなっても知らねェぞ」
「まかしとけィ」
運を天にまかせるといった感じであるが、やるしかないので、二人はそのまま塔へ走っていった。
「うおお。行くぜーーっ」
幽助は気合をいれると、桑原、蔵馬、瑠璃覇、飛影の背中を台にして跳びあがる。
「うおりゃあぁ」
そして、飛影の背中を蹴って、窓に向かって跳んだ。
そのことで4人のバランスが崩れたが、桑原の上にのっていた瑠璃覇と蔵馬と飛影は、難なく下に着地した。
「んが!!」
幽助はなんとか窓枠をつかんだ。
「!! やったぜ!!」
窓枠をつかむと、幽助はそのまま窓枠の上によじのぼる。
「桑原!!蔵馬!!飛影!!瑠璃覇!!サンキュ!!無事に戻ったらおごるぜ」
「死ぬんじゃねーぞ」
桑原に激励されると、幽助はグッと左手の親指を立てて答えた。
幽助が塔の中に入っていくと、養殖人間は瑠璃覇達を取り囲んだ。
取り囲まれても平然とした顔で、何人いるかわからない相手を、4人は次々に倒していく。
養殖人間自身は強くないので、戦うことは問題なかった。
だがしかし……
「どぉおりゃあああ!!」
倒しても倒しても、次々に穴から出てきた。
「くっ。これじゃ、いくら戦っても埒があかねえぜ」
「幽助が心配だ。なんとか、突破口を」
倒しても倒してもキリがないが、倒す以外に道はないので、倒すために、まっすぐに走っていく。
桑原は素手で、蔵馬はバラのムチで、飛影は剣で、瑠璃覇は風の力で、次々に養殖人間を倒していった。
けど、ぞろぞろと出てくるのでキリがなく、なかなか先に進むことができずにいた。
そして、何分も同じことを繰り返していた時、大きく雷が鳴り響き、それは先程爆発した、朱雀の部屋へと落ちていく。
「急がねえとマズいな…」
「なんにしても、こいつらを全部倒せばすむことだ」
「すむことだって…瑠璃覇さん、簡単に言うけど、こいつら倒しても倒してもどんどん出てきますよ」
「けど、数には限りがある。見ろ」
「ん?」
「まだたくさんいるが、もうあの穴からは出てきていない」
「本当だ…」
「一度にケリをつけてやる」
瑠璃覇がそう言うと、全員の周りを、すさまじい風が吹いた。
その風は激しく吹きつけるが、決して蔵馬、飛影、桑原を巻き込むことなく、三人の間をすり抜けるように動いた。
風は生きてるように動き、養殖人間だけを巻き込み、さらい、一ヶ所に集めた。
養殖人間が一ヶ所に集められると、彼らの周りには、ボールの形をした空気の壁が出現し、まるで檻にいれられてるようだった。
「空流裂刃獄(クウリュウレツジンゴク)!!」
瑠璃覇が叫ぶと、空気の壁から無数の風の刃が出現し、養殖人間を斬りきざんだ。
その刃は、養殖人間が一人残らずすべて倒れるまで無限に飛び出し、この技から逃れることができない養殖人間は、1分もしないうちにすべて斬りきざまれ、その場に倒れた。
「ゲェエ…。一気に全部バッラバラだぜ」
見るも無残な姿になった養殖人間を見て、桑原は気分が悪くなったのか、顔が真っ青だった。
「めずらしいな。養殖人間のような奴に、その技を使うなんて」
「急いだ方がいいんだろ?なら、一度に倒した方が早い」
瑠璃覇がそう言うと、今までで一番大きな雷の音が響いた。
「………!!今までで、最大の雷が。朱雀め、勝負に出たな」
「………死以外に決着はないな」
「よっしゃあ。全部いてこましたぜ」
瑠璃覇が残りの養殖人間を倒したことで、ようやく塔の中に入れる状況となった。
「うおお」
手で開ければいいのに、焦っているからか、桑原はわざわざ扉をふっとばした。
「最上階へ急げ!!」
4人は中に入ると、螺旋階段を上がり、朱雀がいる最上階へと向かっていく。
最上階はそれほど高い場所ではなかったので、ほんの数分で着きそうだった。
しかし、あともう少しで最上階へ着こうとした時、突然すさまじい爆発音が響き、入り口の方からつぶてまじりの爆風が吹きつけた。
「うわっ」
なんとか耐えられるものだったが、それでも風の勢いは強く、体が少しふらついており、それを目にした瑠璃覇は、4人の周りに風の結界をつくり、爆風とつぶてを防いだ。
「瑠璃覇、助かる」
「ああ…」
瑠璃覇は爆風が収まるまで結界をはっていた。
だが、爆風はそこまで長く続かなかったので、瑠璃覇はもう大丈夫だと判断すると、結界を解き、4人は再び最上階へと走り出した。
「!! ああっ。浦飯!!」
最上階に着くと、そこには複数の朱雀と幽助が倒れていた。
幽助は死んではいないようだが、白目を向いていて、かなりやばい状態だった。
「……まずい。霊力をほとんど使いはたし、心臓が止まりかけている」
「オレが霊気を送る!!」
「自殺行為だ。貴方も白虎との戦いでのダメージが、全く回復していない」
「そんじゃ、くたばんのだまって見てろってのか。霊気送れんのは、オレしかいねーんだ。しのごの言ってられっか」
蔵馬に止められるが、そんなことでやめるような桑原ではなかった。
「おりゃあーーーー。目ェさませ、てめー」
桑原は、幽助の体に両手をのせて、自分の残り少ない霊気を送り始めた。
「おおおーーー」
「どうやら、ふたりとも人間界まで運ばなければならないようだな」
「ちっ……世話のやける奴らだ」
「まったくだな」
その先を予測した蔵馬のセリフに、飛影は舌打ちをし、瑠璃覇はため息をつく。
「全く不可解だな。なぜ自分をけずってまで、他人につくすんだ」
「しかし、だからこそ朱雀に勝てた」
「………まあな」
「…そうだな」
「オレには到底マネできんがな。他人のため、しかも勝敗の見えん闘いなんぞ」
「幽助が負けていたら、その発言はなかったと思うけどね」
「………最近お前、ひとこと多いぞ」
「あ…。力尽きましたね」
「………やれやれ」
「しょうがない奴らだな」
3人が話していると、霊力が残り少なかった桑原はあっさりと力尽きて、幽助の上に重なるように倒れた。
そして瑠璃覇と蔵馬と飛影は、幽助と桑原を運んで人間界へ戻った。
それから数日後…。
「う…」
幽助は目を覚ました。
「……て…。ここは…」
目を覚ますと、幽助は上半身をゆっくりと起こす。
「おっ、目が覚めたか!!オレの部屋だ!!ゆっくり寝てろや」
そこは桑原の部屋で、そこには部屋の主である桑原の他に、瑠璃覇と蔵馬もいた。
「……もう、まる3日寝てましたよ」
「学校は、けっこう大騒ぎになってて、ほとんど休校状態だ。オフクロさんにゃ、うまく言ってあるからよ」
「あ…て…3日もか………。体中がギシギシ言いやがる。
あ!!そうだ。螢子とぼたんは!?」
「あ~~、それから岩本!!あいつ、今でもサツで事情聴取だってよ。なにも覚えてねーとか言ってるらしいけど」
色々と今の状況を説明するが、突然螢子とぼたんのことを聞かれると、桑原は慌てて話を変える。
「竹センは、頭ぶっとばされて、通院してっしよ」
「おい!!んなことはいいんだよ」
「岩本は、サツで事情聴取されてっし」
「そりゃさっき聞いた!!」
「それから、大笑いの話が…」
「うるせー。質問に答えらぁっ」
自分の質問に答えず、まったく関係のない話をする桑原を、幽助は怒鳴る。
「………螢子とぼたんは!?桑原!!」
真剣な顔で再度たずねるが、桑原も蔵馬も瑠璃覇も、何も答えずに、どこか暗い表情になる。
「……おい」
まさか…と思った幽助は、再び声をかける。
「おい!!黙ってたらわかんねーだろがァ!!なんとか言え!!桑原!!」
嫌な予感がしたが、それでも本当のことを確かめるべく、ベッドから降りて、桑原の胸ぐらをつかむ。
「なに、大声出してんだい。あ!!おはよ、幽助!!」
するとそこへ、ぼたんと螢子が部屋に入ってきた。
「え…?」
「ぷっ。くくく。なんだよ。もう少しひっぱりてーのに」
「冗談にしても、シャレにならないと言ったんですが」
「でも、おまえ止めなかっただろ」
二人の登場に幽助は目を丸くし、桑原は笑いをこらえており、蔵馬はシャレにならないと言うものの、一切止めようとはしなかった。
「ギャハハハハハ。今のツラ」
桑原がこらえきれなくなって笑いだすと、幽助は桑原を睨んだ。
その後は言うまでもなく、桑原は幽助の手によってボコボコにされたのだった。
「いやー、本当に危機一髪とは、あのことだねェ。頭しばかれてダメかと思って、覚悟して、念仏となえてたさ。意識がはっきりして、周り見たら、みんなぶっ倒れててさ。あ~~、幽助が勝ったんだって思ったねェ」
桑原がボコボコにされると、ぼたんがあの時のことを幽助に説明をしていた。
「そっか。ま!!無事でよかった!!
いや~~、はっは。ほっとした~~」
説明されると、さっきとはうって変わり、幽助は笑顔だった。
隣には、ボコボコにされて倒れてる、桑原の姿があった。
「これで一安し…
う…」
これで一件落着したかのように思われた。
だが途中で幽助は、螢子がすごい鋭くきつい目で、睨むように凝視していることに気づき、言葉をつまらせた。
ある意味で、一番の難問が待ち構えているからだ。
「じゃ、またな」
夕方になると解散し、幽助と螢子は帰っていった。
幽助は螢子の後ろを歩き、色々考えた末に素直に謝罪をした。
気が済むようにしてくれと言った後は、螢子はビンタをかますのかと思いきや、人差し指を立てて幽助の目の前にもってきて、霊界探偵の事件があってどこかに行く時は、行く前に幽助本人が、できれば一番最初に自分に教えてほしいと言った。
けど、幽助は螢子が言ってることがわかってないらしく、螢子が望む答えになってないことばかり言って、空回りな状態だった。
そして、そんな二人の後ろ姿を、数十メートル後ろから瑠璃覇が見ていた。
「……何か用か?蔵馬」
途中で気配を感じ、前を向いて歩きながら、そこにいる人物に声をかけると、ななめ後ろの電柱の影から蔵馬が現れた。
「よくわかったな、オレがついてきてるって」
「私は風使いだ。人が動けば、どんなに静かに動いても、必ず風は揺れ動くから、それだけで十分に相手の行動がわかる」
蔵馬は瑠璃覇の隣まで歩いて来て、瑠璃覇に顔を向けて話すが、瑠璃覇は蔵馬に目を向けず、前を向いたまま答える。
「あと、ニオイと音だ。私が、耳と鼻がきくのは知ってるだろ」
「今は人間の姿をしてるから、あまりきかないけど…」と瑠璃覇が付け足すと、蔵馬は軽く微笑んだ。
「蔵馬…。お前……弱くなったな」
「何?唐突に」
「昔のお前は、玄武のような弱い奴相手は、簡単に葬り去っていた。それなのに、玄武ごときに遅れをとるとは、弱くなりすぎだ」
「耳が痛いな」
突然、今回の戦いのダメ出しをされて、蔵馬は苦笑いをする。
「なら、早く強くなれ。でないと、将来魔界に帰った時に苦労する」
「え?」
「何をふしぎそうにしているんだ?もともと私は、ここには、蔵馬を探すためだけに来たんだぞ。蔵馬がみつかった以上、まったく未練はない」
自分の意見にふしぎそうにしている蔵馬に、瑠璃覇は、はっきりきっぱりと言い放つ。
「私はいずれ、お前とともに、魔界に帰る。でも、お前はまだ未練があるみたいだからな。未練がなくなるまで待ってやる。たった数十年くらい、どうってことはないさ」
遠回しに、自分の…南野秀一の母の志保利が、この世から去るまで待っていると言っており、それがわかった蔵馬は、複雑な表情になる。
その会話を最後に、それからしばらく、二人は何も話さずに歩き続けた。
「なあ……蔵馬……」
何分か歩いていると、突然静寂を破るかのように、瑠璃覇が蔵馬に声をかけてきた。
「ん?」
「私は……病気なんだろうか?」
「え…。何?また唐突に…」
なんの脈絡もない話に、蔵馬はまたふしぎそうにした。
「この前から変なんだ」
「変?」
「始まりは、蔵馬と再会して間もない頃だ。私が、自分の素性を幽助に話した時だった。今までの奴は、恐れるか、名をあげるために挑むかのどちらかだった。でも、幽助はそのどちらでもなく、逆に興味をもってきた。
桑原も同じだ。目を輝かせていた。飛影は戦いを挑んできたけど、今までの奴とは違い、ただ純粋に戦いたいといった感じだった。
そういった意味では、幽助と桑原も同じだ。
あいつらは私と戦いたいと言ったり、私を心配したり、弱いのに私を守ると言ったり、優しいと言ったり、私にケンカを売ったり、勝利を喜んだり、仲間と言ったり、変な奴らだ……」
瑠璃覇は、幽助と出会ってから今まであったことを、ただ淡々と話した。
蔵馬はそれを、黙って聞いていた。
「本当に変な奴らだよ。あんな変な奴ら、見たことない」
話していると、瑠璃覇は途中で足を止め、街の中に沈みかけている夕日をみつめた。
「私は、2000年以上も生きてきた。戦い、倒してきた敵は数知れない。何人倒してきたのか、どんな相手だったか、まったく覚えてない。敵でなくとも、今まで会った奴らも…。すぐに忘れてしまう。
なのに……」
そして、魔界にいた時のことを少し話すと、左胸のあたりの服をぎゅっとにぎりしめる。
「なのに……あいつらの顔や言葉が、私の心から…動かない…」
そのことを聞くと、蔵馬は次第に笑顔になり、瑠璃覇を優しくみつめた。
「大丈夫。病気じゃないから」
「へ?」
蔵馬は安心させるように言うが、蔵馬が言ったことの意味がわからず、いつもより、少しだけ幼さが見えるような目で蔵馬をみつめるが、蔵馬はにこっと笑うだけだった。
「帰るんだろ?家まで送ってくよ」
手を差し出されれば、瑠璃覇は幼さが見える瞳でみつめた後、その手をとり、蔵馬の横を歩き出した。
「私が送ってった方がいいんじゃないのか?蔵馬は弱くなってるからな」
「それを言わないで。それに、こういうのは男の役目だから」
嫌味を言われるが、それが本心ではないことは蔵馬もわかっており、にこっと笑った。
二人は、オレンジ色に染まる街の中を、仲良く手をつないで帰っていった。
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