第十八話 静かなる怒り
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白虎の部屋から先に進んだ一行は、今度は複数の扉の前に立っていた。
「桑原、どの道行きゃいいと思う?」
それは、迷宮城に続く道はひとつで、他は侵入者を阻むための罠が仕掛けられた道だからだ。
幽助は、一番霊感が鋭い桑原に頼み、正しい道を当ててもらっていた。
「う~~~~む。右から2番目だな!」
全ての扉を見た後、桑原は罠のない道を言い当てた。
「よっしゃ。じゃ、行こーぜ」
「本当に大丈夫なんだろーな」
「へ!こー見えても、迷路や罠の回避は、オレの十八番だぜ」
幽助はなんの疑いももっていないが、桑原のことをよく知らない飛影は疑っていた。
「大丈夫だ、問題ない。その扉の向こうから、二つの妖気を感じる。この道で間違いない」
「ほぉーら見ろ~」
横から瑠璃覇がフォローすれば、桑原は得意げな顔になり、飛影は悔しそうに舌打ちをした。
「それに、もしも罠があったとしても、私が先に歩いていけば問題ない」
自信たっぷりに言うと、瑠璃覇は桑原が当てた扉に手をかける。
一方、迷宮城の最上階では……。
「…………奴らの中に、よほど霊感の鋭い奴がいるようだ。罠のない最短の道を選び、我々のもとに向かってきておる」
そこには朱雀と青龍がおり、その部屋にある、宙に浮かぶ光る水晶玉に映る5人を見て、話をしていた。
「フ……。と言っても、もうオレと青龍、ふたりしか残っておらんな…」
「…………御安心ください、朱雀様。しょせん前のふたりは前座。私(わたくし)青龍が、奴らを皆殺しにしてごらんにいれます。我らふたりで、人間界への進出をはたしましょうぞ」
第十八話 静かなる怒り
扉を開けると、五人はその先にある通路を歩いていた。
今のところ、罠はなかった。
「あ…。そういえば…瑠璃覇さんて、妖怪なんすよね?」
「そうだが……いきなりなんだ?」
ずっと誰もしゃべらなかったが、その沈黙をやぶるように、桑原がしゃべりだした。
突然話をふられた瑠璃覇だが、いつも通り冷静な顔で返した。
「いや……てことはやっぱ、今の姿が本来の姿じゃないんですよね?」
「あたり前だろ」
「じゃあ、一体どんな妖怪なんすか?」
「…妖狐だ」
「妖狐?」
「狐だ…」
「狐!?」
狐と言えば動物。
先程自分が戦った白虎は、ネコのような姿をしていた。
動物の姿でなくとも、蔵馬が戦った玄武も、明らかに人外のもの。
桑原は、姿形は狐だが佇まいは人間で服を着ているという、どこか不気味で気持ちの悪い姿になった瑠璃覇を想像して、顔が青ざめた。
「おい、不快な想像をするな」
今の桑原の発言と表情で、どんなことを考えているのかがわかった瑠璃覇は、不快そうに顔をゆがめていた。
「狐といっても、頭と尻に、狐の耳としっぽがはえてるだけだ。基本は今の姿と変わらん」
「本当っすか?」
「ああ」
「そうなんすか。あぁ~~よかったぁ~~~」
瑠璃覇の話を聞き、桑原はほっとして、うれしそうに顔をほころばせていた。
「で、年はいくつですか?18くらいっすか?」
「女に年齢を聞くんじゃ「瑠璃覇はすっごい年上だぜ」
瑠璃覇が桑原に注意しようとすると、代わりに幽助が答えた。
「オイ…」
「何しろ、オレ達の150倍は長く生きてるって言ってたからな」
不機嫌そうな顔をして、幽助に話すのをやめるように促そうとするも、幽助は勝手にぺらぺらとしゃべってしまう。
「ひゃっ……150倍ぃいいい!?」
蔵馬は瑠璃覇の年齢を知っていたので冷静だったが、まさかの年齢に当然桑原は驚き、近くにいる飛影も、声には出さないが、目を丸くして驚いていた。
「150倍ってことは…………えっと……………………1900歳くらいか?」
「バッカ、おめェ。2300歳くらいだろ」
「お前ら、どっちもバカだ」
極端に計算を間違えている幽助と桑原を、瑠璃覇は呆れた顔でつっこんだ。
「で?本当はいくつなんだよ」
気をとりなおして聞く幽助に、瑠璃覇は軽くため息をつくと、口を開く。
「2138歳だ」
「…なんか……やたらとリアルな数字だな」
「オレ……瑠璃覇さんは、見た目通り若いのかと思ってたぜ」
あまりにリアルすぎる年齢に、二人は興奮がおさまり、静かになった。
「あ…そういえばよォ、瑠璃覇。ずっと、聞こう聞こうと思ってたんだけどよ…」
「なんだ?」
すると、今度は幽助が、急に何かを思い出したように、瑠璃覇に問いかけた。
「幻海のバアサンとこで修業してた時、バアサンが言ってたんだが……おまえがあの時、オレと一緒に任務に行ったのは、気まぐれでおせっかいをやいてるとか、借りがあるからとか言ってたらしいけど、それって一体どういう意味なんだ?
それにずっと気になってたんだが、そもそも蔵馬がみつかったのに、なんでまだ、オレのパートナーなんてやってんだ?」
幽助は、ずっと気になっていたことを瑠璃覇にぶつけた。
初めて会った時、瑠璃覇は探し人をみつけるために、自分の…霊界探偵のパートナーになったと言っていた。
けど、その探し人…蔵馬は、もうすでにみつかった。
それなのに、蔵馬がみつかったというのに、未だに自分のパートナーとして、霊界探偵の仕事を一緒にしているということが、どうしてもふしぎでしょうがなかったのだ。
それを、瑠璃覇の年齢の話になったことで(選考会の時に年齢の話をしていたので、そのつながりで)、幽助は急に幻海が言っていたことを思い出して、瑠璃覇に問いかけたのだった。
「……蔵馬から聞いたが……おまえは……三大秘宝の暗黒鏡の時、蔵馬が暗黒鏡を使って母親を助けようとした時に、自分の命もわけようとして、蔵馬を助けてくれたらしいな」
「ん?ああ」
自分の先を歩きながら、ぽつりぽつりと話しはじめた瑠璃覇だが、何故今になって、その話をもちだすのか、幽助はわからなかった。
「その時は私も、三大秘宝を盗んだ奴の中に蔵馬がいるなんて知らなかったし、盗んだ奴が、どんな奴かすらわからなかった。コエンマに、詳しく知らされていなかったからな。それに、あの時私は、コエンマの謀りで霊界にいた。知らないとはいえ、蔵馬を危険な目にあわせていた。それを聞いた時、コエンマも許せなかったが、自分自身も許せなかった。
蔵馬を、未来永劫護ると自身に誓ったのに、そうすることができなかった。
もし……蔵馬がまた亡くなったと知ったら、私の心は崩壊してしまい、二度と戻らなかっただろう…。
だから、たとえ偶然でも、おまえが蔵馬を助けてくれたことには、感謝してもしきれない…」
めずらしく殊勝な瑠璃覇に、幽助は驚いた。
すると、今まで背中を向けて話していた瑠璃覇が、幽助に顔を向ける。
「私は………蔵馬の命を救ってくれた恩を……言葉だけですませるつもりはない…!!」
振り向いた瑠璃覇は、とてもまっすぐな目をしていた。
殺気がこもった時の鋭い目でも、冷淡な目でもなく、力強い意志がこもった目を向ける瑠璃覇を見て、幽助達は固まる。
瑠璃覇は自分の思いを全て話すと、顔を再び前にむけ、先に歩いていった。
「な、なんだよ…。おい浦飯、どうなってんだよ?」
今の瑠璃覇の発言に、桑原はあわてて幽助に話しかける。
「どうなってるって…何がだよ?」
「だってよ……瑠璃覇さん、やたらと奴のことを気にかけてるっていうかよ…。なんか、雰囲気が今までと違くねーか?」
焦った桑原と、桑原の今の発言で、幽助はピーンときた。
「はは~~ん。おまえ…瑠璃覇のことが好きなんだな?」
桑原が瑠璃覇を好きだとわかった幽助は、にやにやと笑いながら桑原を見た。
幽助が出した答えに、蔵馬は反応し、桑原はドキッとなる。
「でも残念だったな。瑠璃覇は蔵馬が好きで、二人は恋人同士なんだよ。そもそも瑠璃覇が人間界に来たのは、蔵馬を探すためだしな。お前が入れる隙間なんて、これっぽっちもありゃしねーよ」
「うるっせェな!!」
おもしろそうに笑いながら話す幽助に、桑原は悔しそうに噛みついた。
前では、瑠璃覇が顔だけ幽助と桑原の方に向けて、二人のやりとりを見ていた。
それからしばらく通路を歩いていくと一行は、今までとは雰囲気が違う、扉の両隣に竜の銅像がある、大きな扉の前に来ていた。
「…………ものものしい扉だな」
「(竜の銅像か。これは金にならんな)」
「…………多分ここが青龍の部屋だろう。今まで以上の強い妖気が流れ出てきている……!」
「オレもぞくぞくきてやがるぜ」
青龍の妖気は相当なもののようで、扉の前にいても、蔵馬と桑原は青龍の強い妖気を感じとっていた。
「ん!?」
すると、目の前の扉が自動的に開いたので、幽助達は階段をあがり、部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、扉はまた、自動的に閉まった。
「!!」
部屋の中に入り、その中にいた人物を見て、幽助は目を見開く。
「お前達の悪あがきに、朱雀様はいたくご立腹だ。だが、調子に乗るのもここまでだ」
そこには、四聖獣の一人、青龍が立っていた。
「五体満足で死ねると思うなよ。ククク」
「なにィ~~。えっらそーに、このヤロォ」
桑原が青龍に食ってかかっていると、瑠璃覇と青龍は目を鋭くさせる。
「………チッ。その前に、招かざる客がきた」
「?」
だが、瑠璃覇と青龍以外は、一体なんのことなのかわかっていなかった。
すると、何かをひきずるような音が、幽助達が来た方向から聞こえてくる。
「な、なんだ、このひきずるような音は」
「オレ達がきた方向からだ」
飛影がそう言うと、閉められた部屋の扉が開いた。
「た、助けてくれ~~……」
「白虎!?」
扉の向こうから現れたのは、先程まで戦っていた白虎だった。
白虎は濃獄酸に落ちたために全身が焼けただれており、息もたえだえといった感じである。
「せ、青龍ゥ~~~」
目の前に幽助達がいても、今の白虎はそれどころではないようで、まっすぐに青龍のもとへ歩いて行く。
「た、たのむ。妖気を、少しでいい。わけてくれ…。き、きっとその借りは、キズが回復したら必ず…」
「い、生きてやがったのか」
「信じられねータフさだな」
本来ならお陀仏だろうが、重傷を負いながらも生きていた白虎をみて、幽助と桑原は顔に汗を浮かべていた。
この時瑠璃覇は、二人の発言に、幽助達も負けてないと思ったが、その言葉は胸にしまっておいた。
「………バカが。わざわざ生き恥をさらしにきおって」
必死に懇願した白虎だが、青龍の口から出たのは冷たいものだった。
「青龍!」
「もう、貴様などあてにはしてない。いや、むしろ目ざわりだ」
冷たく言い放つと、青龍は左手を前に出し、右手を後ろに引いて構えをとる。
冷気が青龍の周りを回転し、後ろに引いた手に凍気が集まっていく。
「そ…そのかまえは…ま、まさか………。たのむ!!やめ…」
これから青龍が何をしようとしてるのかわかった白虎は、命ごいをする。
「くらえィ。魔闘凍霊拳ん!!」
「なにィ!!」
青龍はいっさい躊躇することなく、白虎に向けて拳を叩きこんだ。
「あああ」
拳を叩きこまれると、白虎は一瞬にして凍りつく。
「ははぁ」
そして青龍は、そのまま凍った白虎の体に蹴りを入れて、白虎の体を破壊した。
「………!!」
「てめーの味方を、あっさり殺しやがった………!!」
この青龍の行動に、幽助と桑原は驚愕した。
「あ……」
体を粉々に破壊されたことで、白虎の頭は胴体から離れ、無残にも叩きつけられるように落ちて、床にころがる。
「ふ…。絶対零度に近い凍気の拳を、秒間百発たたきこんだ。この拳を見切れるのは、朱雀様のみ」
「青…龍。なぜ…」
頭だけになってもなおしゃべる白虎は、口から血を吐きながら問いかけた。
「弱者はいらん。利用価値のない負け犬はただのクズだ」
青龍は見下すように冷たい目を向け、白虎の頭につばを吐きすてた。
「う…」
つばが白虎の頭に落ちると、白虎はそのまま息をひきとった。
「………!!」
「彼らには、仲間意識は皆無さ。支配欲と食欲だけが全てなんだ」
「さっきまで戦ってたオレだが妙な気分だぜ。白虎のためにも、あのヤローを倒したくなってきた」
その様子を見ていた幽助は、額に青筋を浮かべながら青龍を睨みつけていた。
淡々と述べる蔵馬も、あまり気分がいいようには見えず、桑原も幽助と同じく、額に青筋を浮かべて青龍を睨んでいた。
そして、この中では一番冷酷である瑠璃覇も、先程の白虎との戦いを思い出すと、鋭い目で青龍を見た。
「胸クソワリーぜ、ちくしょーが。オレがぶっ殺す!!」
「待て!幽助」
完全にキレた幽助は、青龍を倒そうとした。
けど、そんな幽助を止めたのは、意外にも飛影だった。
「その怒りはとっておけ…………。最後の朱雀を倒すためにな」
「………!」
「……」
飛影の真紅の瞳からは、静かな怒りを感じられた。
それを見た幽助は、そのまま動かなくなり、桑原は背すじが凍る思いをした。
「くくく」
飛影は青龍の前に立つと、上にはおっていたマントをぬぎ、それを横に投げた。
「?」
マントは白虎の頭を覆うように、白虎の上に落ちた。
まるで、弔いをするかのように…。
「くくく。なんのマネだ。まさか、お前までがセンチな情にほだされたというのか?非道をむねとするお前は、オレ達と同じ穴のムジナだろうが」
青龍の蔑みの言葉を受けて、飛影の目は、ますます鋭さが増す。
「初めて見る飛影だな」
「「「!」」」
そんな飛影を見た蔵馬が語り出すと、幽助は視線を蔵馬に移す。
「………以前の飛影なら、青龍と同じことをしていたんじゃないかな。
でも、今の飛影は青龍の行為を見て、明らかに不愉快になっている。
飛影もそんな自分自身にとまどっているみたいだが…ただひとつはっきり言えることは、飛影をおおっている全身の闘気が、今まで感じたことがないほど強い!」
お互い構えをとり、今まさに戦いが始まろうとしている緊張感。
そして、二人から放たれている、周りにうず巻く、あふれんばかりの闘気。
この二つが、この部屋にいる者達を釘づけにしていた。
「コナゴナにしてやるぞ」
青龍は、また先程の技を出そうと構えをとり、飛影は親指で鍔を押し上げ、抜刀の構えをとっていた。
「死ねェ!!」
先に走り出したのは青龍だった。
青龍は、今の自分の言葉を合図に、魔闘凍霊拳を放とうとした。
「(勝負……あったな…)」
だが、先に走り出した青龍よりも早く、飛影が一瞬にして剣で薙ぎ払い、青龍の体を横でまっぷたつにした。
青龍は、上半身と下半身がわかれてしまった。
それだけでなく、上半身はバラバラに切られていた。
それを見た、幽助、蔵馬、桑原の三人は、目を見開き、口をあけて驚いていた。
飛影は青龍を斬ると、青龍の体が床に落ちる前に、剣を鞘におさめる。
「貴様のツラは、二度と見たくない」
飛影が後ろへ振り向いた先には、バラバラにされた青龍の亡骸と、そこから飛び散る血の海があった。
「い、い、いつのまに切ったか、全然見えなかった」
「……フ。オレすら、初太刀以外は、なん度切ったかわからん」
「ち、ちょっと見直しちゃったかな」
「すっ」
桑原は愕然とし、幽助は感服していた。
戦いが終わると、全員飛影のもとへ行った。
「すげーぜ、飛影!!圧倒的に強いじゃねーかよ!!」
「なん回切った?」
「16回だ」
「16回か~~。ちくしょー、半分くれーまでは数えられたんだがな」
「私は16回数えられた」
「オレには、閃光が糸状に走ったようにしか見えなかった」
「気づいたら敵がバラバラだった…」
「くそー、やるじゃねーか。こりゃ、マジでもっぺん戦ったら、オレがやられるかもな」
「………さぁな」
「え?」
幽助が明るく言えば、飛影は短く返し、幽助に背を向けた。
「……飛影?」
意外な言葉に幽助は驚き、「てっきり、当たり前だとかゆーかと思ったのに」と付け足した。
「………彼はここにきて、変わりつつある。
少しずつ、あなたにひかれているようだ」
蔵馬にそう言われると、幽助は軽く笑みを口もとに浮かべ、飛影の後ろ姿を見た。
その頃、城の最上階では…。
「…………」
水晶には、青龍を倒して先に進む5人の姿が映っており、その部屋の主である朱雀は、5人の姿を見ると水晶を破壊した。
「おろか者どもが…!!かくなる上は、オレが直々にこの手で葬ってやる」
玄武、白虎に続き、あんなに大見得を切っていた青龍までもがあっさりとやられてしまったので、怒りを水晶にぶつけたのだった。
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