第十六話 伸縮自在の剣
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不気味な雰囲気を醸し出す迷宮城。
その中を、玄武を倒した幽助達が歩いていた。
「蔵馬、キズは大丈夫かよ」
「ああ、動けないほどじゃない」
「だが、戦えるほど浅い傷でもないだろう。予定が狂ったな…。蔵馬を欠いて、残り三匹か」
「大丈夫だ、問題ない」
飛影が悩んでいると、そこへ瑠璃覇が割って入る。
瑠璃覇は飛影が言ったことを、まったく問題にしていなかった。
そして、蔵馬の前まで来ると、両手に妖気を集中させ、風を起こした。
その風はとても優しくゆるやかに蔵馬を包みこむと、蔵馬が先程の戦いで負った傷を治していった。
「傷が……治った!?」
風が吹いただけで傷が完治したので、蔵馬以外の三人は驚きの表情を見せる。
「これは、私の技のひとつの治癒能力だ。この力は、どんなに深いケガを負っても、完全に治すことができる、癒しの風。ただし、病気は治せんがな」
幽助がつぶやくように言うと、瑠璃覇は簡単に技の説明をした。
「さっきも言ったが、私は、お前達を援護しつつ、少しでも成長できるよう見守るように言われてる。すぐに助けたら、お前達のためにならない。
けど、もしものことがあったら困るからな。本当に強くなるまでサービスだ」
「本当にすまない、瑠璃覇」
「いいんだ」
申し訳なさそうに蔵馬が礼を言うと、瑠璃覇はどうということはないと言うように、にこっと笑う。
「しかし、この力を使うにも妖気がいる。いくらパープル・アイとはいえ、いつまでも続けられるものじゃないだろ」
飛影は、瑠璃覇が今は人間の姿で、妖力を抑えていることに気づいていた。
妖力を抑えれば、当然技の威力も、使える回数も制限されるので、そのことを指摘する。
「なーに。次の相手は、オレにまかせとけ」
するとそこへ、桑原が、今度は自分が戦うと申し出た。
「蔵馬が勝つまでびびりまくってたくせによ」
「うるせ。イキナリで驚いただけだ」
大船に乗った気でいろという桑原だが、痛いところをつかれたので、幽助に噛みつく。
「オレだって、オメーが師範のとこで修業してる間、なにもしてなかったわけじゃねェ。瑠璃覇さんの特訓のおかげでな、いろいろ試しているうちに、自分自身の手だけでも、霊気の剣を出せるようになったんだ」
そう言った桑原は、やけに自信満々な顔で笑っていた。
「ほらよ」
「ほう…。ただの、でくの棒じゃなかったわけだ」
本人が言った通り、桑原がにぎった右手からは霊気の剣が出てきた。
しかし、それを見ていた飛影は嫌味しか言わなかった。
「死ぬかコラ!?」
「よせって」
あっさりと頭に血がのぼった桑原は、飛影の胸ぐらをつかんで喰ってかかるが、幽助は桑原を止める。
「………ちっ、まぁいいや。だが、これからがオレの研究の成果だ」
まぁいいやとは言うものの、まだ青筋が浮かんでいた。
「いいか、みてろよ」
気をとりなおし、研究の成果を見せるべく、真剣な顔つきになる。
「剣よ、のびろ!!」
桑原の叫び(合図)で、手にしていた霊剣は、槍のように長く伸びた。
「おお!?ヤリみてーにのびやがった」
「へっへっへっ。オレの意志で伸縮自在よ!」
幽助に感心されると、霊気の剣を見せる前よりも得意な顔になる。
「前は、いきなり化け物を見てびびっちまったが、もう心の準備もOKだ。次の相手は、オレにまかせてもらおう!」
と、胸をはって自信満々に宣言する。
「うっ…今の霊気の放出で、かなり疲労が…」
「じゃ、やんな!!戦う前に」
しかし、どこまでも決まらない桑原だった。
格好がつかない桑原に、幽助は激しくつっこんだ。
「桑原……」
それを見ていた瑠璃覇が、静かに桑原の名前を呼ぶと、桑原はギクッとなった。
「私は前、なんと言った!?霊気のコントロールができるようになれと言ったはずだが?」
そこには、顔は笑ってるが目は笑ってない瑠璃覇の姿があった。
「力を温存しておけ!くだらない見栄で霊気を消耗するな!力の配分を考えろ!」
「すんまっせん!瑠璃覇さん!」
「ま、まあまあ瑠璃覇。おさえておさえて。彼はこれからですよ」
瑠璃覇の恐ろしさを知っている桑原は、綺麗に頭をさげて謝り、それを見ていた蔵馬は、フォローするように間に入る。
「ヴァオオオォオ」
「「「「「!?」」」」」
「オオオォオォォオ」
すると、突然ものすごい叫び声が、城に響き渡った。
「な、なんだ。今のスゲー叫び声は。この世のものとは思えねェ」
その雄叫びだけで城中が揺れ、ビリビリと振動し、城を形作っているレンガにひびが入り、その際にできたレンガのかけらが下に落ちる。
「……白虎の雄叫びだ。彼はどうやら、相当ごきげんななめの様だ」
「こっちだ。いくぞ!!」
幽助の合図で、5人はいっせいに駆け出した。
雄叫びが聞こえる方へ走っていき、螺旋階段を駆けあがるとその先に光が見え、5人は外へ出た。
第十六話 伸縮自在の剣
「う!!」
「ォォオオオォォオオ」
そこは、自分達がいるところから、人一人がぎりぎり通れるくらいの橋が、丸い闘技場のような場所へ繋がっており、更にその先にある螺旋階段を上がった先には、5人の身長の倍はあるであろう猫のような顔の妖怪、白虎が立っていた。
「わざわざオレ様にまで足を運ばせやがって、クソ虫どもが。使い走りの玄武を倒したぐらいで、いい気になるなよ」
「で、でけェ。3m以上、あるんじゃねェか!?」
「や、約束がちがうじゃねェか」
「ただでさえ、辛気臭え魔界の城に閉じ込められて、うめェ人肉にもありつけず、イライラしてるってのに。その上、霊界がオレ様達を倒すためによこした相手が、人間二匹に裏切り者三匹だと」
白虎は腹立たしげに、5人を強く睨みつける。
「いいか!!ゴミども。てめェら人間は、全部オレ様のエサだ!!
飛影!!蔵馬!!瑠璃覇!!おのれらは切りきざんで、腐餓鬼どものエサにしてくれるわ」
「くうっ。なんてすげェ声だ。腹ん中までえぐられそうだ」
今の白虎の怒号だけで、城が揺れ、細かい建物のかけらが上から落ちてきた。
「ヤロオ、好き勝手言いやがって」
「桑原!」
白虎の怒号に、桑原は自分が相手をすると言うように、一歩前へ出た。
「口だけじゃなく、本当にひとりでいく気か」
「たりめーだ。タイマンは、ケンカの常識よ!!」
「足のそのふるえは武者ぶるいか、オイ」
かっこよく決めたつもりだったが、ひざがガクガクと震えていた。
やはり、桑原はどこまでもかっこがつかなかった。
「とにかく、オレが行くっていったら行くんだよ!!」
「私が行ってやろうか?そうすれば、1秒で片がつくぞ」
「大丈夫ですって!男桑原、必ずや勝利を手にしてみせます!」
瑠璃覇は代わりに行こうと提案するが、それでも桑原は断り、瑠璃覇の前でせいいっぱいかっこよく決めた。
「ひっこみつかねーだけじゃねーの?」
「うるせェな。黙って見てろ!」
「!?」
桑原はまだびびりながらも、一人で白虎を倒すべく、橋を渡っていく。
「ひとり!?オレ様を相手に、ヤツがひとりで戦うとでもいうのか!?ぬう。く、くく…く。
くっくっく。わははははは。馬鹿馬鹿しくて、怒る気も失せたわ」
また怒号を浴びせるのかと思いきや、人間である桑原が一人でやって来たのを見て、逆に白虎は笑い飛ばした。
「こらてめェ。笑ってねェで、さっさと降りてきやがれ」
「くくく、バカが。ふざけるな。貴様など、オレ様が手を下すまでもないわ」
ひとしきり大笑いをした白虎は、自分自身の髪の毛(体毛?)を4本引き抜く。
「そらよ」
毛を抜くと、抜いた毛に息を吹きかけて、桑原の方へ飛ばした。
「!?
なにィ!?奴の毛が、獣に変わりやがったァ!!」
白虎が飛ばした自身の毛は、鋭い爪と牙をもつ妖獣となって、桑原の前に降り立った。
「オレ様の分身妖獣だ。さぁお前達、ジワジワと切りきざんで殺してやれ。オレ様にはむかった無謀さを、死んでも後悔するようにな!!」
「ギギギギ!!」
「うおっ」
主人である白虎の命令で、その中の一匹が、桑原に立ち向かっていく。
「くっ」
なんとか避けるも、妖獣は後ろ足の爪で、桑原の胸から肩にかけて切りさいた。
「痛うっ」
体だけでなく、頬も切れてしまい、そこからは真っ赤な血が吹き出す。
「くそっ」
桑原は応戦するために、霊気を右手に集中させると、先程4人に出して見せた霊剣を作り出した。
「ほう、ちょこざいにも霊気を武器化できるのか。だが、そんななまくら刀一本で、妖獣四匹を相手にできると思うのか!!」
「!!!」
白虎が叫ぶと、妖獣は、今度は一匹ではなく四匹同時に桑原を襲ってきた。
「おりゃあ」
妖獣達が襲いかかってくると、桑原も霊剣を横に薙ぎはらった。
しかし、妖獣はその攻撃を、あっさりと跳んで避けてしまう。
「うああっ」
そして、また鋭い爪で、桑原の体を切りさく。
しかも、今度は一匹ではなく四匹同時に攻撃してきたので、桑原が受けた傷は先程の倍になっていた。
「…………話にならんな。あの程度の太刀さばきでは、なぶり殺されるのは、時間の問題」
「………」
桑原の戦いを傍観していた飛影から、きびしいダメ出しが入る。
「ぐあ ぐう」
傷つき、ふらふらの状態になっても、それでも桑原は、立って戦おうとしていた。
「桑原!!オレと代われ!!相手が大勢なら、オレの散弾式霊丸で、なんとかなるかも知れねェ。離れて戦えねェオメーじゃ不利だ!!」
「くはは。代わらなくとも、お前ら全員で戦った方がいいぞ。しょせん、おのれらゴミが、ひとりで立ち向かうこと自体ムリなのだ!!」
「ふざけんじゃねェ!!アイツを、同じ土俵にひきずり出さねーうちに、オメオメと代われるか!!
いいか浦飯!!余計な手出ししやがったら、白虎の前にてめーをぶっ殺すぞ」
幽助から提案され、白虎の罵りを受けても、絶対に引き下がろうとはしなかった。
それどころか、幽助にケンカまで売る始末である。
「フン、まだ薬が足りんようだな。よし、妖獣どもよ。やつの手足を一本ずつ喰いちぎれ。頭と胴体は、オレが喰うからな!!」
「!!」
しかし、どんなに意地をはっていても、食われるのは恐ろしいようで、白虎の今の発言で、桑原は恐怖を感じた。
「ギャア」
「うわっ」
そして、先程よりも警戒し、妖獣の攻撃を避ける。
「………冗談じゃねェぜ。せっかく治った手足を喰われてたまっか」
それは、以前選考会の時に、乱童に体中をコナゴナにされたからだった。
「桑原ァァ。クソ意地張ってねーで、オレと交代しろぁーーーー。オメーの剣じゃ、大勢をいっぺんに倒すのは無理だ!!」
幽助は、先程桑原に拒否されたが、それでも心配で見ていられないからか、再度桑原に向かって叫ぶ。
「桑原ァーー」
「!!
………!!そうだ!」
「む?」
自分に向かって叫ぶ幽助を見ると、桑原は何を思ったのか、もと来た橋の方へ走っていく。
「わははは。ようやく恐怖にめざめ、仲間のところに逃げ出したか。だがもう遅い!!そっちにいる仲間もろとも、喰い殺してやれぃ!!」
「おおおお」
当然、妖獣達も桑原の後を追ってきたので、桑原は焦りの表情を見せる。
「だれが逃げてるって!?」
すると、突然桑原の足がピタリと止まり、後ろにいる妖獣の方に顔を向けた。
「「「「!!」」」」
「剣よ、のびろ!!!」
桑原の合図とともに霊剣が伸び、一直線に並んだ4匹の妖獣は、口から尻にかけて霊剣で貫かれた。
「「「「ギイィィィエェェ」」」」
「なにィ!!」
「バカが、かかったぜ。こいつらを一直線に並ばすために、わざと狭い道におびきよせたんでェ」
「ぬうう。しかしワシの分身妖獣は、その程度で死ぬほどヤワではないぞ。そのまま奴に喰らいつけ!!」
「おお!?」
白虎の命令通り、妖獣達は霊験で貫かれながらも、桑原に襲いかかろうとした。
「おおおおおおお」
桑原は喰らいつかれないように、剣をひっぱって妖獣を引き連れていき、4人がいる方へ再び走っていく。
塔の周りを走っていくと、剣の先の返しの部分が塔にかすり、レンガとレンガの間にひっかかった。
「おりゃああ」
けど、桑原はそんなことは気にせず、そのまま走っていった。
「これでどうだぁあ」
そして、塔の出入口まで戻ってくると、剣の先と柄の部分を結んでしまった。
「見たかァ。化け物の串刺し、ドーナツ・ヴァージョン」
「霊気を、むすんじまいやがった。非常識な奴だ」
「もとがあいつの毛じゃ、焼いても煮ても喰えん」
「お前、食べるつもりだったのか?」
「ぬうううう!!」
それを見ていた、先程まで余裕の表情だった白虎は、怒りのボルテージが上がっていく。
「くくく。おとなしく、妖獣どもに殺されればよかったものを」
「オラ、デカ物!!どーしたァ。次こそてめェの番だ。おりてこい!!」
逆に、妖獣を倒したことで余裕の表情になった桑原は、白虎に向かってビシッと指をさした。
「このオレ様を、オレ様を、本当に怒らせよったわ!!」
そして白虎の表情は、体中の血管が浮いて見えるほどに、怒りに満ちあふれていた。
「ザマーミロ。てめーの妖獣は、霊気でしばられてこのザマだぜ!!次はてめーの番だ!!」
桑原が強気になって叫べば、白虎は自分の足元のブロックを殴り壊す。
「おのれ、調子にのりおって!!オレ様が自らの手で、直々に殺してくれるわ!!」
「のーがきはいいっつんだよ。さっさとここに降りてきて、勝負しやがれ!」
「……ガキが…!」
桑原が叫ぶと、白虎はその巨体からは想像ができないほど、身軽に降り立った。
「おわっ」
しかし、下に着地すると地面が激しく揺れ、その振動で桑原は一瞬宙に浮いた。
「(げ……間近で見ると、恐ろしくでけーな)」
目の前に来たことで、白虎は迫力を増し、自分の倍くらいはある大きな体に、桑原は少したじろいだ。
「先に言っておく。キサマの、そのなまくら刀では、オレは倒せん!!霊気の剣が、キサマの唯一最大の武器なら、百に一つもお前は勝てない!!」
「んだとコラ」
早くも自分の敗北を宣言をされたので、桑原は切れる。
「効くか効かねェか、てめェの体でたしかめやがれ!!」
桑原は白虎の元へ走っていくと、白虎の体を霊剣で切り裂いた。
「むっ」
「どーだ!!」
自分の攻撃があっさりと決まったので、桑原は自信満々だった。
「うおおおお」
だが、白虎はそんなことで簡単にやられず、今度は自分が、右手で桑原に殴りかかり、攻撃をしてきた。
けど、桑原はその攻撃を横に避ける。
「そりゃあ」
避けると、また白虎の体を切りつけた。
「おっしゃ、完全に桑原のペースだぜ。まともなタイマンなら、あんなデカブツに負けやしねーぜ」
完全に桑原の方がペースをつかんでいるので、幽助は喜んでいた。
「そら、もういっちょ!!」
桑原はかけ声とともに、また霊剣で、白虎を切る。
しかし、白虎はわざとこの剣を受けてるようにも見えた。
「……おかしいな」
「うむ」
「そうだな」
どう見ても桑原の方が押しているのに、瑠璃覇と蔵馬と飛影は、この戦いのおかしな点に気づいた。
「闘っているふたりを見てみろ。確かに桑原(ヤツ)の方がペースをつかんでいるが」
飛影に言われて見てみると、桑原は疲労しているが、白虎は余裕の笑みを浮かべていた。
「しかし、圧倒的に、桑原の方が疲労している!!」
何回か攻撃したが、それでもそんなに体を動かしていないのに、桑原は汗をかき、深く荒い呼吸を繰り返していた。
「くそっ…。一体、どーゆーことだ!?いくら攻撃しても、奴はちっともこたえてねェみてェだ。いや、それどころかオレの方が……」
今のおかしな状況に、桑原も気づき始める。
「……!?それだけじゃねーぞ。まさか、あれは…」
そして、更におかしな点に気づく。
「白虎が、一回り大きくなっている!?」
それは、白虎が桑原と闘う前よりも大きくなっていることだった。
「は!!わかったぞ。見ろ、桑原君の剣を」
「!?
剣が!?」
蔵馬に言われて見てみると、更に自分の武器の異変に気づいた。
「小さくなっている!?」
それは、自分の武器である霊気の剣が、闘う前よりも小さくなっていることだった。
「白虎は吸っているんだ!!桑原君の霊気を。そして、それを自分のエネルギーにしている!!」
「わはは。気づいたようだな。だが、どうする!?剣をすてて素手で戦うか!?」
白虎はまた強気な態度になり、桑原を嘲る。
「ざけんじゃねェッ!!!」
あっさりと白虎の挑発にのった桑原は、また霊気を手に集中させて、霊剣をもとの大きさに戻した。
「うっ」
だが、無理に霊気を放出したため、桑原はめまいを起こし、足がふらついてしまう。
「よせ桑原ァ!!いくら攻撃しても、相手をでかくするだけだ!!」
しかし、桑原は聞く耳もたずで、白虎に立ち向かって行く。
「うおおっ」
「バカめ」
桑原は霊剣を、白虎の口の中に刺した。
「うあああ」
だが、それはただ、白虎に霊気を吸わせるだけの行為だった。
「あああ…」
無理に霊気を放出したせいもあり、桑原は全ての霊気を吸われてしまう。
そのせいで霊剣は姿を消し、桑原はその場に倒れた。
「ゲップ…!(体の割には、けっこう霊気を含んでやがる。ちいっとばかしもたれ気味だぜ)」
「くっ…。まだまだ…」
それでもまだ諦めていないようで、桑原は再び霊剣を出して構えるが、剣はもとの大きさにはほど遠く、かなり小さくなっていた。
「ああ!!霊気の剣が、もう短刀ぐれーしか残ってねェ!!」
「くくく、もう立っているのもやっとだな。だが、これからが貴様の恐怖の時間だぞ」
もうすでに、桑原はふらふらの状態だが、白虎は容赦なく桑原に近づいていく。
「うおらぁっ」
そして、桑原の前まで来ると、桑原を殴り飛ばした。
「ぐあ」
「なぶり殺してくれるわ。ははっ」
「あっ…ぐ」
「くくく、食後のいい運動になるぜ。腹ごなしが終わったら、貴様の体も食ってやるからな」
桑原は、もう今の攻撃で血を吐いてしまっているが、白虎はまた桑原のもとへ歩いていく。
「……!! 霊気を吸われて、桑原はズタボロだ。あれじゃ、本当にぶっ殺されるしかねェぞ!!」
「…いや!まだ手はあります!白虎の体が、あの状態から大きくなっていない。そのことに、桑原君が気づいていれば…」
「ああ…」
「だが、残された方法は、まさに自殺行為とも言える、最後の手段!失敗すれば、桑原君の命はないっ!!」
「けど、それがあいつにできるのか?確かに、あいつは霊力が強いみたいだが、まだ弱小だ」
方法はあるようだが、それは死の危険を伴うものだった。
その間にも、白虎は容赦なく桑原を殴り飛ばした。
「ぐっ…」
殴られた桑原は、そのまま壁に体を打ちつけてしまう。
「(おかしいぞ。あれだけオレの霊気を喰ったのに、ヤツの体は、横に太っただけだ。……まさか。
いや…迷ってるヒマはねェ。それにかけるしかねェ!!)」
どうやら桑原も、白虎の今の状態に気づいたらしい。
「何をブツブツ言ってる。あきらめて、辞世の句でも詠み出したか」
しかし白虎本人は、桑原があることに気づいたことには、まったく気づいていなかった。
「ならば、望み通り殺してやるわ!!死ね!!!」
「おおお!!! (オレの、ありったけの霊気をーーー!!)」
桑原は力をふりしぼって、通常の大きさの霊剣を作り出した。
「む!?」
「てめェにくれてやるーー!!」
そして、霊剣を白虎の腹に刺して、自ら霊気を白虎に捧げた。
「狂ったか、桑原!!自分から敵に力を与えてどうする!!」
「うおおお!!!」
しかし桑原は、それをやめようとせず、むしろ積極的に霊気を送ってる感じだった。
そして、とうとう霊気がなくなったのか、霊剣は消えてなくなり…
「お…あ」
桑原は白目を向いて、その場に倒れた。
「「「「!!」」」」
「くくく、ゲェーープ。トチ狂ったな。最後の霊気まで、オレにくれてくたばるとは」
「桑原ーー!?」
「さーて、喰いやすい様に肉をグズグズにするか」
白虎は足を上にあげて、桑原を踏みつぶそうとした。
「まずは頭だ!!」
「!! やめろォ。てめー、ぶっ殺すぞ!!」
桑原のピンチに、幽助は止めに入ろうとする。
「待って!!
見ろ、白虎の様子がおかしい!!」
「え?」
けど、そこを蔵馬が制止する。
「ぐっ」
蔵馬に言われて見てみると、急に白虎の動きが止まった。
「お!?」
そして、大きく脈うったと思ったら、お腹に亀裂が入る。
「へ、へへ。思った通りだぜ」
「桑原!!ヤロォ、気ィ失ってただけか」
桑原が無事だったことを、幽助はほっとして喜んだ。
「よォ、食い過ぎは体にワリィんだぜ。オレみてーに、ひねた人間の霊気は特にな」
「おおお!?」
さっきの自殺行為ともいえる行動は、すべて計算の上でやっていたことだった。
亀裂が入った白虎の腹には穴があき、そこから大量の空気が吹き出す。
「むおおおおお」
それだけでなく、まるでロケットのように、空高く飛んでいった。
「桑原君の霊気の量が、白虎の体の許容量をわずかに超えたんだ」
「ギャハハハ。史上最低の食当たりだぜ、バーカ!!」
「笑い事じゃねェ。死ぬ寸前だったんだぜ。ヤツからもれた霊気を、少しでも吸収しねーと」
「本当に笑えないな…」
霊気を吸収していると、側にいる瑠璃覇から鋭くつっこまれ、瑠璃覇につっこまれると桑原はビクッとなり、顔が青くなる。
「ああああ」
「たまやーーーとくらぁ。
ザマーみやがれ!!」
一方、白虎は宙を舞うと、元いた場所に勢いよく激突した。
「桑原、大丈夫か!?」
「ああ、なんとかな。やつがたれ流した霊気を少し取り戻した。少し休めばなんとか……」
幽助達が側に来ると、まだ少しふらふらな状態ではあるが、なんとか大丈夫そうで、桑原は幽助の問いに答えた。
「!! あ、あれは!!」
「!?」
幽助と桑原が話していると、突然蔵馬が声をあげた。
蔵馬の目の先には、今さっき壁に激突したはずの白虎がいた。
「……不死身か、ヤロォ」
これで倒したと思ったのに起き上がったので、しかもあまりダメージを負っていないようだったので、幽助と桑原は驚いていた。
「正直言って感心したぞ。捨て身の戦法おそれいったわ。
敬意を表して、オレ様の部屋に案内しよう。地獄の部屋にな!!」
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