第十五話 美しき薔薇の舞い
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幽助達は、向かう先はよくわからないが、とりあえず上を目指して、城の中を歩いていた。
「迷宮城っていうだけあって入りくんでんな。階段見つけて上に行こうぜ。親玉の部屋は、最上階と相場が決まってっからな」
《幽助!!瑠璃覇ちゃん!!こちら人間界のぼたんだよ。今んとこ混乱は起きてないよ》
「おっ」
すると突然、幽助と瑠璃覇のズボン(瑠璃覇はスカート)のポケットからぼたんの声が聞こえてきたので、二人はぼたんの声が聞こえたものを、ポケットから取り出す。
《パトロールの途中で、15匹魔回虫を始末しといたよ》
「数千匹中の15匹か……。焼け石に水だな。やっぱ早いとこ虫笛を奪ってこわさねーと」
二人がポケットから取り出したものは、妖魔街に行く前にぼたんから渡された、霊界通信コンパクトだった。
ぼたんは現状を報告するために、二人に連絡をいれたのである。
《魔回虫って奴は、陰湿な心の人間にしか寄生しないからね。きっと、そういう人間が少なくて、寄生できずにオロオロしてたんだよ。まだまだ人間もすてたもんじゃないねェ。
あ、また一匹めっけ》
報告している最中に、自分の足元を魔回虫が通ったので、ぼたんは報告をしながら、魔回虫を足でふみつぶして退治する。
《でも、嵐の前の静けさかも知れないから、用心しながらも早いとこ頼んだよ!」
「おう!」
「ああ…」
再度妖魔街のことを頼まれると、ぼたんとの通信は途切れた。
「さて…。まだ町は無事みてーだ。急ぐか」
ぼたんからの報告を受けると、幽助は気合を入れた。
第十五話 美しき薔薇の舞い
「あ……ところで蔵馬、四聖獣ってどんな奴らだ?妖怪のことなら、オメー達の方がくわしいだろ」
ぼたんとの通信を終えると、急に思い立ったように、幽助が蔵馬に、四聖獣について質問をした。
「霊界が彼らを魔界に封じこんでいることからもわかるように、危険な連中だよ。かなり人間離れしてるから、ビックリするかもね」
「おほめの言葉、ありがとうよ」
「!!」
蔵馬が説明をすると、目の前にある扉の向こうから、低い声が聞こえてきた。
「ここか!!」
幽助は目の前の扉を、片手で勢いよく開けた。
その先にあるのは、壁はレンガ、床は石で出来た薄暗い部屋だった。
そして、その部屋の奥には石の体をした妖怪が一匹…。
「グフフ、よくきたな。玄武様がかわいがってやるぜ」
それは、トゲの頭と甲羅、長いしっぽを持った妖怪、四聖獣の一人の玄武であった。
「ででで、でけェ…!!」
突然目の前に現れた、巨体をもつ妖怪に桑原は驚き、声がどもってしまう。
「上に行く階段はここしかないぜ。オレを倒していくか、死体となっていくかだ」
玄武は話しながらしっぽを上にあげると、自分の力を誇示するように、床を力強くたたいて破壊する。
「まとめてかかってきていいぜ。その方が、オレも手間がはぶける」
玄武がたたいた箇所は陥没し、周りには破壊された床の破片がちらばっていた。
「じょ、冗談じゃねェぜ!!どうやってこんな化け物と闘うんだよ!?」
力を見せつけられた桑原は、来る前とは違い、すっかりびびってしまい、後ろにさがる。
「オレがやろう」
「蔵馬!」
「敵の性質がわからない以上、全員で行くのは危険だ」
そんな中、蔵馬が先陣を切ろうと、前に出た。
「それに、飛影にばかりいい格好をさせるわけにはいかないしね」
「うるさい!」
飛影は照れくさくなったのかそっぽを向いてしまい、蔵馬は玄武がいる方へ歩いていく。
「ひとりずつ死にたいか。それもいいだろ」
向かってくる相手が蔵馬一人とわかっても、玄武の自信は変わらずで、不敵な笑みを浮かべていた。
「ム、ムチャだぜ。それより、なんとかスキを見て、上に進んだ方が…」
「心配はいらん」
「パープル・アイの言う通りだ。貴様は蔵馬の強さを知らんからな」
幽助は焦るが、隣にいる瑠璃覇と飛影はとても落ちついていた。
「なぜオレが、ヤツと組んだか教えてやる。敵にまわしたくないからだ。自分に危害を加えようとする者に対する、圧倒的な冷徹さは、オレ以上だぜ」
見た目はあまり強そうには見えないし、そんな冷徹にも見えないが、しかし、見かけによらないのは、人も妖怪も同じであった。
それをよく知っているのが、瑠璃覇と飛影。二人が落ちついていたわけは、それだった。
飛影が蔵馬のことを説明している間に、蔵馬は玄武の前まで来ていた。
近づきすぎず、遠すぎず、間合いをはかれる距離に、蔵馬は立っていた。
「さぁ…どこからでもどうぞ」
戦いの場は整い、いつでも攻撃をしかけられるようになっていた。
蔵馬は攻撃をしてもいいと玄武に言うが、玄武はまったく動かずにいる。
「………こないなら、こちらからいきましょうか」
けど、そう言われても、玄武は微動だにしなかった。
「!? あの野郎のしっぽが、かたい床の中にとけこむ様に入っている!?」
二人の戦いの行方を見ていた幽助が、突然玄武の異変に気づいた。
しっぽが床の中に、どんどん入っていっているのだ。
「なにィ!!蔵馬の背後から、しっぽだけが出てきた!!」
「!?」
それだけでなく、床の中に入っていったしっぽが、今度は蔵馬の背後の床から出てきた。
幽助の声で蔵馬は異変に気づき、襲いかかってくるしっぽを避けようとするが、気づくのが遅かったため、避けきれずに、しっぽを腹に受けてしまった。
「蔵馬っ!!」
「蔵馬ーー!!」
致命傷をさけることはできたが、先がとがったしっぽは鋭く、鋭利な刃物で切ったかのように蔵馬の腹は切れ、血が流れ出た。
戦いが始まり、いきなり深手を負ってしまった蔵馬は、腹を押さえながら床にひざをつく。
「ぐははは。オレは、岩と一体となって、移動することができるのだ。岩を通せば、しっぽだけの移動など、朝めし前よ!!つまり、この部屋全体がオレ自身なのだ。キサマに逃れる術はない!!」
不意をついた攻撃は成功したため、玄武は得意気に笑いながら、自分の技の説明をする。
「蔵馬、大丈夫か!!」
深手を負ったが、蔵馬はケガした箇所を押さえて、なんとか立ちあがった。
「心配はいらない。かすり傷だ。不意をつかれて、多少驚いたがね」
「強がりもいつまで言っていられるかな……。これからが本番だぜ。くくく」
「ああ!!今度は玄武の体全部が、岩の中に沈んでいく」
不気味に笑いながら、玄武は今度は、自分の体すべてを、床の中に沈めていく。
「完全にかくれやがった」
「これじゃ、どこから来るかわからねェ」
静まり返った広い部屋。まったく姿が見えなくなった玄武を警戒し、蔵馬だけでなく、他の四人も身構える。
どこから来るかわからない以上、迂闊に動くことはできないので、蔵馬は警戒しながら、玄武がどこからどう襲いかかってくるかを、注意深く見ていた。
「けど、妖気がなくなったわけじゃない。妖怪が技を発動させるには、妖気は必要不可欠。それに、奴は絶対に、この部屋のどこかにいる。妖気をたどればいい」
「おまえな……そんな簡単に言うけどな」
「どうした?蔵馬」
瑠璃覇は瑠璃覇なりに蔵馬にアドバイスをするが、そんな高等な技は、やろうと思ってもなかなかできるものではないので、幽助が口をはさむが、瑠璃覇は幽助の言葉を無視して続けた。
「おまえは、こんな奴に手こずる奴じゃないだろ?」
真剣な顔で問いかける瑠璃覇。
激励を送る瑠璃覇に、蔵馬は軽く微笑むと、集中して相手の気を探った。
「ばぁ」
相手の気を探り、目を後ろに向けると、玄武が後ろから、両手をあげて襲いかかってきた。
「また後ろか!!」
蔵馬が叫びながら後ろへ振り向くと、今度はしっぽが前から襲いかかってくる。
「うおっ。前と後ろから、はさみうちだ!!」
玄武は、蔵馬の後ろから殴りかかり、前からしっぽを使って攻撃をするが、蔵馬はそれを紙一重で跳んで避けた。
しかし、玄武は姿を現すも、蔵馬が床に着地した後に、またも床に沈んでいく。
「また沈むぞ」
「てめー、汚ねェぞコラァ」
自分の技や特技という意味では、卑怯でもなんでもないのだが、正面から正々堂々と戦うのを好む桑原は、玄武のやり方が気にくわなかったのだ。
蔵馬は再び警戒するが、玄武はすぐに、蔵馬の下から姿を現し、襲いかかってきた。
蔵馬はその攻撃を、無駄のない身のこなしで避ける。
「オラオラ、逃げてばかりでは勝てんぞ!!」
「確かに、貴方の言う通りだ」
余裕のある顔で叫ぶ玄武の言葉に同意する蔵馬は、床に着地すると、髪の中を探りだした。
「オレも本気を出そう」
髪の毛の中から取り出したのは、一本の真っ赤なバラだった。
「バッ、バラの花~~~!?蔵馬ァ、血迷ったのか!!」
本気と言っておきながら、出したのはバラの花だったので、知らない者からしてみれば、どこが本気なのだと思うだろう…。
しかし、瑠璃覇と飛影は、バラを取り出した蔵馬を見て、フッと笑った。
「もちろん、ただのバラじゃない」
そう言いながら、蔵馬は、バラを上から下に振る。
「薔薇棘鞭刃(ローズ・ウイップ)!!」
すると、持っていたバラは、トゲがついたムチへと、その姿を変えた。
「あ…部屋中バラの香りが」
「キザなヤローだ。奴もいけ好かん」
バラがムチに変化すると、バラの花弁が舞うだけでなく、部屋中にバラの香りが立ちこめる。
まさかの展開に、幽助と桑原はあっけらかんとしていた。
「くくく、バカめ。どこから攻撃するかわからない相手に、ムチなどふりまわす余裕があると思うのか」
先程の攻撃の後、再び身を隠した玄武は、蔵馬を見下すように笑う。
「そう思うならば、どこからでもどうぞ」
けど、蔵馬はまったくの余裕で、部屋のどこからか響いてくる声にも動じず、目を閉じた。
「………おもしろい!!一撃でズタズタにしてくれるわ」
蔵馬の余裕ある言動にも、玄武は自信に満ちていた。
その様子を、幽助と桑原が固唾をのんで見守っていた。
「上か!!」
「なにィ」
蔵馬は玄武の気配を探り当てると、叫びながら上へ向いた。
すると、予想通り、玄武は上から襲いかかってきたので、蔵馬はムチを振る。
今までは、不意をつくことができたのに、何故今回は探りあてられたのか、玄武はふしぎそうにしていた。
何故、蔵馬が玄武の位置を探りあてることができたかというと、バラの香りで洗われたこの部屋の中では、玄武の妖気がひどく臭うためであった。
「とらえた!!あのムチについているトゲは、鉄をも切り裂く、とぎすまされた刃だ」
「華厳裂斬肢!!」
蔵馬は何度も素早くムチを振るい、玄武の体を切り裂いた。
玄武は驚いて一瞬動きが止まってしまったために、反応ができず、バラバラにされてしまう。
バラバラになった石の体は、轟音を立てて床に落ちた。
「な、なぜ、オレの位置が………!?」
「フッ、臭いさ。バラの香りで洗われたこの部屋で、お前の妖気はひどく臭う」
「ぐえぇ…」
バラバラにされた玄武は、そのまま力つきた。
「やったぜ。一撃でやられたのは、玄武の方だ!!」
「なーんでェ、あのヤロォ。まるで弱いじゃねェか」
「バカめ。蔵馬だからこそ、簡単に倒した様に見えるんだ。お前らだったら、最初の一撃で死んでいる」
「てめーはいちいちカンにさわるヤローだな、ああ!?お!?」
自分が言ったことに悪態をつく飛影に、桑原は青筋をこめかみに浮かべ、飛影に噛みつく。
「いいか。オレはな、幻海師範の後継者大会で第3位の実力の持ち主だぞ」
「知るか、バカめ」
「こらオメーら、いいかげんにしねーとまとめるぞ、コラ」
「そうだ。先を急ごう」
「そうだな」
その時、蔵馬だけでなく、瑠璃覇もひとつの気配を感じ、動きを止めた。
「……いや、どうやらまだのようだ」
「そうみたいだな」
「え!?」
蔵馬と瑠璃覇がそう言った時、蔵馬のムチに切り裂かれて散らばった玄武の体のパーツが、どんどんもとの形に戻っていき、再生していく。
「ムダだ!!いくら切っても、オレは倒せんぞ!!」
手足と胴体だけがくっついた体で起き上がり、まだくっついていない状態の頭でしゃべっているその姿は、なんとも不気味なものだった。
「あのヤロオ、切っても元に戻りやがる!!まさか不死身かぁ!?」
まさか再生するとは思わず、桑原は驚きの声を上げた。
「元に戻るどころか、自ら分裂することもできるぞ。
この様にな!!爆裂岩衝弾!!くらえい!!」
得意そうな笑みを浮かべながら、玄武は手や足を自ら切りはなし、蔵馬に襲いかかってくる。
「ちいっ」
けど、蔵馬は襲いかかってきた玄武を、また全て切りきざんだ。
今度は再生できないように、さっきよりも細かくして…。
「やったぜ!!今度はコナゴナだ」
「あれなら、いくらなんでも…」
そう思ったが、それでもニヤっと笑うと、玄武は体がもとに戻っていく。
しかしそのさなか、蔵馬だけでなく瑠璃覇も、コナゴナになった岩の中に、チカっと赤く光ったものをみつけた。
「くっくっく。ムダだと言うのが、わからんのか」
コナゴナになっても、それでも元通り再生する玄武は、不気味に笑う。
「ゲェ。あれでもダメなのか!?これじゃ勝ち目がねェぜ」
あれだけ細かく切り裂けば、再生しないだろうと思っていたのに、いともあっさりと再生してしまったので、幽助は顔を青くする。
「遊びは終りだ。死ね!!爆裂岩衝弾!!」
「くっ」
玄武は再び、体をバラバラにして襲いかかり、蔵馬はそれを、ムチでバラバラに切りきざむ。
「う!!」
しかし、先程やられた傷が痛んだせいで、ひざをついてしまった。
「とうとう、最後の力も、使いはたしたようだな」
ひざをつき、脂汗をかく蔵馬を見て、玄武はもとに戻りながら、それを見極める。
「フッ…クク……ククク」
けれど、蔵馬は笑っていた。
「はははは。恐怖のあまり狂ったか!?今楽にしてやるからな」
何故蔵馬が笑ったのかわからないまま、とどめをさそうとした。
その時、周りにいた瑠璃覇はニヤっと笑い、幽助達も異変に気づいた。
「む…!?なんだ!?奴が、さかさに…………!?」
その異変に玄武はまだ気づいておらず、何故か蔵馬がさかさまに映っていることをふしぎに思っていた。
「こ、これはぁ!?」
けど、すぐにその理由がわかった。
それは、胴体と足は普通だが、頭と手としっぽが変な場所にくっつき、頭が足と足の間にくっついてしまっていたからだった。
「「ギャハハハハハハハハハ」」
「でけーキンタマだな、オイ」
「あれじゃ、重くて歩けねーぜ」
足の間についた頭を男性器に例えた二人は、下品なことを言いながら、涙を流すくらいに大爆笑した。
「は!?な、ない。ないぞ!!キ、キサマ、まさか、まさかオレのォオ」
「探し物はこれですか?」
まさかと思った玄武は自分の体の中を探ると、あるものがないことに気づく。
問いかけられると、蔵馬は先程手にした、赤く点滅する、こぶし大の岩を見せた。
「はぁあ。それェェエ」
蔵馬の手にあるものを見ると、玄武の顔から、一気に血の気が引いていった。
赤く光る岩は、心臓のように、一定のリズムを刻んでいる。
「これがバラバラになった体を、元に戻す指令塔の役目をする中枢岩ですね。たくみにオレの目から隠してはいたが、パワーを出す時に、光るのは見逃さなかった。隠そうとするものを見つけるのは得意なんだ。本業は盗賊だからね」
「あぁあ。ま、待て!!それを、傷つけるなぁ!!」
蔵馬がこれから何をするのかわかった玄武は、冷や汗をかき、あわてふためいた。
「断わる」
しかし、蔵馬は無情にも、その赤い岩を空中に放つと、ムチでまっぷたつに割った。
自分に危害を加えた者に対して、圧倒的な冷徹さを見せたのだ。
「ゲエェェェェ」
赤い岩がまっぷたつに割れた瞬間、玄武の断末魔の叫びとともに、玄武の体も砂のように、コナゴナに砕かれた。
「やったぜ!!ザマーみろ!!」
玄武を倒すことができたので、幽助は蔵馬の勝利を喜んだ。
「………くっ!!」
「あっ、蔵馬!!」
「大丈夫か?蔵馬」
「ああ……」
玄武を倒したが、戦いで負った傷のせいで、再びひざをついてしまう。
そこを瑠璃覇が支え、顔をのぞきこみ、心配そうにした。
蔵馬は問題ないようにふるまうが、それでも体が震え、脂汗をかいており、あまり大丈夫そうではなかった。
「………蔵馬に、これほどの深手を負わせるとは…」
蔵馬の強さを知ってる飛影は、とても意外そうにしており、瑠璃覇も口には出さないものの、飛影と同じことを考えていた。
「なーに、後はオレ達にまかしとけ!!」
「おう!!次はオレがやったる」
強気に出る幽助と桑原だったが、桑原は内心、「もう次は、あんな化け物出てこねーだろ」と思い、ドキドキしていた。
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