第十三話 妖怪のスクールライフ
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幽助が、幻海の奥義継承者となって、10日が経った頃のこと……。
「えーー…。それでは今日は、転校生を紹介する」
とある学校の一室に転校生がやって来たので、そのクラスの担任は、生徒達にその旨を話す。
転校生というものに興味津々なのか、教師の一言で、生徒達はざわついた。
「では、入ってきなさい」
教師が、自分が入ってきた扉に向かって、外で待っている転校生に声をかけると、教室の外で待機していた人物は中に入ってきた。
中に入ってきた転校生を見た途端、生徒達は更にざわついた。
特に、その中にいる赤い髪の少年は、驚きの表情を浮かべる。
転校生は女性で、彼女はゆっくりと教壇の方へ歩いていく。
その間も少年は、目を丸くして彼女を凝視していた。
彼女は教壇まで歩いて来ると、生徒達の方へ顔を向け、教師は彼女の名前を、黒板に大きく書いた。
「えー、今日このクラスに転校してきた…」
「銀瑠璃覇といいます。みなさん、よろしくお願いします」
そう…その転校生は瑠璃覇だった。
瑠璃覇は名乗った後に、にっこりと笑う。
それはただの社交辞令であるが、瑠璃覇の笑顔を見ると、男子生徒は全員顔を赤くした。
「席は……南野の隣が空いてるな。
それじゃあ君、席はあの、窓際の一番後ろの男子生徒の隣にすわりなさい。南野は学級委員だから、何かわからないことがあったら、南野に聞くといい」
「はい」
そのことで、また生徒達(特に女子生徒)はざわつく。
瑠璃覇は返事をすると、指定された場所まで颯爽と歩いていった。
その間も、瑠璃覇は生徒全員の注目をあびていた。
瑠璃覇はあてがわれた席にたどり着き、隣の席にすわる蔵馬を見ると、またにっこりと笑い
「よろしくね、南野くん」
ちょっと、わざとらしくあいさつをした。
「え、ええ…。こちらこそ…」
蔵馬もまた、多少ぎこちなさがあるが、平静を装って返事を返す。
実はここは、蔵馬の通う盟王学園だった。
瑠璃覇は皿屋敷中学校から、盟王学園に転校してきたのである。
第十三話 妖怪のスクールライフ
それから、一時間目の授業が終わると、蔵馬は瑠璃覇を連れて、人通りがあまりないところへ移動する。
「それにしても、本当にびっくりしたよ。いきなり何も言わずに、こっちに転校してくるんだもの。なんでこっちに来ることを言わなかったの?」
「その方がおもしろいじゃないか」
「ははっ…」
人通りがあまりないところを選んだのは、魔界に関する話題が出るかもしれないと予測してのことだった。
そこへ移動すると、話を切りだし、疑問に思ったことを瑠璃覇にぶつけるが、返ってきた答えに苦笑いをした。
「まあ、それはともかく、なんでこの学校に来たの?前、霊界探偵のパートナーをやってるから、幽助と同じ学校にいる方が都合がいいとかで、幽助と同じ皿屋敷中学校に通ってるって聞いたけど…」
「お前に会いたかったから…。お前と同じ学校に通いたかったから……では、理由にならないか?」
「……いや…。うれしいよ、とても…」
けど、この盟王学園に来た理由を聞き、ふわっとやわらかい微笑みを向けられると、蔵馬もまた、やわらかく優しい微笑みを返す。
なんだかんだ言っても蔵馬は、瑠璃覇が、幽助がいる皿屋敷中学校ではなく、自分がいる盟王学園を選び、ここまで自分を追ってきてくれたことがうれしかったのである。
二人はお互いの顔を見て、とてもおだやかな顔で微笑みあっていた。
それから瑠璃覇は、転校一日目にして、授業で多大な活躍を見せていた。
「正解です。難しい問題をよく解きましたね」
例えば、数学の時間では、難問とも言える問題を簡単に解いてしまったり……
「よろしい。とてもすばらしい発音でした」
英語の時間では、とても綺麗な発音で英文を読んだり……
「綺麗に読めましたね。声もいいですし、申し分ありません」
国語の時間では、教科書の朗読も途中で噛むことなく、すらすらと読んでしまったり……
「すっげぇえ!」
「銀さん、またシュート決めちまったぜ」
「それも、女でダンクシュート!?」
体育の時間では、バスケットボールで何回もゴールを決めて、完全勝利をしたりしていた。
それも、女でダンクシュートを決めたので、全員目を丸くして驚いている。
まさに文武両道とも言える瑠璃覇は、転校一日目にして、注目の的になっていたのだ。
しかも容姿端麗なので、特に男子生徒達は、顔を赤くしてそわそわしていた。
そしてお昼休み…。
瑠璃覇は、蔵馬と一緒に屋上に行き、二人きりでお昼ご飯を食べていた。
「瑠璃覇って、人間界の料理作れたんだ」
そこで蔵馬は、疑問に思ったことを口にする。
自分みたいに人間に転生して、赤子の頃から人間社会で生活をしてきたわけではないのに、人間界の料理を作れているので、意外そうにしていた。
「まあな。ここに来た頃、練習したからな」
「そうなんだ。ひとつ食べてみていい?」
「ああ」
瑠璃覇から了承を得ると、蔵馬は、自分が取りやすいようにと差し出された瑠璃覇の弁当箱から、玉子焼きをひとつとり、口に運ぶ。
「うん。おいしい」
「本当か?」
「ああ。瑠璃覇って、人間界の料理も上手なんだね」
蔵馬にほめられると、瑠璃覇はうれしくなり、頬をほのかにそめ、花が咲いたような笑顔を返した。
それから、二人はお昼ご飯を食べ終えると、教室に一旦戻って弁当箱を置くと、すぐに教室の外に出た。
蔵馬が瑠璃覇に、この学校の案内をするためであった。
それを見た教室の生徒。そして、案内をしている最中に校内を歩いている二人を見た、その場に居合わせた生徒達は、男も女も、みんなざわついた。
二人だけでいるのは、蔵馬が学級委員長で、瑠璃覇が転校生だから、学校案内のためだとしても、問題はそこだけではなかった。
何故なら、二人が微笑みあいながら歩いていたからだ。
お互いに心を許しあい、物理的な意味だけでなく、精神的な意味でも距離が近いのが、誰が見てもわかるほどであった。
それだけでなく、いつも愛想笑いばかりして、他人を自分の中に踏みこませない、他人の心の中に踏みこまないような蔵馬が、瑠璃覇に対しては心から笑っており、目つきも優しく、愛しい者を見る眼差しだった。
しかも、学校が終わったら一緒に下校までしているので、転校生と学校一の秀才の南野秀一は付き合っている…という噂までたっていた。
けどそれは、学校中の女子生徒を敵にまわすというものであった。
そう……蔵馬はその容姿故に、学校では相当もてるのだった。
けど、それだけではなかった。
女子生徒だけでなく、学校中の男子生徒も、蔵馬に嫉妬をしていた。
何故なら、瑠璃覇もその容姿故に、相当にもてるからだった。
ここだけの話、瑠璃覇は蔵馬と再会するまでに通っていた全ての学校で、全ての男子生徒を魅了してきたのである。
そして、転校生活二日目…。
「おはよう、瑠璃覇」
「蔵馬っ!?」
瑠璃覇が朝学校に行こうとすると、特に約束したわけではないのに、蔵馬が瑠璃覇の家の扉の前に立っていた。
前日、何も言われなかったので、いきなりのことに、さすがの瑠璃覇も驚きの表情を見せる。
「どうしたんだ?」
「学校…一緒に行こうと思ってさ」
瑠璃覇が問えば、蔵馬はにこっと笑いながら手を差し出す。
瑠璃覇は一瞬呆けたが、口もとに笑みを浮かべると、それに応えるように蔵馬の手をとった。
二人は、手をつなぎながら仲良く登校して行った。
「なんか…蔵馬、すごくうれしそうだな?」
「うん。うれしいよ」
にこにことうれしそうに笑いながら、自分と手をつないで歩く蔵馬を見て、ここまで表情を崩す奴だったかと疑問に思った瑠璃覇は、蔵馬にその疑問を投げかけた。
「昨日、瑠璃覇が転校してきたのには驚いたけど、本当にうれしいんだ」
「そうか」
「オレはね、瑠璃覇。学校なんてものは、ただ母さんを安心させるために通ってたんだ。妖怪ならともかく、人間の姿で、家族の目がある中で学校に行かないなんてのは、不自然だから。だから、隠れ蓑として学校に行ってたから、正直楽しいと思ったこともなかったよ。
だけど、昨日瑠璃覇が転校してきてから変わった。初めて、「楽しい」って思えたんだ」
蔵馬が本当に、心の底からうれしいと思っているのがわかった瑠璃覇は、口角をあげ、自分もうれしそうにする。
そして、なんの前触れもなく、蔵馬の腕に抱きついた。
蔵馬は突然のことに驚き、目を丸くして、自分の腕に抱きついている瑠璃覇を見た。
「私もだよ、蔵馬」
けど、次に瑠璃覇の口から出た言葉で、優しい目を向け、やわらかな笑みを浮かべた。
二人はそのまま、仲睦まじく学校へ登校して行った。
昼休み、二人は昨日と同じで屋上でお昼を食べていた。
「秀一」
「何?」
「今度の日曜日、私とデートしないか?」
その後、お昼を食べ終えると瑠璃覇は、突然脈絡のないことを言いだした。
「え…何?急に……」
いくら恋人同士と言っても、いきなりデートという単語が出てきたので、蔵馬は目を丸くして驚く。
「あ……予定とかあるか?」
「ないけど…。なんで急にデートなの?」
「何故って……人間界の恋人は、デートをするのだろう?」
蔵馬は疑問に思ったことを問うのだが、問われても、瑠璃覇は答えになってない答えを返すだけだった。
「まあ…そうなんだけど…。でも、なんでいきなり?」
「………興味があるんだ…」
「興味?」
「ああ…。ここに来てから私は、この世界のことを学んだ。社会のルールや一般常識から、道楽やファッションまで様々なことをな。
それである時、女子高生が読む雑誌を読んでいた時に見たんだ。デートに関する記事をな。映画館やら遊園地やら、人間はいろんな場所で愛を育むらしい…。
だから、私も秀一を見つけたら、デートをしてみたかったんだ」
頬を赤くしながら理由を説明する瑠璃覇を見ると、蔵馬もまた頬をほんのり赤くして、優しく微笑んだ。
「わかった。じゃあ…今度の日曜日、駅前に朝の9時集合で」
蔵馬が自分の頼みを了承すると、顔が明るくなり、うれしくなった瑠璃覇は、蔵馬と同じように優しい微笑みを返した。
そして日曜日…。
一足先に駅についた蔵馬は、時計の下で本を読みながら瑠璃覇を待っていた。
周りを歩いている女性が、蔵馬の容姿に惹かれてちらちらと頬を赤くしながら見ていた。
当然蔵馬はその視線に気づいているが、気づかないふりをして、本に集中していた。
「秀一!」
そこへ、瑠璃覇の蔵馬を呼ぶ声が、前から聞こえてきた。
瑠璃覇の声が聞こえると、蔵馬は本から顔を離し、前に向ける。
「おはよ」
そこには、予想通り瑠璃覇が立っていた。
目の前に立っていた瑠璃覇に、蔵馬は目を奪われた。
瑠璃覇はいつもと違い、髪をゆるくみつあみにあんでおり、髪の結び目に赤や白や青などの宝石をあしらった髪飾りをつけ、着ているものは赤いロングスカートに黒いロングブーツと、冬なので白いコートを身につけていた。
人目をひくようなハデさはないが、それでもその服を着こなし、凛とした姿で、そこに立っていたのである。
魔界にいた頃は、髪の長さが変わることはたまにあっても、基本はポニーテールだし、服はずっと魔界の装束で、おしゃれをするということがなかったので、恋人の自分ですら、今初めて目にしている衣服は、とても新鮮なものであったと言える。
また、やわらかく優しげな表情は、普段決して他人には見せないようなもので、いつもは細められ、つりあがっている鋭い目が、年相応の少女のようにくりくりとしたものとなっており、見る者が見たら、別人のように違っていた。
しかし、蔵馬には心を許してる瑠璃覇なので、こちらの顔も、普段他人に見せる厳しく鋭い顔も、どちらも瑠璃覇のものなのである。
「秀一?」
本を持ったままぼーっとしている蔵馬を見て、瑠璃覇は心配そうに顔をのぞきこんだ。
「あ、いや…なんでもないよ」
下からのぞきこまれ、顔が近くなったので、蔵馬はドキっとして一瞬固まったが、すぐに覚醒し、誤魔化した。
「そうか。待ち合わせの時間に遅れたかと思った」
「いや、時間は大丈夫。まだ余裕があるくらいだよ」
瑠璃覇は、蔵馬が何か誤魔化したことはわかったが、それでも、そのことを追及することはしなかった。
「そうか、よかった。じゃあ行こう」
「ああ」
二人はそこから、別の場所へ移動する。
それと同時に、何やら怪しげな影が一緒に動き出した。
二人が来た場所は、遊園地だった。
蔵馬と、特に瑠璃覇という組み合わせで遊園地というのは、なんとも妙なものであるが、瑠璃覇が蔵馬をデートに誘ったあの日、瑠璃覇は行き先を遊園地だと指定してきた。
あの瑠璃覇が遊園地を希望してきたことには、蔵馬も当然驚いていたが、にっこりと笑いながら、ふたつ返事で了承したのだ。
「遊園地か……久しぶりだな」
「えっ!行ったことあるの!?」
「まあな」
デートをする場所を、遊園地と指定してきたこともだが、まさか来たことがあると思わなかった蔵馬は、更に驚いた。
「ここに来たばかりの時に、一度だけな。ここがどういう世界なのかを知るために、試しに行ってみたんだ。まあ、あんな鉄の箱の中に入ってぐるぐる回ったり、スピードを出して走ったり、ゆっくりと回転してるだけのものの、何がおもしろいのか、正直わからなかったけどな」
「また身もふたもないことを…」
遊園地にいるというのに、遠慮なしに遊園地の悪口をずけずけと言う瑠璃覇に、蔵馬は苦笑をもらす。
「と…とりあえず入ろうか」
「ああ」
いつまでも、入り口の前で話していても仕方ないので、二人は入場券を購入すると、園内に入っていった。
二人は中に入ると、目についた乗り物を、かたっぱしから乗り始めた。
メリーゴーランドにコーヒーカップ。ジェットコースターに観覧車。おばけ屋敷にミラーハウス。
周りの者達が楽しそうに乗っている中、瑠璃覇はずっと無表情なので、それはどこか不気味なものだった。
けれど、乗り終わって乗り物から降りると、蔵馬に満面の笑顔を向ける。
そして、蔵馬もまた、瑠璃覇に微笑みを返す。
乗り物に乗っている時は冷たい雰囲気のある表情だが、それでも蔵馬と一緒に歩いたり話している時は、あたたかい微笑みをその顔に浮かべていた。
そして昼になると、適当な場所でお昼ご飯を食べながら、何気ない会話を交わしていた。
「瑠璃覇…」
「なんだ?」
「なんで、デートの場所を、どこが楽しいのかわからない遊園地にしたの?もっと好きな場所にすればよかったのに。デートに興味があるって言っても、楽しくない場所に行ったって、つまらないだけなんじゃ…」
お昼ご飯を食べ終えると、蔵馬は素朴な疑問を瑠璃覇に投げかけた。
いくらデートというものに興味があると言っても、好きでもなんでもない場所に来るなど、苦痛以外の何ものでもないからだ。
「そうだな。確かにその通りだ。けど、私の居場所は、秀一がいるところだ」
瑠璃覇は蔵馬が言ったことを肯定すると
「私は、秀一と一緒なら、どこでだって楽しいぞ」
「そうか」
優しい微笑みを蔵馬に向けた。
蔵馬もまた、普段学校では見せないような、優しい微笑みを返す。
それから、お昼ご飯を食べ終えた二人は、まだ乗っていないアトラクションに乗ったり、おみやげコーナーやゲームコーナーを見てまわったり、休憩がてらアイスクリームを食べたりしていた。
こうして見ると、二人は本当に高校生のカップルのようだった。
仲睦まじく、幸せそうに、今日のこの時を過ごした。
そして、次の日の月曜日…。
瑠璃覇と蔵馬が登校し、校内に入ると、やけに注目をあびた。
陰口……とまではいかないが、二人の姿を見た途端、何やら二人を見ながら話していたのだ。
しかし、二人はまったく気にとめず、自分達の教室まで足を進めていく。
「ん?」
教室へ向かっている途中、瑠璃覇はあるものに気がついて、足を止める。
「どうしたんだ?瑠璃覇」
「…これ」
短く言いながら、目に入ったものを指さした瑠璃覇。
蔵馬は瑠璃覇が指さした方向に顔を向ける。
「これは……」
それは、学校新聞だった。
どこの学校にもあるもの。
しかし、驚いたのは学校新聞ではなく、学校新聞の内容だった。
その内容は、この前の日曜日の、瑠璃覇と蔵馬のデートのシーンであった。
新聞の見出しには、「熱愛!?転校生と学校一の秀才!!」と書かれていた。
その見出しの下には、先日のデートの写真がでかでかと載っている。
他にも、瑠璃覇が蔵馬と、仲良く屋上でお昼を食べているシーンや、仲良く登校しているシーンの写真が数枚載っていた。
二人はようやく、何故、校内に入ってから生徒達が自分達を見て話していたのか理解した。
だが、そんなことはまったく気にもとめていなかった。
二人が恋人同士であることは事実だし、二人はいちいちこんなことで、オタオタとあわてたりするような性格ではないからだ。
二人は教室に着いてからも、ずっと注目をあびていた。
当然、学校新聞のことについて話しており、女子生徒は瑠璃覇を、男子生徒は蔵馬を、嫉妬に燃えた目で見ていたが、そんなものはどこ吹く風。二人はまったく意にも介さず、自分の席で自由に過ごしていた。
授業中以外は、ずっと注目をされていた二人だったが、注目され、嫉妬に燃えた目で見られているという点をのぞいては、特に何事もなく平和であった。
しかし、放課後になると……。
「転校生の、銀瑠璃覇っているかしら?」
他のクラスの女が10人ほどやって来て、瑠璃覇を呼び出した。
「…私だが……何か用か?」
瑠璃覇を呼んだ女は背が高く、なかなかに威圧感があり、クラスの…特に女子はどこかびびった顔をしていたが、瑠璃覇はまったくの無表情で、相手に目をやった。
「ちょっと…顔をかしてくれる?」
その女は軽く瑠璃覇を睨むと、短く用件を伝えた。
瑠璃覇はその女生徒達のあとに着いていき、校舎裏まで足を運んだ。
瑠璃覇を呼び出した女が、校舎の真ん中あたりで足を止めると、瑠璃覇と顔を合わせた。
「で?用件というのはなんだ?この後用事があるんでな。できるだけ、手短にしてくれ」
相手が顔を向けると、最初に話を切りだしたのは、相手の女生徒ではなく瑠璃覇だった。
「何よ、その上から目線。一年で…しかも転校生のくせにナマイキよ!」
上から目線で、優位に立ってるようにしゃべる瑠璃覇がカンにさわった彼女は、激怒して怒鳴りつける。
「用向きはそれか?」
「違うわよ!むかつく女ね!」
「お前はむかつく女と話ができるのか?すごいな。私には無理だ」
「キィイイイーーーー!!」
「センパイ、落ちついてください」
「相手のペースにのっちゃってます」
「おさえておさえて」
「あと、話がずれてます」
冷静で表情ひとつ変えず、淡々と話している瑠璃覇にますますむかついた彼女は、かなきり声をあげてくやしがった。
そこを、周りにいた、数人の女生徒達がなだめる。
他の女生徒達になだめられたことで、彼女は深呼吸を何回か繰り返し、なんとか落ちつきをとり戻すと、再び口を開いた。
「これは何?」
そう言いながら、スカートのポケットに入っていた、小さく折りたたまれていた紙を広げて、瑠璃覇の目の前までもってきて、これ見よがしに見せつけた。
「…何って……学校新聞だろ」
それは、今朝目にした学校新聞で、短いながらも迫力のある声で問われたというのに、瑠璃覇は冷静なままで、眉ひとつ動かさなかった。
自分が望んでいたものとは違い、どこかずれた答えを聞いた彼女は、再び声をあらげそうになるが、ここで怒鳴っては相手の思うつぼだと思い、再び深呼吸をして落ちつかせた。
「そういう意味じゃないわ。私が言っているのは、記事の内容よ」
「内容?」
「そう……。あなたが、南野君と付き合ってるかどうかっていうね…」
本当のことを言えとばかりに、おどすように、目を細めて睨みつける。
「秀一とは付き合ってるが、それが何か?」
けど、瑠璃覇はその睨みにまったく物怖じすることなく、あっさりと答えた。
「付き合っ……しゅういちぃい!?」
瑠璃覇が答えると、本当に付き合っていたことと、「南野君」のことを下の名前で呼びすてにしたので、彼女は興奮した。
だが、すぐに落ちつきをとり戻し、瑠璃覇をまた睨みつける。
「私は、3年A組の高井姫乃。いい?即刻、南野君とはわかれなさい」
そして、瑠璃覇を指さして、上から目線で命令する。
「断る」
しかし、一言のもとに、あっさりと返された。
「なんですってっ!?」
「なんで、他人にそんなこと言われなければならないんだ?」
高井は再び声を荒げるが、瑠璃覇の至極まっとうな意見に、口をつぐんでしまう。
「そんなの、南野君が好きだからに決まってるじゃない」
けど、すぐに復活して、自分の気持ち(答え)を言った。
「南野君はね、私が助けてあげるの」
「は…?」
次に続いた言葉に、瑠璃覇は何がなんだかわけがわからず、思わずすっとんきょうな声を出してしまった。
「自分で言うのもなんだけど、私の家はすごいお金持ちなの。対して南野君は、ごく平凡な家庭に生まれた男の子。そして、父親はおらず、母子家庭。その母親は、中小企業のパート。収入はすずめの涙ていど…。
私はね、南野君が入学してきた時からずっと好きなの!一目ぼれなの!もう、運命感じちゃったの!お付き合いしたいの!結婚したいの!幸せな家庭を築きたいの!」
かなり飛躍しすぎた願望に、今度は引き気味になる。
「だけど、南野君と私は、あまりにも身分が違うわ。そういった意味ではつりあわない。それに、微々たるお金しかないんじゃ、私は南野君と一緒にいるというところ以外では、幸せにはなれない」
「……………」
「だから、私が南野君と結婚して、南野君を助けてあげるの!!私のお母さんは、大企業の女社長なの。だからまずは、南野君のお母さんを引き抜いて、重要なポストについてもらうの。そして、南野君が卒業した後、南野君にも、お母さんの会社の重要なポストについてもらう。それから、将来は私と結婚して、社長になってもらうの!そうすれば、平社員よりもお給料がいいから、私はそっちの方面でも幸せになれるわ!!南野君も、きっと私に感謝するに違いないわ!!」
自分の希望と妄想と願望が入りまじった、かなり失礼とも言える発言に、瑠璃覇は目を鋭くさせた。
「あなたに、それができる?」
瑠璃覇を見下し、勝ち誇った笑みを浮かべている高井に、瑠璃覇は深いため息をついた。
「おまえは、かなり失礼な奴だな。秀一に対しても…秀一の母親に対しても…」
「なっ!!どこが失礼なのよ!?」
「失礼じゃないと気づいていない時点で、すでに失礼なんだ」
自分が言ったことを全否定され、その上意見までされ、人の前で辱められたことで、頭に血がのぼった高井の顔は、不快そうにゆがめられていた。
その顔には強い怒りが表れており、今まで以上に、強く…鋭い目で瑠璃覇を睨みつける。
「私に楯ついたら、あなた、どうなるかわかってるの?」
「知らん」
「私のお父さん、政治家なのよ。しかも、結構な重職についているの。つまり…そういうことよ」
「……………」
「いいこと?私がお父さんにお願いすれば、あなた、社会的に抹消されて、これから先、生きにくくなるのよ。だから、そうなりたくなかったら、さっきの発言を撤回し、南野君とはわかれなさい。でないと、どうなるかわからないわよ」
「…それがどうした?」
「なっ!!」
脅されても、瑠璃覇はそんなことに屈することなく、冷静な顔で、ただ淡々と返した。
「そんなものはどうってことない。あと、私は秀一とわかれるつもりはいっさいない」
「なっ……な…」
今までの人達は、こうやって脅せば、絶対自分の思い通りになった。
しかし、今回にかぎって、その脅しがまったく通用しなかった。
高井は動揺して、口をぱくぱくと開閉させていた。
「おまえは今まで、そんな風にして生きてきたのか?周りにいる取り巻きどもも、この女が怖いから、自分が秀一が好きという気持ちを封印して、遠巻きにさわいでいただけだと…?
そんな、他人の金でつり、他人の権力で脅すような下品な女や、そんな女にびびって、自分の気持ちに正直になって行動もせず、ただ周りで黄色い声をあげているだけのような奴らには、私は負けない」
それだけでなく、更に強気な態度でケンカを売られると、高井だけでなく、周りの女生徒達も顔をひきつらせる。
「お前は、秀一が入学してきた時から好きだと言ったな。でも私は、秀一が生まれてくるずっと前から好きなんだ」
「は?」
ケンカを売られて興奮していたが、瑠璃覇が次に言ったことにわけがわからず、疑問符を浮かべる。
「やっと会えたんだ。はなすつもりも、離れるつもりもない」
更にわけのわからないことを言われ、ますます頭がこんがらがるが、次の瞬間、高井も周りの女生徒達もびくつき、顔を青くして固まる。
「秀一は……私のものだ。今も昔も。そして、これからも……」
またしてもわけがわからない言葉だったが、彼女達はそれどころではなく、指一本すら動かせないような状況だった。
何故なら、瑠璃覇が殺気を出し、見ただけで殺されそうなくらいの、鋭く怒りがまじった目で睨んでいたからだ。
本来であれば瑠璃覇は、気にいらない相手なら確実に殺す。しかし、ここは人間界。そんなことはできなかった。
けど、技など出さなくとも、人間相手であればひと睨みするだけで撃退できるので、それだけで充分だったのである。
彼女らが腰をぬかし、顔を青くさせて固まって動けなくなると、瑠璃覇はそこから去っていった。
余談ではあるが、学校新聞を作った新聞部が、何故二人がデートをする情報をキャッチしたかと言うと、瑠璃覇が蔵馬をデートに誘ったあの日、扉の向こう側(校内側)に、高井の取り巻きがいたからだった。
転校初日にして、瑠璃覇と蔵馬が付き合っているというウワサを耳にした高井が、取り巻きに見張らせていたのだ。
そして、転校二日目で二人がデートするという情報をキャッチし、新聞部に頼み(脅し)、二人の後をつけさせた。(その新聞部は、高井が怖かったというのもあるが、自分も蔵馬が好きなので、気になったから…というのもあり、引き受けた)
けど、瑠璃覇はそのことに気づいていた。
高井の取り巻きだとは知らなかったが、デートに誘った日、自分達が見張られていたことも…デート当日に、誰かにつけられていたことにも気づいていたのである。
気づいていた上で、敢えてほうっておいた。
蔵馬がもてることは、転校初日でわかっていたので、自分が蔵馬と付き合っているということを公表させ、少しでも蔵馬にたかる虫(蔵馬を好きな女)を抑制させようと企んでいたためであった。
そうすれば、誰かしら、熱意のある人物が瑠璃覇を牽制しに来るだろうとふんでいたのだ。
そして先程、その人物はやって来た。
しかも、そのやって来た相手が、この学校のリーダー的存在である高井姫乃だったので、瑠璃覇には好都合だった。
今回のことは、瑠璃覇の計画によって起こったことだったのである。
そして、更に余談だが、高井はもう二度と、誰かを権力で脅したり金でつったりすることはなくなった。
それは今日、瑠璃覇によって、とても怖い目にあわされたからだった。
瑠璃覇の殺気にあてられ、すっかりびびってしまい、立場がわかった高井は、二度と瑠璃覇に逆らったりすることはなく、うそのようにおとなしくなったのだ。
だからといって、高井が蔵馬を好きという気持ちがなくなったわけでも、蔵馬を好きな女子生徒がいなくなったわけでもなかった。
それどころか、今まで高井の存在で、自分の気持ちをアピールできなかった女子生徒達がアピールするようにもなったので、計画は大成功とは言いがたいが、半分くらいは成功だったといえる。
「秀一!」
瑠璃覇は用事が終わると、蔵馬が待っている校門まで向かっていき、蔵馬の姿が見えると、蔵馬の名前を呼びながら、うれしそうに蔵馬のもとへ走り寄っていく。
「瑠璃覇。もう用事は終わったのか?」
「ああ。一緒に帰ろう」
「そうだな」
二人はお互いににこっと笑うと、瑠璃覇は蔵馬の腕に自分の手をからめて腕を組み、瑠璃覇が腕を組むと、蔵馬は愛しそうな目で瑠璃覇をみつめる。
それだけで幸福を感じた二人は、微笑みあいながら、仲良く下校していった。
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