第十二話 桑原、男の頼み
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幽助が乱童を倒し、幻海の霊光波動拳の奥義継承者となった日の翌週…。
初めの曜日である、月曜日のこと…。
午前8:10。
皿屋敷中学校。
校門の前。
そこのど真ん中に、この学校の生徒が一人、何やら真剣な顔で、腕組みをしながら仁王立ちをしていた。
その生徒の名前は、桑原和真。
浦飯幽助と同じ、この皿屋敷中学校で有名な不良である。
その様子を、学校内に入っていく他の生徒は、一体何事かと思いながら、ちらちらと彼のことを見ていた。
「ん?……あっ!」
今の今まで、真剣だがどこか怖い顔をしていた桑原だが、目的の人物が現れるとくだけた表情になる。
「おーーーい!!瑠璃覇さぁーーん!!」
その目的の人物とは瑠璃覇で、桑原は瑠璃覇の姿が見えると、ぶんぶんと大きく手をふって、大きな声で瑠璃覇の名前を呼んだ。
呼ばれた本人である瑠璃覇はというと、登校してきた途端、いきなり大声で呼ばれたので、目を丸くして、自分を呼んだ人物を見た。
桑原は、手をふるのをやめると、瑠璃覇の前まで走っていき、瑠璃覇の目の前まで来ると、道の真ん中であるにも関わらず、いきなり土下座をした。
「瑠璃覇さん!!頼みがあるんだ!!」
桑原は土下座をすると、大声で叫んだ。
そのことで、周囲にいた者達は、全員がいっせいに二人に注目した。
第十二話 桑原、男の頼み
「いきなりなんなんだ、お前は!!朝っぱらから、ムダに高いテンションで人を呼ぶんじゃない!!」
先程の桑原の行動により、周りにいたすべての生徒や教師の注目をあびてしまったので、さすがの瑠璃覇もはずかしくなったのか、すぐさま桑原の腕をひっつかんで、人気のない旧校舎裏へと向かっていき、現在二人は、そこで話をしていた。
「あ、すんません。もしかして、低血圧でしたか?」
「違う!もう少し普通に呼べと言っている。はずかしいだろう…」
「ていうか、この前と、キャラ変わってませんか?」
この前…。幻海の、奥義継承者の選考会で出会った時の瑠璃覇とは、だいぶ性格が違っているので、桑原は確かめるように聞き出した。
「これが私の素だ。ところで、一体私になんの用だ?あんな、バカみたいにでかい声で呼んだからには、ちゃんとした用があるんだろう?」
「あっ、そうだった。それじゃあ…」
気をとり直したようにしゃべると、いきなり、頭が地面につくぐらいに土下座をした。
また、いきなり土下座をされたので、瑠璃覇は驚いた。
「頼む、瑠璃覇さん!オレを鍛えてくれ!!」
「はっ!?鍛えるって、何をだ?」
「オレを、強くしてほしいんだ!!」
「だから、何故私が…」
「瑠璃覇さんの選考会の時の実力は、オレや浦飯、他の候補者よりも上だった。だから思ったんだ。
瑠璃覇さんは、そこにいる誰よりも強いって」
「……だから私にか…」
「ああ…。オレは、絶対に強くならなきゃなんねーんだ!!」
「あの坊主が言ってたから知ってるだろうが、私は妖怪だぞ。妖怪に、教えを請うてもいいのか?」
「そんなの関係ねーよ!妖怪だろうがなんだろうが、瑠璃覇さんは強いし、それに…あの乱童ってガキとは、違う感じがすんだ。なんか、優しい感じっつーか…」
「…………」
実際は乱童以上に凶悪な妖怪なので、何も知らないとは言え、そう言いきった桑原を見て、瑠璃覇は思わず黙ってしまう。
「なあ、頼む…。いや……お願いします、瑠璃覇さん。オレは、どーしても……何がなんでも強くなりてーんだ」
「………ひとつ問う。何故お前は、強くなりたいんだ?」
「浦飯を倒してえ。
ダチを守りてえ。
オレの信念をつらぬきてえんだ!」
「………」
「浦飯はライバルだ。元から強かったが、また更に強くなってやがる。オレは正々堂々と、自分自身の力で勝ちてーんだ。
オレも強ェって言われているが、それでも浦飯にやられちまう…。
浦飯以外の奴とやってる時も、時々油断してやられちまう時がある。そんな時、ダチまでやられちまうこともある。
オレはそんなのは、もう嫌なんだ。
だから強くなりてえ。
だからっ……オレを鍛えてくれ。
頼む!!」
「……もうひとつ問う…。お前にとって、そのダチとやらはどんな存在だ?」
「大切な…存在だ…!」
「!!」
なんの迷いもなく言いきった、まっすぐなその目と言葉に、瑠璃覇は目を大きく開いた。
「……そうか」
短く、つぶやくように返すと、踵を返し、桑原に背を向けた。
「瑠璃覇さん!」
「……放課後、またここに来い」
「え?」
「面倒見てやる。だが…私は、他人にものを教えたことなどないからな。つぶれても、責任はもてんぞ…」
その事を伝えると、瑠璃覇は自分の教室に向かっていった。
「ありがとうございます!瑠璃覇さん!」
桑原はお礼を言いながら、瑠璃覇が見えなくなるまで深々と頭を下げた。
そして放課後…。
授業終了のチャイムがなると、桑原は待ってましたとばかりに、素早く荷物をまとめて、教室から駆け出した。
「桑原さん、一緒に帰りやしょうぜ」
下駄箱まで来て、靴に履きかえようとすると、急に後ろから声をかけられる。
そこには、桑原の親友の、桐島、大久保、沢村がいた。
「あぁ……わりぃ。今日はちょっと用事があって、すぐに行かなきゃなんねーんだ」
いつもなら三人と一緒に帰るのだが、先に瑠璃覇と約束をしてしまったので、少々あわてながら、顔だけを彼らに向けながら誘いを断り、指定された場所へと急いだ。
「瑠璃覇さぁーーーん!」
そして校舎を出ると、今朝瑠璃覇と約束した旧校舎裏まで走って行った。
瑠璃覇の姿が見えると、なんともうれしそうに笑いながら、名前を呼び、大きく手をふりながら、瑠璃覇のもとへ走り寄っていく。
「……いい加減、そのはずかしいテンションで呼ぶのやめろ…」
相変わらずの高いテンションに、瑠璃覇はどこか疲れた表情を見せる。
「ああ…スンマセン。で、これからどんな修業をするんスか?」
「……それは、まず修業をする場所に行ってから説明する」
そう言うなり、瑠璃覇は自分と桑原の周りに風を発生させた。
「え!?なっ、なんだ、いきなり!?」
風が自分を包みこむように吹き、まるで生きてるように動いていたので、桑原は驚いて周りを見回した。
風は二人を包みこむと、二人の姿を消し、別の場所へと移動させた。
風に包みこまれてから3秒後、背丈の高い木が鬱蒼と生える森の中、風などまったく吹いていないこの場所に、風が円を描くように発生し、それが徐々におさまっていくと、二人が姿を現した。
「こ、ここは!?今まで学校にいたのに…。
る、瑠璃覇さん…。今のは一体…」
「私の能力のひとつ。風を自分の周りに発生させて、別の場所へと移動する術だ。もちろん、人だけでなく、ものを移動させることも可能だがな」
「マジすごいッス、瑠璃覇さん!」
術の説明をされると、桑原は目をキラキラと輝かせ、尊敬の眼差しで瑠璃覇を見た。
「それで、ここで一体、どんな修業をするんスか?」
人工物がまったくない、不気味な雰囲気を醸し出している、木ばっかり生えるこの場所で、一体どんなことをするのかと、桑原は辺りを見回した。
「そうだな…。じゃあまず、岩を探してもらおうか」
「岩?」
「そうだ。別に持ってこなくていい。見つけたら呼べ」
それだけ言うと、瑠璃覇は上の木の枝まで跳躍し、枝に腰かけた。
それから数十分後…。
巨木だらけの森の中、ようやく岩をみつけた桑原は、瑠璃覇を呼びに来た。
そして、歩くこと十数分。
桑原に案内されてたどり着いた場所には、桑原の胸あたりまである岩があった。
「なかなか手頃な岩じゃないか」
「いや~、それほどでもないッスよ。瑠璃覇さんにほめていただけるなんて、がんばってみつけたかいがあったってもんスよ」
「いや…。別にほめてないから」
よくやったとか何も言われてないのに、ほめられたと勘違いした桑原はにやけまくって、後頭部に手をあてて笑う。
「ところでお前…」
「なんスか?」
「なんだ?その、木の棒は…」
桑原は、この前選考会でひろった、木刀のきれはしと同じくらいの木の棒を持っていた。
「え?だって、これがないと霊気の剣を出せないじゃないスか」
桑原のその言葉に、瑠璃覇は呆れ顔になり、ため息をつく。
「そんなものをみつけろと言った覚えなどないぞ。そんなのは、修業には必要ない。すてろ」
「え?でも…」
「でもじゃない。でないと、修業に付き合わんぞ」
「わ、わかりました」
瑠璃覇の脅迫のような言葉に、桑原は即行で木の棒をすてた。
「それで…この岩で、一体どんな修業を?」
「お前の修業には、岩は使わん」
「へ?」
岩をみつけてこいと言われたのに、岩を使わないと言われたので、桑原は間の抜けた声を出した。
「これからやることを……よく見ておけ」
言うと同時に、瑠璃覇は右手に妖気を集中させる。
桑原は、瑠璃覇のあまりに強大な妖気を感じとると、背筋が凍る思いをした。
その間にも、瑠璃覇は妖気を集中させた方の手を上にあげ、狙いを定めると、勢いよくふり降ろす。
ザンッ
バゴォオオッ
すると岩は、瑠璃覇の能力(ちから)によって、粉々に砕け散り、バラバラになった岩は普通の石ぐらいの大きさになっていた。
また、力の影響で地面がえぐれ、人間の何十倍もの大きさがありそうな巨木が倒れていた。
それを見た桑原は驚いて、目と口を大きく見開いていた。
「今のは…私の操る風を手に集中させ、鋭くとがらせて岩を斬った。
見ろ」
瑠璃覇は右手に作ったものを、桑原が見やすいように前に出し、桑原は瑠璃覇の右手にあるものを見るために、近くに寄っていった。
「!!
こっ…これは…!?」
「風で作った剣だ。妖気を手に集中させ、自分の操る風を、剣の形に具現化したものだ」
瑠璃覇の右手を見てみると、そこには風で作られた剣があった。
「オレの…霊気の剣に似ている…」
その剣の形状はまさに、桑原が扱う、霊気の剣と同じようなものだったのである。
「これが、お前がこれからやるものだ」
「え?」
「まずは、木の棒なしで、霊気の剣を出せるようにしろ。それがお前の修業だ」
「うおおおおおっ」
こうして、桑原の修業が始まった。
「ぬあああああっ」
だが……
「どぅりぃやあぁあああぁぁああっ」
修業を開始してから三時間ほど経ったが
「うがあああああっ」
まったく全然これっぽっちも進歩がなく、霊気を少しも出せないでいた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
そして、とうとう疲れたのか、桑原は脱力し、地面にすわりこんだ。
「なんだ、もうばてたのか?なさけないな」
「ん…んなこと…言ったって………も…もう……三時間も…やってるんスよ…」
「まだ三時間しかやってないんだろ。それなのに、全然まったく少しも霊気を出せてないじゃないか」
瑠璃覇の厳しい言葉に、桑原は口をつぐんでしまう。
「瑠璃覇さん…コツを教えてくださいよ」
「コツならさっき教えただろう」
「でも、全然出来ないんスよ。やっぱり、木の棒を持ってやった方がいいと思うんスけど。
てか、木の棒なしで霊気の剣を出すことに、なんか意味があるんスか?」
やる気があるのかないのかわからない桑原に、瑠璃覇は呆れ顔になり、深いため息をついた。
「バカかお前は……。これは、霊気をコントロールするための修業でもあるんだぞ。霊気のコントロールをできるかできないかでは、強さが全然違う」
「え!?そうなんスか?」
「そうだ。気のコントロールこそ、もっとも重要なもの。戦いを左右する、大事な鍵だと言っても過言ではない。
それにお前、木の棒なしで霊気の剣が出せない時に敵に遭遇したら、一体どうするんだ?
持ってたとしても、もし落としてしまったら、敵はひろうのを待ってはくれないんだぞ。木の棒で霊気の剣を出していると知られたら、木の棒を破壊されて、劣勢に立たされ、襲われてしまうからな。
それが人間ならまだしも、この前みたいに妖怪だったらどうする?
人間だったらケガだけですむだろうが、妖怪だったらズタズタに引きさかれて殺された上、食われてしまうぞ」
「………」
瑠璃覇の正論とも言える言葉に、桑原は二の句が継げなくなってしまう。
「そして強さというのは、何も攻撃力が強いことだけじゃない。
己の力量を知り、それを完璧にコントロールすることも、また強さだ。
そうすれば、おのずと力がついてきて、強くなる」
「そんなもんスか?」
「そんなもんだ。
それに……お前が、あの時棒きれをひろって霊気の剣が出来たのは偶然かもしれないが、偶然とはいえ、才能がなければ霊気を武器化なんてできない。
つまり、出来たということは、それなりに才能があるからだと、私は思うが」
「瑠璃覇…さん…」
「偶然でもなんでも、棒きれひとつで出来たのなら、棒きれなしでも絶対に出来る」
瑠璃覇がそう言いきると、桑原は体中が奮い立ち、決心するように拳を強くにぎった。
「瑠璃覇さん!!オレ、がんばるッス!!がんばって、絶対に強くなります!!」
「そうか…。それじゃあ、その意気に免じて、もう一回だけコツを教えよう」
「マジッスか!?」
「ああ……。
霊気のコントロールをするには、集中力、持久力、精神力を要する。
これは、霊気の武器化、飛び道具などの技として使う場合…。霊気を少しでも必要とするものには、必要不可欠なものだ。
そして、武器化能力に必要なものは、その武器をイメージする力………ようは想像力だ。
まだ、木の棒がなければ武器化が出来ないのなら、木の棒が、にぎった手の中にあると思えばいい…。
だからまずは、手をひろげずに、透明の棒をにぎってるとイメージをして手をにぎれ。
そこに霊気を集中させ、剣を手に持ってると想像するんだ」
説明すると、再び、風で作った剣を桑原に見せる。
「なるほど…。想像力ッスか」
「そうだ。あと、もうひとつ……」
「え?」
「経験だ」
そしてニヤッと笑うと、今作り出した風の剣を構えた。
「えっ……る………瑠璃覇……さん?」
風の剣の切っ先を自分に向けられたので、桑原は若干顔が青ざめ、たじろいでしまう。
「あ…あの……い…一体……何を……」
「実戦にまさる修業はないからな。恐怖でギリギリまで追いこめば、きっと出せるようになるはずだ」
「…も……もし……出せなかったら…?」
「その時はその時で、また別の方法を考える」
「えぇええええっ!!」
意外とアバウトな瑠璃覇の考えに、桑原は恐怖のあまり、大きな声で叫んだ。
桑原は、実戦どころか今の言葉だけで、もう恐怖を刻まれてしまっていた。
「安心しろ。お前の今のレベルにあわせ、ギリギリまで手加減するから」
「い…いや……そういう問題じゃ…」
桑原がそう言っている間にも、瑠璃覇は自分で言ったことを実行するために、後ろに跳んで距離をとった。
「いくぞ…」
「へっ!?え……あ…」
桑原の言うことなどまったく聞く耳もたずで、瑠璃覇はニヤリッと笑うと、桑原にむかってまっすぐに走っていく。
「ちょっ…まっ……あ…
ぎぃやぁあああぁぁあああああああっ!!!!」
その日、数えきれないほどの桑原の叫び声が、森中に響き渡った。
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