第九話 暗闇の攻防
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「四次審査からは実戦じゃ!!残りがひとりになるまで戦ってもらう!」
第三次審査をクリアして、瑠璃覇達が幻海についていってたどり着いたのは闘技場だった。
「ここが闘技場じゃ…」
そう言いながら、ものものしい音を立てて開けた扉の向こうにある闘技場の中は、真っ暗闇だった。
第九話 暗闇の攻防
「………!?真っ暗闇じゃねーか。これじゃ、なんにも見えねェぞ」
「一回戦は、この闇の中で戦うのじゃ。相手の霊気をさぐりながらな。道具・武器の使用も認める。勝敗(ルール)は、相手を倒して戻ってくることのみ!!」
ルールはとてもシンプルなものだった。
幻海がそう言った後、桑原は冷や汗をかく。
「どーした桑原、黙りこんじまって。タイマンってきいて、ビビッたんじゃねーだろな」
第四次審査は実戦なので、ひょっとして桑原はビビッたのではないかと思った幽助は、からかうように話しかける。
「………すげー、イヤな感じがすんだよ。うす気味悪い霊気ってゆーか。森からここまで来る間、ずっとそれがつきまとって離れねェ。
まるで、そばにずっと、猛獣か化物でも潜んでいるみてーによ」
桑原の言葉で、幽助はハッとなる。
「(いけね。すっかり忘れてた。じゃやっぱり、師範の奥義をねらって乱童も残ってるんだな)」
第三次試験が始まる前は思い出したのに、幽助はまた、すっかり任務のことを忘れていた。
「その感じは、あの7人の内の、だれかからってことだな」
「ああ…多分な。だれかはわからねェ。巧妙にかくしてるんだと思うが、そいつがこぼしていった"におい"みてーなもんが漂ってるんだ」
「満員電車のすかしっ屁みてーなもんだな」
「………まあ、そんなもんだ」
説明されると、妙でわかりにくい例えをする幽助に、桑原は顔をしかめる。
「おい、瑠璃覇」
「なんだ?」
幽助は何かを思いたったように、隣(桑原の反対側)にいる瑠璃覇に、こっそりと小さな声で話しかける。
「お前強いんだろ。だったら、誰が乱童か気づいてんじゃねーのか?」
「今更か…。気づいてるに決まってるだろう。というか、あんなわかりやすい妖気をわからない方がおかしいと思うがな…」
「……つまり、オレはおかしいって言いたいのか?」
「よくわかってるじゃないか。お前より桑原の方が、霊界探偵にむいているかもな」
「るっせ」
嫌味を言われ、幽助はぶすくれた。
「さて、それじゃ、組み合わせを決めるか。……んーー。
おっと、そういや、まだ10人の名前も知らないね。自己紹介してもらおうか」
組み合わせを決めようとすると、急にそのことに気づいた幻海は、思いついたように言う。
「武蔵と申す。妖魔退治をしている」
まず最初に名乗ったのは、眼帯をした、袴姿の男だった。
「少林です。全国を修業でまわっています」
次に、幻海と似たような格好をした男。
「牙野だ。肉体の限界に挑んでいる」
黒髪で長髪の、顔に傷のある、髭をはやした道着姿の男。
「珍宝アル」
線目で、カールした髭をはやしている、チャイナ服を着た男。
「風丸!忍者の末裔だぜ」
額に卍が書かれた、忍者の服を着た剃髪の男。
「黒田だ」
メガネをかけた、角刈りの男。
「空禅(くうぜん)だ。全国を、妖怪退治してまわっている」
僧侶の格好をした男。
「銀瑠璃覇」
「桑原和真!不良!!」
「浦飯幽助!超不良!」
そして最後の三人は、言わずと知れた、人間に化けている妖狐の瑠璃覇と、普通の(?)不良少年の、幽助と桑原だった。
10人が自己紹介した後、抽選の末に、組み合わせが決まった。
一戦目の組み合わせは、少林VS珍宝、武蔵VS桑原、牙野VS浦飯、風丸VS黒田、瑠璃覇VS空禅である。
「相手を倒して、戻ってきた者を勝ちとする!!」
「ひとつききたい。オレは職業柄、殺すことを前提に戦ってきた。ましてや、初戦の相手は商売敵だ。手は抜けねェ」
「………」
宣戦布告のような言葉に、風丸は、どこか睨むように黒田を見た。
「言ったはずだよ。真剣勝負だってね。命がおしい奴は、第3次審査で帰ったと思ってたけどね」
「おっと、もうひとつ。オレが勝っても、殺し屋に奥義はやれねェなんて言わねぇだろうな」
「選ばれた者が、どんな者でも、素質のある奴に奥義は渡す。たとえそいつが、とんでもない悪党でもね」
「そいつをきいて安心したぜ」
「(………とんでもねーバーサンだ。ますます、負けるわけにいかなくなったぜ)」
幻海の心が理解できない幽助は、心の中で気合いを入れ直した。
「それでは第一試あ「ちょいと待たれよ」
話が終わったと判断した幻海が、試合開始の合図を出そうとすると、空禅と名乗った人物が話の腰を折る。
そのことで、全員が彼に注目した。
「みな……少なからず、幻海師範の奥義を受け継ぐ素質のある者達であろう」
「それがどうした?」
空禅の言葉に、風丸が短く返す。
「なのに何故、そこの娘の正体に気づかん?」
言いながら指をさした相手は瑠璃覇で、瑠璃覇は指摘されると、空禅を軽く睨んだ。
「正体だと…!?」
今度は牙野が短く返した。
「幻海師範…。あなたも当然気づいていたはずだ。なのに、何故この娘を参加させているのです?」
「………」
「おい、どういう意味なんだ?そりゃ」
ワケがわからず桑原が問うと、空禅は、相手をバカにした笑みを浮かべる。
「お前ら、本当に気づいていないのか?」
「だから、何がだよ?」
「そこの娘は…妖怪だ」
桑原が苛立ったように問えば、空禅は瑠璃覇を睨みながら話し、真相を知ると、そこにいる者は、全員瑠璃覇に注目した。
瑠璃覇は自分の正体をばらされたので、空禅を強く睨みつけた。
「………空禅とやら、確かに私は、その娘が妖怪だということに気づいていたよ」
「ならば何故!?」
「さっきも言ったはずだ。選ばれた者がどんな者であろうと、素質のある奴に奥義を渡すってね。たとえそいつが、とんでもない悪党だろうと、凶悪な妖怪だろうと、私は構いやしないのさ。
それとも、妖怪相手じゃ、勝つ自信がないのかい?」
「まさか…。妖怪退治は、私の仕事だ。
この世に、跡形も残らぬよう消し去ってくれるぞ、小娘が」
「…それは、こちらのセリフだ。生臭坊主」
二人はお互い、自信に満ちた表情で、微笑を浮かべながら睨み合っていた。
「お互い、問題はないようだね。
それでは第一試合、瑠璃覇VS空禅!!」
幻海から試合開始の合図が告げられると、二人は奥の、何も見えない、更に真っ暗闇な場所へ歩いていく。
「さあ…どこからでもかかってくるがいい、妖怪」
二人は他の志願者達が見えなくなる場所まで行くと、お互いに向き合った。
向き合い、空禅の顔を見ると、瑠璃覇はため息をつく。
「まったく……。貴様…余計なことを言いおって」
「余計なこと?」
「私が妖怪だということだ。ばらすつもりはなかったのに…。
まあいい。貴様を倒せば、少しは気がはれる」
「…それが本当の姿ではなかろう。人間の姿で戦うつもりか?」
「貴様など……人間の姿のままで充分だ。ザコが……」
「なめられたものだな。だが、いきがっていられるのも今のうちよ。すぐに、貴様を葬り去ってやる…」
「貴様程度の霊力で、私を葬る……だと?おもしろい…」
瑠璃覇は空禅を見下し、嘲笑う。
それにカチンときた空禅は、キッと瑠璃覇を睨むと、自分の武器の剣を構えた。
「わしの本業は、妖怪退治。貴様など、一捻りだ。
見よ!!これまで、幾度となく妖怪を退治してきた、この…霊光退魔剣(れいこうたいまけん)の力をををを!!」
叫びながら、空禅は剣をふりかざして、瑠璃覇に立ち向かってきた。
ゴオォオオ!!
「ぐぉあああっ!!」
だが空禅は、瑠璃覇を斬る前に、瑠璃覇の風で吹き飛ばされてしまった。
「うっ…」
「うわあっ!!」
「ぐああっ!!」
「な、なんだ?この風」
「一体、むこうで何が起こってるんだ!?」
「く…… (これは……あの娘の操る能力(ちから)か!?)」
そして、瑠璃覇が操る風は、幻海達がいるところにまで及んでいた。
そこにいた者達は……幻海でさえも、闘技場の外まで吹き飛んでいってしまう。
「ぐおっ!!」
吹き飛ばされた空禅は勢いのまま壁に激突し、思いっきり強く体を打ってしまった。
「いい加減うるさい…」
短く吐きすてるように言うと、瑠璃覇は、今の風で少し乱れた髪の毛を整える。
「もう一人の妖怪……しかも、下級妖怪の存在に気づかないなど…。だから、貴様はザコなのだ」
「ぐ…ぅ……」
「妖怪を退治するつもりが、妖怪に退治されたな」
壁に強く体を打ったせいで、空禅は気絶してしまい、そんな空禅を見ると瑠璃覇は嘲笑を浮かべ、嫌味を言った。
そして瑠璃覇は、自分の勝利を確信すると、幽助達がいる元の場所へと戻っていく。
元の場所に戻って来ると、幻海達はいつの間にやら外から戻ってきていて、そこにいた者達はみな、幻海さえも口を大きくあけ、目を丸くして驚いていた。
「(まさか………妖力を、極限なまでに抑えているであろう、人間の姿ですら、これほどの力とは…。この娘……相当できる…!!)」
幻海も、その世界の人間や妖怪の間では、相当に有名で名が知られているほどの実力をもっているが、その幻海にそれだけのことを言わせるほどの力をもつ瑠璃覇はかなりのもので、幻海は感心していた。
「すげえな、瑠璃覇」
「あいつ、結構強そうだったのに…。すごいッス。さすがです、銀さん」
「別に……。あんな奴に勝っても、全然大したことない」
その中で、幽助と桑原だけが、目をキラキラと輝かせながら、瑠璃覇に話しかけてきた。
だけど瑠璃覇は、表情ひとつ変えず、勝ったことが当然のようだった。
「勝者、瑠璃覇!!」
幻海が瑠璃覇の勝利を宣言すると同時に、そこにいた幽助と桑原以外の志願者達は、全員が瑠璃覇を見た。
「安心しろ。血は飛び散ってないし、首はころがっていない。
だが、アイツ自身はそこらへんのどこかにころがってるから、次から戦う奴は、攻撃して殺さないように気をつけろよ」
視線に気づいた瑠璃覇は、全員を見やって、冷たく鋭い微笑を浮かべた。
「なんて女だ…」
瑠璃覇の言葉に、牙野がつぶやくように言う。
そして、彼らの後ろの方では、少林が瑠璃覇のことをジッと見ていた。
「それでは、第二試合を始める」
瑠璃覇の正体を知ったことと、先程の瑠璃覇の言動で、どこか重い空気がただよっていたが、沈黙を破るかのように、幻海が第二試合開始の合図をすると、彼らは幻海の方へ注目した。
「第二試合、黒田VS風丸」
次の試合は、殺し屋の黒田と、忍者の末裔の風丸だった。
「オレは、自分の商売に命をかけている」
「オレも同じだ」
二人は試合開始の合図が出ると、奥の方へ歩いていく。
「負けたときは、互いの死を意味するわけだ」
風丸がそう言うと同時に、二人は闇の中へと消えて行った。
暗闇なので状況はよくわからないが、お互いの武器や拳や蹴りの音が聞こえることから、二人の試合が始まったということがわかった。
「くそっ。なにをやってるのかわからねェ」
「一体どっちが有利に試合を進めているんだ」
「…………殺し屋のヤロオが、押し気味に戦ってるぜ」
幽助や牙野は、一体どう戦ってるのかわからなかったが、霊感が高い桑原には、今の状況がわかっていた。
「ゲッ。お前、見えんのか!?」
「普通、見えるだろ」
「………」
もちろん、妖力が高く、経験が豊富な瑠璃覇にも見えていた。
妖怪だからとか、盗賊なので暗い場所は見慣れてるからとか、理由は様々あるが、瑠璃覇には見えるのが当然だったのだ。
なので、一見すると、幽助をバカにしているように感じるが、本人にはそんなつもりはいっさいなく、ただ当然のように幽助に言ったのである。
しかし、幽助にはそういう風に感じたようで、バカにするような、呆れてるような瑠璃覇の言葉に黙ってしまった。
「!!」
そして、桑原が目を見開くと暗闇の奥が光り、どちらかが巨大な光を相手に放ち、一撃の元に倒した。
「(霊丸……!?いや!!オレの霊丸よりも、はるかにでかくて、すげェ霊気だ!!)」
その光を見た幽助は驚いた。それは、自分の霊丸と似たような技だったからだ。
それから、光が消えるとひとつの人影が見え、こちらに戻ってきた。
「勝者、風丸!!」
「一回戦で、この技を使うことになるとは思わなかったぜ」
戻ってきたのは、風丸だった。
彼は、衣服が破れ、血を流し、腹を押さえながら戻ってきた。
結果として勝ったが、結構なダメージをくらったようだ。
「なんだ、今の技は」
「霊気のかたまりが、放射されたように見えたが」
「霊気のかたまり。じゃ、やっぱり霊丸か?」
幽助が確信を得たように言った時だった。
「原理は同じだよ」
「!? ぼたんじゃねえか。なんで…」
「心配で来ちまったよ」
何故かぼたんが、幽助達の元へやってきた。
ぼたんの姿を見ると、風丸の時とは別の意味で幽助は驚いた。
「風丸ってやつは、多分手のひら全体で霊気を放ってるね。霊気量が並はずれて多いのは、相当の修業のなせる技だよ。しかも、あれだけの霊気を放っても、まだ余力を残してる」
「(霊気じゃ勝ち目がねェわけか)」
自分の霊丸と比べ、あきらかにむこうの方が上だということはわかってるので、幽助はどうしようかと悩んだ。
「コエンマの部下だそうじゃな。それで、あのボーズと娘の強さの理由がわかったよ。だが、弟子は公正に決めるからね」
「はいな」
ぼたんの存在に気づいた幻海は、審査に関してぼたんに宣告する。
「勝者、少林」
「いてて。危なかった~~~」
幽助とぼたん。そして、ぼたんと幻海が話している間に、次の試合が行われていて、少林が戻ってくると、少林の勝利が告げられた。
「三つの霊力で、少しずつ相手より上まわってたから、まぁ、順当勝ちだね」
「右手気をつけろよ、お前」
相手の力を冷静に分析するぼたんに、幽助は、何やら漫才のような雰囲気で注意する。
「第4試合、桑原VS武蔵!!」
そして、少林と珍宝の試合が終わると、今度は桑原と武蔵の試合が行われようとしていた。
「せいぜい殺されねーよーにな!!」
「ケッ。てめーに勝つまで死にゃしねーよ」
桑原への激励か、幽助は笑いながら、親指をクイっと下にむけた。
桑原は桑原で、強気な態度で幽助に返す。
試合が始まると、二人は暗闇の奥へ消えていった。
しばらくすると、桑原のわめき声が聞こえてきた。
「あちゃ~、桑原君の方がやられちゃってるみたいだね…」
「相手は、自分の霊気を断ってる。あいつの、並はずれて高い霊感能力を利用されたな」
一人現状がわかっている瑠璃覇は、今どうなっているのか、説明をした。
そう言っている間にも、どんどん桑原のわめき声ばかりが聞こえてくる。
「おいおい、さっきから聞こえてくるのは、桑原のわめき声だけだぜ。桑原、しっかりやれよこのやろう!!」
「うるせェ。余計な心配すんな!!人の事より次の自分の試合の心配してやがれ」
声しか聞こえないが、わめき声が聞こえることでやられっぱなしだとわかった幽助は、幽助なりに応援していた。
桑原は桑原で、やられてるだけだというのに強気に返す。
「とは言っても、大丈夫かねぇ、桑原君…」
「まあ、大丈夫じゃなかったら、負けるだけだろ。それもまた実力だ」
けど、勝つための策があるとは思えないので、ぼたんは心配していたが、瑠璃覇は冷たく言い放った。
「瑠璃覇ちゃん、それはちょっと冷たいんじゃないのかい?」
「真実だよ。それほどに、戦いの世界は厳しいんだ」
確かに冷たいが、言っていることは一理あるため、ぼたんは口を閉ざす。
一方奥の方では、武蔵が妖魔退治のために使っている木刀を構えると、また姿を消し、必殺技を桑原にむけて放った。
そのことで桑原は倒れてしまうが、技を放った時に欠けた木刀の切れ端を、偶然にも拾ったことで、霊気の剣を作りだし、再び攻撃してきた武蔵の剣を受け止めた。
「物質化能力か…!!」
攻撃を受け止められた武蔵だけでなく、それを見ていた幻海、何も言わないが瑠璃覇も、桑原が霊気で剣を作りだしたことに驚いていた。
そして、そのすきに桑原は、霊気の剣で武蔵を切り、一太刀のもとに倒したのである。
「………霊気の剣!?こ、これ、マジでオレが出したのか…!!」
まさか、自分がそんなすごいものを出すとは思わず、剣を作りだした桑原自身も驚いた。
それを見ていた幻海は、桑原はますます強くなると確信しており、同じく桑原の戦いが見えていた瑠璃覇は
「(あいつ…人間にしちゃ、なかなかやるじゃないか…)」
感心しながら、周りが気づかないくらいに小さく笑っていた。
「勝者、桑原!!」
武蔵を倒すと、桑原は幽助達のところに戻ってきて、桑原が戻ってくると同時に、幻海の口から桑原の勝利が宣告された。
「思わぬところから、思わぬ強敵が現われたね!!」
「へへ…。おもしれーじゃねーか!!」
と言いつつも、幽助は顔は笑っていたが、少しだけ汗をかいていた。
「おれとあうまで負けるんじゃねーぞ」
「血だらけでえらそーなこと言ってんじゃねーよ」
幽助と桑原は、お互い不敵な笑みを浮かべる。
「第5試合、浦飯VS牙野」
幽助以外の全ての人達の試合が終わり、いよいよ幽助の試合が行われようとしていた。
「…………ちょっと待った!」
だが、二人が暗闇のむこうへ歩き出した時、いきなり幽助が待ったをかける。
「ふ…。どうした、やめるのか?」
急におじけづいたのかと思った牙野は、不敵な笑みを浮かべて幽助を見た。
「戦いの前の一服を……」
幽助はズボンのポケットをあさるとタバコを取り出して、未成年なのにも関わらず、あろうことかタバコを吸おうとしていた。
それを見たぼたんは、どこからか取り出したハリセンで幽助を殴る。
「いてーな、コラ!」
「螢子ちゃんがいないからね。保護者代行だよ!」
一服するのを邪魔された幽助は当然怒っていたが、未成年がタバコを吸おうとしていたので、ぼたんには当然の行動だった。
「あたしがあずかるよ。よこしな」
「ヤダね。最後の一箱だ!」
ぼたんはタバコをとりあげようとするが、幽助はとられてたまるかと、なんとか死守しようとする。
「………そろそろ始めたいのだが…」
「あ、スンマセン」
幽助とぼたんの漫才のようなやりとりを見ていた牙野は、先程の自信ありげな表情とはうって変わり、呆れた顔をしていた。
結局幽助は、一服することができず、試合を始めることとなった。
「遠慮はしないぞ」
「そうした方がいいぜ」
今度こそ、本当に試合を始めるべく、二人は暗闇の中へ歩いていく。
瑠璃覇達の側からは、すぐに二人の姿が見えなくなり、少しすると、いつの間にか妙なマスクをかぶってるのを、瑠璃覇と桑原は目にした。
「おお!?あのヤロウ、いつのまにか、妙なマスクをすっぽりかぶってやがるぞ!?」
ここに来てからも、ここに来る前までも、そんなものを持っていなかったし、かくしてる感じもなかったので、桑原は驚く。
そのマスクは、感受器官を断ち、より鋭敏に相手の気配を探るためのものだった。
牙野はそのマスクを使い、幽助の位置を探りあてると、幽助の頬を殴り飛ばした。
「もろにくらった!!」
幽助は仰向けに倒れるも、すぐに起きあがるのだが、すぐ後ろまで来ていた牙野に、今度は蹴り飛ばされる。
相手の姿が見えている者と、見えていない者の差は歴然で、次々と繰り出され牙野の攻撃に、幽助はやられっぱなしだった。
なんとか反撃するも、あっさりと避けられた上に、また姿を消され、見えなくなる。
その後に聞こえた音で相手の姿を探りあて、頭を一発殴るが、腹に蹴りをもろにくらい、動きが止まってしまった。
そのすきに牙野は、また姿をくらました。
「だめだ、通用しねェ。あの仮面、攻撃を防ぐ役目もしやがる」
「幽助は、五感に頼りすぎているところがあるな。あと、真っ正面からとびこみすぎだ。私やおまえみたいに、相手の姿を視認できればいいが、幽助はそれができない。相手の気配を感じとることもできない。なんらかの形で、相手の姿を見ることができなければ、このままでは負けるな」
「じゃあ、どうすれば…」
「それは幽助が、自分でなんとかするしかないね。たとえ、この審査がアドバイスや手助けが可能だったとして、今それでのりきっても、そんなことでは、これから先困るのは幽助だからな」
「そんな…」
瑠璃覇が言うことは、冷たくつき放すようなものであるが、正論だった。
奥の方では、牙野がそろそろ決めようと、霊気を体内に蓄積させて、攻撃力を倍増させたことにより、異常に大きくなった腕で、大腕硬爆衝という技を使って、幽助を撃破した。
しかし、確かに倒れ、ひざをついたが、幽助は一瞬早く急所をさけて、なんとか立ちあがる。
それでもダメージを負ったことに変わりなく、かなりまいっていた。
幽助は考えた。
どうすれば、相手の位置を知ることができるかと…。
そして思いついた。
牙野が再び、自分の頬を殴って攻撃してきた時に、腕をつかんで、相手の位置を探りあてたのだ。
腕をつかむと、幽助は肉を切らせて骨を断つの要領で、腕をへし折ろうとした。
だが、今度は斬投旋風撃という技で投げとばされてしまい、受け身もとれずに床に激突してしまった。
「はなれたら相手が見えず、つかまえてもすげェ投げ技がある!!あれじゃ、どーすることもできねェ」
離れていても近づいてもうつ手がない幽助に、桑原は焦りながらも幽助を激励していた。
「(あれだと、もう幽助に残された攻撃方法は、霊丸のみ!だが…一日に一度しか撃てない霊丸は、相手の位置がわからなければ、撃つことはできない。なんとか、相手の位置を離れていてもわかるようにしなければ、幽助に勝ち目はない…!)」
桑原が激励している中、瑠璃覇は現状を冷静に分析していた。
確かに、幽助が相手を倒すには霊丸を使うしかない。しかし、霊丸は一日一発のみなので、正確に相手の位置を知ることができなければあてることはできず、もう攻撃方法はなくなり、負けてしまう。
しかし、幽助には相手の姿をとらえることはできない。
それがわかってる牙野は、万にひとつも勝機はないと、余裕の笑みを浮かべていた。
けど、幽助は決して諦めたりはせず、それどころか、もう一度攻撃をしかけてきたときがてめェの最期だと、強気に返した。
だが、牙野は強がりだと思い、幽助にあきらめるよう促すが、幽助は相手を挑発した。
その挑発にのった牙野は、最初に使った大腕硬爆衝という技で、幽助にとどめをさそうと、幽助の後ろに回りこんだ。
幽助は、顔を前に向けたまま霊気を高め、霊丸を撃とうと構えをとる。
その直後、左隣から牙野が技をかけようと腕をふる。
「浦飯ィ!!」
「幽助!!」
現状がわかっている桑原とぼたんは、幽助がやられてしまうのだと思い、叫んだ。
だが幽助は、牙野がいる位置がちゃんとわかっていたようで、霊丸を牙野にむけて撃った。
霊丸は牙野の額に命中し、そこからは血が流れた。
牙野は、自分の位置が正確にわかった幽助に驚いていたが、幽助に言われて、自分の腹を見てみると、いつの間にか、帯に火がついたタバコがはさまれていたので、更に驚いた。
幽助は、先程腕をつかんだ後に投げられる前にはさんでおいたのだという。普通なら熱さで気づくだろうが、道着と鉄仮面が丈夫なために気づかず、それが災いしたのだ。
「勝者、浦飯!!」
牙野は倒れたので、元の場所に戻ってくると、幽助の勝利が告げられる。
「悪知恵の働く奴だぜ」
「不良のアイテムも役に立つってものよ」
「(たまたまだろ)」
とは思ったが、瑠璃覇は敢えて口にすることなく、心の中でつっこんだ。
「一瞬のうちにタバコに火をつける早技と、スリ顔負けの器用さが勝因だな」
「自慢にならん」
何やら得意気に話していたが、後ろからぼたんにチョップをかまされ、つっこまれていた。
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