第六話 蔵馬と秀一
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霊界の三大秘宝盗難事件が解決してから、一週間後の昼休み…。
「よっしゃあ、やっと昼飯だ!」
今の今まで重い空気を背負い、かったるそうにしていた幽助だが、4時間目終了のチャイムがなった途端に、まるで水を得た魚のように元気になった。
そして、うれしそうに笑いながら、いつも自分がすごしている屋上へ向かおうとした時…。
「浦飯くん」
「あ?」
後ろから、突然声をかけられる。
幽助はその声に、間の抜けた声で返事をしながら振り返った。
「一緒に、お昼ご飯食べましょう」
そこには、瑠璃覇がにこにこと笑いながら、弁当箱を入れた巾着袋を持って立っていた。
第六話 蔵馬と秀一
「ん?おお、いいぜ」
幽助が了承すると、二人は屋上へ行くために、一緒に教室を出た。
「ちょっ、あの二人付き合ってるの?」
「えーー?うっそぉーー。銀さんが、あの浦飯くんと!?」
二人がいなくなった途端に、クラス中がざわつく。
今の言動を見て、二人が付き合ってると思ったクラスメートは、信じがたそうにしていた。
「ねえ螢子、ちょっといいの?」
「え、何が?」
幽助と瑠璃覇が二人で屋上に行ったので、螢子の友人は彼女に声をかけた。
その言葉に螢子は、まるで他人事のように、自分にはまったく関係ないと言うように、きょとんとした顔で答える。
「何がって…。浦飯くんと銀さん、付き合っているかもしれないのよ」
「そうよ。浦飯くん、とられちゃうかもしれないわよ」
「別に私、幽助と付き合っているわけじゃないし…。私には、全然関係ないわ」
「「………」」
全然関係ないと言いながらも、本当は気になっているようで、平静をよそおってはいるが、どこか不機嫌そうな顔をする螢子。
心と裏腹な態度をとる螢子はとても頑固なもので、それを見た二人の友人は、それ以上は何も言わなかった。
場所は変わって屋上…。
「やっぱ、屋上だと昼飯がうめえな」
「そうか。よかったな」
すがすがしい晴天の下、幽助と瑠璃覇は二人で弁当を食べていた。
幽助は最高!といった感じの顔をしていたが、瑠璃覇はこの晴天とは正反対の、冷めた表情をしていた。
「ところで、あれからもう一週間以上経ったけど、その後、蔵馬はどうなったんだ?」
「蔵馬は自分の罪を認めてるし、反省もしてるから、重罪ではないようだ。人間界で人として生活していくのも、問題はないらしい…」
「そっか。よかったな」
「ああ…」
本来であれば、恋人である瑠璃覇本人が喜ぶはずなのだが、何故か瑠璃覇はあまり喜びの感情を出さず、逆に幽助の方がうれしそうな顔をしていた。
そんな幽助を、瑠璃覇は何も言わずにジッと見つめる。
「……幽助…」
少しの間考えごとをしていると、重く閉ざしていた口を開いて、幽助の名前を呼んだ。
「ん?」
「お前は何故、他人の都合に巻きこまれただけだというのに、霊界探偵として、妖怪と戦うことができる?何故、私を妖怪と知ってもなお、パートナーにしておくことができる?
恐くはないのか?妖怪と戦うことが…。
そして……妖怪が…」
「別にそんなことねーよ。戦うのは楽しいぜ。
それにコエンマにゃ、生き返らせてもらったからな」
「生き返らせてもらっただと?」
「ああ…。実はオレ……最近まで死んでたんだよ」
意外な事実に瑠璃覇は驚き、目を見開いた。
人間でも妖怪でも、死んだのに生き返るということは、まずありえないからだ。
「オレは…一度死んだ。最初は、それでもいいと思った。けど、自分の通夜を見てるうちに思っちまった。「生き返りたい」って…。
それで、その時生き返らせてくれたのがコエンマなんだ。
オレは……コエンマに恩がある。
だからオレは、そういう意味でも、霊界探偵をやってんだ」
「………」
一点の曇りもない目で話す幽助を、瑠璃覇は不思議そうな目で見ていた。
「………もう一つ、質問に答えろ…」
「ん?」
「私は…自分で言うのもなんだが、魔界でも霊界でも、名が知られた妖怪だ。
残酷で残忍。そして…冷酷無慈悲。
伝説の、極悪非道の女妖怪パープル・アイ。
それが…私の通り名…。
出会った者は、二度と生きて、故国の土を踏むことはできないと言われている…。
それでも……お前はまだ、妖怪が恐くないと………私をパートナーにすると言えるのか?」
「………」
問われても幽助は黙ってしまい、口をあけたまま瑠璃覇を見ているだけだった。
「(………やはりな。これが普通の反応だろう。私の正体を知り、それでも私とともにいることを望む者など、蔵馬くらいのものだ。
普通の奴は、恐れるか、利用しようとするか、二つに一つ…)」
「……す…」
「?」
しかし、幽助はふるふると体を震わせると、しぼり出すように声を発した。
それを見ていた瑠璃覇は、何事かと疑問符を浮かべる。
「すっっっげえええええーーーーっっ!!!!」
「は…?」
すると、幽助はいきなり大きな声で叫んだ。
幽助の口から出てきた言葉は、自分が思っていたものとはまったく違うものだったので、瑠璃覇はすっとんきょうな声をあげる。
「伝説ってことは、それって、すごく強いってことだろ?そんなに強いなんて、すっげえじゃねーか!」
幽助は恐れもせず、利用しようとするようなことを言うでもなく、逆に興味をもち、賞賛をしたので、瑠璃覇は鳩が豆でっぽうをくらった顔になる。
「なあ、今度戦い方とか教えてくんねーか?」
「……お前……バカか?」
「な!バカじゃねーよ」
目をきらきらと輝かせ、興味津々の目で瑠璃覇を見る幽助。
そんな幽助を見た瑠璃覇は、怪訝そうな顔でつっこんだ。
「……いや…。私にそのようなことを言うなど……お前は絶対にバカだ」
「決定かよ!」
「………」
バカ呼ばわりされたので、大きな声でつっこむ幽助。
そんな幽助を、瑠璃覇は、もう一度不思議そうな顔で見た。
そして放課後…。
「あの…すみません」
「はい?」
校門の前で、下校しようとしている一人の女生徒に、一人の少年が声をかけた。
「少々おたずねしたいのですが…」
その少年の整った顔立ちに、女生徒は思わず顔を赤らめる。
「じゃーねー」
「ばいばーい」
一方瑠璃覇の教室では、ほとんどの生徒が帰宅しようとしていた。
部活があり、部室へと行く者。
係や当番の仕事で、何か作業をしている者。
帰り支度を済ませているが、まだ友達と話している者など、様々な者がいたが、瑠璃覇はそのどれにも当てはまらなかったので、かばんを持ち、さっさと帰ろうとした。
「ねえ、銀さん」
だが、その途中で一人の女生徒に呼び止められたので、瑠璃覇は声がした方に、無言で振り返った。
振り返ってみると、そこには、螢子と仲のいい二人の女生徒が立っていた。
「何か用?」
「あのさ、ちょっと銀さんに聞きたいことがあるんだけど…」
「何?」
「銀さんて、浦飯くんと付き合ってるの?」
「は?」
二人は、螢子の代わり(?)に瑠璃覇と幽助の仲を聞き出した。
妙な質問に、瑠璃覇は目を丸くする。
「だって銀さん、転校してきてから、浦飯くんといつも一緒にいるじゃない」
「仲がいいみたいだし、浦飯くんのこと好きなの?」
「いいえ、まったく…」
「え?じゃあ、一体どういう関係なの?」
「どういう関係も何も、浦飯くんは…ただのお友達」
「え…。じゃあ、恋愛感情とかないの?」
「ええ、まったく」
「「………」」
間髪をいれずに即答されたので、二人は言葉を失い、口をあんぐりと開けた。
瑠璃覇は、二人がそれ以上話しかけてこないので、もう用は終わったと察すると、それじゃあ…と言って、二人に背を向けて、下駄箱へと向かっていく。
「……けど…やっぱり、銀さんて彼氏いるのかな?」
「いるんじゃない?あれだけ美人で大人っぽいんだもん」
瑠璃覇の姿が見えなくなると、二人はポツリとつぶやいた。
「あの、銀さん…」
二人と別れると、下駄箱に向かう途中で、瑠璃覇はまたも声をかけられたので、声のした方へ無言で振り返った。
振り返るとそこには、先程校門の前で、少年に声をかけられた女生徒がいた。
「……何か用?」
「えっと……校門で、銀さんを呼んでる人がいるんだけど…」
「呼んでる人?」
そう言われても、皆目見当もつかなかった。
瑠璃覇は、自分を待っている人物がいるというのに、なんともマイペースに、ゆっくりと歩いて校門へ向かって行った。
そして校門に着くと、瑠璃覇は驚いた。
「あっ…」
「久しぶり、瑠璃覇」
そこにいたのは蔵馬だった。
「蔵馬…!!どうしてここに?」
「やっと霊界裁判が終わったんだ。それでどうしても、一番最初に、瑠璃覇に会いたくなってね」
今まで、クールで無表情だった瑠璃覇だが、蔵馬の姿を見てその言葉を聞いた途端に、表情がやわらかくなり、笑顔となった。
「それで瑠璃覇、悪いんだけど、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」
「付き合ってほしいところ?」
それだけ言うと、蔵馬は背を向けて歩きだし、瑠璃覇は言われるままに、蔵馬の後に着いて行った。
「……病院…?」
着いて行った先は、そう小さくはないが大きくもない、仲山総合病院という病院だった。
病院に着いても、蔵馬は肝心なことはまだ何も話さず、黙ったまま、院内を歩いていく。
「(南野?)」
そして、しばらく歩いていくと、ある病室の前で立ち止まる。
その、501号室の南野様と書かれた病室の前に着くと、蔵馬は二回ノックをし、中から返事が聞こえるのとほぼ同時に扉を開けて、中へ入って行った。
蔵馬が中に入ると、蔵馬に続いて瑠璃覇も中へと入って行く。
「あら、秀一」
そこにいたのは、とても落ちついた雰囲気の、温厚そうな女性だった。
「(誰だ?秀一!?)」
それは蔵馬の母親の志保利で、母親のことも秀一という名前のことも聞かされていなかった瑠璃覇は、志保利を見て、秀一という名前を聞いて、戸惑い、驚きながら志保利を凝視した。
「久しぶり、母さん」
「(母さん!?)」
蔵馬の口から、母さんという単語が出ると、瑠璃覇は更に驚く。
「あら、またお友達なの?めずらしいわね」
「あ、うん。中学校の頃の同級生で、銀瑠璃覇さんっていうんだ」
「はじめまして。秀一くんの同級生の、銀瑠璃覇といいます」
本当は妖怪で、志保利よりもかなり年上で、中学校の同級生ではないのだが、もちろん本当のことを言えるわけないので、とっさにうそを言った。
瑠璃覇は突然のことに戸惑い、驚いたが、瞬時に状況を理解して、蔵馬に合わせて芝居をしたのである。
「こんにちは、瑠璃覇ちゃん。私は秀一の母の志保利よ。よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「こんなかわいいこがお友達だなんて、秀一もやるわね」
「学校が違うから、今日久しぶりに会ったんだけどね…。
瑠璃覇って、普段はあまり物事に動じたりしないのに、さっきオレが、いきなり学校に会いに行ったらすごく驚いて、いつものクールな顔が崩れていたよね」
「ち…ちょっと秀一!」
「………」
蔵馬は、本当に友達と話すような感覚で、冗談っぽく笑いながら話し、瑠璃覇もそれに合わせるように、顔を赤くしながら話していた。
志保利は何かを感じとったようで、二人をジッと見ていた。
「そうだわ。昨日、畑中さんがお見舞いに来てくださって、おみやげにケーキをいただいたのよ。みんなでいただきましょう」
突然志保利は、何かを思いついたように話しだし、その見舞いの品のケーキを冷蔵庫の中から取り出した。
「へえ、おいしそうだね」
「ええ。それでね秀一、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「何?」
「実は今、お茶を切らしちゃってるの。悪いんだけど、売店で、何か飲み物を買ってきてくれないかしら?」
「わかった。じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「お願いね」
志保利に頼まれると、蔵馬は病室から退室し、売店へと足を進めていく。
瑠璃覇と志保利は、蔵馬がいなくなるまで、扉の方に顔を向けていた。
そして、蔵馬がいなくなって足音が小さくなると、志保利は瑠璃覇の方に顔を向け、口を開いた。
「ねえ、瑠璃覇ちゃん」
「なんですか?」
「瑠璃覇ちゃんて、秀一と付き合ってるの?」
「えっ!?あの……」
「あら、やっぱりそうなのね」
突然言われたことに、思わず強く声を出してしまい、それで少し声が裏返ってしまう。
そのことで志保利は図星だと見抜き、うれしそうに笑った。
「え………いや……あの………その……」
「あら、隠さなくてもいいのよ。私ね、すごくうれしいの」
「え…?」
「秀一は、昔から人と接するのが苦手だったせいか、友達がいなかったのよ。それどころか、親の私にすら、一線を引いているような子だった…。
でも、最近はお友達を連れてきてくれたし、今日は、こんなにかわいい彼女を連れてきてくれたんだもの。あの子にやっと、心を許せる人達ができたのだと思うと、すごくうれしいの」
今言ったことは、すべてうそではなく本心だというように、本当にうれしそうに笑っている志保利を、瑠璃覇はただ黙って見ていた。
「瑠璃覇ちゃん…。秀一のこと……好き?」
「はい」
「そう、よかったわ」
「…秀一は、私にとって…すごく大切な人ですから…」
「ありがとう。そう言ってもらえると、もっとうれしいわ。
……ねえ、瑠璃覇ちゃん」
「はい?」
「これからも、秀一のこと…よろしくね」
「はい…!」
瑠璃覇が返事をすると、志保利は微笑み、口角を少しあげ、申し訳程度に笑みを浮かべた。
それからしばらくして、飲み物を買ってきた蔵馬が戻って来た。
そして、一時間ほど雑談した後、日が暮れ始めたということもあり、二人は病院を後にした。
「ねえ、瑠璃覇」
「何?」
病院を出てからしばらくの間沈黙が続いたが、公園に入ると、突然蔵馬が話しかけてきた。
「オレがいない間に、母さんと何を話していたの?母さん、なんかいつもよりもうれしそうな顔をしてたけど…」
「……蔵馬のこと…」
「オレの?なんか照れるな」
「蔵馬は、昔から人と接するのが苦手だったとか、友達がいなかったとか…」
「そんなこと話していたの?」
「ああ…」
「そうなんだ…」
二人が話していた内容を聞くと、蔵馬ははずかしそうに笑みを浮かべる。
「……それと………秀一のことをよろしくと言われた…」
志保利が言ったその言葉をうれしそうに、少し悲しそうに言う瑠璃覇。
その言葉で沈黙となり、二人の間を、冷たい風が吹き抜ける。
「…………瑠璃覇……もしかしたら、気づいているかもしれないけど…………オレは……もう二度と、元の姿に戻ることはないだろう…」
「…………」
「オレは、この南野秀一の肉体に憑依した。
だけどこれは、憑依というよりは融合に近いんだ。
だからもう、あの頃の姿には……」
申し訳なさそうに、悲しそうに言う蔵馬に、瑠璃覇は驚くでも怒るでもなく、静かにふっと微笑んだ。
「わかっている…。なんとなく……気づいていた…」
「え…?」
瑠璃覇の予想外の言葉に、蔵馬は驚いた。
「蔵馬…。さっきも話したが、私はお前の母親に、お前のことをよろしくと言われた。
そして私は、「はい」と答えた…。
………蔵馬……。私は、お前の姿が変わるよりも、お前が死ぬ方が、何千倍も……何万倍も嫌なんだ。
だから、お前が生きていればそれでいい…。
だから私は、お前のことをよろしくと言われた時、「はい」と答えたんだ」
「瑠璃覇…」
それは、今の南野秀一でもある蔵馬を受けとめるということ…。
そのことを聞くと蔵馬は感激し、瑠璃覇の名前を呼ぶと、瑠璃覇を強く、そして優しく抱きしめた。
「瑠璃覇…。オレはもう二度と、瑠璃覇の前からいなくなったりしない。約束する。
だから……また前のように、ずっと一緒にいよう。
死が……互いの命をわかつまで……」
「ああ…」
二人は顔を離してお互いをみつめると、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。
15年ぶりの再会。
そして、15年ぶりの口づけ…。
二人は、その15年という長い年月をうめるように、長い間、お互いの唇を重ね合っていた。
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