第一話 霊界探偵のパートナー
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今から15年前…。
とある公園に、すさまじい一陣の風が吹いた。
公園の中心には小さな竜巻が起こり、周りに吹いていた風は、まるでその竜巻に支配され、吸いよせられるように集まっていった。
竜巻はすぐに収まり、竜巻の中からは一人の女性が現れる。
その女性は、とてもこの地球と呼ばれる星の服装とは思えないような格好をしており、ポニーテールに結った、絹糸のように美しい銀色の長い髪に、紫色の瞳を持ち、動物の耳としっぽをつけていた。
「………ここが……人間界か…」
それは、月が大きく輝いている晩の出来事で、彼女はその地に、軽々と舞い降りた。
「お前は本当にここにいるのか?
……蔵馬…」
第一話 霊界探偵のパートナー
それから15年後…。
東京の皿屋敷市。
その皿屋敷市にある、とある高校。
時刻は15時30分。授業の終わりを告げるチャイムが、学校中に鳴り響いた。
そのチャイムは、その日の全ての授業が終わったという合図であり、帰りのHRが終わると、部活があるものは部室へ行き、また当番のものは掃除をしたり、日誌を書いたり、個人的に職員室に行ったり、図書室に行く者もいたが、そのどれにもあてはまらない者は、それぞれ帰路についていた。
そして、そのどれにもあてはまらない者の中には、長い茶色の髪をポニーテールに結った、高校生にしては大人びている一人の女性がおり、帰宅しようと廊下を歩いていた。
彼女の名前は、瑠璃覇。この学校に通う生徒の一人で、実は、魔界に住んでいた、妖狐という種族の妖怪である。
「銀!」
廊下を歩いている途中で、瑠璃覇に声をかける者がいた。
銀というのは、人間界で使っている瑠璃覇の仮の苗字で、瑠璃覇は名前を呼ばれると、無表情で、無言のまま振り返る。
「……何か御用ですか?先生」
「お前、この前のテスト、また全教科満点の上に、校内で一番だったぞ。私も教師として、そして担任として鼻が高い。この調子で、またがんばりなさい」
「……はい…」
瑠璃覇に声をかけたのは、瑠璃覇のクラスの担任の教師で、別にわざわざ呼び止めてまで言わなくてもいいようなことを言ってきたので、瑠璃覇は無気力に返事をした。
それだけを告げると、担任は瑠璃覇の前から立ち去っていった。
「……くだらない…」
そして、担任の姿が見えなくなると、独り言のようにポツリとつぶやく。
つぶやくと、方向転換をして再び昇降口に向かっていき、靴にはきかえると、校門を出て帰路についた。
「(本当、実にくだらないことだ。全教科満点で校内トップだから、一体なんだというんだ?もしも私が、逆に全教科0点で、校内最下位だったらどうなんだ?声などかけないだろうに…。人間とゆうのは、実に短絡的で、愚かしい生き物だ…)」
先程のことだけで瑠璃覇は不機嫌になり、いまいましそうに顔を歪めていた。
「パープル・アイ…」
軽く眉間にしわを寄せながら歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
パープル・アイとゆうのは瑠璃覇の通り名で、その通り名で呼ぶのは、ここでは数が限られているため、もうすでに声の主がわかりきっている瑠璃覇は、冷たい目(と言っても元々だが)で振り返って、声の主を睨むように見た。
「特防隊か…。……何の用だ?」
それは、自分の敵でもある、霊界の特防隊隊長の大竹だった。
大竹は、瑠璃覇が睨んでもまったくひるむことなく、腕を組みながら、偉そうな態度で立っていた。
「コエンマ様がお呼びだ。すぐにオレと一緒に来い」
「………」
上から目線で偉そうに命令されると、瑠璃覇は先程の担任の時以上に、いまいましそうに顔を歪め、強く睨みつける。
それから、何時間もしないうちに、大竹と瑠璃覇は霊界へとたどり着いた。
審判の門と呼ばれる、人の何十倍もある巨大な建物の前に降り立つと、大竹と瑠璃覇はその中に入っていき、暗い廊下を歩いていく。
しばらく歩いていくと、ひとつの扉の前で立ち止まり、扉の横についているインターホンを押した。
「大竹だ。パープル・アイを連れてきた」
《よし、入れ》
インターホンを押すと、それについている通信機で中にいる者に内容を伝え、中の者から許可がおりると、扉がものものしく開いた。
扉が開くと、その向こうには、証券取引所のような光景が広がっており、役所にあるようなたくさんの机には、パソコンや書類、電話などがあり、その影には、それらを使用している鬼達が、机の物影に隠れ、遠巻きに瑠璃覇を見て警戒をしていた。
全員、おびえた目で瑠璃覇を窺っていたのだ。
けど、瑠璃覇はそんなことはまったく気にとめておらず、大竹の後ろに続いてその部屋の奥の方まで歩いていくと、ピンク色の扉に「王」という文字の金細工がほどこされた門の前に立ち止まる。
「コエンマ様、連れてきました」
二人が前に立つと扉は自動的に開き、扉が開くと、大竹は瑠璃覇に話す時とは違った、かしこまった態度とていねいな口調で、その扉の先にいる人物に話しかけ、頭を深々と下げた。
「うむ。ごくろう…」
二人の目の前には、二頭身くらいの小さな子供がいた。
大竹が頭をさげた相手はコエンマと言い、この霊界の統括者である、エンマ大王の息子であった。
目が線のように細く、真ん中に「王」と「Jr」と書かれたぼうしをかぶり、身長は瑠璃覇の下半身よりも低く、本当は霊界で二番目に偉いのだが、どう見ても偉そうには見えない、おしゃぶりを銜えた子供だった。
「それでは、私はこれで失礼致します」
「わざわざすまんかったな」
「いえ…」
労いの言葉をかけられると、大竹は軽く頭を下げて、そこから去って行く。
「さて…と…」
大竹がいなくなると、コエンマは後ろにある自分の執務机にすわり、瑠璃覇の方を見た。
「久しぶりだな、瑠璃覇」
「相変わらずしまりのない顔だな。いい加減直さないと、部下に示しがつかなくなるぞ」
「この顔はもとからだ!というか、わざと言っとるだろう!」
物腰やわらかい態度で接したというのに、瑠璃覇は開口一番で嫌味を言ってきたので、コエンマは声を荒げて反論する。
「……それで…私に一体なんの用だ?さっさと用件を言って、さっさと私を帰せ。私は、私の大切な相手を殺した奴がいる所になど、本当は一秒だっていたくないんだからな…!!」
コエンマは、エンマ大王が不在の時は代理を務めたりもするくらい、偉い子供だった。
しかし、そんな霊界で二番目に偉い人物を目の前にしても、瑠璃覇は顔色一つ変えないどころか、逆に腕を組んで睨みつけていた。
けどコエンマも、瑠璃覇のこういった態度にはなれているので、大して気にもとめていなかった。
「相変わらずだな、久々だとゆうのに…。まあいい、さっそく本題に入ろう」
「さっさと言え…!」
どこまでも攻撃的な瑠璃覇に、コエンマは軽くため息をついた。
そして一呼吸おくと、本題に入る。
「お前、霊界探偵とゆうのは知っているな?」
「ああ…。お前の口から、何度か聞かされたことがあるからな。それがどうした?」
「つい最近、新しい霊界探偵が誕生した。しかし、そいつは霊力が多少あるだけで、まだなんの経験もなく、未熟。とても危なっかしいところもある奴だ。
そこでだ。お前に、その霊界探偵のパートナーになってもらいたい。
お前はそいつのパートナーとして、霊界がらみの事件を解決していくのだ」
本人の意志は関係なく、もうすでに決定されているかのように、用件を話した。
用件を聞くと、瑠璃覇は見るからに嫌そうな顔をする。
「……何故、私がそんなことをしなければならないんだ。私は、お前に協力する気など、毛頭ない」
「まあ、そう言うな。霊界がらみの事件と言えば、妖怪に関すること…。お前の探し人とやらも、見つかりやすいかもしれんぞ?」
そう言われると、瑠璃覇は今までにない反応を示す。
「もし、このことを引き受けてくれるのであれば、わしも多少なりとも協力はする」
「………一体、どういう風の吹きまわしだ?15年前は、私から大切なものをうばったくせに、今度は協力の姿勢を見せるなど…。何を企んでいる?」
そう言われても、コエンマは何も答えることはなかった。
「………わかった。その霊界探偵とやらに会わせろ。ただし覚えておけ。私は決して、霊界の傀儡(かいらい)になったのではないということをな…!!」
これ以上問いつめても、コエンマは一切答える気はないとわかった瑠璃覇は、コエンマの頼みを引き受けた。
引き受けたのは、問いつめても無駄だとわかったのもだが、自分のプライドよりも、蔵馬を一刻も早く見つけることを優先したいからだ。
それから瑠璃覇は、霊界案内人のぼたんに連れられて、人間界に戻った。
そんなに時間が経っていないようで、あたりは明るく、青い空が広がっていた。
「それじゃあ、ちょいと呼んでくるから。ここで待ってとくれ」
「ああ…」
ぼたんが一緒に来たのは、瑠璃覇を人間界に送るというのもあるが、霊界探偵である浦飯幽助と顔合わせをするため、仲介役としての役目を担っているからだった。
ぼたんはいつも乗っているオールに乗ると、まるで退散するように、素早く空へと飛び立っていった。
「あ~~、ドキドキした。殺されるんじゃないかと思ったよ…」
実は瑠璃覇は、魔界ではかなり名の通った妖怪で、パープル・アイとゆう異名を持つ、冷酷で残忍な、伝説の極悪盗賊だったのである。
ぼたんが逃げ去るようにして、素早く飛び立った理由はこれだった。
その頃、瑠璃覇がいるところから、あまり離れていないところにある空き地では……。
「うおらァっ!!」
青く澄み渡った空の下、一人の少年の声と、人を殴った鈍い音が響いた。
「あー、すっきりした」
少年の周りには、今殴った男だけでなく、他にもたくさんの人間が地に伏していた。
今しがた人を殴ったというのに、少年は何ともすがすがしい顔をしている。
「幽助ーー!!」
そこへ、空からぼたんが、少年の名前を呼びながらやってきた。
ぼたんは地上に降り立つと、少年の前まで歩いてくる。
「んだよ、ぼたん。何か用か?………もしかして、指令だとか言うんじゃねーだろうな?」
彼の名前は浦飯幽助。
先程、コエンマが言っていた霊界探偵である。
幽助は、ぼたんが現れたことで指令と思い、とても嫌そうな…めんどくさそうな顔をした。
「今日は、指令とは違うんだよ。実はね、あんたに会わせたい人がいるのさ」
「会わせたい人ぉ?」
「そっ!あんたの、霊界探偵のパートナーが決定したんだよ。顔合わせのために近くに来ているから、すぐに一緒に来ておくれ」
「なんかめんどくせえな。また今度にしてくれや」
今自分が言った通りめんどくさそうな顔をし、やる気がなさそうな声で、じゃあな…と言いながら、手をひらひらさせて背中を向ける。
「ふーん。いいのかい?その子、すっごい美人なんだけどなぁ。その上、スタイルが超抜群で……「やっぱ会うぜ」
先程の態度はどこへいってしまったのか。幽助は、相手が美人で、その上スタイルがいいとわかったとたんに、めんどくさそうな顔から一変して、目を輝かせていた。
それを見て、ぼたんは呆れ顔になる。
それから二人は、瑠璃覇が待っている場所へと向かった。
しばらく歩いていくと、幽助とぼたんは、瑠璃覇が待っている場所へとたどり着く。
「お……お待たせ…」
やはり、いくら霊界探偵のパートナーになることを承諾したといっても、協力的でない上に、残酷な妖怪と名高いため、ぼたんはまだ少しびくついていた。
「思ったより早かったな。……で、そいつが霊界に選ばれた、霊界探偵ってわけか?見たところ、あまり霊力を感じないぞ…。
おい…。本当にこいつが、霊界探偵に選ばれた奴なのか?」
「まあ、一応ね」
「「一応」ってなんだよ?失礼な奴だな」
ぼたんの発言に、幽助は腹をたてる。
「まあとにかく、このこが新しく霊界探偵に任命された、浦飯幽助だよ」
「うらめしゆうすけ?変な名前だな」
「お前も、初対面なのに失礼な奴だな…」
初対面にも関わらず、いきなり自分の名前を変だという瑠璃覇に、ぼたんの時ほど怒ってはいなかったが、不快そうな顔をしていた。
「それで、お前はなんて名前なんだ?」
「………瑠璃覇…」
名前を聞かれると、間をおいて、少し小さめの声で名乗る。
他者が嫌いな瑠璃覇は、本当は名前さえ名乗りたくないのだ。
「瑠璃覇か……。よろしくな」
「……よろしく」
よろしくと言うものの、瑠璃覇の表情は全然笑っていない、無表情で無愛想なものだった。
一方で幽助は、満面の笑みを浮かべ、瑠璃覇にあくしゅを求めていた。
けど瑠璃覇は、それには応じなかった。そんなものは無意味で無価値だし、他者との交流は不快な思いをするだけで、必要ないと思っているからだ。
だが幽助は、なかなか手をにぎろうとはしない瑠璃覇を見ると、強制的に瑠璃覇の手をとり、あくしゅをする。
かなり驚いた瑠璃覇だったが、幽助はニカッと笑っていた。
幽助は、瑠璃覇が無表情で無愛想でも、大して気にしていなかったのだ。
「よろしく」
「あ、ああ……」
これには瑠璃覇も驚き、呆然としてしまう。
そんな幽助を見て、瑠璃覇は幽助のことを「変な奴だ」と、心の中で思った。
そして、その様子を見ていたぼたんは、何も暴動が起きなかったので、ほっとしていた。
それから数日後。
その日、皿屋敷中学校2-Bの幽助の教室では、クラスメート全員が、幽助に注目していた。
とは言ってもそれは、幽助が素晴らしい行いをしたから尊敬の念を抱いているのではなく、恐怖の色を宿した目で見て敬遠しているのだ。
実は幽助は、ついこの前まで死んでいたのである。
子供を助け、その代わりに死んでしまったのだが、実はそれは予定外のもので、生き返るための試練を受けて、特別に生き返らせてもらったのだ。
そして、今日が生き返ってから初の登校で、(一部を除いて)みんな幽助が生き返ったことを知らないのと、まさか一度死んだ人間が生き返るとは思いもせず、ただ驚くばかりだった。
更に付け加えれば、幽助は、巷ではかなり有名な不良だったので、そのこともあった。
まあ、仕方ないといえば仕方ないので我慢しているのだが、ずっと奇怪なものを見る目で見られているので、段々苛立ってきたのか、幽助の額には青筋が浮かんでいた。
「おい、始業ベルはとっくになったぞ。早く席につかんか!」
そこへ担任の竹中がやってきて、今まで幽助のことをジロジロと見ていた生徒達は、急いで自分の席についた。
「えー…。HRを始める前に、今日は転校生を紹介するぞ。少々時期外れだが、親の仕事の都合で、急に決まったそうだ。
君、入りなさい」
竹中が扉に向かって声をかけると、扉が開き、廊下で待機していた一人の女子生徒が入ってきた。
「いっ!」
転校生が入ってくると、生徒達はざわつき、幽助は一人驚いていた。
幽助が驚いている間にも、竹中は黒板に、女子生徒の名前を書いていく。
「えー…。というわけで、今日このクラスに転校してきた……」
「銀瑠璃覇と言います。みなさん、よろしくお願いします」
転校してきた女生徒は瑠璃覇で、瑠璃覇は社交辞令の貼り付けただけの笑みを浮かべ、あいさつをした。
クラスメートは、転校生である瑠璃覇が中学生にしてはかなり大人びているのと、スタイルがよく美人だということで、特に男子生徒が頬を赤くしながら瑠璃覇を見てざわついていたが、それとは逆に、幽助は口をあけたまま呆然としていた。
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