未完成
沢北side
この気持ちは日本を離れてから自覚した。同時に、脈ありだったのかもしれない、ということにも。
当然浮かれていた。もしもまだ、深津さんが少しでも俺を意識してくれているなら、付き合って欲しいと伝えるつもりだった。
しかし俺がモタモタしている間に、深津さんは他の人のものになってしまっていた。深津さんの気持ちに、そして自分の気持ちに、あと少し早く気付いていたら。深津さんの隣に立てていたのかもしれないと思うと悔しくてたまらない。
居酒屋から出て少し歩き、道の突き当たりに出た。ここから深津さんは駅の方向へ、俺は宿泊しているホテルの方向へ。
付き合っている人というのは、今も深津さんの帰りを待っているんだろうか。
本当はまだ一緒にいたい。話したいこともたくさんある。帰らないで欲しい。まだ俺を好きだって言って欲しい!
――――次々と溢れ出す気持ちを歯を食いしばって必死に押し込める。俺たちはもう子どもじゃない。我儘を言って深津さんを困らせるわけにはいかない。
今日はありがとうございました、気をつけて帰ってください。そう言おうとして深津さんに向き直ると、黒い瞳が見開かれている。
「沢北、泣いてるピョン?」
「……え?」
思わず頬に手をやると、指が濡れている。知らないうちに泣いてしまっていたようだ。昔からすぐに感情が表に出るが、今に限ってはそんな所が疎ましい。
深津さんが困った顔をしている、何か言わないと。
「ッ、あの、すみません、気にしないでください」
「俺のせいで嫌な思いさせて、本当にごめん。もう二度と会わないからゆるして欲しいピョン。……元気で」
嫌な思い?もう会わない?回らない頭で必死に深津さんの言葉を反芻する。そういえば深津さんはさっきもそんなこと言っていた。もしかして深津さんは、俺が嫌がっていると思ったのかな。
一人で浮かれていたけれど、先ほどの問いかけは深津さんの気持ちを咎めているように聞こえたのかもしれない。
それだけは誤解だと伝えなければ。でもうまく言葉が出てこなくて、駅に向かおうとする深津さんを引き留めようと、考えるより先にギュウっと抱きしめていた。
「ま、待って深津さん!」
どうしよう、深津さんにはもう付き合っている人がいて、俺が入る隙間なんてないのに。でももう会わないなんて言うからそれだけは止めたくて……ああ、どうにでもなれ。
「俺ッ、深津さんのことが好きです!」
視界に入るのは、高校を卒業してから伸ばし始めたという少し伸びた髪の毛。深津さんが今どんな顔をしているのか、ここからは見えない。
「深津さんには、その……付き合ってる人がいるんですよね。困らせたいわけじゃないんです。
――でも、とにかく、俺は嫌なんて思ったことないです。だからこれからも今まで通り会って欲しいです……」
伝え終わったら少しだけ冷静になり、もしかして余計に深津さんを困らせてしまうのでは?と冷や汗をかいた。後先考えずに行動してしまったことを早くも後悔していると首のあたりから「沢北」とくぐもった声がした。
「は、はいっ」
「見られてるピョン」
「えっ」
その時、此処が駅前で最も人通りの多い道だということを思い出した。
続く?
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初めて書いた沢深小説
今読むとツッコミどころが多いけどせっかくなので上げる
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