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花の本、死煙と共に

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そんなこんなで、私が自衛の為の武器を持つことは一旦保留になり、結局は体術による護身術を教えてもらうことになった。

「……なんで俺なんだ」


……グスタフに。


「む?適任であろう。向かってきた敵を体術のみで仕留めるなど、流石の我も真似できん。」
「俺のは護身用じゃない、相手を殺す技だ。大体、俺が教えられるタマだと思ってるのか」
「どちらも要領は同じだ。経験があれば力加減もできよう。それに、部下に戦術を教えられねば指揮官が務まるまい?」
「…………チッ」

言いくるめられ、不服そうに舌打ちをするグスタフ。そんなに嫌だったのだろうか、と私は苦笑する。
と、忠臣の後ろからケルパーズがやってきた。忠臣になにやら報告をしている。

「……よかろう。、グスタフ。我は職務に戻るぞ。今日の軍事演習の報告があるようなのでな。」
「あ?おい待て」
「うむ、頼んだぞグスタフ」

そう言い残し、忠臣はケルパーズを引き連れ、高笑いをしながらこの場を去ってしまった。グスタフはその背中を見つめたまま呆然としている。

「……あ、あの、グスタフ?」

恐る恐る声をかけてみる。すると、ゆっくりとこちらを向き、参ったな、と呟けば大きな溜め息をついた。

「…………言い付けられたからにはやらないとな。」

嫌なのかとは思っていたが、不機嫌な様子ではないようで安心する。面倒臭いだとか、そもそも教えたりすることが嫌いだとか、そういった理由から避けたかったのだろうか。
グスタフは私をじっと見たあと、再び呟く。

「……本当に、効かないんだろうな」
「え?」
「毒だ。……体術を教えるんなら、相手の体に触れる必要がある。……それで倒れられちゃ元も子もないだろ」

グスタフはぶっきらぼうに言う。その表情はどこか寂しそうだ。
……なるほど、合点がいった。この人が嫌がったのは、自分の毒のせいで相手が傷付くのを恐れていたからなんだ。
やっぱり優しいんだな、と思って、思わず笑ってしまった。それを見たグスタフは眉を寄せる。

「おい、何がおかしい」
「ご、ごめん……グスタフ、優しいんだなって思って。」
「何かあったら忠臣に斬られるだろうが。……それだけだ」

フン、と、やはり素っ気ない返事をする。マスクのせいもあり、あまり表情が読み取れないけれど、心配してくれていたんだと思う。

「……言われたからにはやるが……何かあっても知らんぞ」
「毒が効くとか効かないとか、あんまりわからないけど、危なそうだったらちゃんと言うよ。忠臣がグスタフに任せたってことは、多分大丈夫だからってことだと思うし」

ハア、とまた大きな溜め息をつくグスタフ。観念した、とでも言いたげだ。

「少しでも体調が悪くなったらすぐに言え。…………まずは今日みたいに腕を捕まれたときの対処だ。」

どうやら教えてくれる気にはなったようだ。私は少しドキドキしながら返事をする。
すると、グスタフは私の手首を掴んだ。

「腕を掴まれたら、もう片方の手で、相手の手の甲に親指が来るように握る」
「手の甲に親指……」
「そうだ、そこで手首を捻る」
「こ……こう……?」
「そのまま下へ押す」
「押す……?」

言われた通りに、ぎこちないながらに返した相手の手首を下へと押すと、バタン、とグスタフが倒れたので驚いてしまった。とは言え、綺麗な受け身を取っている。

「お……おお……?」
「こうすると、手首の関節がキマる。相手は痛みに耐えられず、逃れようとして倒れる。素人相手ならこれで十分だ。」

立ち上がりながら解説をしてくれる。力をほとんど入れていないのに、こんなにスムーズにいくとは思ってもみなかった為に、私は妙な感動を覚えている。

「こ、こんなに簡単にできるんだ……?」
「だが、これを咄嗟にできるかどうかは別だ。何度も練習しないとこうはいかない。」
「な、なるほど……。」
「他にも教えないといけない技があるが、まずはこれの練習からだ。」

そう言ってグスタフは再び私の手首を掴む。私はさっき教えてもらった通りの動きをする……が、流石にそんなにすぐに慣れるはずもなく、どうしてももたついた動きになってしまう。

「焦らなくてもいい、動きは掴めている。最初はゆっくり確実に、速さを求めるのはその次だ。いいな。」
「はい!」

と、返事が軍の兵士のようになってしまった私を見て、グスタフが少し笑ったような気がした。
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