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あなたの夢とわたしの妄想

 ストーカー行為は日課になっている。
 行きつけのカフェに顔を出せば、以蔵はスマホを触っていた。仕事をしているのかもしれない、とそっと近づき、その正面に座る。以蔵は視線を上げ、そして逸らした。

「ほに、今日もストーカーさんは元気じゃの」

 その声に普段と変わったところはない。
 しかし立香の方は平静ではいられない。今朝の夢がありありと思い出されてしまう。

『立香……愛しちゅう』

 現実の以蔵は絶対に言ってくれない言葉が、耳許に蘇る。
 それをごまかすため、立香はあえて明るい声を出した。

「以蔵さんに逢うと元気になれるんだもん」
「わしは疲れるけんどの」
「すみません……」
「えい、もう慣れたわ。今は逆におまんが姿見せんと落ち着かん」

 その言葉に、

(以蔵さんから逢いたいって言ってもらえた……!)

 ストーカー特有だという『相手の言うことをすべて自分の都合のいいように解釈する』という病気に、立香もかかっているのかもしれない。
 赤面する立香をよそに、以蔵はアイスコーヒーのストローをくわえる。その唇の動き、グラスを持つ骨太の指。
 すべてが今朝の夢に結びついてしまう。

(ごめんなさい以蔵さん、その……性的な目で見ちゃって……)

 謝りたいが、欲深な自分を知られるのも羞ずかしい。
 そして、以蔵に逢えるのも以蔵に逢いたいと言ってもらえるのも嬉しい。
 千々に乱れる感情を抑えきれず、立香の頬は緩む。
 そんな立香を見て、以蔵は、

「まぁ……飽きん顔しゆう」

 とつぶやいた。
 その頬がわずかに色づいているのに、余裕のない立香は気づけない。
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