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トップアイドルへの道1

 ジンはリクに背中を見せた。
 足早に遠ざかっていくジンを見つめるリクの飴色の瞳が潤み出す。
 ジンはリクを憎からず思っているが、二人の置かれた環境のために想いを封じ込めなければならない。だから、恋心を振り切るようにリクへ冷たく当たる。
 そのことを知らないリクは、好きな人から見限られたと思い込んでいる。
 声をかけてもいいのか、許されなくても呼びかけたい、という逡巡と葛藤を込めて、飴色の視線が伏せられた。

「ジン……どうしてお前は……」

 唇からこぼれるのは、綺麗な標準語だ。
 二人の前途の多難さを盛り込んだ次回予告まで見届けて、立香はテレビを消した。
 リクの泣きそうな表情を心の中で反芻しながらスマホでSNSを立ち上げ、『#じんりく』というハッシュタグで検索してみる。

『じんりくてぇてぇ……』
『じんりく幸せになって!』
『BLドラマは沼』
『以蔵標準語喋れるんだ笑』
『以蔵のウインクは大量破壊兵器』
『以蔵くんやばい、先週初めて知って今ファイスタのMV永遠に見てる』

 エトセトラ、エトセトラ。
 まだ二話しか放映されていない深夜枠のドラマにしては、驚くほど反響がある。我がことのように嬉しくなっていると、着信が割って入った。点灯するのは『以蔵さん』の文字。

『おう立香、わしの演技はどうじゃった』

 液晶画面には、リクと同じ顔の男が映っていた。ただしその顔には秘められた恋に苛まれる苦悩も透き通るような切なさも一切ない。缶ビールを片手に、にへらにへらとだらしない顔を晒している。

「すごくよかったよ!」
『ほうじゃろうほうじゃろう、わしは天才じゃき!』

 勝ち誇る以蔵は、そこで言葉を切って立香を見た。

『けんど、おまんがおらざったら役作りもなんもできざった。ありがとうな、立香』
「そう言ってくれるなら……以蔵さんの役に立ててるならわたしもよかったよ」
『役に立っちゅうに決まっちゅう! おまんはわしの羅針盤じゃき!』

 けらけらと笑声を立てて、以蔵は缶ビールをあおった。高校時代から変わっていないように見えるが、同時にリクを演じる時のようなもの憂げな表情をも浮かべるようになった。
 演技とはいえ、そのことが立香にはなんとももどかしい。
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