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しあわせな蛇足

「何作ってきた」
「角煮。コーラで煮たの」
「ほにほに、えいのう」

 手を繋いで以蔵の家に着き、三階までの階段を上る。
 ドアの前に着いて、以蔵は立香を見た。

「鍵、開けとうせ」

 その言わんとすることを一拍遅れて理解して――顔に血が集まった。
 今までのように忍び入るのではなく、手順を踏んで正式にこの家に迎え入れられる。
 この鍵は、その象徴だ。

「以蔵さん、ありがとう……」
「頼まれたことするがに礼らぁて言いなや」

 大きな手がオレンジ色の髪をかき混ぜる。
 鉄製のドアノブの鍵穴に鍵を差し入れ、回す。
 がちゃ、と施錠の外れる音はストーカーだった時と同じ音なのに、今はとても温かい。
 そっとドアを開け、勝手知ったる玄関に入る。
 すかさず腕を引かれ、厚い胸に頬を押しつけられる。

「もう離いちゃれんぞ」

 ドアの蝶番が鳴り、熱い吐息が耳朶を打った。
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