放課後のテルテル坊主

今度はとても、突き返せなかった。
顔が熱いのが、触らなくてもわかる。

「…馬鹿は風邪引かないって言うしね」
「んだと?」

うるせー、と毒づく香介が笑っているのが、見えなくてもわかった。
ふと隙間から、光を感じる。
雨の勢いが、おさまってきたのだ。

「香介!今のうちに帰るぞ!!」

ぱっと顔を上げた亮子に、一瞬驚いた顔をした香介だったが、すぐに頷いて走り出した。
亮子も後に続く。

すぐに追いついて、香介の背中を押しながら走った。

「ちょっと、これ被ってると走りにくいよ」
「お前にはちょうど良いハンデだろ」
「何で帰り道に、ハンデがいるんだよっ」

ばしゃばしゃと、派手な音を立てながら、2人くっついて走る。
雨は、一向に止まなかったが、雨脚は確実に弱まってきていた。

「ほら、やっぱ効いたんだよなー。俺の念がっ」
「何だよ、もう少し待ってれば良かったんじゃないか」
「だなー。まぁ気にすんなよ」


口では文句を言いつつも、亮子はやはり、早めに飛び出して良かったと思っていた。
降りしきる雨は、世界をひどく、狭く感じさせる。


「…こういう雨なら、悪くないよね」


咄嗟に聞き取れなかった香介が聞き返したが、亮子は「何でもない」と顔を背けてしまった。
ただ、その台詞が、自分の鞄に入っているテルテル坊主に向けられていたような気がして、密やかに微笑んだのだった。



雨は、間もなく虹に変わる。



 ≪fin.≫
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