放課後のテルテル坊主

「ん?だから、ヒマ潰しに作ってたんだよ。可愛いだろ?」

そう言って、ひょい、と差し出したのは…

「テルテル坊主?」

頷く香介を見ながら、こいつの“可愛い”はよくわからないな、と思った。
ティッシュを丸めて輪ゴムで止めただけの、シンプルなテルテル坊主。
ペンで、半ば無理矢理描いたような表情は、何とも言えない、微妙な笑い方をしていた。ちょっと、こちらを小馬鹿にしているようにも見える。

「こんなもん作ってるから、余計に雨がひどくなってるんじゃないのかい?」

んな訳あるか!と叫ぶ赤毛頭の後ろでは、明らかに勢いを増している雨が、窓を叩いていた。
待っていても、どんどん酷くなる一方のような気がする。
さっさと諦めて帰った方が、得策に思えた。

「…帰ろ」

くるり、と廊下に向かう。
背後でがたがたと慌てる彼の気配が、亮子を安心させた。
心持ち、ゆっくりと歩いて行くと、すぐに香介が追いついて来る。


「お前、何か用があって教室行ったんじゃなかったのかよ」

的を得た台詞に、心の中だけで返事をする。

――どっかのマヌケメガネを捜しに行ってみたんだよ。
ホントにいるとは、思ってなかったんだけどね。


隣で首をかしげるメガネの男を見て、思わず笑みが零れた。
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