「あなた」と

病室に入ると、白いシャツを着た彼が、ちらりと視線を寄越した。
元々焼けているひとではなかったけれど、以前より肌が白い気がする。
それを紛らわせるための白シャツかもしれないと、ふとよぎったことは、無理矢理外に追いやった。

「鳴海さん、ちょっと痩せました?」
「そうか?自分ではよくわからないんだが」

きょとん、とあさっての方向に目を遣って、首を撫でる様子を見て、そういえば彼が自分の容姿を気にする素振りなど見たことがないな、と思う。
以前ピアスを買ったときだって、1度も鏡を覗き込まずに選んでいた。

「ここに来てから、全然運動してないんでしょう?食っちゃ寝生活のくせに太るどころか痩せてくなんて、全女子たちの敵みたいなひとですね」

自分の思考も一緒にするつもりで、茶化してやると一瞬、彼の眉間にしわが寄る。
更にからかおうと、わざとらしく溜息をついたら、小さく笑う気配がした。

「…どうしてこのタイミングで笑うんです?」
「いや、悪い」

全然悪いと思っていない顔で、ひらひらと手を振る。
その適当加減に、彼の機嫌の良さを感じ取って、力が抜けそうになってしまう。

「あんた、自分が“女子”じゃないって自覚あったんだな、と思って」
「はィ?」

力が抜けて、転びそうになるのを、寸でで堪えた。

「鳴海さん、失礼にも程がありますよ?私を一体なんだと思ってるんです?」

拳を振り上げて、じりじりと詰め寄っているのに、一切気にする風でもなく、彼が笑う。

「だって、世界中が俺の敵になっても、あんたは居てくれるんだろう?」

それなら最強だよ、と恥ずかしい言葉をしれっと吐いたので、迷わず拳をお見舞いしてやった。



振り下ろした拳は、
やすやすと受け止められてしまったのだけど。


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