St. White Day?

「だって、折角の“お返し”だしなぁ」

香介は、そう独り言のように呟くと、すいっと亮子の手をとった。

「…なっ!?」

狼狽して、思わず立ち止まった亮子の、一歩先で香介が振り返る。
そこに浮かぶのは、とっておきのイタズラを仕掛ける、子どものような笑み。
後ずさろうとした亮子だが、繋がれた手が、それを許さなかった。

「彼氏彼女らしく、手でも繋いでみますか?」
「って、もう握ってるじゃないか!!」

何だかもう、恥ずかしくてたまらない。
小さい頃は、よく手くらい繋いだものだけど、それとこれとでは訳が違う。

うぅ、と睨み付けてみても、彼は機嫌良さそうに笑うだけだった。





完璧に、負けている。





「…お腹すいた」
「俺もだ。何か食おうぜ!」
「もちろん、香介の奢りだかんな」

せめてもの、反抗。

だが香介は、ちら、と亮子のまだ赤い顔を確認すると、楽しそうに頷いて歩き出した。



―――“お返し”か…

たまには、いいか。

自分の中で納得した亮子は、自身もひとつ頷いて歩き出す。



さりげなく、きゅっと手を握り返すと、香介が笑ったように見えた。


 ≪fin.≫
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