あ・い・う・え・お
「ねぇ彼女、1人?」
声の掛け方が古臭いな、なんて人事のように思っていたら、不意に肩を掴まれた。
「ちょっと、無視はないんでない?」
「…あたし?」
まさか“彼女”が自分だとは思っていなかった。
そう思ったのが顔に出たのか、相手の男が人懐っこく笑った。
「暇なら一緒に遊ぼうよ」
「いや、人待ってるから暇じゃないし」
「人って彼氏?」
探るような目を向けられて、ぐ、と詰まる。
「そ、そうじゃないけど」
「ならいーじゃん。行こ」
「いや、」
正直、こういうとき何て言えばうまく逃げられるのか、よく分からなかった。
蹴り飛ばして逃げようかとも考えたが、生憎今日はスカートだ。
大体、こんなに人通りがある中で暴力に訴えることはしたくない。通っている大学だって、近いのである。
しかし、するりと肩に手を回された瞬間、理性が飛びかけた。
「悪いな、亮子。待たせた」
「こ、香介」
「なんだぁ?あんた、誰」
じろり、と送られた舐めるような視線を気にも留めず、亮子の腕を引き寄せる。
突然のことで、思わず手を離した男に、香介が冷えた一瞥を返した。
「そんな簡単に手ェ離しちゃうようじゃ、捕まえとけないぜ?」
「は、てめぇは何なんだよ」
「コイツの彼氏」
さらりと言い置くと、亮子の手をとったまま歩き出す。
背後で何か言っている声がしたが、全て無視した。
「ちょ、香介、痛いよ」
「あのなぁ」
いつもより低い声に、亮子が身体を強張らせる。
それが手から伝わったのか、香介が面倒臭そうに息を吐いて、声の調子を明るくした。
「あぁいう奴には、嘘でも何でも“彼氏がいる”とか言っとけばいーんだよ」
「嘘でもって…」
「別に俺と一緒のときじゃなくてもよ、呼べば迎えにくらい、行ってやるから」
口調はいい加減だが、内容は全て本気だということは分かっている。
だから返事をする代わりに、繋がれた手を、ぎゅっと握り返しておいた。
甘い嘘
ちょっとだけ未来
Fin.
声の掛け方が古臭いな、なんて人事のように思っていたら、不意に肩を掴まれた。
「ちょっと、無視はないんでない?」
「…あたし?」
まさか“彼女”が自分だとは思っていなかった。
そう思ったのが顔に出たのか、相手の男が人懐っこく笑った。
「暇なら一緒に遊ぼうよ」
「いや、人待ってるから暇じゃないし」
「人って彼氏?」
探るような目を向けられて、ぐ、と詰まる。
「そ、そうじゃないけど」
「ならいーじゃん。行こ」
「いや、」
正直、こういうとき何て言えばうまく逃げられるのか、よく分からなかった。
蹴り飛ばして逃げようかとも考えたが、生憎今日はスカートだ。
大体、こんなに人通りがある中で暴力に訴えることはしたくない。通っている大学だって、近いのである。
しかし、するりと肩に手を回された瞬間、理性が飛びかけた。
「悪いな、亮子。待たせた」
「こ、香介」
「なんだぁ?あんた、誰」
じろり、と送られた舐めるような視線を気にも留めず、亮子の腕を引き寄せる。
突然のことで、思わず手を離した男に、香介が冷えた一瞥を返した。
「そんな簡単に手ェ離しちゃうようじゃ、捕まえとけないぜ?」
「は、てめぇは何なんだよ」
「コイツの彼氏」
さらりと言い置くと、亮子の手をとったまま歩き出す。
背後で何か言っている声がしたが、全て無視した。
「ちょ、香介、痛いよ」
「あのなぁ」
いつもより低い声に、亮子が身体を強張らせる。
それが手から伝わったのか、香介が面倒臭そうに息を吐いて、声の調子を明るくした。
「あぁいう奴には、嘘でも何でも“彼氏がいる”とか言っとけばいーんだよ」
「嘘でもって…」
「別に俺と一緒のときじゃなくてもよ、呼べば迎えにくらい、行ってやるから」
口調はいい加減だが、内容は全て本気だということは分かっている。
だから返事をする代わりに、繋がれた手を、ぎゅっと握り返しておいた。
甘い嘘
ちょっとだけ未来
Fin.
この2人は何となく、大学に入っても恋人未満が続いているような気がして仕方ない。
Kosuke×Ryoko/200805xx
title from:液体窒素と赤い花
Kosuke×Ryoko/200805xx
title from:液体窒素と赤い花